クリーニング業は家内労働的,世襲的職業であるため定年制や社会移動が少なく,職域集団を対象とした疫学調査に適していると考えられる.しかしクリーニング業を対象とした疫学調査は非常に少なく,従事者を死因から調査した研究は,わが国では報告されていない.
本研究はクリーニング作業従事者の健康管理対策の基礎資料を得る目的で,全国クリーニング環境衛生同業組合連合会に加盟している組合員数33, 101名(1980年現在)のうち, 1971年から1980年までの10年間に生命共済制度に加入し死亡した1,711名を対象とし,死因調査を実施した.さらに同制度加入者で, 1979年から1981年までの3年間の死亡者517名に対しては,家族に死亡時の作業形態,個人習慣等に関する調査を実施し, 294名から回答を得た.その結果以下の結論を得た.
1) クリーニング作業従事者の虚血性心疾患を除く「その他の心疾患」,肝硬変を除く「その他の肝疾患」の死亡割合は,男女とも全国に比べ有意に高いことが認められた.
2) クリーニング作業従事者の悪性新生物の死亡割合は,部位別にみると一部の部位では全国との間に有意差が認められたが,全悪性新生物では有意差は認められなかった.
3) 非ドライクリーニング作業従事者の死亡割合と全国の死亡割合の間には有意差が認められなかったが,ドライクリーニング作業従事者では,「その他の心疾患」,「その他の肝疾患」の死亡割合は,全国に比べ有意に高いことが認められた.
4) 個人習慣としての飲酒,喫煙という危険因子を有する者を除いた場合でも,ドライクリーニング作業従事者の「その他の心疾患」,「その他の肝疾患」の死亡割合は,全国に比べ有意に高いことが認められた.
以上の成績から,ドライクリーニング作業で使用されている溶剤が,クリーニング作業従事者の死亡パターンに影響を与えていることが示唆され,この集団の健康管理上有益な資料が得られた.しかしドライクリーニングの溶剤としては,テトラクロロエチレン,石油系溶剤, 1,1,1-トリクロロエタン等が使用されているため,今後さらに使用溶剤,暴露期間,その他の環境要因を考慮するとともに死亡率を用いた死因解析を実施する必要があると考えられる.
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