Gregg, N.M.の卓見により風疹罹患妊婦に先天異常児出生の危険性が指摘されて以来,先天性風疹症候群(CRS)に関する知見は数多く蓄積されている.若年既婚女性の多い職場で風疹の流行をみた場合,CRS発生の可能性が予測されるにもかかわらず,産業医学あるいは健康管理の場において,本疾患は比較的重視されていないように思われる.著者らの関係している企業は,女性の全従業者に占める割合は50%以上に及び,さらにその90%以上は20歳台の若年者である.昭和50年以降十数年ぶりにわが国でみられた風疹の大流行に際し,著者らは上記企業の健康管理活動の一部として,女子事務作業者の風疹HI抗体保有状況を調査し,また,風疹ワクチンによる免疫賦与を試み,下記の成績を得た. 1)昭和50年から53年にかけて,京浜葉地区および大阪地区に勤務する女子事務作業者総数965名の風疹HI抗体価を測定した結果,風疹抗体陰性率は京浜葉地区で約24%(51年調査)大阪地区では約40%(51年33%,52年44%,53年43%)にも及び,風疹の流行を経過した後も抗体陰性者はかなり多いことが明らかとなった. 2)被検者の風疹罹患状況を抗体測定後1年間にわたり追跡調査した結果,通常免疫保有者と考えられている抗体価8倍の者にも風疹罹患がみられた.したがって, HI抗体価8倍は抗体陰性あるいは疑陽性と考えて,風疹ワクチン接種対象者に加えることが望ましい. 3)昭和52年大阪地区において,抗体陰性者のうち希望者42名に弱毒生風疹ワクチンを接種し,約1年後にHI抗体価を再度測定したところ, 41名に抗体価の上昇を認めたが,1名は8倍以下であった.その原因は明らかではないが,このように稀にワクチン接種後も十分な免疫が得られない場合も考えられるため,ワクチン接種をうけた後でも,妊娠時に風疹の流行をみた場合,あるいは風疹患者と接触する機会のあった場合は,再度HI抗体価を測定して感染の有無をたしかめることか望ましい.
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