インターネットの発展により,従来はオフラインでアクセスしにくかった多くの情報が利用できるようになっている。インターネットでのデジタルサービスの進展によって,創作性のないデータの編集物すなわちファクト・データベース,なかでも電子形態のデータベースの新たな重要性や価値が増大している。1991年の米国最高裁によるファイスト判決以降,従来の慣習法で認められてきた「額に汗」ともいわれる「創作性」についての判断基準が疑問視されるようになった。この判決は世界のデータベース作成者,なかでも欧州のデータベース作成者に大きな影響を与えた。欧州委員会の理事会は(1) 著作権を有するデータベースについて加盟国間での考え方の統一,および(2) 電子的なデータの編集物の知的財産権に関して存在するギャップを埋めること,の2点を提案した。これを受け,1996年の欧州委員会で創作性の認められるデータベースについては著作権で,他の創作性の認められないデータベースについては「新たな権利」(sui generis right)により知的財産権を保護するという2層構造からなるECデータベース指令が採択された。EU加盟国では,「新たな権利」についての判決を巡って,強制実施権あるいは他の活動目的のために作成された副産物としてのスピンオフ学説など多くの意見が提起されている。現在,ECデータベース指令の見直しが進められている。米国では,議会で「データベースおよび情報の集合物の不正利用禁止法」(2003年,H.R.3261)が検討されている。情報へのアクセスが確保される条件を前提として,わが国においても新たな法体系モデルの導入が必要と考える。
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