我々は,ビール,果汁,麦芽試料におけるジチオカルバメート系農薬(殺菌剤)の分析法を開発した.本研究で確立した分析法では,ジチオカルバメート系農薬(殺菌剤)10化合物を対象にNaHCO3を添加することで水溶性のナトリウム塩として抽出した後,硫酸ジメチルによりメチル化を行った.前処理には,QuEChERS法を利用し,1本のチューブ内で抽出操作とメチル化反応を行うことで迅速化を図った.分散型固相抽出を用いて精製した後,LC-MS/MSにより測定を行った.ビール,果汁,麦芽試料において分析の妥当性確認試験を行った結果,真度は92.2~112.6%,定量限界値は0.52 µg/kg(プロピネブ),0.55 µg/kg(マンゼブ),6.97 µg/kg(チウラム)となり,良好であった.さらに本分析法を用いて,市販のビールおよび果汁試料の分析を実施したので報告する.
ピラジフルミドは3-(トリフルオロメチル)ピラジン-2-カルボキサミド骨格を持った新規なsuccinate dehydrogenase inhibitor(SDHI)系殺菌剤である.現在,複数の同系統剤が上市あるいは開発途上にあるが,ピラジン骨格を有する剤は本剤のみである.本剤は野菜・果樹・芝および水稲分野の病害に幅広く高い活性を示す一方で,作物,哺乳動物,水棲生物に対しては極めて高い安全性を有する.カルボン酸部分に3-(トリフルオロメチル)ピラジン-2-イル基を導入した場合,特異的に高い活性を示した.また,ビフェニル部分の置換基と様々な病害に対する活性との関係を広範に調べ,最終的にピラジフルミを創出するに至った.本論文ではピラジフルミド創出の経緯と構造活性相関について詳細に述べる.
2種の重要な貯穀害虫ココクゾウムシ(Sitophilus oryzae)およびコクヌストモドキ(Tribolium castaneum)に対するアザジラクチンを含むインドセンダン(Azadirachta indica)のエキス,ニームオイルの効果をナノエマルジョン製剤化によって改善することを目的とし,ニームオイル,界面活性剤(ポリソルベートまたはアルキルポリグルコシド)および水のエマルジョン系からなる擬三成分系状態図を構築した.擬三成分系状態図において,均一液相領域が形成され,均一液相領域から4つの製剤を選択し,粒子サイズ,粒子老化,ゼータ電位,安定性および熱安定性,表面張力,粘度およびpHなどの特性を評価した.選択した製剤は,直径208~507 nmの粒子サイズであった.1%のアザジラクチンを含む本製剤に2日間暴露すると,S. oryzaeとT. castaneumの成虫に対する致死率はそれぞれ85~100%, 74~100%となり,ナノエマルジョン製剤化によって致死率が有意に上昇することがわかった.(文責:編集事務局)
根寄生植物は重要農作物に寄生し収量を低下させるため,世界の食糧生産に深刻な被害を及ぼしている.近年,我々は放線菌Streptomyces ficellusの生産するノジリマイシン(NJ)が根寄生植物種子の発芽を阻害することを見出した.本研究ではS. ficellusのNJ生産性向上を目指した培地改良,および未精製培養物の根寄生植物防除剤としての適用可能性について検討した.従来のNJ生産培地に使用されていたPharmamedia™を他の汎用的な培地成分に置換したところ,マリンブロスによりNJ生産量が向上した.4日間培養を行ったところ,培地中のNJ含量は710 mg/Lに達し,従来の17倍まで向上した.得られた培養液を各寄生植物種子に処理したところ,NJ 標準溶液と同等の発芽阻害活性を示した.本研究で示した当該培養法は根寄生植物防除剤生産開発につながると期待される.
イネいもち病は,世界の稲作において最も重要な病害のひとつであり,本病原菌に対する新規抗菌成分が求められている.本研究は,イネディフェンシンOsAFP1とその部分ペプチドのイネいもち病菌に対する抗菌活性の調査を目的とした.大腸菌を宿主として生産したOsAFP1の各種イネ病害原因菌に対する抗菌活性を評価したところ,真菌性であるイネいもち病菌,イネ紋枯病菌,イネばか苗病菌には抗菌活性を示したのに対して,細菌性であるイネ苗立枯細菌病菌,イネ籾枯細菌病菌,イネ褐条病菌には抗菌活性を示さなかった.OsAFP1から10 アミノ酸程度の部分ペプチドを作成し,イネいもち病菌に対する抗菌活性を評価した結果,OsAFP1のN-末端およびC-末端領域から作成された部分ペプチドが,OsAFP1全長と同程度のイネいもち病菌に対する抗菌活性を示すことを見出した.これらのペプチドは新規の抗菌成分としての利用が期待できる.