作業療法
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38 巻, 4 号
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巻頭言
学術部報告
研究論文
  • ─ICF-CYを用いた全校調査による各職種の特徴─
    倉澤 茂樹, 立山 清美, 大歳 太郎, 塩津 裕康, 横井 賀津志
    2019 年 38 巻 4 号 p. 387-395
    発行日: 2019/08/15
    公開日: 2019/08/15
    ジャーナル フリー
    特別支援学校における医療の専門家への相談内容を把握し,作業療法士の特性を明らかにすることを目的とした.ICF-CYを用いた全校調査の結果,理学療法士は心身機能と身体構造領域の相談が多く,歩行などの基本動作が中心であった.言語聴覚士は活動と参加領域の相談が多く,コミュニケーションや摂食に関する相談が主であった.心理士は人間関係や思考・知的機能に関する相談が中心であった.一方,作業療法士は活動と参加に関する相談が最も多かったが,他の領域の相談も受けていた.具体的には,起居動作に関する心身機能,感覚認知に関する機能や活動,福祉用具などの環境調整,机上での物の操作などであり,多様な相談を受けていることが確認された.
  • ─家族による障害の捉え方の変化─
    小野瀬 剛広, 鈴木 孝治, 大仲 功一, 鈴木 邦彦, 大和 雄太
    2019 年 38 巻 4 号 p. 396-404
    発行日: 2019/08/15
    公開日: 2019/08/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,高次脳機能障害を有する患者の家族による障害の捉え方の変化を明らかにし,家族支援のあり方を検討することであった.研究方法は,15名の家族への非構造化面接後,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析を行った.その結果,7つのカテゴリーと18の概念が抽出された.家族は,〈病前との比較から生じる不安〉や〈高次脳機能障害への対応の困惑〉を見せながらも,〈自己の感情や思考に向き合う〉ことをはじめる.そして,〈本人の高次脳機能障害への気づきに対する家族の洞察・理解〉が進むことにより,〈退院後の生活への見通しに対する気持ちと行動〉につながり,家族自身で退院後の生活の方略を立てられるようになることがわかった.
  • 田中 寛之, 永田 優馬, 石丸 大貴, 日垣 一男, 西川 隆
    2019 年 38 巻 4 号 p. 405-415
    発行日: 2019/08/15
    公開日: 2019/08/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,筆者らが開発したライフヒストリーカルテ(以下,LC)の導入による病院・施設職員(以下,スタッフ)の患者・利用者に関する理解度への影響を明らかにすることと,LCの利点と活用法を具体的に示すことである.患者・利用者に関する医療・介護者の理解尺度をLC導入前と導入1年後に実施し,さらに,スタッフにLCの利点と有用な活用法を自由記述してもらった.LCの導入による医療・介護者の患者理解度の改善はみられなかったが,「食思不振改善のヒントになった」などの自由記述から,多くの利点が明らかになった.
  • ─引用による歴史的過程をみる文献研究─
    篠原 和也, 鹿田 将隆, 野藤 弘幸
    2019 年 38 巻 4 号 p. 416-429
    発行日: 2019/08/15
    公開日: 2019/08/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,人間作業モデルが日本の作業療法にどのように取り入れられたかという歴史的過程を,文献検討により明らかにすることである.作業行動理論に基づく臨床モデルである人間作業モデルのテキストの各部分が,対象文献で引用された頻度をみた結果,人間作業モデルの知識の利用は,構成要素から評価法,リーズニング,介入方法,治療戦略,そして,プログラム開発や研究へと進展している過程が明らかとなった.しかし,プログラム開発や研究にはまだ,十分に着目されていないこともうかがわれた.今後は日本の作業療法の発展のために,エビデンスをさらに構築する目的で人間作業モデルを用いることも求められる.
  • ─予後予測因子の検討─
    小林 竜, 小林 法一
    2019 年 38 巻 4 号 p. 430-439
    発行日: 2019/08/15
    公開日: 2019/08/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,回復期リハビリテーション病棟退院後の在宅脳卒中者における家事再開の予測因子を明らかにすることである.退院後の家事再開状況は,改訂版Frenchay Activities Index自己評価表を使用し,食事の用意,食事の後片付け,洗濯,掃除や整頓,力仕事,買い物の6項目について調査し,退院時の機能・能力,本人を取り巻く社会的環境などとの関連を調べた.分析対象者は128名であった.ロジスティック回帰分析の結果,10m最大歩行速度や性別,家族形態などの予測因子が複数選択された.回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中者に対して家事再開へ向けた支援を行う際には,これらの因子を考慮した多角的な支援の重要性が示唆された.
  • 佐野 伸之, 齋藤 みのり, 小林 隆司, 南 征吾, 河本 聡志
    2019 年 38 巻 4 号 p. 440-449
    発行日: 2019/08/15
    公開日: 2019/08/15
    ジャーナル フリー
    作業療法士が学童保育クラブへ訪問し,アドバイスを行う取り組み(以下,OTコンサル)による放課後児童支援員(以下,支援員)のスキルアップの構造を明らかにする.支援員6名にOTコンサルの実施前と実施後に半構成的インタビューを行った.データ分析は,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを採用した.実施前インタビューは,支援員の普段の関わり方にまとめられた.実施後インタビューは,OTコンサルで得た新たな知識・技術と知識の活用などと共に,職員間の連携や子ども全体への支援向上となる構造にまとめられた.OTコンサルでは,支援員個々とクラブ全体への効果の相互作用がスキルアップの構造につながることが明らかとなった.
  • ─若手作業療法士を対象にした検討─
    鈴木 渉, 籔脇 健司, 中本 久之
    2019 年 38 巻 4 号 p. 450-459
    発行日: 2019/08/15
    公開日: 2019/08/15
    ジャーナル フリー
    身体障害領域および高齢者領域に勤務する臨床経験が1〜3年目までの作業療法士を対象とし,作業療法士の職業的アイデンティティ自己評価尺度(以下,PI尺度)の項目反応理論を用いた項目分析を行い,構造的妥当性を検討した.PI尺度は,中本らが回復期病棟に勤務する作業療法士用に改変したものに,加筆・修正を加えて使用した.結果として,PI尺度は,作業療法士に独自性があると思う程度が平均的な回答者に対する測定精度が高く,4因子29項目の2次因子モデルで適合していたことから,身体障害領域および高齢者領域の作業療法士を対象として,広く使用できる尺度であることが明らかとなった.
  • ─非ランダム化比較対照試験─
    高坂 駿, 今井 忠則
    2019 年 38 巻 4 号 p. 460-468
    発行日: 2019/08/15
    公開日: 2019/08/15
    ジャーナル フリー
    目的は,統合失調症者に対する生活行為向上マネジメント(MTDLP)による個別的作業療法の効果を検証することである.非ランダム化比較対照試験を用い,介入群は個別的・集団的プログラム,対照群は集団的プログラムを実施した.前後比較では,介入群の作業遂行の実行度・満足度,自記式作業遂行指標(SOPI)の合計得点と「生産的活動」,リカバリー意識(RAS),精神障害者社会生活評価尺度(LASMI)の「労働または課題の遂行」,「自己認識」,対照群のSOPI「生産的活動」の成績が改善した.2群間比較では,LASMIの「日常生活」,「労働または課題の遂行」,「自己認識」で介入群の成績が高かった.本研究は,MTDLPが精神科作業療法に有用であることを示した.
  • ─デイケアを利用する統合失調症者を対象者として─
    藤田 さより, 新宮 尚人
    2019 年 38 巻 4 号 p. 469-480
    発行日: 2019/08/15
    公開日: 2019/08/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,「作業体験」が統合失調症者の就労意識にどのような影響を与えるのか明らかにすることである.方法は,統合失調症者12名に就労に対する思いと,作業体験について尋ねる半構成的インタビューを実施して,質的記述的分析を行った.結果として,参加者は就労に対し不安を持ち,支援を必要としていた.作業体験により,【作業体験によるポジティブな感情】,【作業体験によるネガティブな感情】,【作業体験からの気づき】のカテゴリが抽出された.作業体験は,自己効力感や作業能力を向上させ,困難を乗り越える力を与え,また自己の能力を適切な客観的評価に近づけることで職種とのミスマッチを防ぐなど,就労に有用な影響を与える可能性が示唆された.
実践報告
  • ─作業療法士による行動コンサルテーション─
    倉澤 茂樹, 泉谷 憲正, 武淵 さやか, 塩津 裕康, 横井 賀津志
    2019 年 38 巻 4 号 p. 481-489
    発行日: 2019/08/15
    公開日: 2019/08/15
    ジャーナル フリー
    応用行動分析学(以下,ABA)に基づき,2歳4ヵ月の自閉症スペクトラム障害(以下,ASD)児に早期の集中的な介入を行った.コンサルタントである作業療法士(以下,OT)は,母親だけでなく,障害福祉施設のOTおよび言語聴覚士とも連携し,不連続試行法および機軸的行動発達支援法を活用した介入を,1日30分以上,週10時間未満の範囲で実施した.2ヵ月後,数十種類のコミュニケーションスキルが獲得された.本報告は,ASD児への早期の集中的なABA介入の有効性を示唆する.加えて,行動コンサルテーションは,家庭内だけでなく地域の療育機関の連携を可能とし,集中的なABA介入の実現に寄与する可能性がある.
  • ─医療観察法病棟での実践─
    南 庄一郎, 高岡 崇, 村山 大佑
    2019 年 38 巻 4 号 p. 490-496
    発行日: 2019/08/15
    公開日: 2019/08/15
    ジャーナル フリー
    悪質ないたずら行為の末に放火事件を起こし,医療観察法病棟に入院処遇となったアスペルガー症候群の事例に関わる機会を得た.事例に対する作業療法では,悪質ないたずら行為の代替となりうる作業を提案するとともに,トークンエコノミーシステムの導入や,悪質ないたずら行為に対する衝動性が高まった際に取るべき対処行動を明確化した.この結果,事例の悪質ないたずら行為を低減させることができ,暫定的な地域移行に繋げることができた.本介入から,問題行動を繰り返す成人のアスペルガー症候群の事例に対する,問題行動の抑止(低減)に向けた作業療法の有用性が示唆された.
  • ─事例報告─
    小渕 浩平, 竹林 崇, 松井 克明, 村岡 尚, 中村 裕一
    2019 年 38 巻 4 号 p. 497-504
    発行日: 2019/08/15
    公開日: 2019/08/15
    ジャーナル フリー
    学習性不使用による慢性期脳卒中後の上肢運動障害に対し,Constraint-induced movement therapy(以下,CI療法)の主要コンセプトであるTransfer packageを,外来作業療法にて実施した.低頻度(週1回20分)であったが,4ヵ月後には臨床上重要な最小変化を大きく超える,麻痺手の使用行動と上肢機能の改善を認めた.さらに,事例が目標とした活動の多くを獲得することができた.CI療法は,訓練時間や医療保険適応の問題が指摘されているが,事例の状態によっては,必要なコンセプトを中心に,低頻度の介入でも効果が得られる可能性が示唆された.
  • 田邉 浩文, 生田 宗博, 三川 年正, 近藤 昭彦
    2019 年 38 巻 4 号 p. 505-510
    発行日: 2019/08/15
    公開日: 2019/08/15
    ジャーナル フリー
    音楽家にみられるフォーカルジストニアは,演奏中に現れる不随意運動であり,音楽家としてのキャリアを終了させることもある.フォーカルジストニアの病態生理に関する先行研究から,フォーカルジストニアの症状出現は,筋緊張異常や軟部組織の短縮に起因する異常な感覚入力により,大脳皮質の抑制系の活動減少を来すことが主因と仮説を立てた.本報告では,1名のフォーカルジストニア患者に対して6ヵ月間,外来で定期的に異常な軟部組織に対する治療介入と,セルフメンテナンスの実践に関するモニタリングを面接で行った結果,フォーカルジストニアの症状が改善するとともに筋緊張異常が減弱し,演奏に大きな支障を来さないまでに回復する結果が得られた.
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