日本視能訓練士協会誌
Online ISSN : 1883-9215
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44 巻
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第55回日本視能矯正学会
特別講演
  • 高橋 政代
    2015 年 44 巻 p. 1
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    iPS 細胞を用いると患者本人の疾患の治療に必要な若返った細胞を作ることが可能であり再生医療のための細胞源として注目されている。我々はiPS 細胞から網膜色素上皮細胞と視細胞を作り、それぞれを適した網膜疾患への再生医療として使用しようと研究してきた。網膜色素上皮細胞は色素を持ち、顕微鏡下に選別できるのでiPS 細胞など腫瘍形成の危険のある細胞が混在しないことと、網膜の一部というごく小さい領域を治療することで治療効果があがるので治療に必要な細胞数が少ないことなどからiPS 細胞の最初の臨床応用へとつながった。加齢黄斑変性に対する網膜色素上皮細胞移植の臨床研究は昨年8月から開始された。既存の治療を繰り返し受けても効果が限定的あるいは再発を繰り返す加齢黄斑変性の症例が対象で臨床研究の目的は細胞シートの安全性の確認である。
     一方で、iPS 細胞や再生医療はマスコミにも取り上げられ一般の関心も高いことから患者に過大な期待を持たせることになるという問題が発生しやすい。再生医療(細胞移植治療)はまったく新しい治療であり最初は効果も小さい。改良を重ねて徐々に効果的な治療となることが考えられるが、それらの正しい情報はなかなか一般に伝わりにくい。iPS 細胞を用いた網膜再生医療の現場とそれに伴う問題点を紹介する。
シンポジウム
  • 永井 由巳
    2015 年 44 巻 p. 3-12
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
     光干渉断層計(Optical coherence tomography;OCT)が本邦に導入されて18年になるが、この間に撮影画像の解像度は飛躍的に改良され、網膜はもとより脈絡膜の観察も可能となり、更にアタッチメントを用いることで前眼部の撮影も可能となった。眼底疾患の臨床においては、眼底検査やフルオレセイン蛍光眼底造影、インドシアニングリーン蛍光眼底造影などの蛍光眼底造影の結果に加えてOCTの断層写真が加わったことで病態のより詳細な解明が可能となり診断の質は向上し、さらに治療の効果を診る上でも大きく貢献するようになった。蛍光眼底造影に比べてOCTは侵襲も小さく撮影も簡便であることから、今後も診療における重要性は高まると考えられ、それだけに基本的なOCTの読み方や撮影におけるコツなども習得しておく必要がある。
  • 金森 章泰
    2015 年 44 巻 p. 13-18
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
     光干渉断層計(OCT)は、視神経乳頭周囲網膜線維層や黄斑部網膜内層を解析することで、今や視神経疾患の日常診療で欠かせない機器となった。緑内障では構造的障害を定量化することで、その診断や進行判定に有用である。特に進行判定では数µmの変化を検出することになるので、毎回精度の高い撮影を心がける必要がある。また、緑内障は視神経症のひとつであり、他の視神経疾患でもOCT解析は役に立つ。視交叉部正中部にある腫瘍による圧迫性視神経症では、視交叉部交叉性線維を障害、すなわち、鼻側半網膜からの神経線維が障害されるが、OCTはその特徴を捉えることができる。また、片側の視索症候群では左右で対称的な視神経萎縮を呈する。光干渉断層計により、定量的な乳頭周囲網膜神経線維層厚の計測や黄斑部解析が可能となったが、視交叉部視神経症や視索症候群ではその神経線維走行に基づいたOCT所見をみることができ、診断の一助となる。本稿ではそれらの所見と報告をまとめる。
  • 山下 力
    2015 年 44 巻 p. 19-27
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    近年の光干渉断層計(optical coherence tomography、以下OCT)の進歩は著しく、様々な疾患の原因や機序の解明が進み、臨床的有用性も非常に高い。検者はOCTの原理や特性を理解し、様々なアーチファクト(原理や測定条件に起因するものなど)が生じることを十分知った上で測定しなければいけない。また、正常網膜断層像を熟知し、フォーカス、測定光の位置、感度領域に注意し、被検者の状態(中間透光体混濁や固視など)を十分念頭に置き、測定することが重要である。
一般講演
  • 金永 圭祐, 藤原 篤之, 槇 亜由美, 田淵 昭雄
    2015 年 44 巻 p. 29-34
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】疾病は衛生、労働、栄養など種々の環境要因や人種、人口構成によって変化することが知られている。今回、岡山県における過去5年間の視覚障害による身体障害者手帳(以下、手帳)の取得状況を調査したので報告する。
    【方法】対象は2008年4月から2013年3月までの5年間に岡山県において視覚障害による手帳を新規および継続にて取得した者とした。解析は手帳の等級、原因疾患、年代での比較を行った。原因疾患の分類は緑内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性、黄斑変性、脈絡網膜萎縮、視神経萎縮、白内障、角膜疾患、脳卒中、強度近視、その他とした。そして過去5年間の年代別新規認定率を、認定率 =(各年代の各疾患における視覚障害者数5年分の平均値/岡山県の各年代における5年間の人口の平均値)により算出した。
    【結果】過去5年間の該当等級を調査した結果、1級が最も多く、2級、5級という順であった。原因疾患の1位は網膜色素変性で、2位は緑内障、次いで糖尿病網膜症であった。手帳取得の年代は65歳以上が最も多く65.6%であった。年代別視覚障害者の年間新規認定率を算出した結果、65歳以上の緑内障が最多で0.04%であった。
    【結論】岡山県における過去5年間の手帳該当等級は1級が最も多く、網膜色素変性による取得が最多であった。緑内障による年代別新規認定率が最も高かった。
  • 藤原 久美, 鵜飼 喜世子, 高井 佳子, 伊藤 逸毅, 寺崎 浩子
    2015 年 44 巻 p. 35-42
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】成人の複視の改善を目的としたプリズム眼鏡処方前のフレネル膜プリズム(以下、フレネル膜)の貸出しの有用性について検討した。
    【対象及び方法】2010年1月1日から2013年12月31日に名古屋大学医学部附属病院を複視を訴えて受診した20歳以上の患者のうち、フレネル膜を試行した66名と、試行無しでプリズム眼鏡を処方した39名、計105人を対象とした。試行期間と試行後の処方形態、試行期間中の度数の変更回数、プリズム眼鏡処方から3か月後の使用状況について診療録を用いて後ろ向き研究を行った。
    【結果】66名の試行後の処方形態は、フレネル膜処方が21名、組み込みプリズム眼鏡処方が20名、フレネル膜と組み込みプリズムの併用処方が4名、複視消失によるプリズム不要が16名、複視消失が得られなかったプリズム不適応が5名であった。フレネル膜度数の1回以上の変更は試行1か月以上で74%であった。プリズム眼鏡処方3か月後の状況は試行有りでは全員継続、試行無しでは継続29名、変更3名、中止7名であった。試行有りでは有意に継続装用の率が高かった(p<0.01)。
    【結論】処方形態、フレネル膜度数の決定には試行期間を設けることが有用であった。成人の複視の軽減、消失を目的としたプリズム眼鏡処方前のフレネル膜の貸出しは、処方形態、プリズム眼鏡度数の決定、継続装用に有用であった。
  • 片岡 嵩博, 森川 桃子, 村田 あずさ, 井藤 麻由香, 磯谷 尚輝, 洞井 里絵, 小島 隆司, 吉田 陽子, 中村 友昭
    2015 年 44 巻 p. 43-50
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】新しいレーザー角膜屈折矯正手術SMILE(Small Incision Lenticle Extraction)とレーザー角膜屈折矯正手術LASIK(laser in situ keratomileusis)の1年経過時の比較、検討を行う。
    【方法】名古屋アイクリニックにて2008年2月から2013年3月にLASIK、SMILEを施行した各30眼を対象とした。当院でのSMILE初期症例(-3.00D~-4.00D)に対しLASIKの症例は、当院の過去のデータからSMILEと同等の術前屈折度数の症例を無作為に30眼抽出した。年齢、術前自覚球面及び乱視度数はSMILE群が30.7±4.3歳、–3.59±1.00D、–0.66±0.65D、LASIK群が31.1±4.4歳、–3.76±0.58D、–0.68±0.61Dであった。裸眼視力、矯正視力、球面及び乱視度数、矯正精度、安全係数(術後矯正視力/術前矯正視力)、有効係数(術後裸眼視力/術前矯正視力)、を両群間で比較した。統計学的手法はMann-Whitney testを用い、有意水準は5%未満とした。SMILEのフェムトセカンドレーザーにはVisuMax(Carl Zeiss Meditec)を使用した。LASIKのフラップ作成にはVisuMaxを使用し、エキシマレーザーにはMEL 80(Carl Zeiss Meditec)を使用した。
    【結果】術後1年時の平均少数裸眼視力、平均少数矯正視力はSMILE群が1.49、1.72、LASIK群が1.54、1.7とともに良好であった。平均球面度数及び平均乱視度数はSMILE群が+0.18±0.39D、–0.33±0.28D、LASIK群が+0.31±0.38D、–0.22±0.25Dであった。安全係数及び有効係数の平均はSMILE群が1.15±0.17、1.04±0.25、LASIK群は1.12±0.2、1.03±0.24であった。全ての項目において両群間に有意差は認められなかった。
    【結論】術後1年においてはSMILEはLASIKと同様に安全で矯正精度の高い屈折矯正手術であると考えられる。長期結果については今後の慎重な経過観察が必要であると考えられる。
  • 佐々木 翔, 林 孝雄, 金子 博行, 佐々木 梢, 臼井 千惠
    2015 年 44 巻 p. 51-56
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】斜視手術中に測定が可能な新しい回旋偏位測定装置「Cyclophorometer」を開発し、麻痺性斜視に対して術中に回旋偏位を測定した。斜視手術中に回旋偏位の測定を行う意義、および術後の経過について検討したので報告する。
    【対象・方法】回旋複視を自覚する斜視患者7例(男性3例、女性4例、平均年齢57.6歳)を対象とした。斜視の内訳は片眼上斜筋麻痺3例、片眼上直筋麻痺1例、片眼動眼神経麻痺1例、球後麻酔後の眼球運動障害1例、原因不明1例であった。各症例に対し、斜視手術前、術中、術終了時、術後10日目、術後3か月目に本装置を用いた回旋偏位の測定を実施した。
    【結果】斜視手術前の眼位は全例が外方回旋(Ex8°~Ex18°)を示し、平均Ex10.9°±3.8°であった。手術は局所麻酔下で術中に残余回旋斜視角を確認しながら行い、7例中3例において術中の回旋偏位測定結果を元に術量を変更した。手術終了時の回旋偏位は平均Ex1.3°±2.0°で、手術後10日目の回旋偏位は平均Ex2.7°±2.4°、手術後3か月後では平均Ex3.1°±2.3°であった。手術前は全例で複視を認めたが、術直後と術後10日目では全例が消失し、術後3か月でも7例中6例が複視消失の状態を維持した。
    【結論】本装置を用いて斜視手術中に回旋偏位の測定を行うことで、その場で術式の変更や追加の判断をすることが容易となった。本装置の術中利用は、手術回数を最小限にとどめ、術後の良好な眼位を保つために有効であると思われた。
    図の解説 Fullsize Image
    Cyclophorometerは1対の光学部を固定した8cm×24cmの板状の装置である。左右の光学部には赤色のBagolini線条レンズと、緑色のMaddox rodをそれぞれ垂直方向に配置している。Maddox rodはダイヤルを用いて随意に回転可能であり、1°刻みで設けた目盛りと連動している。装置を通して点光源を観察すると、左右眼それぞれに線条光を知覚する。その際、赤色Bagolini線条レンズを通して観察される線条光は、点光源に由来する輝点を中心とした線条光となるため、その輝点を固視点と定める。使い方は、Cyclophorometerの赤色Bagolini線条レンズ側が固視眼の前に来るように被検者の前額面に平行に保持し、点光源を固視させ見え方を問う。2本の線状光が観察され、互いに平行であれば回旋偏位はない。2本の線状光が平行でない場合は回旋偏位があると判断し、ダイヤルを用いて非固視眼のMaddox rodを回転させていき、見え方が平行となったときの角度を回旋偏位として定量する。非接触で体位を問わず測定できるため、斜視手術中に実施することが可能である。
  • 谷 佳子, 石井 雅子, 進藤 真紀, 阿部 春樹
    2015 年 44 巻 p. 57-63
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】求心性視野狭窄のシミュレーションにおける書字能力を縦書きおよび横書きの表記形式の違いから比較検討する。
    【対象及び方法】医療職を目指す学生で、右利き手、視力は両眼共に1.0以上、中心視野に異常がない58名(平均18.2±0.3歳)を被験者とした。自作の書字シートに11~59の二桁の連続算用数字を書字させ、縦書きおよび横書きの書字速度を測定した。正常視覚と求心性視野狭窄5度のシミュレーション(以下求心視野5度)の二通りについて書字速度、求心視野5度の書字効率、書字エラーを求めて、縦書きと横書きとで比較検討した。
    【結果】正常視覚での書字速度は、縦書きは60.37±8.09マス/分 、横書きは61.59±7.74マス/分であった。求心視野5度では、縦書きは53.75±8.85マス/分、横書きは56.32±8.83マス/分であった。正常視覚での書字効率を100%とした場合、縦書きでの効率は88.93±6.97%、横書きでの効率は91.29±8.80%であった。書字エラーは縦書きで、正常視覚は9例(15.52%)、求心視野5度は18例(31.03%)であった。横書きで、正常視覚は5例(8.62%)、求心視野5度は20例(34.48%)で有意にエラーが増加した(p<0.01)。書字エラーの総数は、縦書きで、正常視覚は12か所、求心視野5度は35か所で有意にエラーが増加した(p=0.04)。横書きで、正常視覚は9か所、求心視野5度は41か所で有意にエラーが増加した(p<0.01)。
    【結論】書字エラーの総数は、求心視野5度で縦書き横書きともに統計学的に増加した。
    シミュレーションでの書字効率の分布 n=58 Fullsize Image
    正常視覚の書字速度を100%とした場合の求心視野5度の書字効率では、縦書き、横書きともに正常視覚の91~95%の効率となる者が最も多かった。
  • 佐藤 千尋, 森 隆史, 新竹 広晃, 齋藤 章子, 丹治 弘子, 石龍 鉄樹
    2015 年 44 巻 p. 65-71
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】特発性黄斑円孔(以下MH)では、視力低下、変視や不等像をきたすとともに、両眼視機能が障害され日常生活に影響を与えている可能性がある。今回、片眼MHの立体視と視力、変視、不等像視、網膜形態との関連を検討した。
    【対象及び方法】対象は未治療の片眼MH16例(57~85歳)。Titmus Stereo Test(以下TST)で測定した立体視差と視力、New Aniseikonia Test(以下NAT)を用いた不等像視、M-CHARTSを用いた水平および垂直変視量、光干渉断層計を用いMHの縦径・横径を測定した。TST Circleが判別可能であった症例を立体視良好群、不可能であった症例を立体視不良群にわけて、2群間を比較検討した。
    【結果】MHの病期状態はStage2が5例、Stage3が8例、Stage4が3例であった。TSTのFlyは全症例で可能だったが、Circleが判別可能だったのは半数の8例で、立体視は病期が進行しているほど、Circle判別可能症例の割合が低下した。不等像視は9例でみとめられ、すべて小視症であった。TST Circleの立体視とNATの小視症には関係がみられなかった。立体視は視力が不良の症例、水平変視量が大きい症例では不良であった。立体視は円孔径が大きいほど不良であり、TSTのCircleが可能であった症例では縦径・横径ともに400μm未満であった。立体視良好群と立体視不良群の2群間の検定では、縦径(p=0.027)と横径(p=0.001)で有意差をみとめ、視力、不等像視、水平および垂直変視量には有意差をみとめなかった。
    【結論】MHの立体視機能は、円孔の大きさに影響を受ける。臨床での視機能評価の一つとして、立体視を考慮する必要がある。
  • 山本 真菜, 玉置 明野, 小島 隆司, 長谷川 亜里, 市川 一夫
    2015 年 44 巻 p. 73-82
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】オートケラトメーター(以下ケラト)と前眼部OCTによる角膜前後面計測値から計算される角膜乱視を比較すること。
    【対象及び方法】対象は角膜乱視 1.0D以上の直乱視40眼、倒乱視122眼である。ケラトと前眼部OCTによる角膜前・後面の解析を行った。
    ケラトの乱視量と、前眼部OCTの角膜前後面計測値から計算される値(Real)の乱視量の関係と、後面乱視量との関係を検討した。倒乱視は、後面を直・斜・倒乱視に分けて検討した。また、ケラトと前眼部OCTでの強主経線軸の差を比較した。
    【結果】ケラトとRealの乱視量の相関係数は、前面直乱視ではr=0.887、前面倒乱視はr=0.845であった(いずれもp<0.01)。乱視量の差(ケラト-Real)は、直乱視群では平均0.38Dでケラトが高値を示し(p=0.016)、倒乱視群では-0.02Dで有意差は認めなかった(p=0.441)。倒乱視を後面乱視別の3群に分けた結果、いずれもケラトとRealの乱視量に差は認められなかった。ケラトの乱視量と後面乱視量は、直乱視群で有意な相関を認め(p<0.001、r=0.68)、倒乱視群では相関を認めなかった。前面直乱視症例では全てが後面倒乱視であったが、前面倒乱視症例では後面は直乱視22%、斜乱視19%、倒乱視59%であった。乱視軸は直乱視で30%、倒乱視で24%がケラトとRealの間に6°以上の差を認めた。
    【結論】前面直乱視では角膜後面による比較的系統的な補正がきいているが、前面倒乱視では角膜後面の影響は系統的ではないため、個々の測定が必要である。
  • 西田 知也, 森川 桃子, 村田 あずさ, 片岡 嵩博, 井藤 麻由香, 磯谷 尚輝, 洞井 里絵, 玉置 明野, 小島 隆司, 吉田 陽子 ...
    2015 年 44 巻 p. 83-90
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】シャインプルーク画像から角膜圧平時間と面積を計算することによって眼圧計測を行うCorvis® ST(以下CST)(OCULUS社)を用いて、正常眼における眼圧値及び再現性について従来器と比較した。
    【対象と方法】屈折異常以外に眼疾患を有しない20名20眼を対象とした。平均年齢は35.0±12.9歳(20~60歳)。CST、Goldmann applanation tonometer(以下GAT)、非接触型眼圧計(以下NCT)(TX-F、Canon)の3種類の測定器機で各5回ずつ眼圧を測定し、平均値及び変動係数、級内相関係数(Intraclass correlation coefficients以下ICC)を算出しそれぞれの器機で比較を行った。また2器機間の測定値の相関係数を算出した。統計解析は各器機間でANOVA検定を用いpost-hoc testとしてTukey-Kramer testを用いて、有意水準を5%未満とし行った。
    【結果】各器機で測定した眼圧の平均値±標準偏差は、CSTが12.5±2.7mmHg、GATが15.6±2.8 mmHg、NCTが13.6±2.6 mmHgであり、全ての器機間で有意差が認められた(p<0.01)。平均変動係数±標準偏差はCSTが9.8±5.1%、GATが6.3±4.5%、NCTが8.7±3.6%であり、GATよりもCSTは有意に高値を示し(p<0.01)、CSTとNCT、GATとNCT間では有意差が認められなかった(p>0.05)。
     3つの器機の相関係数はCSTとNCTでは0.865(p<0.0001)、CSTとGATでも0.865(p<0.0001)、NCTとGATでは0.845(p<0.0001)であった。ICCはCSTが0.792、NCTが0.812、GATが0.876となった。
    【結論】CSTによる眼圧値はNCT、GATとも高い相関係数を得たが、NCTやGATと比較すると低値を示し、測定原理の違いが影響している可能性が示唆された。再現性に関してはNCTと同等であった。
  • 古川 真二郎, 山本 美紗, 戸島 慎二, 寺田 佳子, 原 和之
    2015 年 44 巻 p. 91-95
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】神経線維が障害された場合の動眼神経麻痺では通常眼筋麻痺は障害側と同側に生じる。今回我々は左中脳梗塞により右眼上直筋麻痺を呈し、動眼神経上直筋亜核単独障害が疑われた一例を経験したので報告する。
    【症例】72歳、男性。仕事中に上下複視を自覚し近医受診。精査加療目的で当院神経内科を紹介受診した。頭部MRIでは左中脳内側に高信号域を認めた。発症より4日後、眼球運動精査目的で当科初診。初診時所見、両眼とも矯正視力(1.2)。遠見眼位はAPCTで右眼固視:20⊿外斜視9⊿左上斜視、左眼固視:20⊿外斜視8⊿右下斜視であった。9方向むき眼位検査及びHess赤緑眼に上転制限を認めた。複像間距離は右上方視時で最大となった。左眼の眼球運動には異常を認めなかった。瞳孔は正円同大で対光反射も迅速であった。上直筋の支配神経は中脳で交叉している事より、動眼神経上直筋亜核の障害に伴う対側上直筋麻痺であると考えた。1か月後、上下偏位は消失した。眼球運動は正常範囲内であり、全てのむき眼位で複視は消失した。
    【結論】対側上直筋単独麻痺を呈した動眼神経亜核障害の一例を経験した。過去に報告の少ない非常に稀な症例であったと考えられた。
  • 奥村 詠里香, 追分 俊彦, 掛上 謙, 林 顕代, 中川 拓也, 林 由美子, 林 篤志
    2015 年 44 巻 p. 97-102
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】白内障混濁別の散乱光と白内障手術前後における散乱光の変化を検討する。
    【対象及び方法】平成26年4月から同年9月までに富山大学附属病院で白内障手術を施行した38例50眼に対し、白内障手術前後に眼内散乱光測定装置C-Quantを用いて散乱光を測定した。核白内障、皮質白内障、後嚢下白内障、retrodotsに分類して混濁の程度分類を行い、各白内障の混濁程度、術前視力、眼球高次収差と散乱光の関係、白内障手術前後の散乱光の変化について検討した。
    【結果】核白内障、皮質白内障の混濁程度と散乱光値には相関が認められた(p<0.01)が、retrodotsの混濁程度と散乱光値には相関はなかった。核白内障、皮質白内障の術前視力と散乱光値、眼球高次収差のRMS値と散乱光値には相関はなかった。核白内障、皮質白内障の散乱光値は術前と比較し、術後で散乱光値が有意に低下していた(p<0.01)。後嚢下白内障は症例数が少なく統計処理は行っていないが、核、皮質、後嚢下白内障の中で後嚢下白内障の術前散乱光値が最も高値であった。
    【結論】今回、白内障の混濁別の散乱光値について検討できた。核白内障、皮質白内障の混濁増加に伴って散乱光値は上昇し、白内障手術によって散乱光値は低下した。 混濁別では後嚢下白内障の散乱光値が最も高値であった。散乱光測定検査は、白内障の診療に役立ち、また、視力以外の見えにくさの評価法として用いることができると考える。
  • 吉仲 さおり, 山本 素士, 山藤 満, 大門 彩香, 横山 純子, 今井 大輔, 喜多 美穂里
    2015 年 44 巻 p. 103-110
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】超広角走査レーザー検眼鏡(Ultra-Wide-Angle Scanning Laser Ophthalmoscope: 以下UW-SLO)を使って撮影する際の睫毛の影響を除外する開瞼方法について検討した。
    【対象及び方法】対象は、Optos®200Tx™で眼底撮影を行ったボランティア、正常者10人20眼。各眼1)自然開瞼、2)自己努力最大開瞼、3)検者の手指による開瞼、4)綿棒による開瞼、5)開瞼器装着、6)テープによる開瞼の6方法で撮影し、全面積及び、眼底像の中心窩を中心とした上・下・鼻・耳側の4象限における有効撮影面積を各開瞼方法で定量、比較検討した。
    【結果】上、耳側の象限では、6開瞼方法による有効撮影面積に有意差は無かった(p>0.05)。下、鼻側の象限では、自然開瞼で他の5方法に比して有効撮影野が有意に狭かった(p<0.05)。5方法間では、開瞼器装着、テープによる開瞼が有意に広く(p<0.05)、自己努力最大開瞼、検者の手指による開瞼が他の3方法に比べ有意に狭かった(p<0.05)。綿棒による開瞼は、鼻側では開瞼器装着、テープによる開瞼と同等であったが、下側では2方法に比べ有意に狭かった(p<0.05)。
    【結論】UW-SLO撮影時には、開瞼器装着、テープによる開瞼で撮影する事により、下、鼻側象限の睫毛の影響を除外し、撮影野を有意に広く確保出来る。
  • 蛭田 恵理, 須藤 史子, 島村 恵美子, 渡辺 逸美, 小林 千紘
    2015 年 44 巻 p. 111-120
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】角膜乱視1.0D以上でも術後裸眼視力が良好な多焦点眼内レンズ(以下IOL)挿入眼に遭遇することがある。2014年5月に多焦点トーリックIOLが市販されたことから角膜正乱視の大きい症例にも適応拡大が見込まれるが、術前角膜乱視1.0D以上であれば多焦点トーリックIOL適応としてよいかを検討するため、多焦点トーリック発売前に多焦点IOLを挿入した症例の術前角膜乱視と裸眼視力の関係を後ろ向きに検討した。
    【方法】対象は水晶体再建術前にTMS-5(TOMEY)にて角膜前後面の解析を行い、SN6AD1 (Alcon社)を挿入した50名92眼、平均67.0±8.5歳。術前角膜前面乱視(以下前面乱視)と術前角膜前後面乱視(以下全乱視)を0.5D未満群、0.5D以上1.0D未満群、1.0D以上群の3群に分け、さらに各群を直乱視、倒乱視、斜乱視のサブグループに分けて術後2ヵ月の遠近裸眼視力を比較した。
    【結果】前面乱視・全乱視とも1.0D以上群の倒乱視は他群と比べ遠見視力が有意に不良(p<0.05)、近見視力でも同様の傾向があったが有意差はなかった(p=0.69)。
    【結論】1.0D以上の倒乱視があると、術後の遠見裸眼視力が不良となるため、積極的に乱視矯正をした方が良い。
  • 川上 綾子, 安達 いづみ, 小野 峰子, 二本柳 淳子, 加藤 圭一
    2015 年 44 巻 p. 121-128
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】日本製ビジョンバン(以下ビジョンバン)は、2011年に起きた東日本大震災後、国からの公的予算で作られた眼科医療支援車両である。ビジョンバン活動に参加する視能訓練士のために、みやぎ視能訓練士の会(以下当会)が行った事前準備と参加視能訓練士のコーディネートについて検証した。
    【対象および方法】宮城県におけるビジョンバン活動に参加した視能訓練士と、健康診断および健康相談を受けた際に受診票を記載した計937名を対象に記述統計を求めた。また、当会が行った事前準備とコーディネート活動について検証した。
    【結果】宮城県のビジョンバン活動は、被災が大きかった市や町を中心に18回行われた。参加視能訓練士はのべ64名で、全ての活動要請に応えることができた。受診者の内訳は健康診断者647名、健康相談者290名で平均年齢は62.6±17.7歳であった。当会は事前準備として各種マニュアル作成と機器操作練習会を開催した。その結果、視能訓練士が主に行った検査(視力検査、他覚的屈折検査、眼圧検査、レンズメーター、OCTおよび眼底カメラ)は、健診者647名に対しのべ1634件であった。また、メーリングリストを活用してコーディネートを行い、参加視能訓練士は不安なく効率的に活動できた。
    【結論】今回の当会が取り組んだ事前準備と参加視能訓練士のコーディネート活動は、円滑なビジョンバン活動をする上で有効に機能した。
  • 髙橋 このみ, 藤原 篤之, 金永 圭祐, 白神 史雄
    2015 年 44 巻 p. 129-135
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】Macular Integrity Assessment(MAIA)は中心固視点を自動追尾しながら測定する微小視野計である。MAIAは従来の微小視野計と比較して精度の高いデータが得られることが期待されている。今回MAIAを用いて再現性に影響を与える因子について検討した。また、室内照度が感度に与える影響についても検討した。
    【対象と方法】対象は正常31眼、年齢は20~50歳(平均26.7歳)である。再現性は1回めの測定後に休憩を行い再度、同条件下で測定を行った。室内照度が与える影響は、完全暗室下にて測定後に明室下(270 lux)で再測定を施行した。解析は部位別感度として、中心(CS)から半径1°(C-1)、3°(C-2)、5°(C-3)外側の級内相関係数を求めた。再現性に影響を与える因子は従属変数を再テスト法による測定誤差、説明変数を年齢、性別、屈折度数、眼軸長として重回帰分析にて検討した。
    【結果】再現性を示す級内相関係数はCSで0.5(P<0.05)、C-1で0.6(P<0.01)、C-2で0.7(P<0.01)、C-3で0.6(P<0.05)と高い値を示した。重回帰分析の結果、眼軸長にのみ有意な相関がみられた(P<0.05)。室内照度を変化させて測定した結果、いずれの部位でも明室下で有意に感度低下を示した(P<0.01)。
    【結論】MAIAによる測定結果は高い再現性を示した。再現性に影響を与える因子として、眼軸長で有意の関連がみられ、長眼軸眼では再現性が低下していた。また、明室下での網膜感度は暗室下と比較して低い値を示した。
  • 石原 智之, 中馬 秀樹, 時任 亜寿沙, 茂谷 翼, 町田 知哉, 直井 信久
    2015 年 44 巻 p. 137-147
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】様々な眼球運動障害を伴う神経眼科疾患の治療評価に対するDiplometの有用性を検討した。
    【対象と方法】4例について後ろ向きにDiplomet、Maddox rodとプリズムを用いた眼位検査、眼球運動写真撮影にて検討した。
    【結果】症例1:51歳女性。多発性硬化症による右外転神経麻痺を生じ、ステロイドパルス治療後、外転神経麻痺は改善した。症例2:54歳女性。Churg-Strauss症候群による眼窩炎症症候群で右眼内転制限、外下転制限を生じた。ステロイドパルス治療後、眼球運動障害は改善した。症例3:22歳女性。SLEに伴う側頭葉出血にて頭蓋内圧の上昇を生じ、左眼外転神経麻痺をきたした。頭蓋内圧減圧治療後、外転神経麻痺は改善した。症例4:14歳女性。蝶形骨異形成による拍動性眼球突出により、内斜視及び左上斜視を生じた。脳神経外科にて蝶形骨形成術後、新たな眼球運動障害は出現せず、眼位の改善を示した。全ての症例においてDiplometで同様の経過が記録確認できた。
    【結論】Diplometは様々な神経眼科疾患の眼球運動障害において、年齢・原因疾患を問わず、治療前後の眼位・眼球運動障害を測定、記録可能であった。治療前後の評価にDiplometは有用であると思われた。
  • 山村 彩, 鈴木 紗代, 則武 里奈, 岡田 あかね, 宇野 裕奈子, 片岡 嵩博, 小島 隆司
    2015 年 44 巻 p. 149-156
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】円錐角膜眼において、プラチドリング方式と前眼部SS-OCTによる角膜形状解析装置の測定値の違いを比較検討すること。
    【対象及び方法】円錐角膜患者39例70眼(男性24人、女性15人)、平均年齢41歳±19.2歳を対象とした。Amsler-Krumeichの分類に基づき、4ステージに分類し、ステージ1・2を低ステージ群、ステージ3・4を高ステージ群とした。TMS-4 Advance®(トーメーコーポレーション)とCASIA®(トーメーコーポレーション)のAxial Power のKeratometric値を用いて、平均角膜屈折力、角膜乱視量、中心3mmのフーリエ解析による非対称成分、高次不正乱視成分について比較検討をした。値は平均値±標準偏差で示し、Wilcoxonの符号順位検定を用いて解析した。有意水準は5%未満とした。
    【結果】TMSとCASIAの平均値の差(TMS-CASIA)は、角膜乱視量の低ステージ群で0.55±1.0D(p=0.049)、高ステージ群で2.87±0.7D(p=0.005)、高次不正乱視成分は低ステージ群で0.18±1.3D(p=0.02)、高ステージ群で0.72±0.4D(p=0.004)と両群ともにTMSが有意に高値を示した。一方、非対称成分の高ステージ群では-1.52±0.8D(p=0.03)となり、CASIAが有意に高値を示した。
    【結論】円錐角膜眼においてプラチドリング方式と前眼部OCTによる角膜形状解析装置では測定値に差を認め、病気の進行評価など角膜屈折力の経時変化の評価には同一の機種を用いて行う必要が示唆された。
  • 田中 絵理, 小林 義治, 小島 美里, 大野 恵梨, 松岡 久美子
    2015 年 44 巻 p. 157-163
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】光干渉断層計(optical coherence tomography以下OCT)を用いた上方視神経低形成(Superior segmental optic hypoplasia 以下 SSOH)の視野欠損部位に対応する網膜層構造の検討をすること。
    【対象と方法】SSOH4例6眼、正常10例20眼[それぞれ平均年齢20.3±1.2歳(平均値±標準偏差)、21.5±3.0歳、平均屈折(等価球面)-3.58±2.3D、-3.46±2.3D]を対象とした。spectral-domain OCTを用いて下方視野欠損部位に対応する上方網膜および上下対称である下方網膜を、中心窩を基点とし30度刻みで7.5mmのラインスキャンを施行した。検討項目は①SSOH群と正常群の神経線維層厚の比較、②SSOH群と正常群のその他網膜層厚(神経節細胞層+内網状層厚および内顆粒層~網膜色素上皮層厚)の比較とした。
    【結果】①SSOH群と正常群の神経線維層厚の比較では、上方においてSSOH群が正常群に対して有意に菲薄化していた。下方では有意差はみられなかったがSSOH群で薄い傾向にあった。②SSOH群の神経節細胞層+内網状層厚は正常群と比較し薄い傾向にあった。内顆粒層~網膜色素上皮層厚の比較では有意差はみられなかった。
    【結論】SSOH群の神経線維層の菲薄化は上方および下方に生じていた。神経線維層欠損部の外層の網膜厚に変化はみられなかった。また本測定法で強度近視に影響されず神経線維層欠損を確認することが可能であった。
  • 唐木 玲子, 森谷 佳菜子, 黒田 有里, 井上 順治, 堀 貞夫, 井上 賢治
    2015 年 44 巻 p. 165-169
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】液晶視力表システムチャートSC-2000(ニデック社製、以下SC-2000)による低コントラスト視力の正常基準値案を提示するため、正常者のコントラスト視力を調べた。
    【対象および方法】対象は眼疾患を有さない西葛西井上眼科病院職員62例124眼、年齢20~51歳(平均年齢32.47±7.45歳)であった。20~29歳26名を1群、30~39歳21名を2群、40~51歳15名を3群とした。SC-2000を使用しコントラスト25%、12.5%、6%のそれぞれの視力を測定し、3群を比較した。
    【結果】各コントラストにて1群2群間では有意差は見られなかったが、1群3群間ではすべてのコントラストにおいて3群が有意に低下した(p<0.05)。
    3群の各平均値はLogMAR 0.001±0.028、0.093±0.047、0.232±0.074であった。
    【結論】3群の平均値をSC-2000による低コントラスト視力の正常基準値案として示すことができた。
  • 横山 和香, 大沼 学, 湯泉 真規子, 小川 美沙, 猪狩 栄利子, 薄井 紀夫, 内海 通
    2015 年 44 巻 p. 171-175
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】近視を伴う非屈折性調節性内斜視の1例を22年間という長期期間に渡り経過観察したので報告する。
    【症例】5歳女児。初診時眼位は、遠見8⊿X(T)、近見25⊿ET'2⊿LHT'。1%アトロピン硫酸塩による調節麻痺下での屈折検査にて両眼+1.00Dの軽度遠視をみとめ、両眼視機能は遠見のみ立体視を確認できた。8歳3ヶ月時の屈折値は両眼約-1.50Dとなり、眼位は遠見18⊿X(T)16⊿LH(T)、近見13⊿E(T)'3⊿LH(T)'、近見+3.00D加入では15⊿XP'。AC/A比は9.3⊿/Dであった。8歳5ヶ月時に、近見の内斜視が顕性化したため、斜位維持を目的に単焦点眼鏡の下部に両眼10⊿Base outのフレネル膜を張付した。
     同年、遠見の外斜視に対し左眼の内直筋短縮術、外直筋後転術を施行。遠見の外斜視はほぼ消失したが、近見の内斜視は25⊿ETと増加した。術後、近見眼位を矯正するため近見使用部に+3.00D加入の二重焦点眼鏡を処方した。その後は眼鏡とフレネル膜で眼位を矯正し経過観察を続けた。現在27歳5ヶ月の屈折値は両眼約-5.75Dであるが単焦点眼鏡を希望しているため、両眼約-5.00Dの近視低矯正眼鏡を使用しており、眼位は遠見、近見共に安定し両眼視も良好である。
    【考案】非屈折性調節性内斜視は成人になり近視化しても高AC/A比は残存し、完全治癒は困難であることが多い。治療の第一選択は二重焦点眼鏡の装用であるが、近視の場合、遠見視力を多少犠牲にすることで単焦点眼鏡への移行も可能である。また、QOLを高めるために患者の意見も考慮し、眼位の変動及び屈折値の両方の側面を考慮した治療法の選択が求められる。
  • 掛上 謙, 藤田 和也, 田村 了以, 三原 美晴
    2015 年 44 巻 p. 177-182
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】視線追跡装置を用いて健常者の衝動性眼球運動(saccadic eye movement:SEM)速度を計測する。
    【対象】20歳以上、矯正視力1.0以上で、眼位異常・眼球運動異常・瞳孔異常がない健常者33名を対象とした。
    【方法】液晶モニターにHess赤緑試験のチャートを元に作製した図を表示し、中心点から水平・垂直方向は15°、斜方向は21°の位置に点視標を提示。中心点を固視させ、提示した各点視標に視線を移動させた。View Point Eye Tracker® system(Arrington Research, USA)を用い、各眼を高感度カメラで撮像し(220Hz)瞳孔中心の位置のX-Y座標で記録した。取得したデータからSEMの平均速度および最高速度(degree/sec)を算出した。
    【結果】SEM平均速度は上方180.0±26.8(mean±SD)deg/sec、下方177.3±42.9、右方217.3±25.0、左方214.7±25.0、右上方219.5±28.0、右下方216.0±45.7、左上方231.2±39.7、左下方212.2±47.9であった。水平・斜方向に比べ垂直方向が有意に遅かった(p<0.05)。
    【結論】視線追跡装置を用いて健常者のSEM速度の計測を行った。SEM速度は眼球移動方向により差を生じ、垂直方向で遅い結果となった。
ランチョンセミナー
  • 枝川 宏
    2015 年 44 巻 p. 183-190
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/03/19
    ジャーナル フリー
     スポーツでは視力は重要である。しかし、スポーツと視覚の関係については、まだわかっていないことが多い。そのためスポーツと視覚の研究は様々な分野で行われていて、研究内容は多岐にわたる。なかでも、選手の視覚を解明しようとする研究は多い。
     スポーツ選手の視覚の研究には脳の機能を中心に分析する研究と眼の機能を中心に分析する研究がある。眼の機能を中心に分析する研究者は選手の眼の能力は優れていて、視覚訓練で競技能力は向上すると考えている。我が国ではマスコミなどを通してたびたび紹介されている。しかし、脳の機能を中心に分析する研究者は選手の眼の能力は一般人とほとんど変わらず、視覚訓練で競技能力は向上しないと考えている。現在諸外国においては選手の視覚の研究は検査技術の進歩や眼の機能を中心に分析する研究に疑問点が多いことから、脳の機能を中心に分析する研究が主流になっている。
     今回はこの2つの研究分野の違いとスポーツにおける視覚の重要性を説明して、今後眼科領域がスポーツ分野に果たすべき役割について考える。
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