途上国において、コミュニティが自力で資金調達を行い近隣区レベルで道路や下水といった生活環境インフラの整備をおこなった事例は数多く報告されている。R. D. Putnam 及びF. Fukuyama 等の社会関係資本論に依拠すれば、小地域においては、伝統的な社会関係をベースにして、住民同士の密なコミュニケーションと相互信頼があるため、地域としての協力行動が容易であるためと説明できる。しかし、複数地域にまたがる道路や下水幹線の整備は、地域を越える住民同士の自発的協力が困難なため、政府の関与が必要になる。他方で、政府主導のトップダウン型計画の有効性に対する疑問から、近年国際開発援助資金は、コミュニティの参加を支援条件として課すようになってきている。しかし、D. G. Squires が指摘するように、政府とコミュニティのパートナーシップでは、情報や権力の非対称性があるため、両者が対等の関係を維持することが難しい。対等でない関係からは、相互不信が生じやすい。また、開発援助資金が援助国の事情でストップすると資金的にはもちろんのこと、元来コミュニティの参加に熱心ではない途上国政府はパートナー関係から離脱し、プロジェクトは構造的に不安定になっている。本研究は、パキスタン生活環境インフラ整備事業における3つの代表的な参加型開発アプローチとしてOrangi Town におけるコミュニティ主導の開発事例、Orangi Town を模倣した3地区での開発事例、Faisalabad 地区環境改善プロジェクトをとりあげ、調査・評価レポートをもとに現地調査を行い、各アプローチの有効性の検証を行った。その結果、政府と対等の立場に立つパートナーシップが、政府とコミュニティの信頼の構築に寄与する制度枠組みとして有効であることを明らかにした。
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