本研究は, sodium salicylate (Na-Sal) によるラット切歯象牙質の形成障害作用を解明する周的で行った。EDTA鉛塩による硬組織内時刻描記法を応用して, Na-Sal (100mg/kg~650mg/kg) 皮下注射後24時間と, 薬物投与前24時間の切歯横断面象牙質形成速度を比較したところ, Na-Sal 200mg/kgまでは有意の抑制を示さなかったが, 250mg/kgで有意の抑制を示し, 250mg/kgから650mg/kgの範囲では抑制率がほぼ直線的に増加した。組織化学的検索では, Na-Sal500mg/kg投与で, hematoxylin, toluidine blue, periodic acid-Schiff (PAS) 反応はほぼ同様な染色性を示し, 注射後24時間以内に狭い幅の濃染層に続いて不染層が出現した。この不染層はvan Giesonに陽性を示し, また, microradiogramにおけるX線透過層と一致していた。Na-Sal投与後の象牙芽細胞の形態的変化を光学顕微鏡で観察したところ, 500mg/kg投与後18時間で明らかに象牙芽細胞の形態的変化が認められ, その後は時間の経過につれて正常の形態に復する像が観察された。
血中11-hydroxycorticosteroidsはNa-Sal 250mg/kg投与により有意に増加したが, その増加量は100mg/kg ACTHを投与した場合よりも少なかった。しかし, 象牙質形成はNa-Salでは有意に掬制されたのに反し, ACTHの場合には有意の象牙質形成抑制は認められなかった。この結果は, Na-Sal投与による象牙質形成障害が, Na-Salの視床下部一脳下垂体一副腎皮質系刺激作用を介するものでなく, 主として, 象牙芽細胞の機能に対するNa-Salの直接的な阻害作用にもとづくことを示唆するものと解される。
一方, 象牙質形成とmonohydroxybenzoic acidの構造一活性相関について検索を行った結果, monohyd-foxybenzoic acidのNa塩の3種類の構造異性体のうち, orthoの位置にOH基を有するNa-Salのみが象牙質形成抑制作用を示すことが明らかにされた。
抄録全体を表示