大学体育スポーツ学研究
Online ISSN : 2434-7957
16 巻
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原著論文
  • 金谷 麻理子, 高木 英樹
    2019 年 16 巻 p. 3-12
    発行日: 2019年
    公開日: 2022/09/28
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    日本における大学のカリキュラムは,専門と教養という2種類の科目によって成立している。本研究の主題となる「大学体育」は,教養科目における体育実技を意味している。まず研究の背景として,大学体育の現状が教育目標や学習内容に基づいて確認され,これまで大学体育には,各大学の教育理念や社会のニーズによって多様な形態があったということ,また,この特徴が存在意義の“不安定さ”という大学体育に内在する問題点の原因の一つであることが確認された。そこで,本研究の目的は,本来の体育の学習活動に共通する運動学習そのものに内在している教育価値の追求こそが大学で体育を教科とする根拠となりうる,ということを論証することとした。次に,体育における運動学習の教育的価値が人間の運動学習の特徴に基づいていることが確認された。それによると,体育では,運動学習を通して新しい動き方を身につけ,さらにその身体を自由に操れるようになることを通して学習者は新しい“世界”との関係を築いていくこと,運動学習のプロセスには5段階の位相があること;1)原志向位相 2)探索位相 3)偶発位相 4)形態化位相 5)自在位相,このプロセスでは,運動の自己観察と他者観察,そしてそれらの能力に基づく運動を共感する能力のレベルが運動学習の成否に影響すること,さらには,運動感覚の共感を通しての指導者と学習者の関係性の構築が教育的に重要な意味をもつということが確認された。上記の内容に基づくと,大学体育では各大学の教育方針にしたがって特定のスポーツ種目を各学期あるいは年間を通して継続的に学ぶことができる。この授業形態によって,学習者は高校までの保健体育科目とは異なり,既に習得した運動技能を活用して,特定のスポーツ技術を習熟させることができる。言い換えれば,学習者は意識的な運動学習によってのみ達成できる以下のプロセスを経験できる。(「形態統覚化」から上達のステップとしての「コツの分裂危機」を経由して「形態洗練化」「わざ幅志向」そして「自在位相」へと向かう。)そして,最終的に学習者はこれらの体験を通して,人間特有の運動学習方法を習得し,さらには人間関係の構築に有効なコミュニケーション能力の基礎を獲得できる可能性がある。

事例報告
  • 中原 雄一, 西脇 雅人, 藤本 敏彦, 池田 孝博
    2019 年 16 巻 p. 13-18
    発行日: 2019年
    公開日: 2022/09/28
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    目的:日本の大学では、実技と講義を含む体育の授業を受講する事は、1991年まで必修であった。しかし、現在のカリキュラムでは、体育は必修とは限らない。その上、大学における体育の講義は、実技よりも評価が低く保たれており、実技と比較して講義は重要視されていない。実技と合わせて講義を受講する事は、教育の目的として一般的には有用であると考えられるが、講義受講における教育的効果の向上は明らかでない。本研究の目的は、体育における講義受講による教育の違いが、健康と生活習慣に影響を及ぼすかどうかについて検討する事であった。

    方法:この研究の対象者は、体育実技を受講した大学1年生であった。授業は前期15回、後期15回から成っていた。調査は、DIHAL.2とIPAQを用いて3回(前期の初回と最終回、後期の最終回)行われた。対象者は、講義を受講しているかどうかによって2つのグループに分け、比較された。

    結果:DIHAL.2の結果、「食事」において交互作用がみられ、講義を受講しなかったグループは低下を示したが、講義を受講したグループでは2回目から3回目に低下はみられなかった。IPAQの結果は、グループ間で違いはみられなかった。

    結論:体育における講義受講は、身体活動量の増加にはつながらなかった。しかし、体育講義の受講は健康な生活習慣、特に食生活の改善に効果的であることが示された。講義とともに実技の授業を受講する事は、体育の教育効果を高めると考えられる。

研究資料
  • 勝亦 陽一
    2019 年 16 巻 p. 19-26
    発行日: 2019年
    公開日: 2022/09/28
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】本研究は,大学体育・スポーツ実技科目の履修者を対象に,運動有能感における相対的年齢効果の性差を明らかにすることを目的とした.【方法】対象者は,大学生2805名(男子1327名および女子1478名)であり,性別(男性および女性),履修区分(教員免許状取得希望者,その他の選択履修者)および生まれ月別(4-6月,7-9月,10-12月,1-3月)に基づき分けた.調査対象者には,運動有能感について,「非常にそう思う」(5点)から「まったくそう思わない」(1点)の5段階で評価させた.運動有能感は,「身体的有能さの認知」,「統制感」および「受容感」の3因子に分けて平均値を算出した.【結果および考察】運動有能感に関する各因子の得点について3要因(性別×履修区分×生まれ月)の分散分析を行ったところ,「身体的有能さの認知」の「性別×生まれ月」において1次の交互作用が示された.多重比較の結果,女子では,履修区分に関わらず,1-3月生まれが4 -6月,7 -9月,10 -12月生まれよりも有意に低値であった(効果量小).その他の因子には生まれ月に関する交互作用および主効果は示されなかった.これらの結果は,対象とした大学生では,運動能力および運動技能に対する肯定的認知に関する相対的年齢効果に性差があることを示している.本研究の結果は,大学体育・スポーツ科目を履修した学生を指導する上で役に立つ知見と考えられる.【大学体育・スポーツへの示唆】大学体育・スポーツ実技履修者の「身体的有能さの認知」を高める指導を行う場合,性別および生まれ月によって異なるアプローチが必要と考えられる.

  • 川戸 湧也, 長谷川 悦示
    2019 年 16 巻 p. 27-42
    発行日: 2019年
    公開日: 2022/09/28
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    目的:本研究は,大学体育における柔道授業の実施状況と授業設計について実態を明らかにすることと,授業実施上の課題について整理することを目的とした.

    方法:本研究では(1)シラバス分析と(2)アンケート調査を実施した.シラバスの分析では,日本の四年制大学(n=750)を対象とした.このうち柔道を開講していた大学は91大学であった.さらにそのうち49大学が教員養成課程における指導法の専門科目であり,46大学が一般学生を対象とした教養科目であった.また,このうち4つの大学ではいずれの授業も開講していた.大学のウェブサイトに掲載されているシラバスの中から柔道に関係する部分を抽出して,授業設計法(目標,内容・方法,評価)について分析整理した.授業担当者が判明した56大学に対してWEB アンケート調査を実施した.回答のあった14大学はいずれも専門体育で,回答から授業者と受講者の特徴と授業設計法について分析した.

    結果:91大学に対して実施したシラバス分析の結果,柔道授業の目標について,「運動技能の習得・向上」が81件(52.6%)で最も多かった.授業の内容・方法について,中学校学習指導要領の例示を中心に設定されていた.評価について,「平常点」による評価が71件(42.8%)で最も多く採用されていた.アンケート調査の結果,調査の対象とした14大学のすべての授業者は,柔道の有段者であり教員免許を所持している“柔道の専門家”であった.授業の目標ついて,「柔道精神の理解」が最も多く目標に採用されていた.次いで,「指導法の習得」の得点が高かった.内容・方法について,シラバス分析と同様,学習指導要領の例示を中心に設定されていた.評価について,「実技テスト」がすべての授業で採用されていた.また,「出席」による評価を採用している授業が2つあり,目標に対応した評価という点で課題があった.

    まとめ:本研究の結果,大学柔道授業は,目標,内容・方法,評価の3点の一貫性および整合性が必ずしも明確になっていなかった.つまり,現在の大学体育における柔道授業では,授業の質保証について十分に達成しているといえないと指摘できる.

  • 藤田 公和, 星野 秀樹, 加藤 恵子, 黒柳 淳
    2019 年 16 巻 p. 43-49
    発行日: 2019年
    公開日: 2022/09/28
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    夏季の暑熱環境悪化が指摘されているにもかかわらず、多くの大学(含む短期大学)では1年で最も暑い8月初旬まで授業が展開されている。大学生に関する熱中症の研究はこれまでにも行われているが、大学生の健康・安全を守る立場の体育・スポーツ関連教員を対象とした熱中症対策に関する調査はほとんど行われていない。そこで本研究では、大学の体育・スポーツ指導者の熱中症に関する知識の程度と実施している熱中症対策について質問紙調査を実施した。アンケートの回収数は38名、平均年齢は48.7歳であった。冷房完備のスポーツ施設があると回答したのは11名(28.9%)、設置されていないが22名(57.9%)であった。屋外のスポーツ施設(グラウンドやテニスコートなど)に日よけなどの設備が設置してあるとの回答は11名(28.9%)、設置されていないが21名(55.3%)であった。「熱中症の症状について説明できる」の質問に対して、説明できるが8名(21.1%)、大体説明できるが24名(63.2%)、あまり説明できないは6名(15.8%)であった。WBGTについてよく知っているのは6名(15.8%)、だいたい知っているが14名(36.8%)、あまり知らないが10名(26.3%)、知らないが8名(21.1%)であった。日本体育協会の「熱中症予防のための運動指針」について、よく知っているは8名(21.1%)、大体知っているは14名(36.8%)、あまり知らないは11名(28.9%)、知らないは5名(13.2%)であった。

    調査の結果、水分摂取の励行など、一定程度の熱中症対策が実施されていることがわかった。しかし「熱中症予防のための運動指針」「WBGT」など、科学的根拠を伴なった熱中症に関する情報収集を、教員自身が今後ますます進める必要のあることが指摘される。さらに施設・設備面での改善など、大学全体が総合的な熱中症対策に取り組むことが求められている。

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