ネコの後深側頭動脈について成ネコ60頭を用いアクリル樹脂注入法によって, その起始, 分枝, 分布状況を詳細に観察し, 比較解剖学的に考察を行なった。
後深側頭動脈は, 通常, 顎動脈が下顎枝内側面, 外側翼突筋停止部の前下方で直角に内側方へ曲るとき, 下歯槽動脈の遠位で単独, ときに共通幹で, 顎動脈の上壁あるいは前上壁から上方へ起始していた。きわめてまれに上記の位置よりさらに遠位, 中硬膜動脈の起始の遠位で顎動脈怪網後角から後上外側方へ起始していた。
後深側頭動脈の分枝には, 顎関節枝, 怪網の構成動脈枝である外側怪網枝, 外側翼突筋枝, 側頭筋停止部に分布する前枝と, 下顎切痕の直下で外側方へ派出する咬筋動脈が認められた。咬筋動脈は咬筋神経とともに下顎切痕を越えて前下方へ向かい咬筋の中間層筋や表層筋に分布する太い主枝と, 下方へ深層筋枝, 後方へ頬骨下顎筋枝と上方へ上顎下顎筋枝の数枝に分れて咬筋に分布していた。そののち後深側頭動脈の主幹は頬骨弓の高さで, 上枝, 上後枝, 後枝の3終枝に分れて側頭筋深層の停止部に分布し, 前深側頭動脈や後耳介動脈からの枝と吻合していた。
ネコの本動脈の分枝様相は, 外側怪網枝が存在していなければカニクイザルよりもイヌのそれときわめて類似するが, 相違するところは分布域で, 側頭筋よりも咬筋が主体となっていた。
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