本研究では, HSP90の特異的阻害剤であるゲルダナマイシン(GDM)を用いて, ヒト顎下腺由来腺癌細胞株(HSG)へのアポトーシス誘導能を調べるとともに, 抗Fas抗体誘導アポトーシスシグナル伝達経路へのHSP90の関与について検索した。 また, Fasシグナル経路上でのHSP90のターゲットタンパクの同定を試みた。 HSG細胞をGDMで処理すると経時的に細胞死が誘導された。 形態学的所見, TdT-mediated dUTP nick end labeling (TUNEL)法における陽性染色, ならびにpoly (ADP-ribose) polymerase (PARP)の切断片の検出から, GDMで誘導された細胞死はアポトーシスであることが示された。 GDMで前処理を行った後, 抗Fas抗体(CH-11)で処理すると, GDMあるいはCH-11のそれぞれ単独処理に比べ, Fasを介したアポトーシス誘導は促進された。 さらに, 誘導される細胞死はGDM前処理時間の延長により増強した。 形態学的所見, TUNEL染色, PARPの切断片の検出により, この細胞死についてもアポトーシスであることが確認された。 一方, HSG細胞へのHSP90リコンビナントタンパクの導入によるHSP90の過剰発現は, CH-11ならびにGDM誘導アポトーシスを有意に抑制した。 GDMによるHSP90の阻害ならびにHSP90の導入実験の結果から, HSP90はHSG細胞において抗アポトーシス (anti-apoptotic) 作用を有していることが明らかになった。 次に, Fasシグナル経路上においてHSP90と相互作用する分子を免疫沈降-ウェスタンブロット法により検索したところ, Caspase-8ならびにFasカスケードの制御に関与するFADD-like ICE inhibitory protein (FLIP) が検出された。 すなわち, これらの分子はHSP90と複合体を形成するターゲット分子と考えられた。
以上より, HSP90はFasシグナル経路上においてCaspase-8やFLIPと結合し, これらターゲット分子を介してアポトーシスを制御していることが示唆された。
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