都市計画論文集
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49 巻, 3 号
都市計画論文集
選択された号の論文の148件中1~50を表示しています
  • 川口 暢子, 村山 顕人, 清水 裕之, 高取 千佳
    2014 年 49 巻 3 号 p. 207-212
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、名古屋市をケーススタディとして、市街地の計画的な非建蔽地確保・緑量向上へ向けたその立地特性を明らかとすることを目的とした。街区非建蔽率と街区緑被率の関係、街区非建蔽率増減と街区緑被率増減の関係を分析し、その4種の変量を用いて、全市に亘る街区を類型化した上で、特化係数を用いて全類型の中から特徴ある類型を抽出し、分布を示し、立地の特徴について調べた。その結果、街区緑被地の規模が大きい街区では街区非建蔽地の規模も大きい結果になる傾向が確認された。一方で、街区非建蔽地の増加は街区緑被地の増加には必ずしも繋がらないことがわかった。立地の特徴と照らし合わせると、都心からその周辺エリア・丘陵地・都市周縁部の宅地化が進むエリアでそれぞれ、街区非建蔽率・街区緑被率及びそれらの増減の傾向が異なることが明らかにされた。
  • 小林 優介
    2014 年 49 巻 3 号 p. 213-218
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、都市計画や緑地計画のために、斜面林の環境経済価値の評価することを目的とする。このためにヘドニック・アプローチを用いて分析を行う。本研究の対象地域は、東京都の南西部の7区とする。まず、斜面林の外部経済効果を評価するために、ヘドニック・アプローチにより、地価と傾斜別の樹林地との相関について考察する。そして、傾斜の閾値により、地価評価地点から250m以内に含まれる傾斜の閾値未満の樹林地セル数と、地価評価地点から250m以内に含まれる傾斜の閾値以上の樹林地セル数の2つの説明変数により分析を行う。この2つの説明変数について、5%有意水準を満たすかどうかを明らかにする。次に、自由度調整済み決定係数が最大でAICが最小となった閾値により、各区の斜面林、平地林、斜面の非樹林地、平地の非樹林地の分布の分析を行う。その結果、以下のようになった。1)両線形型、半対数型ともに、閾値を14度以下にした場合の斜面林の外部経済効果はプラスとなり、5%有意水準を満たした。2)両線形型、半対数型ともに、2度を閾値とした場合の外部経済効果が地価と最も相関が高かった。
  • 東京都日野市S農園の事例より
    新保 奈穂美, 雨宮 護, 横張 真
    2014 年 49 巻 3 号 p. 219-224
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    都市農地の環境保全機能を発現する方策として,都市住民が主導し,近隣由来の有機性廃棄物を農地に還元し,それを農作物生産のための堆肥として利用するシステムの構築が考えられる.本研究は,その際に課題となる,(1)有機性廃棄物の収集量の実態と調整方法,および,(2)有機性廃棄物の処理における都市住民の関与の実態と調整方法という2点から実在の事例の実態解明を行った.(1)に関しては,有機性廃棄物収集量の実測調査および収集の背景情報をインタビュー等で把握した結果,収集量の調整は科学的知見と経験的な知識をもとに,リーダーの判断で収集量が調整されていたことがわかった.これにより適正な量の有機性廃棄物の収集が可能となったといえる.(2)に関しては,有機性廃棄物の処理に携わった都市住民の作業時間・内容についてアンケート調査を行った結果,都市住民の関与の強さに応じて作業分担が行われていたことがわかった.これにより,広く都市住民を巻き込むことに成功していたといえる.今後,同様の事例研究が蓄積され,ノウハウが普遍化されることが,都市農地における住民主導の有機性廃棄物利用システムの取り組みを普及させるにあたり重要である.
  • 東京都心部を対象として
    高取 千佳, 高橋 桂子, 横張 真, 石川 幹子
    2014 年 49 巻 3 号 p. 225-230
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、地上付近の熱・風環境に影響する要因について、(1)単位内部の要因(微地形・土地被覆・人工排熱)、(2)水平方向からの移流効果、(3)上空との熱交換の三つの異なる空間階層的観点から指標を設定し、統計的に有意な指標を得た。さらに、明治初期から現代における都市化の前後での変化要因を考察した。明治16年には、微地形と土地被覆が風速・気温を規定する要因として最も支配的であったが、平成18年には全域で弱風化・高温化が進む中でも、超高層建築の分布に応じた乱流構造が広範囲に渡って影響し、地上付近の気温にも影響することが明らかとなった。今後はこれらの指標により多層的な要因の評価図を作成し、重ね合わせ、即地的かつ統合的な対策指針図へと展開を図ることが可能となると考えられる。
  • 村上 暁信, 王 彦
    2014 年 49 巻 3 号 p. 231-236
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,3D-CADを用いて市街地を再現し,熱環境シミュレーションツールを用いて緑の熱的快適性の向上効果を分析した。その結果,緑化によるMRTの低減がみられた一方で,街区内や隣接街区に存在する建物の日射遮蔽の影響により元々緑化しなくてもMRTが低い場所が存在することが示された。また,利用不可能な場所で熱的快適性が向上している場合が多く存在していたことから,緑化が必ずしも熱的に快適な利用空間の創出には繋がっていないことが示された。さらに,場所によっては緑化により熱的快適性が悪化していることも示された。さらに,本研究では空間整備を試験的に提案し,シミュレーションを用いて環境改善の効果を評価した結果,現状よりも少ない緑被率であっても,適切な空間改変を行うことで,より高い環境改善を実現できることを示した。
  • 埼玉県飯能市を対象として
    外村 剛久, 宮下 清栄
    2014 年 49 巻 3 号 p. 237-242
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では地域資源の保全に寄与する負担金の検討を行った。埼玉県飯能市を対象としてエコツアー参加者にアンケート調査を行った。CVMによりツアー参加者の支払意思額を推定するとともに、支払意思額に影響を与える要因を分析した。アンケートはエコツアーの参加者に配布し、123部のうち79通の有効回答票が得られた。推定の結果、一世帯あたりの支払意思額は1,492円であり、ツアー参加者全体で計算すると最大で約95万円であった。さらに要因を分析した結果、参加者年齢及びボランティアの参加意思で5%、エコツーリズムの認知度で1%の有意水準で統計的に有意な値が出た。
  • 中国敦煌を事例として
    山口 遥, 増井 正哉
    2014 年 49 巻 3 号 p. 243-248
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    歴史遺産を観光資源とする都市には、現代建築に擬古的な意匠を取り入れ、地域の歴史性を演出している都市があり、中国を始め各地にみられる。敦煌市では、独特の地域性を活かして、他都市との差別化をはかろうとする政策が注目される。本研究は敦煌市の景観政策の内容を把握し、それが具体的な建物更新にあたってどのような意匠に反映されているのかを明らかにし、歴史遺産を観光資源とする都市の景観演出のあり方を考えようとするものである。敦煌市の景観政策の二大方針として、「伝統的建築の風格」と「砂漠気候を体現する地域の風情」が掲げられていた。前者には瓦屋根や組物等の意匠、後者にはラクダや飛天をモチーフとする意匠がみられた。「伝統的建築の風格」の時代設定では、中国各地でみられる"明清風"でも"唐風"でもなく、"漢風"とすることと、砂漠気候である独特の地域性を活かすことで、他都市との差別化をはかろうとしていた。敦煌市市街地の景観が歴史性・地域性を表現した景観となっているか検証することは課題として残るが、敦煌市は、他の観光都市における景観整備の参照にあたいする事例といえよう。
  • 途上国における世界遺産登録を契機とした文化遺産地域の保全手法に関する事例報告
    森 朋子, 黒瀬 武史
    2014 年 49 巻 3 号 p. 249-254
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
  • 辻 裕美子, 中井 検裕, 沼田 麻美子
    2014 年 49 巻 3 号 p. 255-260
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    都市の緑の重要性から公園緑地の創出・保全が望まれているが、新たな用地取得による都市公園等の公共施設整備が難しくなっている。平成16年に都市公園法が改正され、従来の用地取得による整備とは異なる手法として、借地公園制度の活用が期待される。本研究では借地公園の実態把握を行い、公園整備における自治体・土地所有者の収支に着目して今後の借地公園活用の可能性を検討した。その結果、次に示す結果を得ることができた。1)借地公園の整備には、費用と共に借地契約の期間を考慮する必要がある。2)借地公園の実現性を高めるためには、土地所有者が公園用地を提供するためのインセンティブが必要となる場合がある。今回の推計結果に地域の実状を踏まえた条件を当てはめることで、自治体の判断基準となることが考えられる。
  • 大阪府堺市を事例として
    蔡 鴻昌, 武田 重昭, 加我 宏之, 増田 昇
    2014 年 49 巻 3 号 p. 261-266
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、堺市を対象に、GISのネットワーク解析を用いて、都市公園へのアクセシビリティをある地域から異なる規模の都市公園に同時に到達できる選択性の評価を試みた。堺市全体では、2種類の規模の公園にアクセスできる人口割合は4割程度に留まっている。一方で、計画的市街地整備地区を含む地域では、都市公園の選択性が担保されているが、スプロール地域では、都市公園の選択性が約1割程度と低いことが明らかとなった。
  • 小学校区を単位とした都市公園配置の差異の検証
    椎野 亜紀夫, 愛甲 哲也
    2014 年 49 巻 3 号 p. 267-272
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、小学校低学年児童、高学年児童を対象とした調査を通じ、各学年の都市公園利用実態を明らかにするとともに、小学校区を単位とした都市公園配置と公園利用の地域差を比較・検証した上で、年齢差による公園利用のタイプ分けを行い、その特徴を明らかにすることを目的とした。研究の結果、遊ぶ場所としてはいずれの学年も都市公園がもっとも多く、そのうち街区公園または近隣公園が約9割を占めた。また校区単位で見ると、各校区内にある都市公園の面積分布には地域差が見られ、特に面積規模が比較的大きい街区公園が複数存在する校区では利用の適度な分散が見られた一方、面積規模の小さい街区公園のみで構成される校区では、校区内の近隣公園1カ所に利用が集中するなど、校区内における街区公園の面積分布が利用のアンバランスを招来していた。さらに利用件数が多く見られた都市公園を学年別の利用比率で3タイプに分け比較した結果、タイプI低学年利用集中型では自宅から近いことが選択理由として最多で、タイプIII高学年利用集中型では自宅から近いことに加え遊ぶ仲間がいるという社会的条件が公園選択に影響を与えていた。
  • 川崎 泰之
    2014 年 49 巻 3 号 p. 273-278
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は日本において鉄道会社が主体的に行ってきた沿線開発事業の内、郊外の開発拠点として注力してきた遊園地に着目し、大手私鉄が経営していた郊外遊園地のうち閉園したものを対象として、その跡地利用について計画および実際の空間を調査し、都市計画公園・緑地の指定状況との関係性、鉄道や駅、周辺市街地との関係性、遊園地の景観資源との関係性について分析を行った。その結果、閉園前から都市計画公園に指定されていた事例は、高い割合で公園整備または公園的土地利用となっているが、閉園前も閉園後も都市計画公園に指定されていない事例は、公園整備面積が比較的小さく、そのことから都市計画公園・緑地制度が民間事業用地における公共的土地利用の担保性を持っていることがわかった。また鉄道や駅、周辺市街地との一体的整備により拠点性を高めている開発や、駅や鉄道との関係を重視した動線やゾーニングによる開発が多く見られた。景観資源については、自然環境に恵まれた立地特性を活かした事例が多く見られたが、歴史・文化資源については遊園地そのものを想起させる資源が残されている事例が少なく、郊外文化としての遊園地の記憶の継承が課題である。
  • 邑城・里の伝統的空間構造と保存指定後の変容・管理実態に着目して
    朴 延, 山崎 寿一
    2014 年 49 巻 3 号 p. 279-284
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、韓国歴史的集落の景観保全に関する一連の研究の一つであり、全羅南道順天市の楽安邑城を対象とする。文化財に指定された直後と現在の土地利用の変遷を明らかにした上で、歴史的集落の環境整備がどのような場所・手法・手順で、具体的な予算や事業で行われたかの実態を明らかにする。次に、そのような実態を明らかにした上で、どのような現状の利用・管理・運営の仕組みになっているのかについて考察することが目的である。また、楽安邑城の景観保全に関する研究を行う際に、研究視点として伝統的な空間構造を理解した上で分析することを目標とする。
  • 埼玉県のケーススタディ
    上村 将人, 十代田 朗, 津々見 崇
    2014 年 49 巻 3 号 p. 285-290
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    近年ランニングイベント数が増加してきており、ランニングイベントの従来の目的である健康増進の枠を越えた地域向けのイベントとして捉えられるようになってきている。一方で各地域では特産品や名所などの地域資源を多様な方法でPRしたいというニーズがある。従って、こうした地域資源をランニングイベントに付加価値として結び付けていくことが、大会の振興・地域の活性化の両方の意味で重要になってくると考えられえる。そこで本研究では、埼玉県を対象としたインタビュー調査により、地域資源の種類と活用方法について分析し、今後の市民マラソン大会での地域資源の活用に関する示唆を得ることを目的としている。その結果、(1)行政主導の大会と民間主導の大会では活用している地域資源の種類が違うこと、(2)地域資源の種類を増やすだけではなく、1つの地域資源を重点的に用いることでも市民マラソン大会に魅力を付加できること、(3)地域資源は大会開始当初から必ずしも活用されているとはかぎらず、途中から大会に付加された資源もあること、(4)市民マラソン大会の振興と地域の活性化の両方の面が達成しうる可能性があること、の4点が明らかになった。
  • 岩手県沿岸南部3市を対象として
    寺澤 草太, 饗庭 伸
    2014 年 49 巻 3 号 p. 291-296
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    東日本大震災による被災地では、復興に向け住宅再建のみでなく商業空間の再建が大きな課題となっている。被災地では仮設商店街や仮設飲食店街が形成されており、営業者が復興へ早期に動き出すきっかけの場として機能している。本設空間での営業再開は、商業復興のみでなく雇用確保などにもつながるため、その流れの基点となる仮設店舗での営業は、本設営業に向けた母体つくりの準備期間となり、被災者の生活再建に影響を与える重要な機能となりうるだろう。しかし、多様であるとは言われるものの、「住む」という機能においては単純な住宅に比べると、商業空間は内容も、担い手も、必要な資金も、それが成立する立地条件も、顧客との関係等がそもそも多様であり、個々の商店主の意向も、その集合である商店街の意向も多様である。商業空間の再建のためには、その実態を明らかにする必要がある。そこで本研究は、東日本大震災の被災地につくられた仮設商店街と、そこにおける個別の仮設店舗の実態を詳細に明らかにし、仮設商店街が商業復興において果たす役割を考察することを目的とする。
  • 吉田 護, 柿本 竜治
    2014 年 49 巻 3 号 p. 297-302
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,減災活動における住民の自助,共助,公助意識を災害マネジメントフェーズに基づいて定量化し,定量化した住民意識と,地域減災活動への参加や避難への備えなどの減災行動との関係性を分析する.結果として,事前の備えのフェーズにおいて自助意識の高い住民は,注意報・警報発令時,災害発生時においても高い自助意識を形成していることが示される.また共助意識,公助意識についても同様の傾向があることが示される.さらに,減災行動との関連性に関して,公助意識の高い住民は行政による警戒情報の意味を正しく理解しているが,避難経路や避難場所については正確に把握していないことが示される.
  • 東日本大震災を対象として
    山口 裕敏, 土居 千紘, 谷口 守
    2014 年 49 巻 3 号 p. 303-308
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    大規模災害時において,被災地域は他地域からの援助に多く依存してきた.今後,日本では大規模災害の発生が危惧されている.そこで本研究では,他地域に対する自発的援助の存立要因をWebによる個人の意識調査を通じて明らかにした.分析の結果,自発的援助の参加動機の多くは,援助地に対する縁やゆかりに基づくことが確認された.また,実際の被災地の被害と援助者の援助量にはメディアによる情報の影響が見られた.また,純粋な自発的意識に必ずしも基づかない「付き合い型」ともいえる援助ジャンルも考究対象とする価値があることが示された.
  • 東日本大震災を題材に-
    青木 俊明
    2014 年 49 巻 3 号 p. 309-314
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、東日本大震災の被災者を対象に質問紙調査を行い、公正な地域運営がソーシャル・キャピタルを高め、最終的に生活快適性を改善しうるという仮説を検討した。統計分析と考察の結果、以下の知見が得られた。1) 深刻な生活状況では、そうでない状況に比べて、生活快適性が低く、ソーシャル・キャピタルも低くなることが示唆された。 2) 深刻な生活状況にない場合、公正な地域運営はソーシャル・キャピタルの醸成や生活快適性の向上に貢献しないことが示唆された。しかし、深刻な生活状況にある場合には、公正な地域運営がソーシャル・キャピタルを醸成し、それが生活快適性も高めることが示唆された。 3) 公正な地域運営がソーシャル・キャピタルの醸成と生活快適性の向上を促すには、「相互協力を必要とする状況」が必要であることが推察された。公共問題の協議などを上手く活用すれば、公正な地域運営を通じて新しい公共が育成される可能性が示唆された。
  • 中野 卓, 出口 敦
    2014 年 49 巻 3 号 p. 315-320
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    福島第一原子力発電所事故に起因する放射能汚染問題により、東北および関東地方を中心とする広い地域で放射線対策が行われた。国の指針により、自治体の多くで行政主導の放射線対策が行われた一方で、千葉県柏市では行政による施策と併せて、住民組織と行政の協働による放射線対策およびそこから発展した町会単位での放射線対策が進められた。本論では柏市の特徴的な取り組みを対象に、ヒアリング調査やアンケート調査から、放射線対策における住民組織と行政など多主体協働の実施過程およびその効果を明らかにしている。調査の結果、行政、研究者、市民活動センター、住民組織などの公民にまたがる多主体が比較的早い段階から協働体制にあったために協働での放射線対策が実現できたと分かり、またこのような協働による対策は、除染のみならず、地域社会の繋がりの強化や放射線対応への意識向上に寄与したことが明らかになった。本論は未だ蓄積の少ない福島県外の各自治体における放射線対策の研究として意義を持つとともに、災害時における行政と住民組織の協働体制の形成について考察する研究としても位置付けられる。
  • 防護動機理論に基づいた予防的避難に関する意識構造分析
    柿本 竜治, 金 華永, 吉田 護, 藤見 俊夫
    2014 年 49 巻 3 号 p. 321-326
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,予防的避難の阻害要因と促進要因を探ることを目的とする.そこで,阿蘇市および南阿蘇で行った避難意識に関するアンケート調査を用いて,防護動機理論に基づいて避難の意識構造分析を行った.その結果,阻害要因は,避難移動や避難所で過ごすこと等の負担,すなわち,避難行動を起こすことに伴う負担感であることが分かった.一方,促進要因となっているのは,どれくらいの確率で被災するか,どの程度の被害かといった自然災害に対する脅威であることが分かった.さらに,熊本市龍田地区の北部九州豪雨災害時の避難行動の調査結果を用いて,災害に対する不安度モデルを推定した.災害に対する不安度モデルの推定結果より,災害が差し迫っていない早い時間の避難の呼び掛けでも避難を促す効果があることが分かった.
  • 茨城県神栖市におけるL2津波想定を対象として
    梅本 通孝, 糸井川 栄一, 太田 尚孝
    2014 年 49 巻 3 号 p. 327-332
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,L2津波想定と住民の避難行動特性の実態の双方を考慮して津波避難のリスク評価を実現することを目的として,まず神栖市全域において自治会加入全世帯を対象とするアンケート調査を実施し,このデータに基づき住民の避難行動特性に関する各種の原単位や分布を仮定した。また一方で,茨城県によるL2津波想定結果を用いてGIS解析を行い,避難経路等と津波浸水域との重ね合わせを考慮して浸水域脱出までの最短経路等を特定を行った。この両者を踏まえ,表計算ソフトによって地震発生後の浸水域未脱出者の時系列推移を計算し,これを津波避難リスクと捉えた。避難経路上で津波浸水に巻き込まれる可能性がある住民は12,500人あまりと推定され,茨城県の想定で市街地への浸水開始とされる時刻に半数以上が浸水域から脱しきれない。この現状に対して,避難実施率の向上,即時避難率の向上,及び,避難先・避難経路の適正化という各改善策を個別及び組み合わせで施した場合の津波避難リスクを比較・評価し,それぞれの効果の検討について検討を行った。
  • 岩手県沿岸小中学校を対象として
    菊池 義浩, 南 正昭
    2014 年 49 巻 3 号 p. 333-338
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    東日本大震災では学校施設も大きな被害を受け、教育現場の防災対策強化が求められている。本研究は、今次震災における津波避難行動の実態を明らかにし、特徴的な事例の分析結果を踏まえ、空間計画の視点から今後の避難対策を検討した。岩手県沿岸部の小中学校を対象として、現地での詳細なインタビュー調査および現地踏査を実施し、次のような結果を得ることができた。1)想定を大きく超える津波により、津波浸水予測の範囲に含まれていなかった学校も多数被災しており、半数の学校で急遽当日の避難先を変更している。2)各校における避難行動は多様で、一斉的・個別的な避難が行われたケース、避難場所・避難所として避難者を受け入れていたケース、緊急避難先を変更して集団避難したケース、滞在避難に苦慮したケースなどがみられた。3)この先の避難対策としては、緊急避難先は分散避難になることも想定して設ける、滞在避難先は短期的および長期的に滞在する施設を階層的に配置しておく、避難所利用は発災後の時間経緯に応じて段階的に検討するなどが考えられる。今回の被災経験に基づく調査データの分析的な考察から、津波防災に対する有用な知見を得ることができた。
  • 赤池 美奈, 塚井 誠人
    2014 年 49 巻 3 号 p. 339-344
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    洪水災害の犠牲者を減らす減災を達成する上では,地区コミュニティ成員による要救助者への援助が必要である.しかし,要救護者の認知や,災害状況下での避難補助などに関する研究の蓄積は少ない.この研究では,上記の点に焦点を当てたアンケート調査を実施する.モデル分析を要援護者の年齢層別に適用したところ,彼らを認知する地区コミュニティ成員の社会経済特性に有意な差がみられることがわかった.さらに高齢の成員が多くの要援護者を認知していることが明らかとなった.すなわち,援助側の高齢者数の不足や,援助高齢者の身体能力に起因する要救護者の避難補助の限界などが懸念される.
  • 岩見 達也, 勝又 済
    2014 年 49 巻 3 号 p. 345-350
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    密集市街地の街区内部で協調的建て替え特例手法の活用により街区性能(火災安全性能や住環境性能)の改善を図る際には、協調的建て替え特例手法の適用により必要な街区性能が確保されているかを確認する必要がある。本稿では、街区性能のうち火災安全性能に関して、密集市街地において協調的建て替え特例手法を適用する際の評価手法の提案を行った。さらに、この火災安全性能評価手法をモデル市街地に適用し、協調的建て替え特例手法の適用の際の有効性を確認した。
  • 東京都区部における商業施設の店舗類型と所得分布の関係
    上杉 昌也, 浅見 泰司
    2014 年 49 巻 3 号 p. 351-356
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は、東京都区部における商業施設立地と近隣人口構成との空間的関係を検証し、経済的視点から日本のコミュニティにおける施設整備や社会的混合のあり方について議論するものである。スーパーマーケット店舗の経済的ランクと居住人口の所得分布の関係に着目した。初めに、店舗分布の特性について、その店舗類型や商圏人口特性別の特徴を明らかにした。続いて、高所得世帯数の変化と高級店の変化の関連性について検証した。これらの結果から、店舗の経済的ランクは特に小商圏でその所得構成や変化の動向を強く反映していることが分かり、経済的視点を考慮する重要性が示唆された。また、高所得地区での低所得層が抱える問題についても指摘した。
  • 呉市危険建物除却促進事業を事例として
    三信 篤志, 篠部 裕
    2014 年 49 巻 3 号 p. 357-362
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、危険建物化した空き家が多く発生しており、これに伴い地震・台風等の災害時における被害の拡大、老朽住宅の増加による環境悪化や危険な市街地の形成などが問題視されている。今後の縮退に伴う住宅地整備や地域再編を進める上で老朽危険建物化した空き家の整備は喫緊の課題と言え、空き家の解体除却に関する研究蓄積が必要とされている。そこで、本研究は呉市危険建物除却促進事業を対象に、本事業の実態を調査し、今後の空き家の解体除却事業の整備に資する基礎的知見を得ることを目的としている。具体的には、(1)呉市危険建物除却促進事業の実績の集計と考察、(2)事業認定者に対する空き家の解体除却事業についてのアンケート調査の実施と考察、(3)解体除却事業の改善課題の整理、という手順で行った。事業対象者の絞り込みについては、低所得者、斜面住宅地、狭隘な道路に接する敷地に建つ空き家を優先的に補助すべきという意見が多かった。今後は市の財源も縮小することが予想されるため、これらの評価を参考により効果的な事業対象や跡地利用の検討が必要である。
  • 宮崎市高千穂通T-テラスを事例として
    吉武 哲信, 榊 直人, 寺町 賢一, 出口 近士
    2014 年 49 巻 3 号 p. 363-368
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,中心市街地活性化に資する目的で県道高千穂通の歩道空間に官民協働で設置・運営されているT-テラスに関し,その利用実績を分析すると共に,アンケート調査により市民のT-テラスの評価を明らかにし,さらにヒアリング調査によってT-テラス関係者(運用団体・行政)の評価と現状の課題を把握し,その上で改善方法を考察したものである.この結果,以下のことを明らかにした.1)市民からのT-テラスのステージ,休憩場所としての評価は高く,継続が望まれているが,T-テラスを維持管理・運用する民間団体の組織体制,収支状況に問題がある.2)関係行政機関はT-テラスを高く評価しているものの,総合的・一体的官民協働体制を構築できていない.3)短期的には,民間団体の組織強化,官民連携の実質化による規制緩和等が検討されるべきであり,長期的には,エリアマネジメントを実施できる民間団体の育成と,それを活用した官民協働事業の推進が求められる.
  • 岐阜県多治見市の住宅団地におけるケーススタディ
    藤垣 洋平, 高見 淳史, 大森 宣暁, 原田 昇
    2014 年 49 巻 3 号 p. 369-374
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、大都市圏郊外に位置する岐阜県多治見市の住宅団地を対象とした調査に基づき、待ち時間が比較的短い高利便性乗合タクシーの成立可能性を検討した。大都市圏郊外の住宅団地では高齢化が進んでいる地域も多く、自動車の運転が困難になった高齢者の移動手段確保が課題になっている。本研究では、運転に不安がありながらも運転を続けている高齢者などの消極的運転者であっても、自家用車の保有と維持のために高額の出費をしている点に着目した。そこで、既存のバスよりも高価格であっても待ち時間が短いサービスが存在すれば、移動時刻の自由度を下げずに自家用車から転換することが可能になると考えた。一方でそのようなサービスでは、料金設定と需要、そして待ち時間が相互に影響を及ぼすため、サービス設計の段階でそれらの関係性を適切に把握する必要がある。本研究では、独自に構築した運行シミュレーションと、調査を基にした需要の概算から、高利便性乗合タクシーの採算性を検討する枠組みを提案するとともに、実際に多治見市の住宅地域を対象にして具体的に採算性の検討を行い、適切にサービス変数設定を行えば採算が取れる可能性があるという推計結果を得た。
  • 大山 雄己, 福山 祥代, 羽藤 英二
    2014 年 49 巻 3 号 p. 375-380
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    広場や街路といった,歩きを主眼においた公共空間整備に注目が集まっている.近年多くの都市において,1つの目的施設のみに滞在後すぐに帰るといった限定的なまちなかの使われ方が問題として多く見受けられることからも,小滞在を発生させて連鎖的な回遊行動を生み,まちなかの滞在時間を延ばすための空間計画の展開が求められている.本研究では回遊中の一連の活動間の相互依存性を考慮するため,「活動欲求」を導入した離散連続モデルによって活動の発生確率を定式化した.細かな滞在を把握し,正確な滞在時間の情報の得られるプローブパーソンデータを用いて回遊行動の分析を行なった.現状の課題として,来訪者の多くが「1つの目的施設のみに滞在後,すぐに帰る」行動をとっていること,小滞在の発生は流入地点と主目的地の1往復の間という限られた範囲であることを把握した.モデリングにおいて活動欲求を考慮したことで,推定結果からは連鎖的活動を発生させて滞在時間を向上させるための現実の施設配置,街路の接続方法など,都市空間の計画に対する有効な示唆を得た.
  • ミュンヘン中環状道路の沿道環境整備プロジェクトを事例として
    伊藤 雅
    2014 年 49 巻 3 号 p. 381-386
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、世界各地の都市内幹線道路において、高架道路の撤去や車道の地下化によって地上部を歩行者中心の断面構成に再整備する事例が相次いでいる。本研究では、地下トンネル整備の中止を決定しながらも、住民投票を通じて地下トンネル整備を再開したミュンヘン市の「中環状道路」を事例として取り上げ、地下トンネル整備の中止とその再開に至った経緯の資料調査に基づいて、その決定に至った背景と要因について考察を行った。また、トンネル整備再開後の道路空間整備のコンセプトづくりに関するヒアリング等の現地調査に基づいて、新たな道路空間整備を志向した背景と沿道環境整備が都市に及ぼした影響に関する考察を行った。その結果、住民投票に至る背景には住民グループによる報告書の内容に表わされている通り、高度な実行力と構想力が市民の間に存在していたことがわかった。また、その後、市民の意向を汲み取って作成されたマスタープランと実施プログラムは中環状道路沿道の住環境を向上させるのみならず、都市全体の価値向上につながる取り組みがなされたことがわかった。
  • 赤津 典生
    2014 年 49 巻 3 号 p. 387-392
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    大規模店舗立地法の施行から10年が過ぎ,多くの大型商用施設で店舗改装が計画されている。このような改装計画では併設している駐車場改良も同時に実施されるケースが多い。本取り組みでは,商業事業者が計画している駐車場レイアウト変更に際してシミュレーション技術を適用し、入出庫の円滑化を所要時間として推計することで、利用者へのサービスがどのくらい改善されているのかを評価した。またレイアウト変更前後に実測調査を行い、シミュレーションによる推計値の精度と適用時の課題を整理した。このような技法を計画段階に取り入れることで、駐車場内部のサービスレベルの改善目標が明確になり、より利便性を高めたレイアウトが提供できると思われる。
  • 愛知県日進市をケーススタディとして
    伊藤 真章, 松本 幸正
    2014 年 49 巻 3 号 p. 393-398
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,愛知県日進市で運行されているコミュニティバス「くるりんばす」を対象に,利用実態・意識調査を実施した.「くるりんばす」は利用者数が年々増加しており,中でも利用頻度の高い利用者が多くなってきている.そこでバスのサービス水準の変化が利用者の利用頻度に及ぼす影響を予測するため,「運賃」,「運行間隔」,「移動時間」のサービス水準が変化することによる利用頻度の変化を,利用者意識の結果に基づいて分析した.その結果,「運行間隔」,「移動時間」に関するサービス水準が大きく影響があることがわかった.これらのサービス水準の変化と利用頻度の変化との関係をモデル化し,運賃もしくは運行間隔を変化させた時の利用頻度の分布と運賃収入を予測した.
  • フランス5都市における現地実態調査に基づいて
    ペリー 史子, 塚本 直幸
    2014 年 49 巻 3 号 p. 399-404
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    早い段階からLRTに着目し,都市の新しいイメージとしてその導入を図ってきたフランスでは,現在もその展開が進んでいる.2012年にはブレスト,ディジョンが,2013年にはトゥールがLRTを開業し,第5路線が進行中のモンペリエでは,アーティストによるアヴァン・ギャルドな車両がデザインされている.街並みを背景として地上走行するLRTの導入は,公共交通としての役割だけではなく,公共空間の構成やデザインにも大きく影響を及ぼし,LRT車両や停留所,関連交通施設のみならず,沿線公共空間をも含めてLRTが走る街独自の風景を作り出している.そこで本研究では,2013年に実施したディジョン,ブレスト,トゥールーズ,トゥール,モンペリエでの現地実態調査に基づいて,景観に着目した魅力的な都市公共空間創出という観点から,LRTプロジェクトと沿線公共空間デザインについて分析・考察した.そして,都市景観構成要素となるこれらのデザイン的特徴やその傾向,公共空間や都市景観に関わる新しいデザイン手法等を明らかにした.
  • 居住者の都市構造リスク認識という観点から
    森 英高, 谷口 守
    2014 年 49 巻 3 号 p. 405-410
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    少子高齢化や人口減少が進行し,それに伴う都市構造の問題によって居住者の生活が困難になる危険性が発生している.その危険性の低減という観点から,都市の縮退という議論が進められおり,転居も検討項目の1つとなっている.そこで本調査報告においては居住者のリスク認識を考慮して,居住者の潜在的な転居意向の要因を明らかにした.その結果,1) 居住地周辺の公共交通を認識し,実際に利用していること,2) 周辺公共交通撤退のリスクを認知していること,などが潜在的な転居意志に大きな影響を与えている傾向が明らかとなった.また,一般的に不便であると考えられる中山間地域において,都市構造リスクが認識されておらず,潜在的な転居意向が低い傾向が示唆された.
  • 重要な活動の利用可能選択肢と断念経験に着目して
    佐々木 邦明
    2014 年 49 巻 3 号 p. 411-416
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、個人の生活環境の指標構築と生活の主観的な評価に対するその指標の影響についての基礎的な研究です.過去の研究において,主観的な生活満足度が主観的生活評価を安定的に測定できる指標とされてきたため,この研究では,生活評価の指標として主観的な生活満足度を使用します.また,個人の生活環境の指標としては,プリズム制約に基づいた利用可能な選択肢の数と,これまでの活動断念の経験を指標としました.この考え方はケイパビリティ理論の考えに基づいたものです.実証研究では,山間地において集められた個人の評価とアクティビティデータを使用しました.その結果,主観的生活満足度が選択肢の数とは直接関連づけられませんでしたが,その余裕を意味する活動を断念した経験が生活満足度と関連していることが明らかになりました.
  • 塚本 直幸, ペリー 史子, 吉川 耕司
    2014 年 49 巻 3 号 p. 417-422
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    LRT整備がまちづくりにもたらす効果について、わが国にはLRT事業の実例がほとんどないため過去データに基づいた定量的分析は困難である。そこで、本研究においては、LRTの前身とも言える路面電車を対象として、路面電車の通過している都市と類似の都市規模を持つ路面電車のない都市の2群に分けて、各種社会経済指標の比較を行い、これら2群の都市の性格の違いについて分析し、今後のLRT整備のための都市要件と整備効果を探る基礎的分析とした。路面電車の有無については、歴史的経緯もあって直ちには社会経済指標のみでは表現できない側面もあるが、路面電車のある都市は、ない都市に比較して、地域中心特性が高い、道路空間に余裕がある、商業的な特性は強いがその企業規模は小さい、都市の広がり方はコンパクト等の傾向が確認できた。
  • 大庭 哲治, 中川 大, 松中 亮治, 原田 容輔, 松原 光也
    2014 年 49 巻 3 号 p. 423-428
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    わが国の地方都市では,自動車利用の増加による公共交通の利便性の低下により,さらに公共交通の利便性が低下するという悪循環が生じている.このような悪循環を断ち切るためには,意図的に公共交通の利便性を向上し,積極的に利用を促進していく必要がある.公共交通の利便性を向上させる手段の一つとしてダイヤの改善がある.特に,路線網における最適なパルスタイムテーブルの構築は,有効な手段の一つとして考えられる.そこで本研究では,単線複線および種別数による鉄道路線における制約を考慮した上で探索時間の短縮を図った,パルスタイムテーブル探索システムを構築し,丹後中丹地域を中心とした鉄道路線網を対象として,総期待所要時間を指標として最適なパルスタイムテーブルを探索した.その結果,現在のダイヤから約13.3%の総期待所要時間を減少させ,利便性を向上させることができることを示した.また,各駅間において期待所要時間が増加しないような指標を用いてパルスタイムテーブルを探索することによって,地域全体の公共交通利便性を向上させることができることを示した.
  • 既成市街地と郊外住宅団地の比較
    寺山 一輝, 小谷 通泰
    2014 年 49 巻 3 号 p. 429-434
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、神戸市の既成市街地と郊外住宅団地を対象として、パーソントリップ調査データをもとに、ネスティッドロジットモデルを適用して、買い物交通における目的地・交通手段選択モデルを構築した。そして、選択モデルから得られるログサムを用いてアクセシビリティを算出し、年齢や自動車の利用可能性が両地域の買い物交通のアクセシビリティに及ぼす影響を明らかにした。この結果、良好な精度で選択モデルを構築することができ、既成市街地では郊外住宅団地に比べて小規模小売店舗の影響力が大きく、移動距離に対する抵抗感が大きいことが示された。算出したアクセシビリティを比較すると、高齢者よりも非高齢者の方がアクセシビリティは高く、また高齢者については、既成市街地の中心部においてアクセシビリティが最も高くなっていた。そして、世帯内の自動車が減少することによって高齢者・非高齢者ともに、既成市街地よりも郊外住宅団地でアクセシビリティが大幅に低下することが明らかとなった。
  • 清水 明彦, 中村 俊之, シュマッカー ヤン-ディャク, 宇野 伸宏, 山崎 浩気
    2014 年 49 巻 3 号 p. 435-440
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    これまでの都市計画,交通計画の分野の研究でも,個人の「経験」に基づく交通手段利用に関する研究がなされているが,その中での「経験」とは,個人が各交通手段を利用して得た利便性に対する知識に着目したものが多い.こうした交通手段の利便性に関する知識以外にも,個人の交通手段利用に影響を及ぼす「経験」が存在しているはずである.本研究では,とりわけ交通手段を利用した際に経験した「ネガティブな経験」に着目する.具体的には,利用した交通手段でのネガティブな経験と主観的評価,満足度,実際の利用の関係性についての検証を行うことを目的にアンケート調査に基づき,分析を行った.分析結果,利用交通手段の利用割合に基づき,主観的評価が高まること,またネガティブな経験の遭遇頻度が交通手段への満足度に影響を与えていることを明らかにした.一方で,ネガティブな経験から,交通手段利用までの関係性は見られず,交通手段を変更する程のクリティカルなネガティブな経験のみに絞って分析を行う等の課題も得られた.
  • 佐藤 仁美, 三輪 冨生, スギアルト , 森川 高行
    2014 年 49 巻 3 号 p. 441-446
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    筆者らが行った名古屋で実施したロードプライシング(RP)の受容性に関する調査の結果では賛成率は40-50%であり,インドネシアの首都ジャカルタで実施した同様の調査でのRPの賛成率は70%以上と,他の都市と比較しても非常に高い.この違いは何が原因なのだろうか.本研究では,特に心理的要因に着目し,2つのデータを比較分析した.この結果,ジャカルタのほうが渋滞などの問題をひどいと感じており,RPによって問題を解決できるのではないかと考えていることが明らかとなった.一方,名古屋ではRPの効果を認めているものの,世間に受け入れられない,不公平な政策であると評価していることがわかった.名古屋と異なりジャカルタでは,他者の賛成率といった社会的相互作用の影響がないなどの特徴が明らかとなった.
  • 準景観地区と景観協定に着目して
    佐藤 雄哉, 松川 寿也, 中出 文平, 樋口 秀
    2014 年 49 巻 3 号 p. 447-452
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、準景観地区と景観協定の全国的な指定実態を把握している。本研究では以下のことが明らかになった。全国で4つの準景観地区が指定されていた。平泉町では、正確に土地利用変化を把握するために準景観地区が役立っていた。また、高野町では準景観地区を指定することで特定行政庁でなくても建築行為を把握できることがわかった。景観協定は全国で46あることがわかった。様々な地域で景観協定が活用されており、地区計画の代替手法として活用されている地域もあった。つくば市と市川市の事例では、住宅地の土地利用管理手法として活用さていた。
  • 福井市まちなか地区を対象として
    福岡 敏成, 野嶋 慎二
    2014 年 49 巻 3 号 p. 453-458
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、大規模土地所有者の所有実態や土地活用に向けた意識を明らかにし、これにより、地方都市中心部における低未利用地の有効活用や集約化に向けた基礎的な知見を得ることを目的としている。福井市まちなか地区(630ha)において、まず、登記簿情報をデータベース化し土地所有の実態について分析し、低未利用地の分布の分析により、大規模土地所有者ごとの土地利用の実態を把握した。さらに、アンケート調査により土地所有者の土地活用や所有意識を把握した。この結果、大規模土地所有者は、低未利用地を多く持つが、一方で保有意識も強く、土地の流動化や低未利用地の集約に向けて重要な役割を担っていることを明らかにした。街区ごとの空地と大規模土地所有者の所有状況により、空地率が高く、大規模土地所有者が多く所有している街区については、合意形成を取りやすく、空地の集約など面的な事業展開の可能性の高いことを考察することができた。意識調査により、大規模土地所有者の方が、土地所有の負担感を感じていることや、土地の集約のため、交換や借地により協力してもいいという意見が約7割にのぼることが明らかとなった。
  • 3411条例と浸水想定区域との関係に着目して
    松川 寿也, 佐藤 雄哉, 中出 文平, 樋口 秀
    2014 年 49 巻 3 号 p. 459-464
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、都市計画法第34条11号で定める条例(3411条例)と浸水想定区域との関係を通じて、市街化調整区域における規制緩和の問題点を明らかにすることを目的とする。その結果、以下の3点を明らかにした。1)多くの自治体が浸水想定区域を都市計画法施行令第八条第1項第2号ロの区域として想定していないこと。2)そのため、3411条例による新規開発地において浸水被害が発生したこと。3)浸水リスクに対して運用改善した3411条例にも課題があること。以上を踏まえて、浸水リスクに対応した開発許可制度を提言した。
  • 木野 健太, 佐藤 雄哉, 松川 寿也, 中出 文平, 樋口 秀
    2014 年 49 巻 3 号 p. 465-470
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、緩規制地域での景観計画を活用した土地利用コントロールの可能性を検証した。まず景観計画区域内に緩規制地域を持ち、土地利用コントロールを目的とする景観計画を抽出した。その上で、開発行為や建築行為の実績と景観計画に基づく届出を比較した。その結果、景観計画で数値によって開発行為の届出基準を定めた場合、土地利用転換が把握できていた。また、基準をゾーニングすることで建築物の立地を誘導できることが分かった。以上より、緩規制地域での土地利用コントロール手法として景観計画が効果を持つことが分かった。
  • 市街地コントロール手法としての現代的意義と課題
    桑田 仁, 加藤 仁美, 中西 正彦, 杉田 早苗, 大澤 昭彦
    2014 年 49 巻 3 号 p. 471-476
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では日影規制を検討対象都市、形態規制設計の当初意図と現代的意義を確認するとともに、国によって制度設計された建築形態規制を、自治体が地域の実情に適合させながら導入していくプロセス、および自治体に導入された建築形態規制およびその運用が変容していくプロセスを分析することを通じて、今日的課題に向けた制度設計の留意点および実現にあたっての考え方を提示することを目的とする。日影規制が建築基準法へ導入される過程を検討した結果、目指すべき性能を明確にした形態規制である点、また自治体が条例によって規制のパラメータの組み合わせを選ぶことができる点といった先進性を日影規制が有していることを確認した。次に、自治体における日影規制の導入プロセスを3都市で検討した結果、1)自治体が必ずしも国の意図に従わず、それぞれの指定方針にもとづいて日影規制を導入したこと、2)自治体側では日影規制だけでなく、高度地区や紛争予防条例といった制度と組み合わせることで、総合的な住環境を担保することに取り組んだことを明らかにした。
  • 矢代 孝明, 佐藤 雄哉, 松川 寿也, 中出 文平, 樋口 秀
    2014 年 49 巻 3 号 p. 477-482
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    特別用途地区は、平成10年の都市計画法改正で、規制内容を自治体が地域の実情に合わせて自由に指定できるようになった。本研究では、平成10年以降に指定された特別用途地区に着目している。まず、全国的な活用実態を把握し、指定目的と規制内容により類型化した。次に、各類型の事例を通して、今後の特別用途地区を活用した土地利用コントロール手法を検討した。その結果、特別用途地区は、法改正以前には想定されていなかった指定形態の特別用途地区があった。これらを踏まえ今後の特別用途地区を用いた土地利用コントロールの可能性を提言した。
  • 周辺区部9区への調査票調査と杉並区での事例研究による一考察
    今西 一男
    2014 年 49 巻 3 号 p. 483-488
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は東京都周辺区部において未整備となっている「土地区画整理事業を施行すべき区域」の整備課題について検討することである。東京都周辺区部に対して行った調査票調査の結果によると、その52.1%が未整備となっている。その整備のために東京都はガイドラインを定めたが、適用は十分ではない。その背景には「土地区画整理事業を施行すべき区域」の実情との乖離がある。杉並区で行った事例研究では市街地整備の目標や道路整備の水準について乖離が確認された。杉並区では成田西3丁目町づくりの会の活動により、区画整理から地区計画への変更が検討され示唆を残しているが、実現には至っていない。今後は住民活動の普及を含めて、区域の実情にあった計画を策定する必要を提起している。
  • 都市計画区域外で策定された都市再生整備計画に着目して
    小倉 匡介, 松川 寿也, 佐藤 雄哉, 中出 文平, 樋口 秀
    2014 年 49 巻 3 号 p. 489-494
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、都市計画区域外で実施されている都市再生整備計画に着目している。都市再生整備計画の区域設定時の都市計画法等に関する議論を明らかにするとともに、都市再生整備計画全般の実施傾向を把握する。都市計画区域外の都市再生整備計画を抽出し、都市計画区域との関係性で類型化した。都市計画区域の必要性が高いと考えられる地域について、都市計画区域指定の議論の経緯と、都市再生整備計画策定時の都市計画法に関する議論を確認した。都市再生整備計画の策定に際し、都市計画制度導入の検討は、ほぼ実施されていないことがわかった。これらを踏まえ今後の都市再生整備計画の在り方について提言した。
  • 都市計画提案制度に関する規定を中心に
    尹 荘植, 高見沢 実
    2014 年 49 巻 3 号 p. 495-500
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、地区まちづくりにおいて、まちづくり条例により地域主体が都市計画提案制度の活用できる仕組みについて明らかにすることを目的としている。アンケート調査により、多くの自治体から都市計画提案制度の運用上の様々な課題が明らかになった。その課題に対する工夫のうち、まちづくり条例により、提案制度を活用しようとする積極的な自治体の動き、具体的に、提案主体の拡大、提案基準の緩和、提案主体への支援、提案主体との協議が確認できた。提案主体に地区まちづくり協議会を含めることで、これまでのまちづく経験の蓄積を活かし、都市計画へ提案できる仕組みになり、これからの地方分権時代の都市計画において大きなヒントになると考えられる。
  • 芦屋市の事例を中心に
    松井 大輔, 岡井 有佳
    2014 年 49 巻 3 号 p. 501-506
    発行日: 2014/10/25
    公開日: 2014/10/25
    ジャーナル オープンアクセス
    良好な景観や居住環境を維持・保全するため、近年、パチンコ店の立地に反対する住民運動が発生している。本研究は、阪神間の都市を対象に、特に芦屋市を中心として、自治体条例に基づくパチンコ店の立地規制の枠組と内容を明らかにし、他の市町村におけるパチンコ店の立地規制の検討に示唆を得ることを目的とする。パチンコ店は、特定の用途地域を禁止区域に指定することと、特定施設から一定距離内の範囲を禁止区域に指定することによって規制されており、それらは風営法、建築基準法・都市計画法による規制のほか、自主条例によって定められている。芦屋市においては、さらに地区計画を用いることによって市全域でパチンコ店を規制していることが明らかとなった。パチンコ店の立地が望ましくない地域においては、これらを組み合わせることによって、パチンコ店を事前に規制することが望まれる。
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