産業安全分野では,労働災害の再発防止策を確立するために様々な分析手法が提案されている.しかし,複雑な手法は現場での活用時に負担となるだけでなく,手法の複雑さが制約条件となって原因究明を阻害する.そこで,出来る限り単純な方法によって労働災害の原因を究明する手法の検討を試みた.この代表例に,4M(Man, Machine, Method, Management)による基本原因の分析手法がある.しかし,著者らが首都圏で発生した死亡労働災害129件を分析した結果によれば,労働災害の基本原因には4M以外にも情報伝達や変更管理の不具合に起因する災害が各々6割以上を占めていた.そこで,従来の4Mと情報的要因に対する“なぜなぜ分析”に,変更管理の不具合に対する時系列(またはライフサイクル)分析を加えて,基本原因を抽出する手法を検討した.しかし,基本原因の抽出が常に本質的な災害防止対策の解明に結びつくとは限らない.そこで,基本原因の背後に潜在する根本原因を(1)倫理,(2)技術,(3)組織運営,(4)社会制度の視点から解明する根本原因究明手法の検討を試みた.これをBFIマトリックス解析による根本原因究明手法と呼ぶ.このときの技術的対策には,2006年に厚生労働省が公表した“機械の包括的安全基準”や,著者らが日本鉄鋼連盟とともに研究を進めている“ITを活用した安全管理手法”などが活用できる.また,変更管理に関連する技術的対策としては,機能安全分野(IEC61508など),品質マネジメント分野(ISO9000ファミリー)及びプロジェクトマネジメント分野(PMBOKなど)で開発中の方法を労働安全分野の変更管理まで拡張した支援システム(コンフィグレーション・マネジメントシステム)の構築が有効と推察される.
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