公的資金を使った研究論文のオープンアクセス化が進んでいる。しかし,オープンアクセスといえるためには誰もが自由にアクセスでき,かつ自由に再利用できることが必要とされており,単に公開だけではなく,二次利用にも重点が置かれなければならない。本稿では,オープンアクセス化におけるライセンスとして,世界的にデファクト・スタンダードとなっているクリエイティブ・コモンズの基本的な仕組みや現況を概説する。そのうえで,オープンアクセス化の際にクリエイティブ・コモンズを採用するメリット・デメリット,採用の際の検討事項,ハードルとなりやすい点などを解説する。
サービスデザインとは,生活者の価値観の変化に伴って,ビジネスの本質がモノから体験にシフトしたことによって生まれた,新しい事業開発の手法である。従来のモノを主体にした考え方(グッズドミナントロジック)に対して,サービスを中心にした事業の考え方はサービスドミナントロジックと呼ばれている。サービスデザインはユーザー中心,共創,体験の連続性,物的証拠,全体的な視点,といった「サービスデザイン思考」を基に構成される。Airbnbなどの新しい事業体は,事業の企画だけでなく,組織運営にまでサービスデザイン思考を導入している。これからの事業開発において,サービスデザインアプローチは重要性を増していくと考えられる。
近年,医療ビッグデータの利活用が期待されているが,看護に関するデータ収集の取り組みは始まったばかりである。日本看護協会では労働環境の整備と看護の質向上を目指し,2012年度より「労働と看護の質向上のためのデータベース(Database for improvement of Nursing Quality and Labor:DiNQL,ディンクル)事業」に取り組んでいる。本事業は看護の質と労働環境のベンチマーク評価を通じて,看護管理者のデータマネジメントを支援するもので,2016年度は583病院4,964病棟が参加している。看護に関するデータが,月単位かつ病棟単位で組織横断的に集約されているデータベースとしては国内最大規模である。本稿では,本事業の背景を概観したうえで,本事業の取り組みと意義を紹介し,最後に課題と今後の展望を示す。
インターネット上での情報サービスは,技術の進歩による環境の変化や,そのサービスを利用する人の変化によって,変化していかざるをえない。こうした環境や利用者の変化に対して,サービス提供者側は,時代の波に流されることなく,どのように対処していけばいいのだろうか。インターネット以前のパソコン通信の時代から,30年間にわたってほぼ一貫して同じスタンスで書誌情報の提供を続けている「BOOK」サービスを例に,刻一刻と環境が変化していく中での,有料情報サービスのあり方を考察する。
国立公文書館アジア歴史資料センター(アジ歴)は2001年11月に設立され,2016年で16年目を迎える。その間,日本とアジアにかかわる近現代の歴史資料(デジタル化資料)約200万件・約3,000万画像をデータベース化して,広く利用者に提供している。本稿では,アジ歴の現状および最近の取り組みを紹介するとともに,大規模な歴史資料のデータベースを,専門家以外の利用者に対しても,いかに利用しやすく提供するかについて,特に,センター独自の目録データ(メタデータ)項目,およびそれら目録データから抽出した検索用のキーワードをより理解しやすくするための新規作成コンテンツ「アジ歴グロッサリー」について,詳しく紹介する。また,他機関との連携など,アジア歴史資料のハブとしての機能を充実させるための取り組みについても,いくつかの事例を挙げて紹介する。
高等学校情報科の現状を具体例として,日本における情報教育の格差について議論する。政府が導入を計画している小学校におけるプログラミング教育についても,格差が新たに生み出される危惧について触れる。そして,そのような格差をなくすためには,情報教育の重要性を現場の教員や教育委員会が認識することが重要であることを指摘する。情報教育の親学問である情報学を明確に定義することがその認識のための一つの前提であると述べ,日本学術会議により公開された「情報学分野の参照基準」について報告する。最後に,初等中等教育から大学・大学院までの情報教育全体を体系化する「情報教育の参照基準」の必要性について指摘する。