大学体育スポーツ学研究
Online ISSN : 2434-7957
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原著
  • エアロビックダンスと器械運動の比較
    諏訪部 和也, 生田目 颯, 田中 光, 林田 はるみ, 伊藤 理香, 大槻 毅
    2023 年 20 巻 p. 1-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス

    体育授業は大学生のメンタルヘルスに好影響をもたらすことが期待されるが,運動種目による違いはほとんど検討されていない.また,急性及び慢性的な影響を包括的に検討した報告はない.本研究は,異なる種目(エアロビックダンス及び器械運動)の体育実技が気分に与える急性及び慢性効果を検討した.健康・スポーツ科学を専門とする学部学生(エアロビックダンス40名,器械運動34名)を対象に,毎授業前後に二次元気分尺度(TDMS),学期前後に気分プロフィール検査(POMS)を測定した.典型的な授業内容の授業において,心拍数及び主観的運動強度(RPE)を測定した.TDMSの結果から,単回授業前後では活性度,快適度,覚醒度が両種目で増大したが,活性度,快適度では増大の程度がエアロビックダンスの方が大きかった.安定度はエアロビックダンスで増大,器械運動で減少した.一方,学期前後の測定では,POMSのネガティブな気分がエアロビックダンスのみで減少した.単回授業後の安定度の増大と学期後のネガティブな気分の減少の間には有意な相関関係があり,エアロビックダンスの慢性的効果の背景に,急性的効果が関与する可能性が示唆された.以上の結果から,大学体育がメンタルヘルスに及ぼす影響には運動種目による違いがあり,エアロビックダンスはメンタルヘルスに対して急性及び慢性的に好影響を与えることが示唆された.心拍数及びRPEから測定した運動強度は両種目で同等であったことから,種目間で認められた気分に対する効果の違いは,他者とのコミュニケーションや音楽などの環境要因に起因する可能性が考えられた.

  • 体育系大学生を対象として
    大坪 俊矢, 柿山 哲治
    2023 年 20 巻 p. 13-21
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス

    〈連鎖交互跳び〉は,「体育学習の言語学習の充実」(佐伯・池田,2011)を実現できる教材として期待されている.しかし,〈連鎖交互跳び〉の指導法はまだ確立されてはいないため,教育効果が期待できる教材であるにも拘わらず授業への導入が難しいという側面もある.本研究では,「学習者が動作の同調とリズムの違いを感じる」ことができ,「両手に縄を持ち,移動を伴わず,跳躍と交互回旋の動作を組み合わせた」運動課題の有効性を検証することを目的とした.体育系学部に所属する大学生18名(男子:11名,女子:7名,平均年齢:21.3±0.9歳)を対象に,筆者が考案した運動課題を実施するグループと先行研究で考案された運動課題を実施するグループに分け,成功数及び技能習得ペア数の比較,本番試技後に意識調査アンケートを行い,その違いを比較した.成功数及び技能習得ペア数に有意差はみられなかった.しかし,アンケート調査の結果から,跳躍リズム練習には,1本の縄を跳躍した後に補助者の手をタッチしてリズム練習を行う運動課題よりも両手に縄を持ち跳躍動作と回旋動作を組み合わせた運動課題が有効と考えられた.また,自由記述回答の結果から,より効果的な運動課題に求められる条件として,回旋動作に実際のスピード感があること,ペアと隣り合うなどお互いを横で認識できる立ち位置で実施することが新たに挙げられた.

  • 難波 秀行, 北 徹朗, 小林 勝法, 木村 みさか
    2023 年 20 巻 p. 23-32
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス

    【背景】COVID-19の蔓延予防のため,2020年前期は多くの大学で遠隔授業が行われた.緊急事態宣言下における大学生の身体活動の詳細を調査し,身体活動量の変化と心理社会的な要因の関連を明らかにすることを目的とした.【方法】10大学,200名の大学生(男性70名,18.4±0.7歳,女性130名,18.7±2.9歳)を対象に,webによる身体活動量調査(Lifestyle24)を行った.【結果】COVID-19発生前と緊急事態宣言下の平均METsは,それぞれ1.42±0.27METs,1.32±0.19METs(p<.01)で23.8%の有意な減少があった.3METs 以上の身体活動量(METs・h)では,39.8%の有意な減少(p<.01)があった.行動内容別では,COVID-19発生前に比べ外出自粛期間は,睡眠時間が平均で19.9分増え(p<.01),移動時間が平均で56.3分減少(p<.01)していたが,学業およびスポーツに費やす時間では有意差はなかった.スポーツの内容は球技が減少し,自宅で個人でも実施できる種目が多くみられた.新しい友人・知人の人数および熟睡度と4METs以上の身体活動に有意な関連(p<.01)がみられた.【考察】大学生を対象としてwebによる身体活動量調査システムを用いて,COVID-19発生による身体活動量の低下の詳細を示すことができた.感染予防行動と身体活動は,相反すると捉えるのではなく,感染予防をしながら身体活動を促進することが心身の健康維持に求められる.

  • 藤田 恵理, 平工 志穂, 田中 幸夫
    2023 年 20 巻 p. 33-47
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は,大学体育におけるこころの準備運動としての「笑い準備運動」が大学体育授業の教育効果に与える影響について,体育授業の主観的恩恵評価やコミュニケーション能力の観点から検証することである.2021年10月~12月に大学体育実技授業内で介入調査を行った.授業開始時に通常の準備運動に加えて「笑い準備運動」を実施する授業(介入群)と通常の準備運動を行う授業(対照群)を設定した.両群ともに同一の内容からなる体育実技授業を実施し,「笑い準備運動」が与える影響について気分・感情評価(POMS2短縮版),コミュニケーション・スキル尺度(ENDCOREs),初年次体育授業の主観的恩恵評価尺度(PBS-FYPE)を用いて検討を行った.その結果,「笑い準備運動」を実施した介入群の体育実技後のPOMS2の気分・感情変化は対照群に比べてより大きな改善効果がみられた.ENDCOREsでは,介入群で「表現力」,「関係調整」の2尺度が対照群と比べて有意に改善し,コミュニケーション・スキルの向上が示された.PBS-FYPE下位尺度において,「笑い準備運動」実施の有無による有意な差は見られなかった.大学体育実技での「笑い準備運動」は,コミュニケーション・スキルの向上といった大学体育授業の教育効果を高めることが示唆された.大学体育において「笑い準備運動」をこころの準備運動として活用することは,気分状態の改善やコミュニケーション・スキル向上へのアプローチとして期待できる.

  • 大規模前向き縦断研究
    西脇 雅人, 椋平 淳
    2023 年 20 巻 p. 49-60
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス

    背景:横断研究において,食事や睡眠の状況は学業成績状況と有意に関連することが報告されている.しかし,生活習慣と学業成績に関する大規模前向き縦断研究の観点で利用可能なデータはない.目的:そこで,本研究は,大規模な前向きの縦断的検証によって,大学初年次学生の食行動や眠気の状況が高年次の学業成績状況に影響するか,否か,検討することを目的とした.方法:食行動と眠気の両方の状況に応じ,2,351/2,328名の初年次大学体育授業の学生を四分位数に分類し,3年次終了時のTotal Grade Point Average(T-GPA)のスコア,およびそれぞれのCase(T-GPAが3.00以上となる,または,T-GPAが2.00より小さくなる)の発生に対する多変数の調整済みオッズ比(95%信頼区間)を比較した.結果:T-GPAは,Q1とQ2と比較し,Q4で有意に高い値を示し(なお,食行動や眠気の状況のスコアが,Q1は,不良を,Q4は,良好を示すものである),これらの差は,交絡因子で調整した上でも有意なままであった.食行動の状況において,Q1と比較して,T-GPAが2.00より小さくなるオッズ比は,Q3が0.60(0.45-0.72),Q4が0.64(0.48-0.86)であった.眠気の状況において,Q1と比較して,T-GPAが3.00以上となるオッズ比は,Q2が1.47(1.01-2.15),Q4が1.64(1.13-2.38)であった. 結論:我々の大規模な前向き縦断研究から得られた結果は,大学初年次学生の食行動や眠気の状況が,密接に,高年次のT-GPAの状況と関連していることを示すものであった.

研究ノート
  • A大学におけるバレーボール授業を対象として
    片岡 悠妃, 田村 達也, 岡室 憲明, 川戸 湧也
    2023 年 20 巻 p. 61-71
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,体育科教育学における組織的観察法を援用して授業場面を整理し,教師行動を分析した.加えて,属性の異なる複数の教師が実践した授業の特徴と学修成果を検証することを通して,学修成果保証のための示唆を得ることを目指した. 対象教師は,バレーボールを専門競技とする熟練教師1名と新人教師1名,バレーボールを専門競技としない熟練教師1名と新人教師1名の4名とした.本研究では,学修成果の指標として,ライフスキルおよび運動有能感の獲得状況を検討した.また,授業場面ごとの教師の言語的・非言語的行動を整理・分析し,属性の異なる教師別の教師行動の特徴を検討した.その結果,バレーボールを専門とする教師2名のクラスの授業前後において,運動有能感の有意な向上が認められた.また,教師行動について,教師の経験における比較では,矯正的フィードバック,否定的・行動的フィードバック,学習の補助的活動の項目において,熟練教師群が有意に高い割合を示し,学習方法の説明および巡視の項目において,新人教師群が有意に高い割合を示した.また,教師の専門競技における比較では,肯定的・技能的,肯定的・行動的フィードバック,演示,運動参加の項目において,専門教師群が有意に高い割合を示し,指示および巡視の項目において,非専門教師群が有意に高い割合を示した.以上のことから,①教師の専門性は,学生の運動有能感の獲得に影響を及ぼす可能性があること,②教師の経験は,学生の行動変容を促す教師行動として特徴が現れ,結果として学生のライフスキル獲得に影響を及ぼす可能性が推察されたこと,③学習指導と学生への教示方法については,学習指導は教師の経験によって,教示方法は,教師の専門性によって特徴があることが示され,新任教師は,学習の進め方や教授内容の説明に関するPedagogical Knowledgeの獲得の必要性が,非専門教師は学生に教授する内容を正確にデモンストレーションできる程度の基礎技能の研鑽および活用の必要性が示された.

  • 鳥井 淳貴, 中須賀 巧
    2023 年 20 巻 p. 73-82
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は,大学体育授業において,学習者の集団凝集性の得点変化と適応感との関係を検討することであった.4年制大学で体育授業を受講する学生63名を対象に,質問紙調査を2回実施した.本研究の対象となった体育授業は,全15回で構成される授業の内,第11回目から第15回目(全5回)の屋外グラウンドで90分間実施されるソフトボール授業であった.調査内容は体育授業における学習者の集団凝集性と適応感であった.学習者の集団凝集性を捉えるために8つのチームを編成し,ソフトボールの試合を計5回実施した.分析対象者の集団凝集性得点の変化量によって,群分け(向上群・低下群)を行い,尺度得点ごとに二元配置分散分析と単純主効果の検定を行った.本研究で得られた結果は以下の通りである.(1)集団凝集性向上群と低下群で調査初回時には差が認められなかったが,調査最終回時には向上群よりも低下群の方が有意に低いことが認められた.(2)集団凝集性向上群は調査初回時と最終回時に差は認められなかったが,低下群には調査初回時と最終回時に有意な低下が認められた.以上のことから,体育授業を行うことによって集団凝集性が低下した場合は大学適応感も低下させる可能性があることが示唆された.

  • 第2期認証評価における631大学の自己点検・評価報告書の分析より
    小林 勝法
    2023 年 20 巻 p. 83-90
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス

    学士課程教育における教養体育の位置づけと質保証の状況を把握するために,認証評価を受審した際に提出した各大学の『自己点検・評価報告書』の記載内容のうち,体育に関連する3つの基準,すなわち「教員組織」と「教育課程」,「施設及び設備」について調査した.調査対象は,第2期認証評価の2013年度から2017年度に3つの認証評価機関,すなわち,大学基準協会と大学改革支援・学位授与機構,日本高等教育評価機構のいずれかで受審した大学のうち,『自己点検・評価報告書』を閲覧できた631大学であった.記載内容を分析した結果,「教員組織」として体育を担当する組織に関する記載がある大学が32.5%と少なく,「教育課程」について体育に関する記載があるものが52.9%と約半数であった.これらの記載内容は外形的で,詳細な記載はほとんどなかった.一方,「施設及び設備」として運動場や体育館については90.3%が保有施設について記載していた.以上の結果から,『自己点検・評価報告書』では体育に関する点検・評価内容が不十分であり,教養体育の位置づけと質保証の状況について,詳しいことは把握できなかった.このことから認証評価が教養体育の質保証に役立っているとは言いがたいと判断できる.そこで,教養体育の外部評価として,全国大学体育連合の大学体育FD推進校表彰制度を活用する意義が示された.また,体育担当教員が認証評価にどのように関わっており,改善に役立てているのか,その取り組み状況を把握する必要性も示唆された.

  • 平日・休日および運動意識に着目して
    飯田 智行, 高木 亮, 田中 修敬, 林 秀樹, 森村 和浩
    2023 年 20 巻 p. 91-97
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス

    新型コロナウイルス感染拡大状況下では,オンライン授業を行う必要があった.そこで,対面授業期間とオンライン授業期間の歩数を調査し,授業形態の違いが女子大学生の歩数に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.女子大学生115名を対象者とし,スマートフォンの歩数測定アプリケーションを用いて歩数調査を実施した.対面授業期間中とオンライン授業期間中のそれぞれ4週間の計8週間を調査対象期間とした.期間中の全ての対象日を「全日」,土日祝を除いた対象日を「平日」,土日祝を「休日」と設定した.また,運動意識群と運動無意識群の比較も行なった.その結果,全日においてはオンライン授業期間の歩数が対面授業期間と比較して有意な低値を示した.また,平日と休日を分けた授業形態別の歩数の比較では,対面授業期間平日>対面授業期間休日>オンライン授業期間休日>オンライン授業期間平日の順に有意に低下した.運動意識の違いによる歩数を比較すると,全日においては運動意識群と運動無意識群ともオンライン授業期間の歩数が対面授業期間と比較して有意な低値を示した.また,平日と休日を分けると,両群ともにオンライン授業期間平日の歩数が最も低値を示した.さらに,休日では運動意識群が有意な高値を示した一方で,平日においては有意差が認められなかった.これらの結果から,オンライン授業期間中の授業日は,運動意識が高い者であっても身体活動量確保が難しい可能性が示された.

  • 新型コロナウイルス感染症拡大下における遠隔授業への対応とともに
    村山 光義, 寺岡 英晋, 永田 直也, 東原 綾子, 福士 徳文, 稲見 崇孝, 奥山 靜代, 清水 花菜, 佐々木 玲子
    2023 年 20 巻 p. 99-109
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,大学体育実技の成績評価の観点と方法に関してアンケート調査を実施し,従来の方針と新型コロナウイルス感染症拡大下(以下,「コロナ禍」と略す)における対応について,その実態を分析することを目的とした.調査内容は,教養体育科目の開講状況,2020年度秋学期と2021年度春学期の授業実施形態と実施理由,成績評価方法に関する従来の方針と遠隔授業による対応,などであった.有効回答が得られた131校(19.2%)を分析の対象とした.回答結果の分析から,成績評価の観点は技術や技能,知識や理解,態度や意欲,出席の4つに分類でき,それぞれに対応する評価方法として,実技テスト,レポートや筆記テスト,教員の観察,出席回数が代表的なものとして示された.しかし,「配分や方法は担当教員に一任」という回答も多く,厳格な成績評価を行う「アセスメント・ポリシー」の取り組みとしては課題と考えられた.コロナ禍に対面のみで体育実技を実施できたのは2020年度秋学期で51校(38.9%),2021年度春学期で61校(46.6%)であり,半数以上は遠隔を含む展開がなされていた.成績評価方法に関してコロナ禍に新たな対応を行ったのは54校であった.その内容は,「評価の観点・配分・方法等を再構築」,「従来の観点を評価するための補足的方法を付加」,「従来よりも課題・レポートの比率が増加」などであった.本研究は,近年における大学体育実技の成績評価方法の実態を明らかにし,また遠隔授業の導入による成績評価方法の新たな対応について情報を得た点で,大学教育改革を進める上での資料的価値が高いと考えられる.

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