くすりと糖尿病
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原著論文
  • 日本での検討への示唆
    兼安 貴子, 伊藤 かおる, 下妻 晃二郎
    2024 年 13 巻 2 号 p. 110-125
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2025/02/13
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    糖尿病有痛性神経障害(PDN:painful diabetic neuropathy)は,糖尿病患者の3割に見られ,QOL(quality-of-life)を低下させるが,積極介入には財政的な課題も付随し,介入にはより費用対効果に優れた薬剤選択が求められる.本研究では諸外国におけるPDN治療の費用効果分析の結果と課題を整理し,国内で実施する費用対効果分析の方向性を考察することを目的にスコーピングレビューを行った.検索にはMEDLINEとEmbase用い,2005年から2020年までの829報から10報を選択して評価を行った.その結果,PDN治療の費用効果分析では着目する薬剤の特性(疼痛緩和の定義や有害事象など)により分析モデルの構造や効用値の設定が異なり,結果も異なっていた.疼痛強度に基づく費用効果分析ではプレガバリンの優位性が示されたが,疼痛以外の要素のQOLへの影響や長期に渡るPDN治療の多様性は反映されていなかった.今後の費用効果分析には,分析を踏まえた臨床試験で,介入効果や有害事象,付随する効用値やQOLを把握し,日常診療の実態把握の拡充とその過程の透明性確保が望まれる.

  • 藤井 博之, 森 保道
    2024 年 13 巻 2 号 p. 126-131
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2025/02/13
    ジャーナル 認証あり

    厚生労働省は製薬企業に対し医薬品リスク管理計画(以下,RMP)の策定を求めている.製薬企業は医薬品が有するリスクの最小化を視野に入れRMPで規定された患者向け資材を作成することがある.RMPの実施は医薬品の承認条件であるため,当院薬剤部においても関連の資材を積極的に活用しながら,適正使用のための服薬支援に努めている.近年は糖尿病を有する患者のスティグマが注目されており,医療従事者から患者へ発信する言葉にも十分な配慮が求められている.今回の調査で,RMPで規定された患者向け資材(対象は糖尿病治療薬)の66.7%において1語以上のスティグマを生じやすい用語が掲載されており,2種類以上の該当用語が掲載されていた資材は50%に及んでいた.医療従事者が発する言葉と,患者向け資材で使用される用語に乖離のないことが望ましいと考えられるため,我々医療従事者は製薬企業に対して,より一層の連携とアプローチを通じ双方向に理解を深め,糖尿病を有する患者のスティグマの撲滅に向けて一歩一歩取り組みを進めていく必要性が見出された.本報告はRMPで規定された患者向け資材をスティグマという観点で調査した初めての報告である.

  • 前田 守, 長谷川 佳孝, 月岡 良太, 大石 美也
    2024 年 13 巻 2 号 p. 132-147
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2025/02/13
    ジャーナル 認証あり

    目的:2型糖尿病の薬物治療では,服薬アドヒアランスの維持・向上が重要であり,かかりつけ薬剤師の服薬一元管理による服薬アドヒアランス向上が期待され,感染症流行下においても同様である.本研究は,新型コロナウイルス感染症の流行前,流行後における糖尿病患者の服薬アドヒアランスに対するかかりつけ薬剤師制度の効果を明らかにすることを目的とした.方法:当グループの保険薬局628店舗の匿名加工されたレセプトデータを用い,ジペプチジルペプチダーゼ (DPP)-4阻害薬およびメトホルミンを服用する患者を対象に,COVID-19流行前と流行1年目および2年目の3段階の服薬継続率(ギャップ,中断,継続)と薬剤保持率(不良,良好,過剰)を評価し,かかりつけ薬剤師群と非かかりつけ薬剤師群で比較した.結果:かかりつけ薬剤師群の服薬遵守(服薬継続:継続,薬剤保持状況:良好)が良好な患者の割合のオッズ比は,非かかりつけ薬剤師群に対して流行前では有意であった(1.612)が,流行1年目(1.353および流行2年目(1.304)は有意ではなかった.考察:かかりつけ機能の発揮により,DPP-4阻害薬とメトホルミンの服薬アドヒアランスは向上するが,新型コロナウイルス感染症流行下においてはその効果が低下することが示唆された.したがって,感染症流行時でも服薬アドヒアランスを向上させるためには,かかりつけ薬剤師が対面のみならず遠隔でも役割を果たせる環境を整えることが重要と考える.

  • 泉 亮介, 小林 庸子, 炭谷 由計, 吉田 正, 安田 和基, 石田 均
    2024 年 13 巻 2 号 p. 148-154
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2025/02/13
    ジャーナル 認証あり

    教育入院を通して血糖コントロールが改善しても,再度悪化する患者は少なくない.糖尿病患者の服薬アドヒアランスは,治療の実行と継続に重要であり,またQOLと正相関すると考えられている.一方で,教育入院患者の,退院後の血糖コントロールと服薬アドヒアランスが関連するかについては,これまで明らかにされていない.そこで我々は,当院に教育入院した2型糖尿病患者へアンケート調査を行い,服薬アドヒアランスが良好な患者および低下している患者における,退院後のHbA1cの推移について比較検討した.その結果,教育入院による血糖コントロールの改善効果は,服薬アドヒアランスの低い患者においても良好な患者と同等であり,その維持には差がなかった.服薬アドヒアランスが低い患者において,より早期に再度悪化する傾向があったことから,良好な血糖コントロールの長期維持には,退院後6か月以内の介入が有効である可能性が示唆された.

  • 各種基礎性能試験等による評価
    朝倉 俊成
    2024 年 13 巻 2 号 p. 155-165
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2025/02/13
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,糖尿病治療に使用されるインスリン自己注射用専用針の後針に焦点を当て,その基礎性能を多角的に評価した.後針は注射時の薬剤注入の確実性に関わる重要な要素であるが,これまで十分に検討されていなかった.本研究の目的は,後針の性能を明らかにし,臨床での安全かつ信頼性の高い使用法を提案することである.後針の評価に際しては,寸法測定,強度測定 (たわみ測定),針管破断までの最大回転トルク測定,刺通抵抗測定,ゴム栓の弾性測定,および斜めに装着した際の刺針状態の観察を行った.結果は,後針の強度測定では,太くテーパー構造を持つ針が最も高い強度を示した (p<0.005).また,最大回転トルク測定では,テーパー針が他の針に比べて有意に高いトルク値を示し,破断しにくいことが確認された (p<0.005).刺通抵抗測定では,抵抗チャートに顕著な違いが見られ,特にBDマイクロファインプロTM (エムベクタ合同会社:BD針) はゴム栓貫通時に大きな抵抗のピークが確認され,臨床使用時の挿入困難や破断のリスクが示唆された.また,ゴム栓への刺針状態において,後針を斜めに装着した場合,ゴム栓未貫通や針の破断が発生しやすいことが明らかとなった.アキュファイン® (ロシュDCジャパン:AC針) はゴム栓を貫通せずに埋没する頻度が高く,BD針は破断しやすい結果を示した.これらの結果から,注射針の設計や製造においては,寸法,強度,刺通抵抗,回転トルク,ゴム栓との相互作用など,多角的な特性評価が不可欠であり,臨床での適正使用の確保に向けた説明が重要であることが示された.

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