日本神経回路学会誌
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最新号
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巻頭言
解説
  • 山﨑 匡
    2025 年 32 巻 1 号 p. 3-11
    発行日: 2025/03/05
    公開日: 2025/04/05
    ジャーナル フリー

    過去数十年にわたる計算機の指数関数的な性能向上の結果,単一ニューロン・単一シナプスのレベルで,非常に巨大な脳のスパイキングネットワークモデルを構築することが可能になってきた.現在ではその規模を1,000億ニューロン相当まで拡大し,ヒトスケールの脳モデルを構築することすら技術的には可能である.さらに,そのような巨大なモデル構築に必要となる脳の構造と活動のデータも,特にマウスに関しては非常に良く整備されている.そこで,マウスのデータに基づいて脳のスパイキングネットワークモデルを構築し,それをヒト規模までスケールアップさせることが可能だが,そのようなヒトスケールマウス脳モデルを,ヒトの脳モデルとみなして良いだろうか? 本稿では,まず大規模神経回路シミュレーションに関する我々のこれまでの取り組みを紹介し,さらにヒトスケールマウス脳モデルはヒト脳モデル足り得ないという否定的な見解を示す.最後に,その見解に対して我々が現在進めているプロジェクトを紹介する.本稿の内容は,中江 健氏らによって2024年9月19~21日に開催された,Digital Brain Workshopでの著者の講演を元にしたものである.

  • 奥野 琢人, 塚田 啓道, 畑 純一
    2025 年 32 巻 1 号 p. 12-21
    発行日: 2025/03/05
    公開日: 2025/04/05
    ジャーナル フリー

    侵襲的・非侵襲的なアプローチによる様々なモダリティ・階層におけるデータが集積してくると,これらを統合し新たな知見を得るためのフレームワークの出現が望まれる.構造データ・機能データ・時系列データといった様々なデータの統合と,in silicoにて脳機能を再現する数理フレームワーク「デジタル脳」の開発により,新たなる病態の理解や治療法の追求が加速すると考えられる.このような「デジタル脳」の実現を目指して,様々なアプローチが多階層的に行われてきた.単一細胞レベルの形態的コンポーネントモデルやスパイキングモデル,メソスケールレベルのReduced Wong-Wang modelやグループサロゲートデータ生成モデル(GSDGM)のように様々な階層で神経細胞の活動を数理的にモデリングしている.この中でも全脳のダイナミクスや機能的結合を最も精度高く再現できるモデルがGSDGMである.このモデルはグループの多変量時系列データ(例えばHuman Connectome Projectのような大規模ヒトresting-state fMRIデータセット)を学習し,そのグループ重心的・代表的な多変量時系列を生成できる.本稿では,こうした多階層に渡るアプローチの解説と,GSDGMの開発に至った経緯,そして代理生成モデルに関する考察を行う.

  • 北城 圭一
    2025 年 32 巻 1 号 p. 22-29
    発行日: 2025/03/05
    公開日: 2025/04/05
    ジャーナル フリー

    脳波は非侵襲的かつ高時間分解能の脳計測手法として広く利用され,その過渡的な同期ダイナミクスや振動現象が注目されてきた.脳波の同期現象は特定のタスクや安静時においても持続的ではなく,準安定的な特性を示すことが明らかになっている.例えば,ガンマ波帯域の位相同期が情報統合や顔知覚に関連することが実験的に示されており,このようなダイナミクスを解明するためには非線形動力学的視点に基づく数理モデル化が不可欠である.結合位相振動子モデルやNeural-massモデルを用いることで,脳波の過渡的な性質を再現・解析する研究が進展している.さらに,我々は,データ同化手法を活用し,観測データとモデルを統合することで,脳波ネットワークの動的変化やE/Iバランスの時系列変化を推定する新たなデータ駆動型研究を進めている.この手法は,脳の情報処理メカニズムの理解を深めるとともに,神経疾患の診断・治療への応用が期待される.

  • 池谷 裕二, 山城 皓太郎, 松本 信圭
    2025 年 32 巻 1 号 p. 30-37
    発行日: 2025/03/05
    公開日: 2025/04/05
    ジャーナル フリー

    ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)は,脳とコンピュータ,あるいは他の外部機器との間に通信経路を確立することで,神経信号を用いてコミュニケーション,機器制御,情動や認知のモニタリングを可能にする技術である.脳活動から意図を解読して外部機器を制御するなど,医療分野での応用において特に革新的な可能性を秘めている.近年,BCIは医療分野を超え,芸術分野にも応用され,芸術表現における新たな可能性を開拓している.たとえば,パフォーマーや鑑賞者,あるいは両者の脳活動に基づく芸術的環境と関わるインタラクティブな作品制作が可能になっている.本稿では,BCI芸術創作,すなわちニューロテックアート(Neurotech Art)における最近の動向を紹介しながら,筆者らの最近の成果を解説する.

  • 荒木 峻, 船水 章大
    2025 年 32 巻 1 号 p. 38-46
    発行日: 2025/03/05
    公開日: 2025/04/05
    ジャーナル フリー

    感覚刺激をもとに行動を決定するプロセスを,知覚意思決定という.知覚意思決定の理論として,ベイズ推定に基づく信号検出理論がある.この理論では,感覚刺激だけでなく,刺激の起こりやすさや行動で期待される報酬,すなわち事前知識も,報酬最大化に寄与する.本稿は,まず,この理論の枠組みを,初学者に向けて平易に解説する.次に,感覚刺激と事前知識が,どの領野の神経細胞で表現されるかを,歴史的な経緯と最新の知見で解説する.

  • 磯村 拓哉
    2025 年 32 巻 1 号 p. 47-57
    発行日: 2025/03/05
    公開日: 2025/04/05
    ジャーナル フリー

    本稿では,知能の理論について考察する.知能の理解には,確率微分方程式で記述される神経回路の力学系,チューリングマシンで記述されるアルゴリズム,外界の未知変数のベイズ推論に関する理解が重要である.近年の理論研究は,ある一般的なクラスの力学系とチューリングマシンは,どちらもヘルムホルツ自由エネルギーを最小化する過程として表現できることを示している.このことは,これらの過程が外界の変分ベイズ推論を行っていることを示唆しており,リバースエンジニアリングにより,変分自由エネルギーの具体的な関数型を同定できる.さらに,ベイズ推論と万能チューリングマシン双方の特性を持つ双完備力学系とその1例である正準神経回路を導入し,それらのエネルギー準位と知能の創発の関係性について考察する.最後に,理論の実験的検証の可能性と未解決問題について議論し,結びとする.

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