本研究では,糖尿病治療に使用されるインスリン自己注射用専用針の後針に焦点を当て,その基礎性能を多角的に評価した.後針は注射時の薬剤注入の確実性に関わる重要な要素であるが,これまで十分に検討されていなかった.本研究の目的は,後針の性能を明らかにし,臨床での安全かつ信頼性の高い使用法を提案することである.後針の評価に際しては,寸法測定,強度測定 (たわみ測定),針管破断までの最大回転トルク測定,刺通抵抗測定,ゴム栓の弾性測定,および斜めに装着した際の刺針状態の観察を行った.結果は,後針の強度測定では,太くテーパー構造を持つ針が最も高い強度を示した (p<0.005).また,最大回転トルク測定では,テーパー針が他の針に比べて有意に高いトルク値を示し,破断しにくいことが確認された (p<0.005).刺通抵抗測定では,抵抗チャートに顕著な違いが見られ,特にBDマイクロファインプロTM (エムベクタ合同会社:BD針) はゴム栓貫通時に大きな抵抗のピークが確認され,臨床使用時の挿入困難や破断のリスクが示唆された.また,ゴム栓への刺針状態において,後針を斜めに装着した場合,ゴム栓未貫通や針の破断が発生しやすいことが明らかとなった.アキュファイン® (ロシュDCジャパン:AC針) はゴム栓を貫通せずに埋没する頻度が高く,BD針は破断しやすい結果を示した.これらの結果から,注射針の設計や製造においては,寸法,強度,刺通抵抗,回転トルク,ゴム栓との相互作用など,多角的な特性評価が不可欠であり,臨床での適正使用の確保に向けた説明が重要であることが示された.
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