示差走査熱分析 (DSC) により, 水中油型 (O/W) エマルション (油 : 水=20 : 80) 中に乳化分散させたn-ヘキサデカンの結晶化挙動を検討した。乳化にはTween 20を使用し, n-ヘキサデカンには, 4種類の親油性のショ糖脂肪酸エステル : ショ糖ラウリン酸エステル (L-195), ショ糖パルミチン酸エステル (P-170), ショ糖ステアリン酸エステル (S-170), およびショ糖オレイン酸エステル (O-170) を添加した。バルクのn-ヘキサデカンの結晶化温度 (T
c) および融解温度 (T
m) が, それぞれ16.9℃と18.5℃であったのに対しエマルション中では, T
cは3.4℃, T
mは17.4℃であった。P-170とS-170の添加O/Wエマルション中のn-ヘキサデカンのT
cを大幅に上昇させたが, L-195の効果はわずかであった。オレイン酸が疎水基であるO-170は, O/Wエマルション中のn-ヘキサデカンのT
cに影響を及ぼさなかった。しかし, これら4種類のショ糖脂肪酸エステルは, バルクのn-ヘキサデカンのT
cとTmには影響を及ぼさなかった。
O/Wエマルションにおいて, P-170およびS-170を添加した場合には, DSCに加熱過程では, それぞれ3.6℃および4.1℃に吸熱ピークが, また冷却過程では, それぞれ-3.2℃と-3.0℃に発熱ピークが, n-ヘキサデカンの結晶化または融解のピークに加えて観察された。これらのピークは, エマルション界面で形成される分子会合体の相転移に対応していた。n-ヘキサデカンの結晶核形成促進および分子会合体形成のメカニズムを, ショ糖脂肪酸エステルをn-ヘキサデカンへ添加したことによって起きるO/Wエマルション界面への吸着と, 分子会合体の形成を考慮して考察した。
抄録全体を表示