印象採得動作における術者の印象採得操作の巧拙あるいは習慣性や癖を印象圧によって定量的に解明し, またその印象から得た模型をもとに作成したレジン口蓋床の口蓋粘膜に対する吸着力を測定して, 印象採得動作を人間工学的な立場から検討した。
印象採得操作は既製トレーおよび個人トレーを用いて人力 (manual impression) および機械力 (automaticimpression) によって, 種々の条件下でアルジネート印象したときについて観察した。なお, 印象圧は上顎各部位ならびに上顎全体に加わる圧を受圧装置で, また口蓋床の吸着力は口蓋床が口蓋粘膜から人力によって離脱する力で測定した。
そして, 次のような成績を得た。
manual impressionによる印象圧曲線のパターンおよび印象圧の大きさには個人差が認められ, 上顎各部位の印象圧および上顎全印象圧の大きさは, それぞれ20~70gおよび1.5~3.0kgである。
これに対して, automatic impressionにおいては, 印象圧曲線のパターンは常に定型的である。しかし, その波形や印象圧の大きさはトレーの種類やその圧接速度によって影響を受ける。
なお, 口蓋床の吸着力は印象採得経験の豊かな術者ほど大きい。そのうえ, このような術者においては口蓋床の吸着力の個人差の変動範囲も小さい。
以上の事実は, 印象採得動作には, 手や腕の皮膚感覚や手, 腕の筋および関節の深部感覚に基因する各術者に固有の印象圧調節フィードバック機構が形成されており, それによって術者各個人の印象採得動作にその人固有の習慣性や癖が生じ, それが印象圧の大きさの変動や口蓋床の吸着力の良否に現われてくることを示すものである。
抄録全体を表示