建物に居住する人口と移動頻度を与え, 居住面積と居住者による交通量に応じた交通面積を確保して, 総移動時間を最小とする建物を求める問題を定式化する.考慮した交通機関はエレベータ, エスカレータ, 徒歩による水平移動である.この問題を解くことによって, 移動時間と交通路面積の面から, 建物の形状によって移動の容易さがどのように変わるのかを評価することが出来る.提案するモデルの妥当性を確かめるために, 現実の建物を例題とした計算を行った.第1の例題は, 新宿副都心の10棟の高層建物を含む地区を対象とする2地点間の移動時間を測定した実験結果との対照を行うことである.計測された移動時間分布とモデルによる計算結果とがよく一致していることが確かめられた.そして, 対象地区の現況と, それよりさらに高層化する方向と低層化する方向について, 移動時間分布を評価した.第2の例題は, 代表的な超高層建築であるニューヨークのワールド・トレード・センターのスカイロビー方式と呼ばれるエレベータシステムを, 提案モデルによって記述することである.そして, 普通エレベータだけを用いる建物との比較によって, この方式が地上階の入口から建物内への移動時間分布を, 高さ80階程度の建物と同程度になるよう短縮していることも示した.一方, 建物内の任意の2点間の移動に関しては, 急行エレベータがそれほど有効でないことも示した.さらに, 急行エレベータの停止階の位置を変えて平均移動時間を計算し, その最適な位置と現実の停止階の位置がよく一致していることを確かめた.
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