労働安全衛生研究
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13 巻, 2 号
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巻頭言
特別寄稿
特集「第13次労働災害防止計画の推進に資する研究」
原著論文
  • 菅 知絵美, 吉川 徹, 梅崎 重夫, 佐々木 毅, 山内 貴史, 高橋 正也
    原稿種別: 原著論文
    2020 年 13 巻 2 号 p. 107-115
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/09/30
    [早期公開] 公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー

    ITの技術革命によりシステムエンジニア(SEs)やプログラマー(PGs)の労働環境は急速に変化し,彼らの過重労働と健康問題が懸念されている中,IT産業が「過労死等防止のための対策に関する大綱」において過労死等の多発が指摘される5つの業種・職種の1つに挙げられた.本研究では,SEs及びPGsを中心とした情報通信業の過労死等の労災認定事案の実態や特徴を明らかにし,過労死等の予防・対策の手がかりを得ることを目的とした.2010年から2015年に過労死等で労災認定された情報通信業の事案を対象に脳・心臓疾患51件と精神障害85件を抽出した.その結果,SEs及びPGsにおいて,脳・心臓疾患事案では50歳未満の事案が9割を超え,心臓疾患の死亡事案が9割を占めていた.精神障害事案では50歳未満の事案が約3/4を占め,うつ病エピソードの事案が3/4以上であり,死亡(自殺)の事案が3割を超えた.また,脳・心臓疾患の多くの事案で時間外労働時間は発症前3か月から80時間以上を超え,発症前2か月にかけて増加する傾向が見られた.精神障害事案において心理的負荷が生じた出来事のうち特別な出来事では「極度の長時間労働」や「恒常的な長時間労働」の割合が高く,具体的出来事では「対人関係」及び「役割・地位の変化等」の割合が生存よりも死亡事案で高くなっていた.SEs及びPGsにおいて若年齢層から中年齢層に対し適正な勤務時間管理の実施や業務内容の効率化を図り,長時間労働による負荷を軽減することが過労死等の防止対策に必要であることが示唆された.

  • -誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)および誘導結合プラズマ 発光分析法(ICP-AES)による模擬汗中のマンガンの定量-
    韓 書平, 鷹屋 光俊
    原稿種別: 原著論文
    2020 年 13 巻 2 号 p. 117-124
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/09/30
    [早期公開] 公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー

    電解質・有機化合物を含む汗の模擬生体溶液を調製し,模擬生体溶液中の金属濃度を測定することにより,金属化合物の経皮ばく露の評価を行う方法の開発を試みた.被験物質としては,マンガン化合物を選択し,18種類の電解質・有機化合物を含む模擬汗を試料マトリックスとした.今回模擬汗に使用した物質とマンガンとの間には分光干渉をはじめとした干渉が少なく,ICP-AESでは模擬汗を無希釈で測定可能であった.一方,ICP-MS では塩化ナトリウム由来の塩化物イオン等の影響がみられ, 塩化ナトリウム濃度が300 µg/L以下となる5倍以上の希釈が必要であった.これらの結果は,金属化合物の経皮ばく露評価にとって重要な情報と考える.

  • 高橋 弘樹, 高梨 成次, 堀 智仁
    原稿種別: 原著論文
    2020 年 13 巻 2 号 p. 125-138
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/09/30
    [早期公開] 公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    建築物の解体工事において,外壁の倒壊による災害が発生している.解体工事で外壁を解体する際は,一般的に柱や壁の下端の一部を切削してから,外壁を倒す転倒工法と呼ばれる工法を用いている.柱等の一部を切削することを縁切りと呼んでおり,この縁切り作業中に切りすぎて外壁が倒壊し,災害が発生している.そこで本論では,外壁の倒壊災害防止を目的として,外壁における基本部材である柱を対象とし,転倒工法を再現した実験を行った.実験の結果,柱下端を縁切りする際は,柱の転倒方向の前方に位置するコンクリートと転倒後方に位置する主筋を切断し,転倒前方に位置する主筋を残すことが,縁切り型として適していることが分かった.さらに,下端を縁切りした柱の転倒強度の計算方法を構築し,この計算方法を用いて実験結果を補うと伴に,この計算方法の妥当性を検証した.

短報
  • ̶動作の反動・無理な動作による事例を対象として̶
    北川 広大, 永﨑 孝之, 中野 聡太, 肥田 光正, 岡松 将吾, 和田 親宗
    原稿種別: 短報
    2020 年 13 巻 2 号 p. 139-143
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/09/30
    [早期公開] 公開日: 2020/08/13
    ジャーナル フリー

    厚生労働省が定めた「第 13 次労働災害防止計画」では,労働災害の件数が減少していない業種等への対策を推進しており,その対象の1つである社会福祉施設では「動作の反動・無理な動作」による労働災害が多い.そこで本研究では,これらの労働災害におけるリスク要因の抽出を目的として,厚生労働省が公開している「労働災害データベース」に収録された計1041例の労働災害事例を調査した.本研究では労働災害事例の発生状況に関する文章記述を対象とし,これらのテキスト情報をテキストマイニング解析によって調査した.テキストマイニング解析では,各頻出語の頻出回数と頻出語同士の共起関係を示す共起ネットワークによって多くの労働災害事例に共通する具体的な状況を考察した.解析結果は「腰」,「ベッド」,「介助」,「痛み」,「移乗」,「患者」,「車椅子」などの語句が多くの事例で頻出,共起していることを示した.この結果から,対象の労働災害事例の多くにベッドや車椅子間の移乗介助による腰痛が発生している可能性が示された.移乗介助による腰痛は平成20年に実施された先行調査においても指摘されているが,本研究の結果を踏まえるとこれらのリスク要因は未だに解決されていないと考えられる.そのため,今後の労働災害対策では移乗介助による腰痛の予防に向けて従来よりも実効性のある解決策を早急に検討する必要があると考える.

研究紹介
  • 高木 元也, 庄司 卓郎, 呂 健
    原稿種別: 研究紹介
    2020 年 13 巻 2 号 p. 145-150
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/09/30
    [早期公開] 公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    近年,わが国では外国人労働者の労働災害が増加し,外国人特有の労働災害リスクに対し早急に対策を講じる必要がある.本稿では,外国人労働者の労働災害を防止するため,これまで著者らが建設業を対象に進めてきた①元請業者における外国人労働者活用の実態調査,②送り出し国における入国前実践教育の事例調査,③非言語視聴覚教材の制作,④タブレット端末を用いた危険予知のためのベトナム語版安全教材の制作,⑤非言語マンガ看板に関する研究,⑥外国人特有災害の要因抽出に関する研究等,外国人労働者の労働災害防止に関する研究を紹介する.

  • 北條 理恵子, 大塚 輝人, 堀 智仁, 菅間 敦, 崔 光石
    原稿種別: 研究紹介
    2020 年 13 巻 2 号 p. 151-155
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/09/30
    [早期公開] 公開日: 2020/08/19
    ジャーナル フリー

    労働安全衛生総合研究所の国際センター(研究推進・国際センターの一部門)の業務には(1)国内外の労働安全衛生関連情報の収集・分析・提供,(2)国際研究交流及び共同研究の推進,(3)世界保健機構(World Health Organization; WHO)の開発途上国への協力等がある.これらの業務は,厚生労働省の第13次労働災害防止計画(計画年度:2018年4月~2023年3月)における重点対策の一つである「研究等により諸外国の最新の知見,動向を把握し,施策に活用する」に基づき重要な業務に位置づけられている.本稿では,2019年度の業務のうち,諸外国における労働安全分野の最新の知見,動向調査の結果と,共同研究等の現状について記述する.これらの活動は,世界の情勢に沿う新たな安全研究領域の構築及び国内の労働安全行政・国際標準化に向けての貢献の基盤となりうる.

原著論文
  • 吉武 英隆, 道井 聡史, 白坂 泰樹, 菅野 良介, 安藤 肇, 野澤 弘樹, 長谷川 将之, 池上 和範, 大成 圭子, 足立 弘明, ...
    原稿種別: 原著論文
    2020 年 13 巻 2 号 p. 157-166
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/09/30
    [早期公開] 公開日: 2020/08/07
    ジャーナル フリー

    我が国で,振動障害はチェーンソーによる白ろう病が広く認知されているが,使用時間の制限や機械の低振動化によりそれらは減少傾向にある.一方,製造業を中心にグラインダーなどの振動工具を取扱う作業者は100万人を超えると推定されるが,振動業務健康診断の受診者は約63000人程度にとどまっている.近年,レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)を用いた皮膚血流測定の適応可能性が示されたことから,我々はその客観性や簡便性に優れた特徴から振動ばく露による末梢血流変化の早期検出が可能であると考えた.そこで,振動工具取扱い者の作業歴,作業頻度から振動ばく露の累積値(累積振動ばく露量)を用いて末梢血流と累積振動ばく露量との関連を明らかにすること,振動障害の早期検出にLSFGを用いた冷水浸漬検査の有用性を明らかにすることを目的とした.その結果,末梢血流と累積振動ばく露量には明らかな関連を認めなかったが,LSFGの客観性,再現性は振動業務健康診断においてもその利点を活用出来る可能性がある.しかし,実際の活用にはさらなる調査が必要である.

短報
  • 鈴木 誠太郎, 小野瀬 祐紀, 吉野 浩一, 高柳 篤史, 上條 英之, 杉原 直樹
    原稿種別: 短報
    2020 年 13 巻 2 号 p. 167-171
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/09/30
    [早期公開] 公開日: 2020/06/08
    ジャーナル フリー

    歯の酸蝕症が発生しやすい環境として,バッテリー工場や製錬所などがある.このような労働環境では,労働者に対し,歯科医師による特殊歯科検診が義務付けられている.一方,海外の調査では,酸性の飲料の摂取する頻度の高い,ワインテイスターにおいて,歯の酸蝕症が発生しやすいことが報告されている.しかしながら,我が国では,このような酸性の飲料の摂取する頻度の高いと考えられる労働者に対し,疫学的調査を行ったものはほとんどない.本研究では,2019年6月に某県の6事業所のワイナリーを対象とし,ワイン製造業における,労働者の歯の酸蝕症に関わる要因を調査した.各事業所の労働者に対し,歯の酸蝕症についての口腔内診査および自記式質問紙調査を行った.解析対象者は,95名(男性71名,女性24名)であった.歯の酸蝕症は,31名(32.6%)に認めた.歯の酸蝕症の有無を従属変数とし,変数増加法による多重ロジスティック回帰分析を行った結果,業務上,試食・試飲する頻度で統計学的有意差を認め,月1回以下に対し,週4回以上では,歯の酸蝕症が多い結果であった(オッズ比:5.64倍,95%信頼区間:1.77-17.91).したがって,我が国においても,業務として酸性食品を摂取する頻度が高い労働者に対しては,歯の酸蝕症に対し,定期的な歯科受診を勧めるなどの対応を行うことが必要である可能性が示唆された.

研究紹介
  • 淀川 亮, 三柴 丈典
    原稿種別: 研究紹介
    2020 年 13 巻 2 号 p. 173-180
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/09/30
    [早期公開] 公開日: 2020/08/06
    ジャーナル フリー

    現行の日本の労働安全衛生法(以下,安衛法という)制度は,基軸となる法典の制定から約50年近くを経て,危害防止基準の充実,安全衛生管理体制の整備など,多くの長所を持っているが,規定の複雑化・膨大化や形式的コンプライアンス,中小企業における遵法の困難など,多くの課題を抱えている.何より,職域の全リスクに有効に対応できる法制度となっていない.そこで,安衛法の歴史,実績共に日本を凌駕する英国,英国と共に統一法典を持つ米国,英国に大きな影響を与えたEUの関連法制度を対象に,課題解決に必要な限りで調査した.調査の結果,英国では,労働安全衛生にかかるリスク管理の推進のため,官民両者で安全衛生人材に高いステータスや強い権限を付与する,達するべき目的を明確化し,その達成を義務づけたうえで達成方法を分権化する,安全衛生管理の実権を持つ役員,管理者層に重い責任を課す,米国でも,基本的には専門的な行政機関を設けて,危害防止基準の策定と強権的な執行を図ってきていたが,近年,自主的な安全衛生体制の整備に取り組む事業者を認証したり,臨検監督を免除する,民間の安全衛生人材を行政が臨時に任用して他の事業者の指導に当たらせる等の柔軟な取り組みが行われていることが判明した.また,EU・ECの安全衛生枠組み指令に関する調査からは,リスク管理のエッセンスが明らかにされた.EUのOiRA(Online interactive Risk Assessment)に関する調査からは,バックランナー対策に有効性を発揮する可能性のあるWEB上のシステムの要素等が明らかにされた.また,労働安全衛生にかかるリスク管理に関する国を跨ぐ原則も確認された.そこで,日本の背景に応じたリスク管理推進のための戦略の1つとして,高年齢労働者を焦点とした労働安全衛生行政,行政や行政官の専門性の強化を前提とした裁量の拡大,民間での安全衛生人材の地位の向上が求められること等,19項目の提言を行った.

技術解説
  • 冨田 一
    原稿種別: 技術解説
    2020 年 13 巻 2 号 p. 181-186
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/09/30
    [早期公開] 公開日: 2020/08/12
    ジャーナル フリー

    落雷による労働災害は発生件数こそ少ないものの,死亡に至る可能性が高い.本稿では,労働災害としてはあまり分析がなされていない雷による労働災害について,平成3~29年までの27年間における14件の雷による死亡災害を発生した月,時間帯,業種,規模などに分類して分析した結果を報告する.また雷雲の発生する基本的な機構,雷放電の雷撃電流などの特性,雷の検知技術,雷の予測技術,雷による災害を防止するための基本的な手法について紹介する.

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