作業療法
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38 巻, 6 号
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巻頭言
研究論文
  • 田中 啓規, 立山 清美, 原田 瞬, 日垣 一男
    2019 年 38 巻 6 号 p. 645-653
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究は,自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder;以下,ASD)のある児の箸操作の特徴を明らかにすることを目的とした.ASDのある児18名と定型発達児16名を対象とし,「箸の持ち方」,「箸の操作パターン」,「箸操作時の指の動き」を比較検討した.その結果,ASDのある児の箸操作の特徴として,「箸を開く時の一定しない母指の動き」,「橈側と尺側の分離運動の未熟さ」,「動きが一定しない不安定な指の動きによる箸操作」があることが明らかになった.また,これらの要因としては,手指の分離運動の未熟さ,視覚優位な情報の捉え方,行為機能の障害が影響していることが考えられた.
  • ─自立群と監視群の比較─
    鳥居 誠志, 石岡 俊之, 小池 祐士, 濱口 豊太, 中村 裕美
    2019 年 38 巻 6 号 p. 654-662
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/15
    ジャーナル フリー
    我々は,脳卒中患者の排泄動作のうち,ズボンを上げる工程の練習方法を考案したいと考えた.脳卒中片麻痺者を対象に,その工程の自立群15名と,監視群7名のズボンを上げる工程中の足圧中心動揺を測定した.足圧中心動揺の速度や範囲を,自立群と監視群で比較したところ,監視群の左右方向への動揺範囲が,自立群の動揺範囲より有意に大きかった.監視群では,左右方向に大きい動揺が生じる結果,転倒の可能性があると推測された.それにより,生活場面の排泄動作に監視を要していると考えられた.この結果をもとに,本研究が提案する練習方法には,左右方向への重心動揺を制御する支援があげられた.
  • 助川 文子, 伊藤 祐子
    2019 年 38 巻 6 号 p. 663-673
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究は,日本の小学校通常学級に在籍し特別支援教育の対象となる発達障害児に対し,平成29(2017)年度に行われた学校適応支援のための作業療法評価の実態を調査することを目的とした.日本作業療法士協会に,職域を「発達障害」の「臨床」と登録した1,594名の作業療法士を対象に質問紙による全数調査を行った.有効回答は324件で有効回答率は20.3%であった.結果より,日本の発達障害児に対する作業療法は,医療法関連施設,および児童福祉法関連施設の双方で実施され,多くの評価は,感覚統合理論を基盤とする評価とDTVP視知覚発達検査を組み合わせて実施していた.また最も利用されている評価は臨床観察で,標準化した評価の活用は少なかった.
  • 高木 雅之, 岡崎 ななみ, 宮脇 佳奈, 棟田 千比呂, ボンジェ ペイター
    2019 年 38 巻 6 号 p. 674-682
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/15
    ジャーナル フリー
    地域在住高齢者の日々の満足度に影響を与える作業経験を探索した.地域在住高齢者20名を対象に,日記と半構造化面接を用いてデータを収集し,テーマ分析を行った.その結果,一日の満足度に影響を与える作業経験として,つながり─隔たり,承認─否定,貢献─迷惑,努力─怠惰,楽しさ─退屈,進展─後退,上出来─不出来,獲得─喪失,回復─減退という9つのテーマが明らかとなった.1つの作業経験の中には,ポジティブな経験とネガティブな経験が混在することがあり,作業経験の複雑性が示された.本結果は,高齢者が日々の作業経験を理解し,生活の中でポジティブな作業経験を増やしていく手がかりを与えてくれる.
  • ─患者特性,身体機能,理解度の観点から─
    佐々木 洋子, 高橋 香代子, 佐々木 祥太郎, 宮内 貴之, 榊原 陽太郎
    2019 年 38 巻 6 号 p. 683-690
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,急性期脳卒中片麻痺患者の日常生活における麻痺側上肢の使用頻度に影響を及ぼす要因について,基本特性や身体機能,麻痺側上肢の使用方法に対する理解度の観点から,明らかにすることである.対象は発症から1週間以内の急性期脳卒中患者56名とした.多変量ロジスティック回帰分析の結果,麻痺側上肢の日常生活における使用頻度には,上肢麻痺の程度と理解度が影響することが明らかになった.この結果から,急性期の作業療法では,麻痺側上肢の機能改善を図ることに加え,麻痺側上肢の使用方法に対する理解度を評価し,日常生活での使用を促す介入が必要であると考えられた.
実践報告
  • 根本 恵里, 五百川 和明, 芳賀 裕子, 二瓶 健司, 小林 亨
    2019 年 38 巻 6 号 p. 691-697
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/15
    ジャーナル フリー
    椎骨脳底動脈閉塞に伴う両側の視床,視床下部,中脳,小脳,および右側の頭頂葉,後頭葉における多発性脳梗塞の症例に対する作業療法を経験した.症例は発症後,重度の意識障害を呈した.四肢および体幹には運動失調を認め,さらに安静座位時での強い筋収縮を伴う急激で粗大な体動を認めた.発症後10日目には症例の覚醒度は急激に改善し,徐々に自発的な動作が見られるようになった.しかし,発症後21日目以降は発動性低下が顕著となった.これらの症例の多彩な症状の変化に,作業療法の介入では苦慮した.その中で,発動性低下への介入で実施した病前の趣味に関する活動は,唯一,他者が促すことなく症例自らが取り組めた活動であった.
  • ─理容師としての復職を目指した症例─
    佐久間 由香, 五百川 和明, 藤田 貴昭, 山本 優一, 甲斐 龍幸
    2019 年 38 巻 6 号 p. 698-705
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/15
    ジャーナル フリー
    化学療法誘発性末梢神経障害による異常感覚を呈した悪性リンパ腫の症例に対し,理容師としての復職を目標に作業療法を行った.症例は,両側手指末梢に痺れや痛みを主体とした異常感覚を有し,巧緻動作が困難であった.作業療法では,巧緻動作練習,書字や箸操作の課題志向的練習,さらに理容作業練習を段階的に行った.結果として,症例の異常感覚の変化はわずかであったが,巧緻動作は可能となり,理容師として復職できた.このことから,異常感覚を有した手の使用を促進するためには,脱過敏療法を参考とした段階的な物品操作課題や,課題実施において手の健常感覚部位の触覚を活用すること,また症例の役割に立脚した目標と作業練習が重要と考えられた.
  • 野本 潤矢, 石橋 裕, 小林 法一, 小林 隆司
    2019 年 38 巻 6 号 p. 706-713
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/15
    ジャーナル フリー
    訪問型サービスC(以下,訪問C)は,介護予防・日常生活支援総合事業の介護予防・生活支援サービス事業の1つであり,ADL/IADL課題の改善を主目標に,3ヵ月程度の短期間で支援を終結させる点が特徴である.要支援2認定のA氏は,作業工程の多さや洗濯かごの運搬距離の長さから,洗濯物を干す動作に努力の増大と効率性の低下を認めた.A氏が少ない疲労で効率よく干すことを目的に,洗濯物干しハンガーの位置変更など,作業遂行に焦点を当てて環境設定や動作方法を中心に助言した.その結果,3回の助言でA氏の作業遂行能力や健康関連QOLが向上した.作業療法士が訪問Cを担うことにより,短期間でADL/IADLの改善につなげることができると示唆された.
  • ─本人と母の言動からの分析─
    上野 玲子, 柴田 克之
    2019 年 38 巻 6 号 p. 714-720
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/15
    ジャーナル フリー
    脳出血発症後,約50年経過した事例は母と2人だけの閉鎖的な日常生活を送っており,過去に様々な福祉サービスを拒否した後,訪問作業療法を導入するまでに難渋した.約8ヵ月間,作業療法士は2人に対して傾聴と共感をしながら,提案と体験を繰り返すことにより,2人の価値観や思いを徐々に明確にすることができた.また,事例ができる活動を見出したことをきっかけに,事例が自らやりたい活動を表出するようになり,活動範囲と生活空間が広がり,母はその様子を見守るようになった.なぜ2人の行動が変化したのか,作業療法経過を振り返り,事例のできる活動と2人の言動から後方視的に分析し,訪問作業療法の効果について報告する.
  • 西島 和秀, 奥田 憲一
    2019 年 38 巻 6 号 p. 721-726
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,重症心身障害者に対し姿勢ごとの快適性を快反応と瞬目率の変化から評価できるか否かを検討することであった.方法は,シングルケース実験法におけるABAB法で行った.話しかけと見守りを交互に行い,ビデオ撮影で記録した.ビデオ記録から笑顔の段階で評定した快反応が見られた時間の平均と,外界刺激に対する応答的反応としての瞬目率を算出し,ベッド上背臥位と座位保持装置上座位を比較した.結果,座位保持装置上座位は,ベッド上背臥位より快反応時間が短く瞬目率が低いことから,快適性が低いと推測された.以上のことから,反応が乏しい重症心身障害者であっても,行動指標を用いて姿勢ごとの快適性を評価できる可能性が示された.
  • ─重複した高次脳機能障害を呈した重度失語症の事例─
    河野 正志, 寺田 萌, 大松 聡子, 富永 孝紀, 村田 高穂
    2019 年 38 巻 6 号 p. 727-735
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/15
    ジャーナル フリー
    重度失語症を呈した左半球損傷患者に対し,視覚探索訓練を実施した結果,コミュニケーション能力の向上が観察され,その評価として,画像視認中の視線分析を用いて検討したので報告する.発症3ヵ月後,コミュニケーション場面では,状況理解に必要な部分へ視線が向かず,非言語情報の理解の低下を認めた.視線分析では,視認中の視線の動きは乏しく,注視点は1ヵ所に停留する傾向を示した.視覚探索訓練を実施した結果,視線分析やコミュニケーション場面において視線の動きが増え,非言語情報の理解・表出の向上が観察された.視覚探索訓練により,非言語情報の入力過程に関わる視覚性注意の改善が寄与した可能性が考えられた.
  • 野口 佑太, 伊藤 卓也, 横田 美空
    2019 年 38 巻 6 号 p. 736-740
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/15
    ジャーナル フリー
    対象者の住環境把握に向けて,Virtual Reality(以下,VR)を活用した.その結果,病院スタッフが自宅へ訪問することなく,対象者の自宅の環境や設置された手すりなどを確認することができた.VR動画は従来の写真での確認とは違い,実際の場に行かなくても擬似体験が可能な点が利点である.また,VR動画の確認にタブレット端末を使用した場合,映像酔いも認められず,安全に映像を確認することが可能であった.しかし,VR動画のみでは映像内の段差や物品の高さなどが正確にはわからないことが,課題として挙げられた.VRは,自宅退院に限らず,施設へ入所する場合や外出先の状況の把握など,作業療法の展開に活用できる可能性が示された.
  • 川口 悠子, 齋藤 佑樹
    2019 年 38 巻 6 号 p. 741-748
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/15
    ジャーナル フリー
    高次脳機能障害を呈した対象者に対し,Paper版ADOCを障害特性に考慮した工夫を加えて実施することで,対象者にとって意味のある作業の共有が可能となった.また,その結果をもとに多職種連携を行うことで,目標指向型の役割分担が可能となり,チーム全体で意味のある作業への介入が行えるようになった.対象者の症状や回復過程に合わせ,柔軟にADOCを使用することで,意味のある作業を共有できる対象者の幅が広がる可能性,また,ADOCを使用した情報共有が,多職種連携の促進につながる可能性が示唆された.
第38 巻総目次
第38 巻著者別索引(五十音順)
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