日本臨床皮膚科医会雑誌
Online ISSN : 1882-272X
Print ISSN : 1349-7758
ISSN-L : 1349-7758
38 巻, 4 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
論文
  • 大山 学
    2021 年 38 巻 4 号 p. 611-617
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/06
    ジャーナル フリー
     円形脱毛症は典型的には境界明瞭な脱毛斑を呈する脱毛疾患である.病理組織学的には成長期毛包の毛球部周囲性のリンパ球を主とする炎症性細胞浸潤が特徴である.皮膚科外来では,よく遭遇する脱毛症ではあるが,類似する臨床像を呈する脱毛疾患があり,またそうした鑑別となる疾患の治療方針は円形脱毛症のそれとは異なるため正確に診断することが重要である.初診時には問診,視診に加えて触診が大切である.脱毛斑部で “チクチク”した触感を得た場合には活動期の円形脱毛症であることが多い.また,抜毛テストでの毛球部の萎縮性変化は円形脱毛症を支持する所見である. トリコスコピーでは,円形脱毛症の病期に応じて,漸減毛(感嘆符毛),断裂毛,黒点,短軟毛などがみられるが,なかでも漸減毛の診断学的価値が高い.円形脱毛症の鑑別疾患として,トリコチロマニア,lichen planopilarisやchronic lupus erythematosusをはじめとする瘢痕性脱毛症,頭部白癬,男性型・女性型脱毛症,triangular alopecia,その他,リンパ腫,梅毒性脱毛,牽引性脱毛などがあるが,それらの多くは皮膚生検まで行うことなく,注意深い臨床像の観察,抜毛テスト,トリコスコピーによる評価で可能である.抜毛テスト検体の真菌鏡検は頭部白癬の鑑別に不可欠である.トリコスコピーにて不自然に幾何学的な脱毛斑であり,易脱毛性がなくfollicular microhemorrhage, V-sign, and flame hairsなどが見られた場合にはトリコチロマニアが疑われる.トリコスコピー上,毛孔の消失は瘢痕性脱毛症を示唆する.こうした所見が得られない場合には皮膚生検による病理組織学的診断が必要となる.本稿では円形脱毛症と鑑別疾患の診断に必要な具体的な方法論について解説を試みる.
  • 小川 瞭太郎, 梅垣 知子, 卜部 雅之, 石崎 純子, 田中 勝
    2021 年 38 巻 4 号 p. 618-623
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/06
    ジャーナル フリー
    Eruptive syringomaはsyringomaの1型であるが,眼瞼に生じるeyelid typeと比べ,比較的稀である.今回我々はeruptive syringomaの2例を経験したのでダーモスコピー所見の特徴について考察した.症例1:21歳男性.19歳頃から躯幹の皮疹を自覚.腋窩,胸腹部に褐色丘疹が多発し,前医で扁平疣贅として加療されたが改善なく当科紹介となった.初診時,臨床からDarier病を鑑別として考えた.症例2:67歳男性.20代から全身に瘙痒を伴う皮疹を自覚していた.躯幹,四肢に褐色丘疹が多発.症例1および2のダーモスコピー所見は,境界明瞭な淡褐色のpigment networkを呈した.病理組織学的所見は軽度の表皮肥厚と真皮内に管腔状に配列する上皮成分と膠原線維の増加あり.症例1および2とも体幹に多発する褐色の扁平な小丘疹が多発する臨床と,汗管様の管腔構造が増生した病理組織学的所見を併せてeruptive syringomaと診断した.症例1で臨床的に鑑別を要した,扁平疣贅,Darier病との比較を行った.汗管腫,扁平疣贅,Darier病といずれも青年期に発症することが多く,褐色の扁平小丘疹を呈するが,汗管腫では表面平滑で病変の境界がやや不明瞭なのに対し,扁平疣贅,Darier病では表面粗造で境界は明瞭である.ダーモスコピー所見と病理組織学的所見を対比してみると,汗管腫のダーモスコピー所見で見られた白色領域は真皮網状層の膠原線維の増生に対応する.境界不明瞭であることは真皮内病変であることに対応する.扁平疣贅のダーモスコピー所見は表皮肥厚に対応して境界は明瞭であり,小点状血管がみられる. Darier病のダーモスコピー所見では白色のhaloに囲まれた褐色領域が見られ,褐色領域は過角化による角栓に対応する.汗管腫の角層は表面平滑で,扁平疣贅とDarier病は表面粗造であり, その点をダーモスコピーで観察することがeruptive syringomaの診断に有用であると考えた.
  • 髙田 佳子, 吉原 渚, 込山 悦子, 池田 志斈
    2021 年 38 巻 4 号 p. 624-628
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/06
    ジャーナル フリー
    76歳,男.当科初診3ヶ月前より左頬部に20 mm大,右鼻根部に10 mm大の自覚症状のない浸潤性紅斑が出現した.皮疹を主訴に近医皮膚科を受診,プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル(リドメックス®)を外用したが改善しないため,精査目的に当科を紹介受診した.左頬部の淡紅色局面より皮膚生検を施行した.病理組織学的所見では真皮浅層から深層にかけてびまん性にクロマチンに富んだ腫瘍病変がみられ,免疫組織学的所見ではCD20(+),CD79a(+),Bcl-2(+),CD5(-),CD10(-),Bcl-6(-)であり,遺伝子再構成は陰性であった.臨床像,病理および免疫組織学的所見より粘膜関連リンパ組織節外性辺縁帯リンパ腫(Extranodal marginal zone lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue:以下,MALTリンパ腫)と診断した.骨髄に異型細胞はなく,全身検索で顔面皮膚以外に病変がみられなかったため,皮膚原発と考えた.文献的考察を加えて報告する.
  • 林 伸和, 佐々木 優, 黒川 一郎, 谷岡 未樹, 古川 福実, 宮地 良樹, 山本 有紀, 川島 眞
    2021 年 38 巻 4 号 p. 629-634
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/06
    ジャーナル フリー
     経口イソトレチノインは,皮脂の分泌と毛包漏斗部の角化異常を抑制することで痤瘡を改善することから,海外では集簇性痤瘡あるいは重症・最重症の尋常性痤瘡に対して推奨されているが,本邦では未承認である.そこで,本邦における集簇性痤瘡や重症・最重症の尋常性痤瘡の患者数や現状での治療状況,イソトレチノインに対する考え,使用実態などについて日本臨床皮膚医会(日臨皮)と日本美容皮膚科学会(美容皮膚)の会員を対象に調査を行った.  日臨皮会員4,539名中565名(12.4%),美容皮膚会員2,711名中の158名(5.8%)から回答を得た.その結果,「男性に好発し、顔面のみならず胸背部に、多数の面皰と嚢腫・結節の多発をみる難治性の痤瘡ないし膿皮症の一型」と定義した集簇性痤瘡を両学会会員の85.6%が経験し,うち48.6%が年間1~2例を経験していた.また,経験者の81.7%は「標準治療だけでは治療不可能」と回答し,81.5%は経口イソトレチノインが「必要」,あるいは「必要性がとても高い」と考えていた.従来の治療で十分な効果が得られない重症・最重症の尋常性痤瘡については,90.8%が何らかの形で経験しており,そのうちの75.0%が経口イソトレチノインが「必要」あるいは「必要性が高い」と回答していた.また,何らかの手段でイソトレチノインを現在処方している医師の割合は全体の5.1%(美容皮膚会員15.8%,日臨皮会員2.1%)であった.  本調査では,集簇性痤瘡および従来の治療で十分な効果が得られない重症・最重症の尋常性痤瘡は,稀ではあるが皮膚科医が経験する症状であり,それに対して海外のガイドラインで推奨されている経口イソトレチノインへの期待が高いことが示唆された.経口イソトレチノインの必要性は高く,一部の皮膚科医がすでに処方している実態がある.しかし,催奇形性等の重大な副作用を伴うことから,十分な管理の下で経口イソトレチノインは使用されるべきである.現状の使用状況をより好ましい形にするために,安全性と有効性を確認する臨床試験を経たうえで,早期に薬事承認を目指す必要があると考えた.
feedback
Top