ヒドロキシアパタイトは有効な生体材料のひとつとして, 歯科領域において広く臨床応用に供されている。しかし, 現在なお克服すべき様々な臨床上の問題点が残されている。これら未解決の問題は生体材料ヒドロキシアパタイトの組織適合性と関連が深いと考えられる。本研究では, 生きている細胞の生体材料ヒドロキシアパタイトに対する反応を細胞生物学的立場から解析し, その生体組織適合性を再評価することを目標とした。
従来, 一般に類似の研究は, 新鮮組織から得られる初代細胞培養の系でなされてきた。しかし, 歯肉上皮細胞を安定に培養維持することは困難で, 精度の高い解析が許されなかった。そこで, クローン選択法及びSV40-T遺伝子の導入によって, ヒト歯肉結合組織線維芽細胞株, HGF-22, 及びヒト歯肉上皮細胞株, HGE-15・IとHGE-15・IIを樹立した。さらに, 細胞の動態を直接観察しうる生体実験系を考案し, 上記の株細胞とヒドロキシアパタイト試料の親和性を精密に検討した。また, 歯肉細胞のヒドロキシアパタイト試料への接着様式を透過型電子顕微鏡により観察した。
これらの定量的な解析の結果, ヒドロキシアパタイト試料の組織親和性は従来いわれている程, 高くないことが示された。
本研究で樹立されたヒト歯肉細胞株とこれらを活用する実験系は生体材料開発のための基礎的研究をおこなうのにきわめて有用である。
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