作業療法
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39 巻, 5 号
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巻頭言
総説
  • 坂口 雄哉, 山﨑 せつ子
    2020 年 39 巻 5 号 p. 525-536
    発行日: 2020/10/15
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    要旨:脳卒中上肢麻痺に対し,目的動作の動画観察後に動作を練習する治療法(運動観察療法;以下,AOT)がある.その有効性は示されつつあるが臨床適用に必要な情報は十分ではない.本研究では,AOTの作業療法での適用を検討するため先行研究を整理した.結果,12論文が抽出され,AOTの有効性・臨床的有意性は,回復期と維持期,軽度麻痺と中等度麻痺に示された.課題志向型訓練を段階づけて毎日行う実施方法はほぼ共通であったが,その他は多様であった.AOTは,患者の負担も少なく特別な機器や手技を必要とせず,治療前に自主訓練として動画観察させると治療時間が有効活用できる.AOTは作業療法の有用な治療法となりうるが,実施方法は検証の必要がある.
原著論文
  • 木村 佳奈, 髙見 美貴, 川平 和美
    2020 年 39 巻 5 号 p. 537-547
    発行日: 2020/10/15
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    要旨:片麻痺上肢のロボット訓練が,上肢機能や日常生活での使用状況に与える影響についての検証は少ない.今回,回復期片麻痺患者15名(発症から訓練開始までの期間:76±22日,BRS:上肢Ⅲ-Ⅴ,手指Ⅲ-Ⅵ)に,促通機能付き上肢リーチングロボットの上肢リハビリ装置CoCoroe AR2(以下,AR2)でのAR2リーチング訓練(2週間)とサンディングブロック・リーチング訓練(2週間)をA 1-B-A 2デザインで行い,各期のリーチング回数やFMAとMALの変化を比較した.その結果,MALの改善はA 2期で有意で,利き手例ではAR2リーチング訓練とMALの改善と関連があったことから,AR2リーチング訓練は日常生活での麻痺肢の使用拡大につながる可能性がある.
  • ─前後比較試験を通じた介入効果の予備的検討─
    清家 庸佑, 野口 卓也
    2020 年 39 巻 5 号 p. 548-556
    発行日: 2020/10/15
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    要旨:本研究の目的は,ポジティブ作業に根ざした実践(以下,POBP)が高齢者サロン利用者のWell-Being(以下,幸福)に与える効果を予備的に検討することであった.方法は,高齢者サロンの利用者21名を対象に,介入期間は5週間,介入デザインは前後比較試験でPOBPの効果を検討した.効果指標は,改訂版PGCモラールスケール,ポジティブ作業評価などを使用した.解析は,介入効果に影響を与える変量効果を考慮した結果が推定できるよう一般化線形混合モデルで検討した.その結果,POBPはPGCモラールスケール(合計得点)で介入効果を認めた.POBPは,高齢者サロン利用者の幸福の促進に貢献できる可能性を示唆した.
  • 助川 文子, 伊藤 祐子
    2020 年 39 巻 5 号 p. 557-567
    発行日: 2020/10/15
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    要旨:本研究は,日本の小学校通常学級に在籍し特別支援教育の対象となる発達障害児に対し,平成29(2017)年度に行われた学校適応支援のための作業療法で用いられた手段の実態を調査することを目的とした.日本作業療法士協会に職域を「発達障害」の「臨床」と登録した1,594名の作業療法士を対象に,質問紙による全数調査を行い,回答を計量テキスト分析した.結果,日本で発達障害児に携わる作業療法士は1人職場が多く,幼児,学齢児ともに,「感覚・運動遊び」,ついで「物品・道具・遊具の操作」,「書字」,そしてセルフケアなどの手段が行われており,特に学齢児では「相談・指導・調整」の手段も重視されていた.学齢児に対する作業療法の検討が求められる.
  • ─自主練習プログラムの有効性─
    櫻井 利康, 山崎 宏, 小林 勇矢, 奥原 健史, 三村 祐太
    2020 年 39 巻 5 号 p. 568-578
    発行日: 2020/10/15
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    要旨:本研究では,橈骨遠位端骨折後に掌側プレート固定術を行った47例に先行研究を参考に術後6週間の自主練習プログラムと作業療法を組み合わせて実施し,自主練習量と治療成績の関連,自主練習量に関連する患者因子を明らかにした.治療成績は術後6週・12週にPRWE(Patient-Rated Wrist Evaluation),手関節可動域,握力を評価した.結果,自主練習量と治療成績の関連は70歳以上で術後6週の回外可動域と関連していたが,その他の治療成績との関連は明らかではなかった.また,自主練習量に関連する患者因子は労災であった.本研究の結果から自主練習プログラムは作業療法による指導を組み合わせることで,良好な治療成績が得られる有効な手段と考えられた.
  • ~ケースシリーズ研究~
    庵本 直矢, 竹林 崇, 日比野 新
    2020 年 39 巻 5 号 p. 579-589
    発行日: 2020/10/15
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    要旨:ロボット療法は,脳卒中後上肢麻痺の改善に有効だが,麻痺手の使用行動の改善が困難である.今回,亜急性期の脳卒中後中等度~重度上肢麻痺患者に対し,ReoGo-Jを用いた自主練習(Reo練習)と麻痺手の使用行動の改善に有効であるCI療法に準じたアプローチ(以下,修正CI療法)を6週間実施し,麻痺手の使用行動の改善が可能かを先行研究の結果と比較することで検討した.結果,先行研究よりも明らかな上肢機能の改善と実生活における麻痺手の使用行動の改善を認めた.これより,ロボット療法によって獲得された機能を実生活に活かし,さらなる上肢機能の改善といった相乗効果を得るには,修正CI療法の導入が有効であることが示唆された.
実践報告
  • ~訪問作業療法によるクライエントの目標達成を促す支援を通して~
    佐野 裕和, 佐野 伸之
    2020 年 39 巻 5 号 p. 590-596
    発行日: 2020/10/15
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    要旨:本報告では訪問作業療法での支援を通して,クライエントの目標をやり遂げようとする意欲を測定可能な「リハビリテーションに関する達成動機尺度(以下,SAMR)」を用いた評価と介入を実施し,介護保険領域の作業療法におけるSAMRの臨床有用性を検討した.クライエントのSAMR初期評価は“やや低い”状態であり,面接によって大切な活動を実現できるための目標を設定した.さらに,目標への段階的な課題設定と歩数や意識づけの可視化により,クライエントの活動量や達成動機の向上(“やや高い”状態)を認め,訪問作業療法終了へとつながった.SAMRを用いた評価,介入はクライエントの意欲の特性に応じた支援を提供できると期待される.
  • ─コラージュを用いた回想法の実践─
    岩澤 夕喜, 笹島 京美
    2020 年 39 巻 5 号 p. 597-604
    発行日: 2020/10/15
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    要旨:回復期リハビリテーション病棟に入院中のうつ症状や認知症状がある患者2名を対象に,心理的アプローチとしてコラージュを用いた回想法を実施し,KJ法を用いて心理的アプローチの作用と心理変化を構造化して分析した.「患者役割」に徹していた患者は,回想によって過去を思い返し,コラージュによって,その思いを具現化したことで,時間の経過の中に自己の一貫性を得た.これは「目標の出現」,「行動への意欲」,「未来への想い」へと心理的変化を生み出した.発動性の低下した患者にこれらの心理的アプローチを行うことは,自身によって主体的に活動する心理変化のきっかけとなり,自宅退院に向けた行動変容に発展した.
  • 倉澤 茂樹, 立山 清美, 丹葉 寛之, 中岡 和代, 大歳 太郎
    2020 年 39 巻 5 号 p. 605-615
    発行日: 2020/10/15
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    要旨:通常の学級に在籍する不器用さを呈する学習障害児に対して,作業療法士(以下,OT)が約7ヵ月間にわたり7回学校を訪問し,保護者および教職員にコンサルテーションを実施した.保護者および教員の主訴に対し,OTは特性要因図を用いて本児の状況を説明し,OTが提案する支援方法について理解を得た.結果,対象児の特性を生かした教授方法や書字しやすい教材を工夫したことによって,文字の読み書きが習得され,教科学習に対する動機の向上も認められた.家庭での問題行動は,ペアレント・トレーニングを実施したことで減少した.
  • ~摂食嚥下リハビリテーションを中心に~
    青木 佑介, 大達 清美, 川田 憲一, 太田 喜久夫
    2020 年 39 巻 5 号 p. 616-622
    発行日: 2020/10/15
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    要旨:片側性の小脳・延髄外側梗塞で重度球麻痺,失調症,中枢性低換気を呈した症例に対して,包括的リハビリテーション(以下,包括リハ)を実施した.主治医や呼吸サポートチームと連携し,人工呼吸器管理から離脱を図り,日常生活動作(以下,ADL)を改善した.また,栄養サポートチームとも連携して,栄養方法を確立し,嚥下造影検査を用いた積極的な摂食嚥下リハビリテーションを実施した.約1年間の入院後,経口摂取が可能となり,ADL自立の状態で自宅退院となった.人工呼吸器管理など重度の重複障害例に対しては,多職種による包括リハが必要となり,患者の機能予後に好影響を与えると考えられた.
  • ─絵とリハビリテーション会議を用いた作業療法により主婦の役割を維持した一例─
    加茂 永梨佳, 三宅 英司, 浅井 憲義, 金子 弥樹
    2020 年 39 巻 5 号 p. 623-629
    発行日: 2020/10/15
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    要旨:症例は意味性認知症の利用者で主婦の役割を担っていた.買い物の継続を目的に,作業療法士が介入した.開始時,聴理解,自発話,書字・読字などの言語の障害を認め,言語の理解・表出が困難であったが,買い物は文字で書いたメモを使用して遂行可能であった.そこで介入は,絵を描く作業活動と絵を用いて,買い物に必要な単語の理解や表出を補う練習を行った.また,リハビリテーション(以下,リハ)会議を通して,家族からの情報収集と指導などを行った.その結果,1年後に言語症状の進行は認めたが,絵と文字で書かれたメモを使用して買い物は可能であった.意味性認知症者に対して,作業活動を用いた代償手段の獲得とリハ会議は有効であると考える.
  • 南 庄一郎
    2020 年 39 巻 5 号 p. 630-636
    発行日: 2020/10/15
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    要旨:今回,幻覚妄想状態で警察官に暴力を振るい,当院の精神科急性期病棟に措置入院となった統合失調症と自閉スペクトラム症を併せ持つ対象者に,筆者は多職種チームの一員として関わった.本介入において,筆者は個別作業療法を通して対象者と関係性を構築し,暴力の制止を試みた.その上で,集団作業療法と統合失調症の心理教育を実施し,自宅退院に繋げた.本介入から,措置入院者への多職種チーム医療に作業療法士が参加することによって,対象者と同等な立場で関わることで関係性を構築し,対象者の特性や大切にする思いといった情報を多職種チームに提供することで,より対象者らしい生活の再開に向けた支援が可能になると考える.
  • 足立 一, 上原 央, 川口 眞由
    2020 年 39 巻 5 号 p. 637-643
    発行日: 2020/10/15
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    要旨:今回,刑務所という制限が多い特別な環境下で,対人相互的反応の障害のある発達障害受刑者(以下,A氏)に対して,A氏の「思い」に寄り添った作業療法が実施できた.結果,出所までに必要な職業訓練や改善指導を受講し,改善更生の意欲や態度が大きく変わった.このような作業療法が展開できた要因として,作業療法士が医療職として個別で柔軟な関わりができたこと,作業療法でA氏の「思い」が表現しやすい方法を探索し続けたこと,作業療法士が医療職でありながら職業訓練や改善指導の担当者と連携しやすい部門に所属し,記録の工夫でタイムリーな情報共有ができたこと等が考察された.
  • 原 竜生, 平賀 勇貴, 許山 勝弘, 平川 善之
    2020 年 39 巻 5 号 p. 644-650
    発行日: 2020/10/15
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    要旨:本事例は,高位脛骨骨切り術後の疼痛によって破局的思考や不安などの心理的要因を認めた.これらにより生活が阻害されたことで能力障害が強まり自己効力感が低下していた.しかし,対処スキルが乏しいため対処リストを作成した.事例は,作業療法実践に対処リストを併用することで,疼痛や不安状況での対処が可能となり,疼痛や不安が軽減した.リスト併用後は能力障害が改善し,カナダ作業遂行測定(COPM)においても,階段,歩行,料理の遂行度と満足度が向上した.本事例を通して,術後疼痛によって破局的思考や不安などの心理的要因が増悪し,能力障害を認める事例に対して対処リストを用いることは,目標達成の促進に繋がる可能性が示された.
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