「学習物理学」は,人工知能(AI)と物理学を融合し,両分野の進展を目指す新しい学問分野です.AI技術を物理学の解析や予測に活用するだけでなく,物理学の知見をAIの発展に生かすことで,双方向の進化を目指しています.量子系の計算や高エネルギー素粒子の識別,超伝導材料の解析といった研究にAIを応用することで,効率化や新たな知見の発見が進んでいます.日本では約60名の研究者が集う研究体制「学習物理学領域」が形成され,国際的にもアメリカやヨーロッパとの連携が進んでいます.もちろん,今後AIが物理学の本質にどのように影響を与えるかは未解明であり,科学の方法論としてAIがどのように受け入れられるかも議論の余地がありますが,AIの劇的な革新の中,「学習物理学」は,従来の科学的手法を変革し,新たな可能性を切り開く分野として注目されています.この分野の進展は,科学とAIの融合による未来の科学のあり方を示唆するものと言えるでしょう.本稿では,「学習物理学」の勃興や,2024年の1年間における新たな研究成果をまとめ,また,学問の歴史として量子論や重力理論の発展と比較しながら,AIと物理学の将来を占ってみることとします.
本稿では,機械学習における生成モデルの新たな潮流である拡散モデルと物理学の概念との接点について論じる.拡散モデルは画像・音声・動画生成において顕著な成果を上げており,その仕組みを紐解くと物理学の考え方と自然につながる点が多い.まず,拡散モデルの基本となる順過程・逆過程とLangevin方程式の関連について述べ,次に量子力学の経路積分を応用した拡散モデルの新たな定式化について紹介する.この定式化では,確率的・決定論的サンプリング間を補間するパラメータが量子力学のPlanck定数に似た役割を果たす.また,この経路積分表示に基づいてWKB近似を応用し,異なるサンプリング手法の性能差を解析した研究についても述べる.物理学の視点から拡散モデルを捉え直すことで,そのダイナミクスの本質への理解が深まり,新たな洞察が広がることが期待される.
近年,イジングマシンを活用した組合せ最適化の社会実装が進み始めており,特に2次2値最適化問題の高速解法として注目されている.その特性を活かし,実務レベルでの応用が広がる一方,目的関数がブラックボックスである問題にも対応可能な新たな最適化手法が提案されている.本記事では,その手法の特徴や実装例を詳しく解説し,機械学習における特徴量選択への応用を通じて,高次元の最適化問題にも有効であることを示す.さらに,材料科学や機械学習を超え,従来手法では困難だった高次元ブラックボックス最適化問題への適用可能性についても議論する.
ベイズ推定は機械学習において,過学習を防いだり,予測の不確実性を扱う自然なフレームワークを提供してくれる.しかし,ベイズ推定において事後分布・予測分布を解析的に得られるケースはそう多くない.事後分布・予測分布が解析的に得られない場合でも,マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いることで,事後分布・予測分布からのサンプリングが可能となり,ベイズ推定の適用範囲を広げることができる.本解説では,マルコフ連鎖モンテカルロ法の一つであり,深層学習への導入も容易なランジュバン・モンテカルロ法の初学者へ向けた解説を行う.
大脳皮質の各領域は白質神経線維束によって構造的に結合しており,これらの結合をエッジとする巨視的な脳構造ネットワークを介して領域レベルの神経信号が領域間でやり取りされる.近年「ネットワーク神経科学」と呼ばれる神経科学とネットワーク科学が融合した学際的な研究分野において,この脳構造ネットワーク内の領域間通信ダイナミクスを,ネットワーク科学分野のアブストラクトな動的モデルを用いて近似的に記述することが試みられている.本稿では,各モデルで仮定された領域レベルの神経信号のネットワーク内伝播に関する近似・仮定の違い,および同信号のデータ伝送に関する近似・仮定の違いの観点から,はじめに既存の領域間通信モデルを整理して概説する.続いてネットワーク内伝播についての近似・仮定とデータ伝送についての近似・仮定の両方を考慮したモデリング研究の一例を紹介する.最後に脳構造ネットワーク内の領域間通信ダイナミクスのモデリングにおける現在の課題や将来の方向性について述べる.
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