【はじめに】作業療法(OT)研究での独創性が「研究疑問のタネ」とするなら,次は研究計画が重要と考えられる.そこで今回は,研究計画ではどんな研究がいま必要か,いわゆるPriorityに注目してみたい.
本研究の目的は,スコーピングレビューによって子どもと養育者を対象とした作業遂行コーチング(以下,OPC)の有効性に関する既存の知見をマッピングし,介入の有効性に関する現時点でのエビデンスを評価し報告することである.6つのオンラインデータベースから文献を検索し,12の文献が基準に合致した.OPCは遠隔作業療法や,幼稚園や学校での専門職種間連携に応用され,子どもや養育者の作業遂行,ならびに育児・教育関連アウトカムの改善が報告されている.OPCは,作業療法士が地域へアウトリーチするための有望な手段となる可能性がある.
本研究は,負担が大きいとされるスノーダンプ(以下,ダンプ)除雪における作業工程ごとの筋活動の特性を調査することを目的に行った.ダンプ除雪は,突き入れ,押し下げ,引き出し,運搬,持ち上げの5工程に分類され,本研究では,健常成人男性を対象に,ダンプ除雪の作業工程別に上腕二頭筋,上腕三頭筋,腹直筋,脊柱起立筋の筋活動量測定および関節角度変化量を算出し,作業工程ごとに分析を行った.運搬以外の4工程において,他の作業工程と比較して有意に高い筋活動量を認めた.ダンプ除雪は,作業工程毎に動作様式が異なり,有意に作用する筋にも違いを認めることから,作業工程別に負担を軽減させる対策を検討する必要性が示唆された.
境界知能の子どもを持つ保護者が小学校就学先を決定する際の意思決定プロセスを解明するために,複線径路等至性アプローチを用いて保護者4名の経験を分析した.保護者は発達早期から将来に対して不安を抱えており,葛藤を抱えながらも保護者固有の価値観・信念を明確にしながら小学校就学先を意思決定した.保護者と教育委員会との合議により合意形成に至る径路が描写され,プロセスの各時期に生じる保護者の意思決定を促進,阻害する要点も明らかとなった.作業療法士は,保護者の価値観・信念の明確化に貢献できる可能性があり,そのためには発達早期から保護者にとって信頼できる専門職となる必要性が示された.
本研究の目的は,慢性閉塞性肺疾患患者の呼吸困難の発生状況と活動の実施,あるいは制限に至る過程を明らかにすることである.方法は,慢性閉塞性肺疾患患者10名を対象に半構造化面接を実施し,グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて解析した.慢性閉塞性肺疾患患者の呼吸困難は,労作時や複雑な思考を伴う活動等,さまざまな状況で生じていた.その対処過程では【活動の試みと対処】を中心的なカテゴリーとする9つのカテゴリーが生成され,4つのプロセスパターンが抽出された.慢性閉塞性肺疾患患者の活動の実施や継続を支援する上では,各患者の対処過程と活動の実施や継続に繋がる条件を意識して援助することが重要である.
大学生という集団は,COVID-19対策の緊急事態宣言のような制限措置によって,意味のある作業への参加が妨げられ,作業的不公正な状態にあった可能性がある.しかし,この集団における制限措置と作業的公正/不公正の関連は明らかになっていない.この関連を明らかにすることを目的に医療系大学生を対象に第3回緊急事態宣言中と前後半年の非宣言中に作業的公正/不公正,生活の満足度,精神的健康状態を調査し,各調査期間間の比較をすることで行動制限措置が上記の調査内容に与える影響を分析した.その結果,緊急事態宣言中では余暇の満足度が低く,COVID-19パンデミックの前期では精神的健康状態の悪化と作業周縁化に陥っている可能性が示唆された.
【目的】本邦における脳損傷者に対する作業療法士(OT)の就労支援実践をマッピングし,就労支援実践や研究の示唆を得ることを目的とした.【方法】包含及び除外基準に基づき,医学中央雑誌などを用いてスコーピングレビューを実施した.【結果】30編を対象文献とした.支援分野は医療機関をはじめ,介護保険分野など多岐にわたり,他職種・他機関との連携や就労定着支援は十分ではない実態が明らかとなった.OT評価やプログラムは,認知機能や身体機能面だけではなく,職場の環境調整,代償手段活用などが実践されていた.【結論】OTは就労先の意向や環境を踏まえながら就労に向けた評価やプログラムを実践し,その効果検証が重要である.
片側前腕欠損児への筋電義手の装着では,乳児の段階で義手を用いた身体図式を促すために,装飾用義手が導入される.今回,生後4ヵ月の左前腕欠損児へ発達に合わせた装飾用義手を作製して装着し,歩行を獲得した生後14ヵ月まで,発育状況に合わせた欠損肢の使用を促した.また,母親からの聞き取りや動画記録,リモートを活用した支援にて,発達に伴う義手の使用状況を確認した.その結果,歩行獲得までに義手を活用した両手動作での認知・運動発達が促され,自発的に義手を使用する場面が観察された.重量のある筋電義手の装着には,基礎的な身体・認知機能への働きかけとして,乳児からの発達段階に応じた義手の導入は有効であった.
本報告の目的は,重度認知症患者の作業の主体性と生きることへの意欲の回復に関して感覚統合療法理論を用いた風船運動プログラムが有効であったかを検討することである.書道や絵を描く作業への主体性が低下し,生きることに意欲を失った事例に対し,風船運動プログラムを活用して主体性を段階的に導く試みを行った結果,最終的に主体的に書道や絵を描くことに取り組み,生きることへの意欲が回復した.本報告では,この事例を通して得られた成果の理由を考察し,感覚統合療法の基本原理に基づいて試行した風船運動プログラムがどのような要素に効果的であったのを述べる.
本論文は,自閉スペクトラム症とうつ病が併発した40代男性の事例の経過を報告した.治療初期には,長期的で抽象度の高い目標を基に課題を設定したが,十分な行動変容には至らなかった.そこで,評価の修正を行い,クライアント(以下,Cl.)の興味に基づいて短期的で具体的な課題を再設定した結果,行動変容が生じ,不安も軽減した.生活の自立度が上がり,家族関係や対人行動にも改善が認められたことから,治療後期には面接とデイケアを利用し,福祉的就労に至った.以上の経過から,強い不安とともに自閉スペクトラム症がある事例への対応においては,Cl.の興味に基づいて短期的で具体的な課題を設定することが重要であると示唆された.
人の手の主な機能は,物体の把持や操作であり,特に手指対立運動が重要な役割を担う.近年,脳卒中上肢麻痺の治療法として,随意運動介助型電気刺激装置(IVES)の有効性が報告されている.しかし,多くは手指伸筋に対し使用した報告であり,手指対立運動へのIVESを使用した報告は我々が渉猟した限りではなかった.今回,上肢近位部の麻痺は軽度で,手指の屈伸は可能だが手指対立運動が困難であった亜急性期脳卒中患者に対しIVESと課題指向型練習を併用した.結果,上肢機能が改善し,ニーズであった包丁操作が可能となった.手指対立運動へのIVESと課題指向型練習の併用療法は,上肢機能改善の一手段となる可能性が示唆された.
今回,精神科デイケアで勤務する筆者は,事例を通して就労移行支援事業所の支援員と連携を行う機会を得た.介入経過の中で,アセスメント過程を支援員と共有することにより,連携が促進され,事例の主観的・就労関連アウトカムへの良好な影響が生じた.特に,非専門職である支援員との連携において,アセスメント過程の共有は作業療法士が実践する連携の効果的な方法の一つであると考えられた.
生活行為向上マネジメント(以下,MTDLP)を用いて「その人らしい生活」を目標に設定し介入を実施した訪問リハビリテーションが,要介護高齢者の心身機能,生活機能,および生活の質に影響を及ぼすかを検証した.6ヵ月間の介入の結果3ヵ月後,6ヵ月後において身体機能,生活機能,および生活の質に有意な改善を認めた.また,生活機能についてMTDLP群とヒストリカルデータによる対照群とを傾向スコアマッチングにて比較した結果,3ヵ月後,6ヵ月後ともに,MTDLP群は手段的日常生活活動に有意な改善を認めた.MTDLPを用いた訪問リハビリテーションは地域在住の要介護高齢者の「活動」と「参加」を促進させる可能性が示された.
作業療法士は,臨床において自殺念慮や自傷行為のある人に接しているが,自殺や自傷行為について体系的に学ぶ機会が少ない.本研究では,作業療法士30名を対象に,自殺や自傷行為に関する研修会を介入として実施し,介入前後に,知識の評価「自殺対策について12の質問」,態度の評価「医療従事者の自殺予防に対する態度測定尺度」,自己効力感の評価「自殺予防におけるゲートキーパー自己効力感尺度」を測定した.その結果,知識,態度,自己効力感すべてにおいて有意に改善がみられ,効果量は中から大程度であった.自殺予防の講義と演習の組み合わせが効果的であり,知識だけでなく,態度や自己効力感も改善することが示唆された.
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