歯科基礎医学会雑誌
Print ISSN : 0385-0137
44 巻, 2 号
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  • Hisashi Fujita
    2002 年 44 巻 2 号 p. 87-95
    発行日: 2002/04/20
    公開日: 2010/06/11
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 日本人集団における齲蝕発症部位の歴史的変遷を明らかにすることである.
    縄文時代から江戸時代までの日本人の齲蝕発症部位で最も頻度の高いのは, 隣接面歯頸根部 (NRAS) である. 縄文時代と古墳時代には, 咬合面齲蝕 (OS) が少ないが, 鎌倉時代以降江戸時代まで, OSはかなり高い頻度を示す. これは縄文時代人と古墳時代人は歯の咬耗が著しいため, 小窩裂溝が消滅することによって, 咬合面には齲蝕が生じにくかったと考えられる. 反対に, 鎌倉時代以降は咬耗の程度が軽度化することによってOSが増加したと思われる. 舌側面 (LS) および舌側面歯頸根部 (NRLS) の齲蝕は, 全時代を通じて日本人には少なかった. これは, 舌や唾液が歯面を清掃するいわゆる自浄効果のためであろう. 現代人においては, 隣接面齲蝕 (AS) が最も多く, 次いでNRASとOSである. 歯冠部齲蝕の頻度が根面齲蝕のそれを上回るのは, 現代人だけである. したがって, 根面齲蝕は古代型齲蝕, 歯冠部齲蝕は現代型齲蝕とみなすことができそうである. さらに, 日本の歴史においては, 縄文時代から古墳時代, 古墳時代から鎌倉時代と, 江戸時代から現代へいたる各時期が, 齲蝕発症部位のターニングポイントであったといえる. 齲蝕の発症部位はそれぞれの時代の食生活, 生業, そしてライフスタイルを含めた口腔衛生を探るうえでの良き指標であると思われる.
  • 平場 久雄, 佐藤 貴子, 真鍋 公子, 堀 稔, 井村 修子, 田中 博
    2002 年 44 巻 2 号 p. 96-105
    発行日: 2002/04/20
    公開日: 2010/06/11
    ジャーナル フリー
    片側舌下神経内側枝を切断したネコにおいて, 一定量の食物摂取・咀嚼時の食物摂取率, 咀嚼期間, 両側オトガイ舌筋および咀嚼筋 (咬筋と顎二腹筋前腹) の活動量および顎運動を約1カ月間記録し, 咀嚼機能の安定までの期間を検索した.
    食物摂取率は神経切断後, 舌偏位の状態を保ったまま約2週で切断前の約80%で安定した. 咀嚼期間および最大開口量は25日程度でそれぞれ約1.5倍, 約80%となり, 安定傾向を示した. 咀嚼時の左右側筋活動は神経切断後約25日で, オトガイ舌筋では切断側約30%, 非切断側約150%, 咬筋ではま両側ともほぼ切断前の値, 顎二腹筋前腹では切断側はほぼ切断前の値, そして非切断側は約50%で安定傾向を示した.
    以上の結果から, 片側舌下神経内側枝切断後円滑な咀嚼運動が回復し, 安定するまでには約1カ月を要することが判明した.
  • Masaaki Okamoto, Reiko Osada, Takashi Arai, Nobuko Maeda
    2002 年 44 巻 2 号 p. 106-113
    発行日: 2002/04/20
    公開日: 2010/06/11
    ジャーナル フリー
    本研究は歯髄への感染経路を調べる目的で, 感染根管および歯肉縁下プラークから分離された黒色集落形成性嫌気性菌 (BPR) の同一性について, 根管治療が施されていない単根歯を有する12症例について検討した. 根管の細菌学的検索は, 1歯につきサイズの異なる3本のH-ファイルを用いて根尖部壊死歯髄, 感染象牙質を採取し, 歯肉縁下プラークは1歯につき6部位, 計72部位からペーパーポイント法を用いて採取した. 分離培養したBPRsは16S rRNA遺伝子を検索するPCR法で同定後, さらに根管および歯肉縁下プラークから同一菌種が得られた症例の菌株の類似性についてarbitrarily primed PCR (AP-PCR) 法で検討した. 12症例中の分離頻度は, 感染根管ではPorphyromonas gingivalisが (41.7%), 一方歯肉縁下プラークからはPrevotella nigrescensが (50.0%) 最も高かった. 4症例で感染根管と歯肉縁下プラークから同時に同種のBPRが検出された (3症例はP. nigrescens, 1症例はP. gingivalis). これら4症例中, 少なくとも3症例 (全症例の25%) は同一のAP-PCR型を示した. 以上のことから, 歯肉縁下プラークから歯髄への感染経路があることが示唆された.
  • Kouichi Shiozawa, Kaoru Kohyama, Keiji Yanagisawa
    2002 年 44 巻 2 号 p. 114-119
    発行日: 2002/04/20
    公開日: 2010/06/11
    ジャーナル フリー
    食塊物性のいったい何がゲル食品咀嚼時の嚥下を誘発しているかを調べるために, 嚥下直前の食塊テクスチャーを解析した. 0.2M酒石酸を含ませた濾紙片 (酸刺激) およびコントロールとして蒸留水を含ませた濾紙片を10名の成人被験者の舌背にそれぞれ1分間のせた後, 5gのグミキャンディ (G) およびモチ (RC) をそれぞれ嚥下まで咀嚼させた. 酸刺激後の嚥下直前のG食塊の硬さは, コントロールに比べて有意 (p<0.5) に大きな値を示した. 一方, 嚥下直前のRC食塊は, 硬さ, 付着性, 凝集性いずれも有意な差は認められなかった. 蒸留水刺激後の咀嚼中間段階でのRC食塊の硬さ (p<0.001) および付着性 (p<0.05) は, 蒸留水刺激後の嚥下直前のRC食塊に比べて有意に大きな値を示したのに対し, 凝集性には有意差は認められなかった. 以上の結果から, モチのような食品咀嚼時の嚥下誘発には, 食塊の付着性の程度がかかわっていることが示唆された.
  • Mutsuhito Tatamiya, Hitoshi Hotokezaka, Noriaki Yoshida, Kazuhide Koba ...
    2002 年 44 巻 2 号 p. 120-126
    発行日: 2002/04/20
    公開日: 2010/06/11
    ジャーナル フリー
    骨芽細胞様細胞MC3T3-E1において観察される電位依存性Ca2+チャネルの電気生理学的性質と薬理学的性質を, 穿孔全細胞固定法により解析した. 電位レベルを-104mVの保持電位からステップパルスにより脱分極させると, この細胞は, 10mM Ba2+溶液中で一過性の内向き電流 (-4.25±0.25pA/pF, n=16) を示した. この内向きBa2+電流の活性化の閾値は約-60mVであり, ピーク値は-40mVと-20mVの間に存在した. 内向きBa2+電流の定常時の活性化と不活性化の曲線から, -70mVと-40mVの範囲においてウィンドー電流が観察された. Cd2+ (0.1mM) は, 内向きBa2+電流を約60%抑制した. Ni2+ (0.1mM, T型とR型Ca2+チャネルの阻害剤), ニフェジピン (5μM, L型Ca2+チャネルの阻害剤), オメガコノトキシン (3μM, N型Ca2+チャネルの阻害剤) およびオメガアガトキシン (200nM, P/Q型Ca2+チャネルの阻害剤) は, この電流を抑制しなかった. Bay K 8644 (0.5μM, L型Ca2+チャネルのジハイドロピリジン型促進剤) もBa2+電流に影響しなかった. 以上の結果より, MC3T3-E1細胞には新しい種類のCa2+チャネルが発現していることが示唆された.
  • 山口 隆幸, 浅見 知市郎, 小林 寛
    2002 年 44 巻 2 号 p. 127-141
    発行日: 2002/04/20
    公開日: 2010/06/11
    ジャーナル フリー
    草食性動物で偶蹄目のニホンカモシカとオオツノヒツジの舌と舌乳頭について, 光顕と走査電顕により観察し, 比較解剖学的に検討した.
    糸状乳頭の外形に関しては, 両種ともに太い1本の主突起と, 細長い数本の副突起からなる. 糸状乳頭の結合織芯は, ニホンカモシカでは円筒形の基部の周辺から細長い2次芯が馬蹄形に並び, オオツノヒツジでは多数の小突起が馬蹄形に並び, 後方の数本の基部が癒合している. 茸状乳頭の結合織芯は, 両種ともに1次芯が先端の丸まった円柱状で, ニホンカモシカでは側面に縦走するヒダがあり, オオツノヒツジでは側壁や上面は小さく尖った2次芯でおおわれる. 上面には両種共味蕾を入れる小陥凹が数個ある. 舌隆起部には大型円錐乳頭が分布し, 芯の基部は大きく, 表面は多数の小突起 (2次芯) でおおわれる.
    有郭乳頭の数は, ニホンカモシカでは約20個, オオツノヒツジでは両側に数個ずつある. 中央乳頭部の溝側上皮内に多数の味蕾をもち, 輪状溝の底に漿液腺の導管が多数開口する. 両種ともに葉状乳頭はない. 舌根部表面は平坦で, 上皮下によく発達した粘液腺が分布する.
    以上から, ニホンカモシカでは舌隆起部の大型円錐乳頭の結合織芯はウシに酷似するが, 糸状乳頭と茸状乳頭の結合織芯はイエウサギのものに似る. オオツノヒツジの糸状乳頭の結合織芯は, 同じ偶蹄目で草食性動物のなかにあって, ニホンカモシカとプロングホーンとの中間に位置する立体構造をもち, この構造はさらにシロイワヤギからシバヤギへと複雑化し, ウシの癒合型へと進化したことが推測される.
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