都市計画論文集
Online ISSN : 2185-0593
Print ISSN : 0916-0647
ISSN-L : 0916-0647
59 巻, 3 号
都市計画論文集
選択された号の論文の155件中1~50を表示しています
  • 岡山県倉敷市を対象に
    髙橋 紘輝, 氏原 岳人, 安藤 亮介, 樋口 輝久
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 501-508
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,地方都市である岡山県倉敷市を対象に空き家の発生分布の現状及び経年的な変化と都市環境との関連性をモデル化するとともに,複数エリアを対象に空き家になった後の土地利用変化を詳細に追跡した.分析の結果、1)土地利用規制やインフラ整備,立地などの都市計画的要素と空き家の発生の程度や傾向に,統計的に有意な関連性があった.2)良好な居住環境の市街地を計画的に整備した地域において空き家の発生が抑制される傾向にあった.3)用途規制の比較的弱い商業系地域では,空き家が多様に活用されていたが,市街化調整区域では活用が制限されるなど,空き家の活用や除却には土地利用規制が影響していた.4)立地条件の悪い非集約エリアにおいて空き家が増加する傾向がみられ、開発圧力が弱く今後も空き家のまま放置される可能性が高いため,増加する空き家への対応が求められる.

  • Googleマップの「Areas of Interest」との比較により判明した違いについて
    ボラティンスキー バディム, 大佛 俊泰
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 509-515
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    多種多様な都市活動が周囲と比較して活発であるエリアを検出しその特性を把握することは、都市構造の研究や都市計画の策定において重要である。活動状況の検出方法を提案した従来の研究の多くでは、検出のための評価指標として、労働人口や飲食、ショッピング、娯楽などの商業活動に関するデータが主に使用されてきた。本研究では、学校、市役所、病院などの公共施設での活動を考慮した都市活動センター(UAC)を定義し、東京におけるUACとGoogleマップに表示される「Areas of Interest(商業活動に依存した指標を用いて定義されたエリア)」とを比較した。その結果、Areas of Interestでは商業施設がメインではなく公共施設が多いエリアは見落とされるのに対して、UACではこれらのエリアも含めたエリアを検出できることが判明した。

  • 関係者からのイベント情報共有が住民の参加傾向に与える影響分析
    石井 健太, 石井 朝規, 平松 義崇
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 516-522
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    地域イベントは住民の地域への愛着形成を促す重要な要素であるが,自治会を始めとしたイベント実施主体にとって,イベントへの住民の呼び込みは容易ではない.住民が集まるイベントには,イベントを実施する環境やイベント内容自体の魅力度を改善するだけではなく,その情報を住民に対して魅力的に周知することが不可欠である.本研究では,周知方法として関係者からの情報共有に着目し,この介入が住民のイベント参加確率に与える因果効果を抽出する.具体には,イベント参加有無のような評価したいアウトカムに依存して調査傾向が変化するデータに対して,サンプリングバイアスと交絡の双方を考慮することで,施策の効果を適切に評価する因果推論手法を提案する.提案手法を実証実験データに適用することで,対象地域における関係者からの情報共有は,ない場合と比して,住民のイベント参加確率を3倍以上向上させることを明らかにした.

  • 2007年と2015年における二段階の広幅員(6mと12m)道路網に基づく二時点比較
    薄井 宏行
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 523-530
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本稿では,現行の消防活動困難区域の定義において,広幅員道路網の定義と直線距離に基づく妥当性を再考し,東京23区を対象に,(1)直線距離と道路距離それぞれに基づく消防活動困難区域とその変化,(2)直線距離と道路距離の違いによる消防活動困難区域の相違を明らかにした.2007年と2015年の二時点において,直線距離と道路距離それぞれに基づく消防活動困難区域を比較した結果,(1)環状6号線,環状8号線,甲州街道および大山街道で囲まれた地域,(2)練馬区北西部において,道路距離に基づく第一段階の消防活動困難区域(幅員6m以上の広福員道路網から200m以遠)と第二段階の消防活動困難区域(幅員12m以上の広福員道路網から200m以遠)はともに減少していることがわかった.その一方で,東京23区全体を概観すると,第一段階の消防活動困難区域はこの8年間で変化しておらず,幅員6m以上の道路の整備は遅々として進んでいない.東京23区全体を概観すると,第一段階と第二段階の各場合において,道路距離に基づく消防活動困難区域とその変化は,直線距離に基づく消防活動困難区域とその変化と概ね一致する傾向にある.他方,地区スケールで詳細にみると,幅員6m未満の狭幅員道路が幅員6m以上の道路と直接接続していない場合,道路距離では200m以遠となる場合もある.こうした事例は少数であるものの,道路網の規模は大きい傾向にあることに留意すべきである.

  • 千葉市を対象として
    菊地 穂澄, 渡部 一郎, 井上 拓央, 梁 イェリム, 古賀 千絵, 新 雄太, 中島 弘貴, 吉村 有司, 小泉 秀樹
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 531-538
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、立地適正化計画などの施設誘導に関する都市計画において、立地に必要な人口規模が小さい生活サービス施設である一方商業集積の維持に重要な存在だとされる、飲食店の分布の趨勢をどのように考慮すべきかを明らかにすることである。食費営業許可データの公開が充実しており、立地適正化計画が策定されている千葉市を対象とし、飲食店立地・開廃業の基礎的な分析、立地環境との関連についての分析、飲食店分布の趨勢と立地適正化計画の区域設定の比較を行った。その結果、様々な立地環境要因が飲食店の動態に複雑に影響していること、飲食店の分布の趨勢と計画上の区域設定に乖離があることなどが明らかになり、生活サービス施設の分布の趨勢について計画上考慮すべきいくつかの論点が提示された。

  • 栃木県宇都宮市・芳賀町をケーススタディとして
    小松﨑 諒子, 髙秀 賢史, 谷口 賢太, 青野 貞康, 萩原 剛, 東 智徳, 長田 哲平
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 539-546
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    人々の交通行動を把握するパーソントリップ調査は、都市計画や交通政策の検討における基礎資料とするためにこれまで数多く行われてきたが、近年の都市における生活行動の変化等に伴い、交通行動に加えて「活動」も把握すべきとの議論がある。この認識のもと、栃木県宇都宮市・芳賀町では住民の交通行動と活動を同時に把握する「都市活動調査」を令和4年に実施した。本研究では、都市活動調査のデータを用いて就業者の移動や在宅勤務の実態を把握するとともに、オンライン活動の実態を整理した。結果として、在宅勤務者の外出率は4割であるが外出している人の移動回数は通勤者より多く、移動目的には食事・社交・娯楽といった余暇活動と送迎等の世帯維持活動の両者が見られた。また、外出する在宅勤務者は育児・介護・看護を実施している割合が高いことから世帯維持活動のための義務的な外出も考えられるほか、ネットショッピングやデジタルコンテンツ利用といったオンライン活動にはむしろ積極的な傾向も示唆された。

  • 香嶋 愛美, 雨宮 護, 樋野 公宏
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 547-554
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    新たな地域防犯活動である「ながら見守り」は,メンバーが日常生活のついでに緩やかな見守り活動を行うものである.本研究では,東京都足立区におけるながら見守りの取り組みを事例に,アンケート調査とGPSによる移動計測調査を用いて,ながら見守りに参加するメンバーの人口統計学的特徴と移動パターンを分析した.その結果,ながら見守りには,30~49歳,女性,勤労者という,従来の自主防犯団体にはあまり見られなかった新たな層が含まれていることがわかった.また,ながら見守りの移動パターンは,従来自主防犯団体により行われてきたパトロール活動よりも滞在回数が多く,速度も遅いことがわかった.さらに,ながら見守りの活動は,活動種別の多様性を反映して,時間帯や地理的範囲が広くカバーされていることがわかった.最後に,これらの結果より,ながら見守りの今後の地域防犯活動における位置づけと可能性を議論した.

  • 竹内 真雄, 嚴 先鏞, 鈴木 勉
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 555-562
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    都市空間において商業集積地における人の流れを把握することは重要である.近年急速に普及したGPSデータにより,従来の調査方法に比して行動特性や来街者特性をより詳細に把握することが可能となりつつある.本研究では,東京区部において,商業集積地を業種構成や滞在パターンにより類型化するとともに,滞在者の密度と居住地多様性,移動距離を定量化し,類型との関係を明らかにすることを目的とする.第一に,商業集積地を業種構成に基づき10種類に類型化できることを示す.第二に,商業集積地における時間帯ごとの滞在数に基づいた滞在パターンにより8種類に類型化し,業種構成と一定の対応関係があることを示す.第三に,業種構成や滞在パターン類型ごとの滞在移動特性を分析し,同じ業種構成の中でも滞在者密度や居住地多様性,移動距離に違いあることや,同程度の滞在点密度であっても滞在パターンが異なることなどを明らかにする.

  • 小林 泰輝, 山渕 智也, 今 佐和子, 谷口 守
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 563-570
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    COVID-19の流行を契機に人々の働く場所は大きく変化した。人々の働く場所の変化は都市に様々な影響を及ぼすと予想される。本研究では、COVID-19の流行の後に生じたオフィス回帰の実態とその特性について、国土交通省が実施したテレワーク人口実態調査を利用して明らかにした。分析の結果、1)オフィスへの回帰は東京圏よりも中京圏・近畿圏・地方都市圏で発生している傾向にある、2)役職が高い就業者の方がオフィスに回帰せずにテレワークを実施している傾向にある、3)勤務先のテレワーク規定の整備はテレワークの実施に強い影響を与えるだけではなくオフィスへ回帰しないことにも強い影響を及ぼすことが明らかになった。

  • 金子 大悟, 田中 健一
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 571-578
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    都市に施設が新設されると,その施設へアクセスする利用者によって,周辺の人や車の流れが変化する.例えば,大規模な商業施設の立地により周辺道路が渋滞する状況が該当する.この影響を測るための数理モデルの開発は都市工学上の重要なテーマであるが,これまで十分に追求されてこなかった.本研究では,一次元都市モデルを想定し,移動途中に施設へ立ち寄る状況において,施設配置が各地点の通過量に与える影響を分析する.起点と終点が線分上で一様に分布する状況において,全移動者が迂回距離最小の施設に立ち寄る場合と,迂回距離に応じて立ち寄り確率が決定される場合において,各地点の通過量を解析的に導出する.施設の数や配置によっては,都市中心以外において通過量が最大となる地点が存在することを示す.さらに,迂回距離に応じて立ち寄り確率が決定される状況において,施設利用者数を最大化する施設配置を求める問題を定式化し,解の特徴を数値的に分析する.提案モデルは,ネットワークや二次元平面上のモデルへの拡張など,様々な展開が期待できる.

  • 全国の自治体アンケート調査を用いて
    坂本 淳
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 579-586
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究は,全国の廃校活用状況の傾向と活用されている廃校施設の要因の解明を目的とする.全国の自治体に対して実施したアンケート調査と,学校の所在地に基づく空間指標を融合して分析する.その結果,小規模・廃校が相次いでいる自治体ほど,廃校活用率が低いことがわかった.また,廃校してからの時間が経過していない,郊外の廃校施設ほど,活用されていない傾向にあった.さらに,廃校の地理的特性によって活用の要望や運営主体に違いがみられることが明らかとなった.

  • スーパーマーケットに着目して
    小寺 啓太, 大畑 友紀, 氏原 岳人
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 587-594
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,「多様な人々のニーズや価値観を受け入れるための都市的機能の程度」と定義される都市的包容力についてスーパーマーケットに着目して,人口規模の異なる5つの都市(名古屋市・広島市・鹿児島市・郡山市・上越市)を対象に定量化した.ROC曲線を用いた基準値の算出方法を提案し,基準値を満たす地域では充実したスーパーから選択できる居住者が8-9割存在し,基準値以上に高めても約9割で充実度は横ばいに推移することを示した.都市計画で一般的に用いられる人口密度と都市的包容力(CS値)の関連性から基準値を満たすための人口密度を算出した.都市の人口規模が小さいほど都市的包容力に必要な人口密度も低くなる傾向を明らかにし,施設誘導に向けた人口密度目標を都市の人口規模に応じて設定する必要性を示した.

  • 東京都中央区城東小学校・渋谷区神南小学校の事例分析を通じて
    萩谷 洋紀, 山崎 潤也, 似内 遼一, 村山 顕人, 真鍋 陸太郎
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 595-602
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    日本での再開発事業はこれまで様々な公共貢献を伴って行われてきたが、近年では学校建て替えを伴うものが見られる。しかし、学校建て替えを伴う再開発事業における具体的な成立経緯の大部分は明らかになっていない。本研究は、東京都中央区城東小学校と東京都渋谷区神南小学校の事例から学校改築を伴う再開発事業を5つの観点から分析し、関連する課題の考察を行う。地方自治体や事業者へのインタビュー調査、文献調査の結果より、学校の老朽化が事業成立に寄与していること、建て替え手法に相違があること、設計プロセスや物的環境に特徴が現れること、改築費用削減が地方自治体にとっての事業参入効果になることが明らかになった。

  • 渋谷駅中心地区を事例に
    長岡 拓, 後藤 純, 手塚 悠希
    原稿種別: 論説・報告
    2024 年 59 巻 3 号 p. 603-610
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    バブル経済が崩壊し長らく景気低迷が続いた我が国では、これを打開すべく経済政策として2002年に都市再生特別措置法を制定し、都市再生本部を筆頭に「活力の源泉は都市の魅力と国際競争力」であるという仮説のもと、各種支援制度によって都市の魅力向上を図ってきた。2005年に都市再生緊急整備地域に指定された渋谷駅中心地区は東横線の地下化によって生まれた敷地を活用し都市再生事業で都市課題を解決していくことを目指した。本研究では都市再生事業により都市インフラ課題が解決したかその現状と課題を明らかにする。都市再生事業による開発を、乗り換え利便性、歩行環境、まちの分断、危険な交通広場、水害、交通渋滞を視点に分析を行った。

  • 青木 公隆, 中島 直人, 永野 真義
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 611-618
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、東京都区部における用途地域による最低敷地面積規制の適用実態とその課題を明らかにすることを目的とする。自治体へのヒアリング調査及び都市計画審議会議事録の内容を対象として考察を進め、東京都区部における用途地域による最低敷地面積規制に着目する。まず、用途地域による最低敷地面積規制の歴史的変遷を整理し、規制導入の背景と各区における指導要綱や地区計画を踏まえた適用状況を示している。次に、用途地域による規制の内容や各区の差異を分析し、その要因と指導要綱の影響を考察するとともに、用途地域と地区計画による規制の関係性、及び、規制による土地利用に関する懸念事項を検証した。以上を通じて、用途地域による最低敷地面積規制の制定における課題として、指導要綱による規制の評価及び既存不適格発生割合の基準と適用目的の設定を示した。次に、規制の適用における課題として、用途地域による規制の評価及び土地利用の制限を示した。

  • 大阪府下の社屋内にコモンスペースを持つ事例を対象にして
    伊丹 絵美子
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 619-626
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究は,工務店の貢献活動は本業の利益に資する可能性があり,その実現に向けた社会的指向と経済的指向の共存の方法があるとの仮説を検証するものである。社屋内にコモンスペースをもつ事例に着目し、インターネット検索等により得られた大阪府下の15事例の機能を概観した上で、広義のNPOとの関連が確認された4事例に対するインタビュー調査を行った。結果として、多様な観点での両指向の共存が確認された。両指向の効果といえる同士的な関係者の獲得や人的ネットワークの構築には,空間だけではなく,そこに付随するレンタルスペースやワークショップという機能やNPOの活動が有用であることがわかった。また,実施主体が双方の目的意識を持つこと,社会的指向の地域ニーズへの適応,経済的指向が表出しすぎないことが共存の上で重要であることが示唆された。

  • 中野 卓
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 627-634
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    近年、商業地域に集合住宅が多く立地するようになった。商業地域では建築形態規制の緩さに起因した建詰りにより、低質な住環境の集合住宅が増加する懸念がある一方、商業地域の住環境保全は現在まで地域の自主的取組みに委ねられてきた。本論は、こうした全国の取組事例の体系化と知見の共有化の必要を背景に、商業地域の住環境保全に係る付加的な形態規制の適用状況を整理し、その現状と課題について考察したものである。形態規制の手法として、本論では地区計画、高度地区、建築基準法第50条に基づく条例、建築協定の4つを対象に文献調査等を通じて網羅的整理を行った結果、以下の点を把握した。第一に、住環境保全を目的とした形態規制の導入事例は全国でも僅かで、その大半が指定容積率400%の商業地域だった。第二に、路線式・集団式の用途地域指定方式に拠らず形態規制の適用事例が確認されたが、広範囲の規制導入を実施できた箇所は、元々土地利用強度が低いと思われる地域に限定された。第三に、住環境保全に効果の期待される形態規制の手法として、適用例が多い順に、北側斜線制限、隣接敷地からの壁面後退、建ぺい率・容積率制限の強化の4つが本論で確認された。

  • サブスクリプションサービス「ADDress」を対象として
    輿石 彩花, 中島 弘貴, 新 雄太, 古賀 千絵, 井上 拓央, 渡部 一郎, 梁 イェリム, 吉村 有司, 小泉 秀樹
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 635-642
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    近年、複数の拠点を移動しながら生活する人が増えている。本研究では、多拠点生活のためのサービスであるADDressの会員を対象にWebアンケートを実施し、多拠点生活者がどのような地域を組み合わせて生活しているかを明らかにした。まず、①拠点間距離、②利用目的、③環境価値の3つの観点から地域の組み合わせをみると、多拠点生活者は拠点間距離の短いところに拠点を配置していること、最も利用頻度の高い拠点で通常の地域選択と同様の環境価値を持つ地域に居住の機能を持っていること、二番目以降の拠点でADDress独自の特徴を生かして多拠点生活における要求を満たしていることが明らかになった。次に、上記の3つの観点により地域の組み合わせ方で多拠点生活者を分類すると、二拠点生活者は4つ、三拠点以上生活者が6つの類型に分けられ、地域の組み合わせ方は個人属性や利用方法によって異なることが明らかになった。そのため、地域の持つ資源から生み出せる環境価値や大都市との距離、呼び込みたい層などに併せて多拠点生活者の受け入れ戦略を考える必要があることが示唆された。

  • 川崎市武蔵新城エリアを対象として
    森田 彩日, 野原 卓, 尹 莊植, 矢吹 剣一
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 643-650
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    近年、地域コミュニティの衰退や超高齢化・人口減少などが社会課題となり、民間が主導となって地域活動を行う「地域活動拠点」の設置が求められている。本研究は、複数の地域活動拠点が高密度に連携した形で開設されている川崎市武蔵新城エリアに着目し、地域活動拠点が複数展開する過程とその要因を明らかにすることを目的とする。主にヒアリング調査によって活動拠点の開設経緯を調べた結果、複数の地域活動拠点が開設される背景には、5主体の働きがあった。(1)土地建物所有者は、今後の不動産運用において地域とのつながりが重要だと考え一階部分を開くことで地域に積極的に顔を出す空間活用を企図していた。(2)運営者は、地域で活動したい想いを持ち土地建物所有者と協働し、地域連携の工夫を行っていた。(3)設計者は、塀の撤去・デッキ設置など地域拠点をまちに開く工夫を行った。(4)利用者は、企画や展示を通じて主体的に活動していた。(5)支援者(市・NPO)は、プロジェクト運営や助成金を通じて地域で活動する人々をサポートしていた。これら5主体が時機を見ながら連携することで複数の地域活動拠点が連鎖的に開設されており、武蔵新城エリアにおける地域活動を活性化していた。

  • 観光的要素を有する鎌倉市佐助地域を対象として
    松本 望実, 野原 卓, 矢吹 剣一, 尹 莊植
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 651-658
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    鎌倉市佐助地域は第一種低層住居専用地域が指定されている住宅地でありながら、周辺の歴史資源・観光資源への来訪客の増加を背景として多種の非住宅系用途の建築物が見られる。それらはいずれも所有者や地域のアイデンティティが活かされた形態であり、特に近年はその数や用途種が増加傾向であった。これらの多くは2階建て兼用住宅の1階部分に設けられており、建物外観については、建物内に非住宅系用途が含まれていることの判別が難しく住宅に類似した形態と、反対に判別が容易であり地域に開かれている形態の双方が存在した。また佐助地域では地区計画等が定められていないが、目立った近隣トラブル等は見られなかった。その要因としては、所有者自身が地域の居住者としての立場から、運営形態や建物形態に関して自主的にコントロールを行っているためだと考えられる。第一種低層住居専用地域においては、非住宅系用途を含む建築物の形態を基本的に兼用住宅とする建築基準法上の規定により、自ずと所有者(兼居住者)と地域との関係性の構築が重要となるが、将来的にはそのような関係性が、「良好な住居の環境」と「用途の多様性」との両立に寄与するという可能性がある。

  • 天谷 太一, 岡田 潤, 中村 文彦, 出口 敦
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 659-666
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、回遊行動の観点からみた大規模開発の事後評価と今後の開発計画に関する示唆を得ることを目的とし、東京都区部の大規模開発集積地における従業者及び来街者の回遊行動の傾向を明らかにした。その結果、他の地域と比べて大規模開発集積地にはより広範囲から来街者が訪れ、2000年代後半から2010年代後半にかけてオフィス供給が行われた地区では、自宅発の勤務トリップが増加傾向にあった。人流データに基づき、地区内での回遊行動について滞在時間と回遊距離の観点から分析を行ったところ、平均的には回遊距離が減少し回遊行動が縮小傾向にあったものの、来街者に限れば滞在時間と回遊距離は増加し、回遊行動がより広範囲かつ長時間行われるようになった。そして、2017年から2023年にかけての滞在時間と回遊距離の増減によって大規模開発集積地を分類すると、滞在時間と回遊距離が共に増加した類型には大手町地区・丸の内地区・淡路町地区が該当した。特に、エリアマネジメント等のソフト分野の公共貢献や、周辺開発との連携がみられるそれらの地区では局所的な回遊行動の高まりがみられた。

  • 佐賀県下の都市計画区域を対象として
    加藤 晴, 猪八重 拓郎
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 667-674
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,道路網構成の特徴と市街地の変容の関係性を明らかにすることである.本研究ではまず,佐賀県県下の6つの都市計画区域を対象として,2010年頃及び2020年頃の道路網のアクセス性の評価を算出するためにMultiple Centrality Assessment(MCA)を用い,道路距離,時間距離,及び交通規制を考慮した近接性(CC),直線性(SC),媒介性(BC)の算出を行った.さらに,市街地の変容について,物的な視点として建築面積,都市的土地利用面積,活動の変容として人口,事業所数,従業者数を用いて分析を行った.その結果,4つの変容のタイプが存在することが明らかとなった.最終的には,判別分析を用い市街地の変容のパタンとMCAの解析結果の関係性の分析を行い,2010年頃のSC(道路距離,交通規制なし)と2010年頃のCC(道路距離,交通規制あり)が市街地の発展的な変容と関係が深いことを明らかにした.

  • 道路管理者への全国アンケート調査・分析に基づいて
    高木 悠里, 阿久井 康平, 嘉名 光市
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 675-682
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    わが国では,2020年に道路法が改正され,「歩行者利便増進道路施設制度」(ほこみち)が創設された。本研究の目的は,道路管理者への全国アンケートを通じ,ほこみちの全国的な指定・運用の現状を解明することである。アンケートを通じ,路線の延長や幅員,路線の周辺土地利用,ほこみち指定までの経緯,ほこみちによる道路占用の状況,都市政策との関係等を明らかにした。次に,ほこみち路線を都市特性に応じて分類し,都市特性別にみたほこみちの指定・運用の特徴を分析した。分析を通じて,ほこみちが都市の活性化や魅力向上等に寄与し得るのかを考察した。特に大都市・都市中心では,地元市区町が主導し地元団体等と連携のもと,ほこみちの取組を進めており,都市の活性化等に寄与する可能性を大いに有することを示した。

  • 兵庫県養父市の全自治協調査の結果から
    佐伯 亮太
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 683-689
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、地方創生政策の一環として推進される地域運営組織を対象とし、自治協の組織体制や運営方法と自治協構成員(役員、事務局、部員)の任期や選任方法の関係を分析することで、地域運営組織が担い手不足に陥っている原因について明らかにする。これらを通じて、地域運営組織が継続的に課題解決できる組織になるための要点を示すことを目的とする。兵庫県養父市の全18自治協を対象に、ヒアリング調査とアンケート調査をもとに、地域運営組織の組織体制の特性と自治協構成員の状況を確認した。それらを分析し、自治協の事業部を中心とした組織体制と自治会推薦で構成される自治協構成員の選出方法に課題があることを示した。今後地域運営組織が地域の課題解決を継続的に実施するためには、組織体制と自治協構成員の参画方法の更新が必要であることを示した。

  • こまつしまリビングラボにおける参加の成果と課題を通じた論考
    松本 卓也, 田口 太郎, 森田 椋也
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 690-697
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    リビングラボは、米国で生まれ欧州で広がった市民主体による共創活動である。国内でも2010 年頃から実践事例が報告されており、今後市民主体のまちづくり活動の方法論として期待されるものである。本稿は、このリビングラボの概念を用いて実施した「こまつしまリビングラボ」を対象とした事例研究である。近年、まちづくり活動への積極的な市民参加が求められる一方で、参加者の固定化などが問題とされている。本研究では、新しい概念を用いたまちづくり活動がもたらす「新鮮味」による新たな参加に着目した。新概念がもたらす「新鮮味」は、参加層の固定化指摘されるまちづくり活動に、地域内外からの新たな参加をもたらし、活動内の多様性を向上させた。一方で、新しい概念の導入による参加者の混乱や行政組織内での理解不足といった課題も明らかとなった。長期的な視野に立ち、地域における停滞期などを見極めた上で活動を新概念で刷新することは、新鮮味を失ったまちづくりに新しい風を送り込み、新たな参加を獲得する方策としての可能性を持つものである。

  • 岐阜県飛騨市での施策に着目して
    関根 仁美, 武田 裕之, 加賀 有津子
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 698-705
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、関係人口と地域とが良好で持続可能な関係を築くことを目的とした行政施策の在り方について検討するため、飛騨市が実施する「ヒダスケ!-飛騨市の関係案内所-」を対象とし、地域事業者が関係人口を受け入れる実態や活動継続に至るプロセスを明らかにした。その結果、以下の3点を明らかにした。1)ヒダスケ!は関係人口が地域の人材不足を解消する活動を支援し、その活動内容は多様且つ市内の広範囲で実施され、規模は年々拡大している。2)地域事業者が継続的に関係人口の受け入れるに至るまでには4つの段階があり、ヒダスケ!は第1,2期への支援に注力していた。3) プログラムの質向上や関係人口のよそ者効果を目指すためには、第3,4期への支援が必要である。

  • 生野区の小学校を対象にして
    久保田 夏樹, 阿部 大輔
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 706-713
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究は、大阪市の小学校廃校後の跡地利用プロセスを対象にしている。小学校の跡地活用は、大阪市のまちづくり計画の中で行われてきた。そのため、地域活性化を目的とした活用が多い。また、校舎保存の議論は反映が難しいことが明らかになった。地域住民の参加の機会や方法に着目する。住民アンケートや住民説明会を実施しているケースが多い。さらに、議論の機会が少なく、参加の対象者も限定されている。

  • 茨城県つくば市竹園西広場公園のボランティア活動を対象として
    大森 聡, 藤井 さやか
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 714-721
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、竹園広場公園のボランティア活動「つくばイクシバ!」を対象に、隣接するマンションと一体的に再整備が行われた街区公園における管理運営の事例に関して調査を行った。調査対象地の管理運営の背景や実態、仕組みを明らかにすることで、公有空間と民有空間の再整備と維持管理の流れ全体における官民連携の在り方を検討することを目的とした。主に文献調査や関係者へのヒアリングから、開発事業者主導の団体設立や地元企業主導のその後の発展を通じて、様々な地元企業や住民が活動に関わってきたことがわかった。公園の規模が小さいにもかかわらず、継続的に活動の展開と地域主体の巻き込みがなされ、管理運営や地域交流の質は向上しているが、管理運営活動への参加者が限られていることが課題である。

  • 新しい東北モデル事業を事例として
    後藤 純, 矢島 里紗, 手塚 悠希, 似内 遼一, 新 雅史
    原稿種別: 論説・報告
    2024 年 59 巻 3 号 p. 722-729
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究は、岩手県釜石市・大槌町エリアにおける、住民主体による地域資源を活用したコミュニティビジネスに着目し、復興まちづくりとしての成果を明らかにし、地域に根ざした復興の可能性を考察することを目的とする。コミュニティビジネスを通じた復興まちづくりの成果については、地域資源の利活用、多様な人材活用や人材育成、外部団体との連携、活動拠点の形成の4点に着目して分析を行う。事例は、新しい東北モデル事業に選定されたプロジェクトの中から、住民主体のコミュニティビジネスである5件(4団体)を対象とした。研究の結果、発災直後の復興まちづくりは、防潮堤の整備、高台移転、災害公営住宅の建設と緊急性の高い基盤整備に、復興のリソース(資金や人材)が集中していた。一方で、本研究の調査によれば、住民主導のコミュニティビジネスが、ハード事業とは別の動きであるが、新しい東北モデル事業(主として補助金施策)により進められている。その成果は多く、仮設期の段階から地域資源を活用し人材を育て、外部とのネットワークを構築し、イベント等アウトリーチで地元を盛り上げて、コミュニティの拠点へと成長していることが分かった。

  • 鈴木 雅智, 浅見 泰司
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 730-736
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    中古マンション売買データにおける修繕積立金額の情報を用いて、修繕積立金の水準と経年減価との関係を分析し、次の傾向が明らかとなった。①修繕積立金は築10年前後までは低い水準に抑えられており、その後、適切な水準に引き上げられる物件とそうでない物件に分かれる。②積立強度の低いマンションは、築浅時点では価格の下落はみられないものの、大規模修繕が適切に実施できないことが露見する築25-34年にかけて大きく価格が下落する。③積立強度を高めたマンションの資産価値は市場で十分に評価されておらず、築10年以降は概ね一貫して積立強度を高める便益は費用を下回るため、長期的には十分に積立強度を高めるインセンティブがあるとはいえない。居住・売却意向の異なる区分所有者が適切な修繕積立を行うインセンティブを有するためには、積立強度が高い・低いマンション間で築浅時点から継続して価格差が生じることが望ましい。適切な積立ができていないマンションでは、将来的に大規模修繕が実施できず資産価値が下落するという弊害が社会に認知されるとともに、修繕積立金額を含めた管理水準の情報が購入検討者に伝わる必要があることが示唆された。

  • 開発事業者主体から住民主体に移行したN住宅地を対象に
    齊藤 広子, 田中 里奈
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 737-743
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    戸建て住宅地で住民主体でエリアマネジメントを実践するための課題を明らかにした。景観協定は、専門家の支援がなく、景観協定の正しい理解が得られず、住民間に誤解が生じている。植栽の手入れも行き届いていないことが課題となっている。よって、景観協定の運営を住民と共同でできる運営体制の構築と、植栽の共同維持管理体制の構築が必要である。また、住民主体で管理を行うために、開発事業者による入居前の説明や書類の提供とともに、入居後は管理の理解を促す場と機会の提供として、総会への参加を促進する等の居住者の管理の関心を高める機会が継続的に必要である。

  • 武藤 勝一, 荒木 笙子, 姥浦 道生
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 744-751
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    複数の市町村で広域生活圏・経済圏が形成されている場合、共同連携して広域的な立地適正化の方針を策定する地域が出てきている。本研究は、広域立適をめぐる広域レベル・自治体レベルの計画間の関係性を、それぞれ広域MP、立適との関係を通じて明らかにすることにより、計画制度体系における広域立適のあり方を考察することを目的とした。その結果、以下の2点を明らかにした。第一に、多様な広域立適が策定されており、全体としては現状を追認するだけの計画になっていたが、逆に戦略性の強いものも見られた点。第二に、広域立適が広域MPと立適や事業を「トップダウン型」と「ボトムアップ型」に結ぶ役割を果たしていた点である。

  • 千葉県柏市柏ビレジを対象として
    佐藤 耀, 根岸 龍宏, 藤井 さやか
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 752-759
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    高経年化した計画的戸建住宅地では、住民ニーズの多様化への対応と住環境・景観の継承の両立が求められている。本研究では、駐車場シェアを通じた計画的戸建住宅地における空きスペースの活用可能性を検討した。ケーススタディ対象地として千葉県柏市柏ビレジを選定し、借り手、貸し手双方の視点から、駐車を目的とした駐車場シェア、駐車以外を目的とした駐車場シェアの利用意向について住民へのアンケート調査を実施し、分析を行った。その結果、駐車場シェアの導入により以下の3つの住民ニーズに対応できる可能性があることが明らかとなった。(1)住宅の建て替え・増改築なしに駐車場ニーズに対応 (2)路上駐車や介護等の一時的な駐車ニーズへの対応 (3)キッチンカーによる飲食店ニーズへの対応

  • 学芸大学駅高架下をとりまく複数主体の語りから
    上原 祐輝, 後藤 春彦, 吉江 俊, 林 書嫻
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 760-767
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    2021年から東急東横線学芸大学駅の高架下にて行われている「みんなでつくる学大高架下プロジェクト」には、「運営チーム」と「学大ローカルプロダクション」という2つの主体が参画している。本研究では現在進行中の学大PJを対象として、これに関わる運営チームとLPがどのように活動を行い周辺地域と関係性を築いているかをヒアリングを通して明らかにする。また、①特定の地域に根付きつつ、②都市計画とは異なるそれぞれの専門性を活かしながら都市や地域の計画に参画し、③ボランティアではなくそれによって報酬を得ている人びとのことを「ローカリスト(Localist)」と呼称する。学大PJは鉄道会社が中心となる事業ではあるが、多様な専門性や職能をもつ地元住民が各々の方法で計画に参画している点が特徴的である。本稿は彼らの活動の実態把握を通して、「ローカリストの参画による地域づくり」の可能性と課題を論じる。ローカリストの参画は、彼ら自身にとって地域に対する当事者性を高めることが確認された。一方で施設開業後にどのようにローカリストの関係性を維持するかが課題として挙げられた。

  • -福島県会津若松市を事例として-
    重枝 隆太, 竹内 健人, 荒木 笙子, 姥浦 道生
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 768-774
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    この研究は、ハザードマップの公表、最大規模改訂そして重要事項説明への追加による建築・開発動向の変化を分析し、ハザードマップが住宅開発動向に与える影響と課題を明らかにするものである。本研究は、浸水深別あるいは浸水深変化量毎の建築・開発件数の変化の統計的な分析およびその要因を明らかにするケーススタディによって構成されている。研究の結果、ハザードマップの公表以降、リスクの高い区域において建築・開発が減少した区域および時期は限定的であることが明らかになった。ハザードマップが建築・開発動向に与える影響はハザードマップの作成、最大規模改訂および重要事項説明への追加いずれの段階においても限定的であり、住民や開発業者に対するハザードマップの情報提供のあり方の是正が求められる。

  • 条例廃止による人口推移・開発の動向への影響に着目して
    大畑 友紀, 鄒 孟龍, 氏原 岳人, 樋口 輝久
    原稿種別: 論説・報告
    2024 年 59 巻 3 号 p. 775-782
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    開発許可制度は、市街化区域と市街化調整区域を分ける区域区分を担保し、良好かつ安全な市街地の形成と無秩序な市街化の防止を目的とした制度である。近年、3411条例により本来市街化を抑制すべきである市街地調整区域における市街化が進行したこと等を理由に、当該条例の廃止や条例の対象範囲を縮小する自治体がある。本研究では全国の自治体における当該条例の制定・廃止状況を網羅的に整理した。中でも当該条例を廃止した自治体を対象とした調査をもとに、廃止前の条例の内容、廃止時の経過措置の状況、廃止後の代替制度を把握した。さらに、人口推移と開発許可の実績を分析し、3411条例の制定・廃止による人口や開発動向への影響を明らかにした。

  • 類似する人口変動を先行的に経験した自治体の定量的把握
    清水 宏樹
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 783-790
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究では各自治体が都市政策を検討する際,将来的な人口変動を既に経験している自治体を把握することで,自らの将来像に近い自治体の先行事例を見出すことができ,具体的な効果や課題把握に有用な参考情報を得ることができるのではないかという観点から、過去と将来の人口変動パターンを比較する手法を提案する。具体的には、1990年から2020年までの過去30年間の人口データと2020年から2050年までの今後30年間の予測データを時系列横断的に統合し、市区町村レベルで人口変動パターンの類似性を比較可能とした。また、クラスター分析により、人口規模や人口増減率に基づいて多様な人口変動パターンを抽出し、時間軸をずらすことで類似性の高い都市群の存在を実証的に示した。

  • 空間的広がりと総関与時間を踏まえた活動内容から
    森 成諒, 松場 拓海, 谷口 守
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 791-797
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    過疎地域活性化の切り札として「関係人口」という概念が注目されているが、その多くは居住地に近い大都市近郊を訪れている。移動には自家用車を利用するケースが多いが、目的地までの距離や移動時間を考慮し、他の交通手段も検討する必要がある。本研究では、代表交通手段別に地域との関わりをめぐる活動内容を明らかにした。その結果、主な交通手段によって、滞在時間や訪問頻度が異なり、訪問先での活動内容も異なることがわかった。また、遠方を訪問する航空機利用者は、地域社会への貢献活動が少ないことがわかった。

  • 齊藤 充弘
    原稿種別: 論説・報告
    2024 年 59 巻 3 号 p. 798-805
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究は,原発事故からの復旧・復興期とその後の成長・発展期に着目して,避難者等を受け入れたと定義する4市町を対象として,人口構造および都市構造変化を明らかにすることを目的とする。性別,年齢5歳階級別の人口および産業大分類別の就業者数および事業所数に着目して事故発生前からの経年分析をすると,復旧・復興に関係する需要に伴なう部門・項目の人口が増加したり減少したりしており,一時的な変化をしていることがわかった。また小地域単位でみると,複数の人口変化パターンが対象地域内にモザイク状に分布していることがわかった。短期間で流入した人口は短期間で流出して減少しており,それに代わり同じ市町内の他の地域において人口が増加する形となっている。その結果,未利用地に建設された住宅が解体されて再び未利用地になっていたり,新たに未利用地に集合住宅や戸建住宅,復興公営住宅を建設して人口が増加している地域もあり,交通体系や都市施設が未整備なまま住宅建設が先行している。今後の人口減少期においては,将来にかけての定住を見据えて人口や事業所の集積を進めながら,指標間の関係性を構築するようなまちづくりへの取り組みが求められる。

  • 丸岡 陽, 松川 寿也
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 806-813
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    人口減少によるDIDの消滅が進む今日、準DIDはDIDを補完する役割が期待される一方、その実態はほとんど解明されていない。本研究では、準DIDの空間的実態及び土地利用計画立案における有用性と課題を明らかにすることを目的とする。全国の準DID385地区を類型化した結果、準DIDは多様な人口密度構造を持ち、その要因として形成過程、土地利用規制、場所的特性との関連が見られた。特に典型的な準DIDとして、市街化区域にある高密な住宅団地や、非線引き用途地域にある非常に低密度な旧DIDの拠点的地域が挙げられる。また、人口減少都市の準DIDの事例調査では、過去の市街化や制度運用の経緯によって土地利用実態が異なることを明らかにした。これらより、(1)準DIDは都市的地域の可視化の解像度向上に寄与し、国土管理等の点で有効と考えられること、(2)その一方で準DIDの境界線だけでは都市的地域と非都市的地域を明確に区分できず、政策的判断の直接的な根拠にはなり難いことを提示した。

  • 八王子市の介護事業所を対象として
    山口 行介, 饗庭 伸
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 814-820
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、職員が就労先の介護事業所を決めるにあたって通勤利便性を重視している点に着目し、通勤手段類型と立地類型から、職員確保にあたって立地が課題となっている介護事業所を明らかにすることを目的とした。そして、以下の2点が明らかとなった。 1)職員潜在人口が多く通勤距離の利便性が高く、駅から近いく公共交通の利便性の高い地域に介護事業所は多く立地している。そのような地域では、職員は鉄道や徒歩、自転車と自動車を組み合わせて通勤し、狭域から職員が確保され、立地が職員確保にあたって課題となっている認識は少ない。 2)職員潜在人口が少なく通勤距離の利便性が低く、駅から遠く公共交通の利便性の低い地域では介護事業所の立地が少ない。そのような地域では職員は主に自動車により通勤し、通勤圏は広域となり、立地が職員確保にあたって課題となっている。

  • 地方都市・四国4市を対象に
    池 豪介, 有賀 敏典
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 821-827
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,四国県庁所在4市を対象に,高齢者の楽しみや生きがいを創出すると考えられる生涯学習施設に着目し,2050年の人口分布を考慮した高齢者の文化・体育活動へのアクセス性について6つのシナリオを用いて,GISによる空間分析を行うことで評価した.その結果,施設面としては,現状の文化・体育施設を廃止して小中学校に文化・体育活動が行える機能を整備する場合,現状と同等以上の高齢者の文化・体育活動へのアクセス性が確保できることがわかった.交通面では,鉄道駅・バス停に徒歩でアクセスできる高齢者が多く存在することから,高齢者の最寄りの鉄道駅・バス停と文化・体育施設を結ぶ公共交通ネットワークを維持できれば,文化・体育活動にアクセスできる高齢者を文化施設で10~25%,体育施設で30%近く増やすことができることを示した.また,4市の地域性にも着目し,各地域で重点的に行うべき施策を明らかにした.

  • 金 炅敏, 松橋 啓介, 石河 正寛
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 828-835
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    1980年から2020年までの9時点における全国の市町村別、年齢5歳階級別の人口データを用いて、ベイズ型APC分析を適用した。この分析を通じて、各市町村の人口変動を年齢、時代、コーホートの効果に分離し、特に大学進学の20-24歳、高校進学の15-19歳、就業開始の25-29歳の年齢層に焦点を当て、教育や就労が人口に与える影響を分析した。分析の結果、高校進学期の年齢効果がプラスであっても、それが後の人口維持には寄与しない一方で、就業時のプラスの年齢効果は人口維持に有効であることが示された。さらに、20-24歳で人口が減少する市町村においても、転職を含む移住が生じるケースが観察された。特に多数の小規模市町村では転職を含む移住のタイミングが遅い傾向があり、一部の大都市では転職を含む移住が有意に起こらず、厳しい人口減少が続いている例外も確認された。この研究により、教育や就労が地域の人口動態に与える影響についての新たな知見が得られ、地方創生や人口政策における戦略的な対策の参考になることが期待される。

  • 歩いていくx-minute cityの実現に向けて
    室岡 太一, 久米山 幹太, 谷口 守
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 836-843
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    誰もが自宅から「歩いていける」都市構造であるx-minute cityの形成を通して,脱クルマ社会の実現が目指されている.ただし,施設が近隣に立地していても個人の嗜好や体力的な要因により,自動車を利用することが想定される.そこで本研究では,「歩いていく」x-minute cityに転換していくための課題を明らかにするため,個人の主観に基づいて歩いていける範囲内に施設が立地する人を対象に,交通行動の決定要因を分析した.その結果,自宅から徒歩11分以上の箇所に施設が立地している人は自動車を利用する傾向が明らかになり,パリやポートランドで設定されている15分や20分といった圏域では人々は自動車を選択する可能性が示唆された.

  • 公園緑地ネットワークの中心性指標による評価分析
    青木 智男, 福山 敬
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 844-851
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    近年,コンパクトシティの推進とともに,ウォーカブルシティなど都市内を歩いて暮らせるまちづくりがすすめられており,移動を楽しむという視点から,都市中心地の居住環境の改善が試みられている.そのため,都市の居住環境を形成する重要な施設の1つである公園緑地も,この移動して楽しむという視点からの評価が必要と考える.そのためには公園緑地全体が形成する公園緑地の分布を評価する必要があると考える.本研究では,居住地に存在する複数の公園緑地の配置や分布の全体が居住地に与える影響を分析する.そのために,公園緑地からなるネットワークを考えその特性の1つである中心性指標を算出する.そして,この指標を用いて,公園緑地ネットワークの特性が住宅地かや人口といった居住地の質の代理指標に与える影響を分析する.

  • 持木 克之, 籠 義樹
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 852-859
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    水道事業は公営企業としての採算が改善されてきているが、今後の人口減少は経営に再び困難を生じさせ得る大きな課題となる。現在検討が進められている広域化は事業体の規模拡大等による効率化が期待される反面、地区の状況に応じたきめの細かい対策がおざなりになる危険性を孕んでいる。本研究では、東京圏の水道供給に要する地区別のコストに着目した。決算データ等を用いて水道事業体のコストの推計式を、事業体の規模別に資本費、支払利息、設備の運転費用、その他費用に分けた上で求めた。推計式を活用して将来の地区別のコストを推計し、2050年の地区別コストについて次の結果を得た。2020年比で料金値上げの許容限度である20%以上の増加となる地区が約半数となった。加えて、2020年の東京圏全体の平均コスト比で2倍を超える地区が全体の約4割まで増え、その地区は都市の中心に向かって広がることを示した。この結果から、東京圏においてもコストが割高な地区の増加により、水道事業の持続可能性に影響が生じ、広域化の課題となり得ることを示した。

  • 個人の主観によるx-minute cityの課題と展望
    松浦 海斗, 室岡 太一, 宗 健, 谷口 守
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 860-867
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    徒歩中心で日常生活が完結可能な生活圏理念であるx-minute cityが世界的な注目を集めているが,自宅の徒歩圏にある生活サービス施設の多様性と住民の居住地に対する満足度の関係性は明らかにされていない.そこで,個人の主観による「自宅から歩いて行ける範囲」に立地している施設の組み合わせに基づき,居住地に対する満足度の要因分析を行った.その結果,徒歩圏に多様な施設が立地している居住地において,自動車を使わない住民の方が満足度が高い傾向がみられ,x-minute city理念を定量的に支持することが示された.また,徒歩圏に立地する施設が限定されている居住地であっても,公共交通によりアクセスが確保されていることで満足度を高めることが示唆された.

  • 五島 寧
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 868-875
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究は,後藤新平が関与した台湾や満鉄附属地の市街地の計画について,日本の近代都市計画の源流であるかを考察した。台北市区改正は衛生施設整備に過ぎず,郊外を含むエリアの都市計画には日本からの都市計画法の移植が必要になった。 長春市街地計画への後藤の関与は、街路幅員拡幅を指示したのみであった。後年の満洲国の都邑計画は、その計画を尊重せず、継承しなかった。 本研究は,台湾・満洲の後藤の関与した市街地建設は,日本の近代都市計画の源流ではないと結論した。

  • ベルリン市とフランクフルト市の事例調査を含めた基礎的研究
    太田 尚孝
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 876-883
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    近年、世界中の大都市では高層住宅の建設が進んでいる。本研究は、ドイツにおける高層住宅開発事業への都市計画的対応の現状と課題を明らかにする。不動産市場の動向調査や、ベルリン及びフランクフルトの行政担当者への2023年7月のヒアリング調査により、以下の3点が明らかになった。1)高層住宅開発事業における都市計画の役割の大きさである。2)都心での社会的公平性を保つ事業の仕組みは容易ではない。3)ドイツでは都心居住と高層住宅が同義ではない。本研究は準備的調査であり、今後の詳細調査が求められる。

  • 告示時点と完成時点の比較分析
    中川 恵, 杉本 達宏, 中井 祐
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 59 巻 3 号 p. 884-891
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究は、帝都復興小公園事業において、各地の状況・条件を個別公園の詳細計画に落とし込む過程で、実務者が目指した理想の小公園はどの程度実現したのか、また計画内容は告示以降にどのように変化したのかを明らかにすることを目的とする。復興小公園の理想形は、面積条件(標準900坪、500、600~1000坪程度)、方位条件(小学校敷地の南、東/西、北)、隣接条件(一体型、道挟み型)の三要件に整理できる。告示時点の小公園位置を『大東京三千分一地図 区画整理明細地図』を用いて復元し、各小公園の三要件について告示時点と完成時点を比較した。その結果、告示以降の計画変更は、面積条件は維持/減少しており理想形から遠ざかる変更がなされている一方、方位条件は南あるいは東/西への変化、隣接条件は一体型への変化が多く、理想形に近づける変更が行われたことが分かった。

feedback
Top