看護理工学会誌
Online ISSN : 2432-6283
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2 巻, 3 号
看護理工学会誌
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
巻頭言
論説
  • 森川 茂廣, 二宮 早苗, 内藤 紀代子, 岡山 久代
    2015 年 2 巻 3 号 p. 124-132
    発行日: 2015/08/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
     女性特有のライフステージに起因する尿失禁は,表面には現れないが,高齢女性の多くに認められ,QOLを損なう重大な問題となっている.失禁に対して,質問票などを用いて調査した日常生活への支障の度合いは重要な指標である一方で,客観的指標,医用画像などによる可視化を通じて,個々の病態に応じた適切な指導法や対策を講じることも重要である.医用画像では,超音波画像は簡便で時間分解能に優れるが,骨盤底の詳細な評価には,会陰部や腔内プローブからの観察が必要となることもある.MR画像は,X線被曝もなく,高い軟部組織コントラストで骨盤底全体の詳細な解剖学的情報を非侵襲的に観察でき,腹圧負荷や骨盤底筋群の収縮時の変化を捉えることも可能である.特に縦型オープンMR装置では,座位で重力のかかった状態をモニターできるので,尿失禁研究において有効な手段となる.今後,看護の研究においても,こうした非侵襲的な医用画像の応用が期待される.
  • 武田 利明, 米田 隆志
    2015 年 2 巻 3 号 p. 133-141
    発行日: 2015/08/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
     臨床の場では気管チューブなどの医療機器が使用されており,看護師はその本来の機能や特性を理解するとともに機器の材質などにも関心をもつことで,これまでよりも安全でよりよい看護ケアを実践することが可能である.排泄の援助技術で使用されているディスポーザブルのグリセリン浣腸器は,取り扱いが容易で手軽に使用できることから,危険な物であるとは考えていなかった.しかし,浣腸器の使用に伴った重篤な有害事象の発生から,これまで意識することなく行われてきた看護技術を再度見直すことになった.検討するための方法としては,解剖生理学的な研究法以外に,毒性病理学的研究や工学的研究も実施され,有害事象発生の機序解明や予防方法について検討されている.特に工学的研究によって,これまで気づかなかった新たな知見が得られ,看護技術の安全性をさらに高めることに繋がっている.学際的な研究成果の活用がこれまで以上に必要となってきている看護学をさらに発展させるためには,理工学研究の果たす役割は大きい.
原著
  • 今村 由芽子, 田中 孝之, 瀧澤 一騎
    2015 年 2 巻 3 号 p. 142-149
    発行日: 2015/08/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
      筋力補助のための軽労化装具「スマートスーツ・ライト」の補助効果と体力への影響の調査を行った.軽労化とは人の身体能力の一部を補助し疲労を軽減するアシスト技術である.アシスト機器は補助によりユーザ自身の筋力や体力の減衰を引き起こす可能性があり,実用化にあたっては体力変化の定量的な評価が必要である.本研究ではスマートスーツ・ライトを用いて特別養護老人ホームの介護職30名を対象とした4週間(装具使用期間2週間)のフィールド試験を行い,疲労感の主観評価ならびに体力テストを実施した.その結果,Visual Analog Scaleによる評価では勤務による疲労感がスマートスーツ・ライト着用時に平均16%減少しており,主観的なアシスト効果を得られていることを確認した.また,体力レベル(背筋力,握力,椅子立ち上がりテスト,立ち幅跳び,閉眼片足立ち)には試験期間前後で有意差はなく,2週間の通常勤務中の使用では体力低下はみられないことが確認された.
  • 峰松 健夫, 藪中 幸一, 西島 良美, 真田 弘美
    2015 年 2 巻 3 号 p. 150-156
    発行日: 2015/08/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
      皮膚の構造解析は生検試料の組織学的評価で行われるが,侵襲的試料採取は痛みを伴い,創感染などのリスクを高める。高周波エコー診断装置は非侵襲的な皮膚評価法として期待されるが,その構造解析への応用性については十分に明らかにされていない。そこで本研究では,ブタの皮膚を材料として,高周波エコー診断装置により取得した画像を組織学像との比較を行った。耳介皮膚および背部皮膚をブタの屠体より採取し,20MHzのリニアプローブでそれぞれ3ヵ所でエコー画像を取得した。その際,プローブの位置に印をつけスキャンした面のパラフィン切片を作製し,マローリー・アザン染色に供した。耳介皮膚では,エコー画像における低エコー領域は汗腺や毛包の位置に一致しており,汗管,血管,表皮突起などの微細構造も部分的に描出されていた。これらの結果は,高周波エコー診断装置が皮膚の微細構造解析に有用であることを示唆している。
  • 高橋 美奈子, 野口 博史, 大江 真琴, 倉持 江美子, 大橋 優美子, 雨宮 歩, 高野 学, 村山 陵子, 森 武俊, 植木 浩二郎, ...
    2015 年 2 巻 3 号 p. 157-163
    発行日: 2015/08/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
     糖尿病患者の胼胝予防には足底圧とせん断力を低くコントロールする必要があり,これらは,筋力や歩容が関係する.そこで,足部筋力とわれわれが開発した足底圧,せん断力,角速度同時計測システムで計測したデータとの関係を検証した.運動療法や食事療法の習得を目的とした教育入院中の糖尿病患者4名に対し入院時と退院時における歩行時の足底圧,せん断力,足部と腰部の角速度を測定した.膝下の筋力を推定するため,足の第1趾と第2趾の間の圧迫力が計測可能なチェッカーくん(日伸産業株式会社,埼玉,日本)を用いた.筋力が増強した2名は,腰部ヨー角速度が低下していたが,筋力が減弱した1名は腰部ヨー角速度が上昇していた.足部筋力の増減にかかわらず,足背ピッチ角速度の上昇とせん断力の増加を認めた.腰部ヨー角速度の低下は動揺の少ない安定した歩行を示しており,安定した歩行には足部筋力の増強が効果的な可能性がある.胼胝予防には,筋力の増強だけでなく,歩き方や靴によるせん断力の軽減が必要であることが示唆された.
  • 大江 真琴, 永井 覚, 池田 真理, 大屋 麻衣子, 大橋 優美子, 大友 英子, 村山 陵子, 植木 浩二郎, 門脇 孝, 小見山 智恵 ...
    2015 年 2 巻 3 号 p. 164-173
    発行日: 2015/08/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
     高齢化社会に伴い,高齢糖尿病患者数が増加し,高齢期に血糖自己測定を導入する機会が増えると考えられる。高齢者向け血糖自己測定器の開発や導入に関する教育のニーズは高い。そこで,診療記録から高齢糖尿病患者の血糖自己測定導入の実態および導入時に生じる困難を調査した。対象者は2013年5月から7月に糖尿病代謝内科病棟に入院した糖尿病患者128名であった。65歳未満,前期高齢者,後期高齢者の間で,血糖自己測定導入者の割合に違いはなかった。一方で,入院中新規に血糖自己測定を導入した26名の診療記録から困難を抽出した結果,65歳未満と高齢者とでは困難の内容が異なり,前期高齢者と後期高齢者は巧緻性の低下,後期高齢者は認知機能の低下が影響している可能性が示唆された。高齢者には巧緻性が必要な血糖測定器の電極部分の改良,作業工程の少ないデバイスの開発,血糖自己測定導入とインスリン自己注射の教育を同時にしないことが必要である。
  • 仲上 豪二朗, 久保 貴史, 川波 一美, 岩嵜 徹治, 真田 弘美
    2015 年 2 巻 3 号 p. 174-179
    発行日: 2015/08/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
     背景/目的:皮膚バリア機能の損傷は細胞間脂質の減少によって引き起こされ,褥瘡のリスクになりうる.本研究はセラミド含有ドレッシング材(CD)から皮膚へのセラミドデリバリーが皮膚バリア機能の回復能を有するかどうかを検証した.方法:健常者の皮膚に対して,異なる濃度のCDを貼付し,セラミドデリバリーの濃度依存性を検討した.その後,CDを,人工的に皮膚バリア機能を損傷させた健常人の前腕に貼付し,皮膚バリア機能回復能を検証した.結果:CDから角層へセラミドが移行することが確認された.また,セラミド非含有ドレッシング材および未貼付群に比較して,CDは貼付後3日および6日目の経皮水分蒸散量を有意に低下させた(貼付後3日:順にP=0.047,P=0.009;貼付後6日:順にP=0.048,P<0.001).結論:CDによるセラミドデリバリーは皮膚バリア機能を回復させるのに有効であり,褥瘡予防方法として有用な方法である可能性が示された.
  • 浅野 美礼, 川口 孝泰
    2015 年 2 巻 3 号 p. 180-187
    発行日: 2015/08/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
     日常生活において座った姿勢から急な姿勢変化を行ったときに起きる転倒事故の理由の一部には,起立性低血圧が含まれていると考えられる.事故予防策として,人が立ち上がるときに「声掛け」をすることが予期調節として循環動体に効果を及ぼすかどうかを調べた.8人の健康な成人(19~23歳の男女各4名,平均身長163±2cm,体重58±4kg)を対象に,異なる高さの椅子(20cmと40cm)で立ち上がってもらい,持続的に循環動体と脳血流量を計測して,事前の声掛けの有無による指標の差異を調べた.その結果,心拍数と血圧,脳血流量には,椅子の高さにかかわらず声掛けの有無による有意差はみられなかったが,交感神経の活動には有意差がみられた.これは,循環動態の急激な変化を補償する反応であることを示唆している.一方,予告の有無にかかわらず,椅子の高さが20cmのときは40cmのときより有意に起立直後の心拍数が上がり,血圧が低下し,脳血流量が低下しており,低い位置からの立ち上がりが循環動態に対してより強い負荷をかけたことを示した.
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