日本公衆衛生雑誌
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49 巻, 12 号
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原著
  • 能登 真一, 柳 久子, 戸村 成男
    2002 年 49 巻 12 号 p. 1205-1216
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 費用効用分析でその結果として用いられる効用は,一般に質を調整した生存年(quality-adjusted life years: QALYs)で表される。QALYs はある健康状態について,完全に健康な状態を 1,死亡を 0 とする尺度で効用値(utility)を数量化し,それに生存年数を乗して求められる。リハビリテーションで多く関わる脳卒中は様々な障害状態を残存させるため,その効用値は障害状態ごとに求められなければならない。今回,脳卒中の障害状態のスケールとして最も広く用いられているものの一つである Rankin scale による障害状態ごとの効用値を求め,その評価に関わる人口学的特徴の影響や測定方法の関係の分析を目的とした。
    方法 効用値の評価は,評点尺度法と時間得失法の 2 方法とし,それぞれ質問紙法にて測定した。評点尺度法は一方の端に完全に健康な状態を,もう一方の端に死を置いた線分上に複数の健康状態を位置付ける方法で,時間得失法は悪い健康状態に対して良い健康状態を得る際にどのくらいの時間をあきらめてもよいかを問う方法である。対象は,大学生,リハビリテーションスタッフ,脳卒中患者の介護者,一般企業会社員の計460人である。統計的手法はノンパラメトリック法を用いた。
    成績 Rankin scale Iは評点尺度法で0.89,時間得失法で0.83,以下,Rankin scale IIはそれぞれ0.72と0.67,Rankin scale IIIは0.56と0.45,Rankin scale IVは0.36と0.24,Rankin scale V(寝たきりの状態)は0.18と0.09となった。評点尺度法と時間得失法の相関は,0.176~0.412の範囲となった。時間得失法による Rankin scale I,III~Vで集団間に差を認めたが,年齢,性別,学歴,婚姻関係,健康状態などの人口学的特徴によって効用値に有意な差を認めたものは僅かであった。
    結論 脳卒中の障害状態についての効用値は,障害状態により大きく異なった。効用値の測定方法については,評点尺度法と時間得失法の相関はそれほど強いものではないことが実証された。また,健康状態の選好には人口学的特徴の影響が少ないことが明らかとなった。
  • 加藤 憲司, 早川 和生, 尾ノ井 美由紀, 清水 忠彦, 由良 晶子, 横山 美江, 金森 雅夫
    2002 年 49 巻 12 号 p. 1217-1226
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 人間の食行動を規定する因子に関し,遺伝要因と環境要因との影響を検討することにより,生活習慣病予防のための保健指導において対象者の環境要因への働きかけに資することを目的とした。
    方法 30歳以上の成人双生児180組(MZ 134組,同性の DZ 46)組を対象に,食事習慣,食嗜好性,摂取量の多い食品目に関する問診を実施した。調査は総合健診時に,塩分または脂肪含有量の多い食品の摂取状況,1 日の食事回数,1 回の食事の摂取状況,および18の食品目の摂取状況に関し,栄養調査票を用いて聞き取りにより実施した。調査結果は χ2 検定を用いて,双生児のペア間での一致率の観測値と期待値を卵性ごとに比較した。
    成績 塩分の多い食品・脂肪の多い食品の摂取状況,および食行動のパターンのいずれにおいても,一卵性のペアで一致率の観測値が期待値を有意に上回る項目がいくつかみられた。また,ペアの別離年齢が19歳以下と20歳以上の 2 群に分けて比較すると,塩分の多い食品・脂肪の多い食品の摂取状況,および食行動のパターンのいずれいても,一卵性のペアで,別離年齢が高い群の方が低い群よりも,一致率の観測値が期待値を有意に上回る項目が多くみられた。
    結論 生活習慣病予防のための保健指導においては,食嗜好や食行動の特性を踏まえ,対象者の環境要因への効果的な働きかけが求められることが示唆された。
  • 大屋 日登美, 市川 誠一, 横田 俊平, 木村 博和, 中沢 明紀, 植地 正文, 柴田 茂男
    2002 年 49 巻 12 号 p. 1227-1238
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 尿を材料とした風疹 IgG 抗体測定の疫学的有用性を検討するために,1)風疹自然感染および風疹予防接種後の抗体出現を明らかにするとともに,2)保健センターの 3 歳児健康診査受診者を対象にした疫学調査を実施した。
    方法 風疹自然感染例調査は,7 医療機関(小児科)の協力で,風疹感染が疑われた12例について,感染急性期(1-6 病日)と回復期(2-6 週間後)の尿と血清を採取した。風疹予防接種例調査は,風疹抗体陰性者17例(19歳-23歳)から風疹予防接種時,3 週後,6~7 週後,1 年後(5 例)に尿と血清を採取した。なお,上記の研究協力者の検体採取については,すべて本人または保護者に説明し同意を得た。
     3 歳児健康診査受診者の尿を用いた風疹疫学調査は,小田原市保健センターにおける 3 歳児健康診査受診者(3 歳 6 か月)を対象とし,保護者から本調査の同意を得た幼児740例について,尿中風疹 IgG 抗体測定と予防接種歴等の質問紙調査を実施した。
     血清中の風疹抗体は,VIDAS Rubella-IgG および IgM(日本ビオメリュー),および PLATELIA II Rubella-IgG(富士レビオ),尿中の風疹 IgG 抗体は,ELISA 法(大塚製薬)で測定した。集計および統計分析は,SPSS 9.0を用いた。
    結果 1) 尿中風疹 IgG 抗体測定法の感度は99.4%,特異度は100%であった。
     2) 風疹感染が疑われた12例の内 6 例は,風疹初感染で回復期には血清および尿中の風疹 IgG 抗体が有意に上昇していた。
     3) 風疹予防接種の17例は,6 または 7 週後の血清で風疹 IgG 抗体が上昇していた。この全例は尿でも同様に風疹 IgG 抗体の上昇が確認できた
     4) 3 歳児健康診査での風疹疫学調査において,尿中の風疹 IgG 抗体保有率は80.9%であった。予防接種歴を母子健康手帳で確認して回答したもの(698例)の内では風疹予防接種率は81.7%で,予防接種を受けていなかった児の尿中の風疹 IgG 抗体保有率は12.5%であった。
    結論 風疹の自然感染例や予防接種例の抗体上昇は,尿を材料としても確認することができた。また,幼児を対象とした調査は,健康診査時の尿を用いて容易に行うことができた。これらのことは,風疹抗体の疫学調査において尿が有用であることを示唆している。
  • 中野 匡子, 小野 喜代子, 安村 誠司
    2002 年 49 巻 12 号 p. 1239-1249
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 地域の訪問介護・訪問入浴介護・訪問看護事業所の感染予防対策の実態を明らかにする。
    方法 福島県の一社会福祉事務所(現・保健福祉事務所)の所管する地域内の介護保険居宅サービス事業所(訪問介護・訪問入浴介護・訪問看護事業所)の全事業所90か所の管理者82人(回答率90.2%)と従業者1,024人(回答率57.2%)に郵送アンケート調査を行った。調査項目は,職員の健康管理,備品,感染予防に関する研修,感染予防マニュアル,手洗いの 5 項目とした。
    成績 1. 健康管理:職員の健康診断を年 1 回以上実施している事業所は94.6%,年 1 回以上受診している従業者は87.6%であった。
     2. 備品:使い捨て手袋の整備率94.6%に比べ,手指洗浄設備,ペーパータオルの整備率は,各々43.2%,39.2%と低かった。物品管理責任者の設置率は43.2%,物品管理記録の整備率は20.8%に過ぎなかった。血液・排泄物に触れる際の手袋使用率は82.6%であった。
     3. 研修:研修を実施している事業所は40.3%,研修に参加したことがある従業者は30.2%のみであった。研修を実施しない事業所の76.2%が「時間がない」を理由としていたが,研修に参加しない従業者の78.5%が「研修の機会がない」を理由としており,管理者は職員の研修の機会を設ける必要があると思われた。
     4. マニュアル:感染予防マニュアルがある事業所は68.9%,マニュアルを利用している従業者は44.3%に過ぎなかった。マニュアルがない事業所のうち,作成予定の事業所は47.8%のみであった。マニュアルがある事業所で,「よく利用されている」と答えた事業所は42.9%,「マニュアルがある」と認識している従業者は69.4%に過ぎなかった。
     5. 手洗い:手洗い時期,手洗い方法,手拭き方法の取り決めをしている事業所は各々73.0%, 78.4%, 35.1%であった。ケアの後の手洗い実施率92.0%に比べ,ケアの前は52.2%と低かった。血液・排泄物に触れた後の手洗い実施率は74.6%であった。流水と石鹸,または流水と石鹸と消毒剤による手洗いは82.7%で行われていたが,手拭きにペーパータオルを使用する者は7.5%のみであった。
    結論 介護保険居宅サービス事業所の感染予防対策は,備品,研修,マニュアル,手洗いについて改善が必要である。改善のためには事業所管理者の役割が重要であり,今後,社会福祉事務所や保健所は,事業所管理者への指導と支援をさらに積極的に推進する必要がある。
公衆衛生活動報告
  • 髙林 智子, 長田 早千穂, 平口 志津子, 大中 敬子, 片倉 直子, 石垣 和子
    2002 年 49 巻 12 号 p. 1250-1258
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 保健師が行っている痴呆電話相談の相談者の実態を分析し,電話相談の役割と今後の保健事業のあり方を検討する。
    方法 平成11年度 1 年間に受信した相談103件と平成12年度 4 月から 9 月の半年間に受信した相談103件,計206件の相談票をもとに,本調査独自のチェックリストに沿って分類した。その後,クロス表に整理し項目間の関連を χ2 検定し,検討した。
    結果 1) 被介護者の最も多い問題行動は,物忘れ106件であった。
     2) 相談者は87件(42.2%)が別居者であり,その続柄では娘からの相談が60件と最も多かった。
     3) 相談者の抱える介護困難感は104件に認められ,精神的介護困難感あり89件(43.2%),社会的介護困難感あり33件(16.0%),身体的介護困難感あり28件(13.6%),経済的困難感あり 8 件(3.9%)で,102件(49.5%)には介護困難感が認められなかった。介護困難感が 2 項目以上ある相談者は42人で,介護困難感のある者の40.4%を占めていた。指定相談日以外の相談者に,身体的介護困難感が有意に多かった(P<0.05)。
     4) 相談内容では,精神症状への介護方法の照会が76件と最も多く,次いで症状の照会36件,在宅福祉サービスの情報照会35件,受診の必要性の確認30件,感情の表出30件と続いた。相談内容と介護困難感との関連で,感情の表出をする者は,精神的(P<0.001),社会的(P<0.01),身体的介護困難感(P<0.05)が共通して有意に多く認められた。
     5) 相談を受信した保健師の経験年数では,10年以上の者が精神的介護困難感を認識する傾向があった(P=0.05)が,他の項目についての有意差はみられなかった。
    結論 1) 世帯の縮小化を反映し,別居者,特に娘が痴呆症患者の介護にかかわっていることが示唆され,今後,別居家族も含めた介護者支援を考慮していかなければならない。
     2) 痴呆症の介護者は精神的,社会的,身体的介護困難感を持つことが明らかとなり,介護者への支援として身体の健康管理支援に加え,精神面への働きかけ,地域のサポート育成などの具体的な支援の方向性が示された。
     3) 電話相談の特性により,痴呆症に気づくきっかけとなる物忘れの段階で相談することができ,問題の潜在化,深刻化を防ぐことができる。
     4) 電話相談が相談者の感情を表出する場となり保健師が相談者の訴えを傾聴することで,介護負担感軽減の効果を期待できる。
資料
  • 笠原 聡子, 大野 ゆう子, 菅生 綾子
    2002 年 49 巻 12 号 p. 1259-1267
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 慢性疾患の増加や在院日数の短縮化にともない外来で長期にわたり内服治療が必要な患者が増加してきた。本研究では外来で服薬治療を受けている患者の服薬アドヒアランスについて検討した。
    方法 調査対象は1998年10月のある一日における O 大学附属病院の外来再診患者のうち服薬処方をうけているものとした。外来受診時に服薬に関する20項目からなる質問紙調査を行い,回答のあった943人について,服薬アドヒアランス群とノンアドヒアランス群を判別分析により比較した。
    結果 服薬アドヒアランスの割合は87.9%であった。飲み忘れの理由はついうっかり,外出時の持参し忘れ,副作用への恐れなどがあった。外来で服薬に関する詳しい説明を受けている人ほど理解度は高くアドヒアランスも良好であった。94.8%の人が少なくとも一度は服薬に関する説明を受けているにもかかわらず,76.9%の人が何らかの不安を感じていた。服薬アドヒアランスが低い人には,飲み忘れないように声をかけてくれる人が身近にいない,服薬に関する不安がある,服薬に関する説明をうけていない,服薬についての理解度が低い,20歳代の若い年齢層に多いなどの特徴があった。
    結論 O 大学附属病院における服薬アドヒアランス率は高かったが,ほとんどの人が服薬に関する何らかの不安を感じていた。アドヒアランスの予測因子として,周囲のサポートなど患者の生活と関係のあるものがあげられたことから,患者の生活に適した服薬援助が重要であるといえる。
  • 小池 創一
    2002 年 49 巻 12 号 p. 1268-1277
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 キューバのエイズ対策の概要,歴史,疫学,検査体制および療養所システムについて明らかにし,他のエイズ問題を抱える開発途上国に対して適応可能であるかについて考察を行うこと。
    方法 エイズ療養所への訪問および聞き取り調査(2001年 3 月23日より31日)ならびに文献調査
    調査結果
     (1)疫学 キューバの国立リファレルセンターであるペドロ・コウリ研究所における1986年から2001年 1 月までの累積 HIV 感染者・AIDS 患者数は合計で3,230人,うち男性は2,500人(77.4%),女性は730人(22.6%)であった。このうち AIDS 患者は1,195人,死亡は843人であった。
     (2)検査体制 HIV 検査は45ある全国研究所ネットワークにおいて一次検査を行い,ペドロ・コウリ研究所が確定診断を行う。
     (3)治療体制 HIV 感染が明らかとなった場合,患者・感染者は療養所に入所するか,デイケアホスピタルに入院することとなる。療養所またはデイケアホスピタルでの評価,教育等の終了後は,地域における外来プログラムに引き継がれるというシステムが構築されている。
     (4)キューバのエイズ対策の歴史 キューバにおけるエイズ対策は,1983年にキューバ公衆衛生省が全国エイズ委員会を設置した当時から本格化した。1990年 6 月までに延べ800万人に検査が実施され,大規模なエイズ検査態勢が敷かれた。1990年からはキューバ国内のすべての郡においてエイズ療養所の建設が始まり,1993年にはエイズ患者の外来治療制度が導入された。
    結論 キューバは,エイズの蔓延を防止できた点において成功を収めたといえるが,その成功は既存の保健医療システムに深く根ざしたものであり,かつ,極めて初期の段階に強力な介入を行うことができた点に特徴がある。一方,感染者をエイズ療養所に入所させるなどの取り扱いなど,手法の是非については国際的にも評価が分かれている。このため,キューバのエイズ対策をモデルとして,他のエイズ問題を抱える開発途上国に対してそのままの形で適応可能であるかという点については,更なる研究を待つ必要がある。キューバにおいてこれまでに確立された保健医療システムおよび国際協力の経験やノウハウは,将来キューバが南々協力の拠点となる可能性を示唆するものとして注目される。
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