日本公衆衛生雑誌
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49 巻, 7 号
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総説
  • 大重 賢治, 水嶋 春朔, 杤久保 修
    2002 年 49 巻 7 号 p. 613-619
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
     Cost-effectiveness analysis is a method used to evaluate the outcomes and costs of treatments or interventions designed to improve health. It has been widely regarded as an important aid to providing health care services efficiently. This paper reviews several measures for controlling medical costs in Japan, where a fee-for-service system is employed to remunerate for medical services provision. From the point of view of cost-effectiveness, the first step in health care reform for controlling medical costs should be minimizing useless medical services because the cost-effectiveness ratio of these tends to infinity. For the purpose of minimizing unserviceable provision in the field of medicine, two approaches must be considered. One is establishing a system so that physicians can act as perfect agencies for their patients. The other is encouraging academic research on the effectiveness of medical services.
原著
  • 元永 拓郎, 朝田 隆
    2002 年 49 巻 7 号 p. 620-630
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 アルツハイマー型痴呆(AD)と脳血管性痴呆(VD)の在宅患者を対象に 7 年間の生命予後に影響する要因分析を行った。在宅痴呆患者の生命予後に関する研究は,その重要性にも関わらず多くない。特に日本人を対象にした研究はほとんどなかった。また,在宅患者に介護状況が重要であることは言うまでもないが,介護要因が生命予後に影響するかどうかが検討されたことはなかった。そこで本研究では,本人や介護者の要因が生命予後にどのような影響があるか検討した。
    方法 1992年に山梨県下の複数機関において,AD または VD と診断された145人(男性56人,年齢77±7.9;女性89人,年齢80±8.5)を対象とした。7 年間フォローアップし,性別や年齢など本人に関する変数と家族数,社会資源の利用などの介護に関する変数を独立変数とし,生命予後を従属変数として Cox 回帰分析を行った。
    結果 全対象者と AD 患者群とも,高年齢,男性,心身機能,骨折・転倒が生命予後を不良と予測する要因であった。痴呆を疾患別にみると VD の方が AD と比べて生命予後が不良であった。年齢と性別をコントロールすると,骨折・転倒のオッズ比は1.7 (95%信頼区間1.1-2.6)であり有意に生命予後を不良にした。なお,これらの変数に介護者の変数を加え解析したが,介護者変数の生命予後への影響はみられなかった。また,アポ E 遺伝子データが得られた AD 患者64人では,改めて骨折・転倒の影響が指摘された。さらにアポ E が 4 型を持つと予後が良好となる傾向がみられた。
    結論 骨折・転倒は生命予後を不良にする。この知見は今後の痴呆患者ケア上でも重視されるべきである。
  • 呉 春玲, 田村 憲治, 松本 幸雄, 遠藤 朝彦, 渡利 千里, 新井 峻, 村上 正孝
    2002 年 49 巻 7 号 p. 631-642
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 茨城県における国民健康保険 5 月診療分のレセプトに現れたアレルギー性鼻炎受療率は,年ごとのスギ花粉飛散量と相関したと報告されている。本研究の目的は,この受療率にスギ花粉症がどのくらい含まれているかを明らかにし,また,アレルギー性鼻炎の発症や受療率に及ぼす大気汚染や医療資源等の影響を明らかにすることである。
    方法 4 つの耳鼻咽喉科施設のカルテから,花粉飛散期におけるアレルギー性鼻炎に占めるスギ花粉症患者数を調べた。茨城県の1988年~96年の 5 月診療分国民健康保険傷病データを用いて,アレルギー性鼻炎の年齢調整受療率の経年比較を行った。1994-96年の 3 年間,茨城県内 7 地点でスギ花粉飛散量を調べ,スギ林の占有率と比較した。アレルギー性鼻炎受療率との関係を調べるために,大気汚染の代替指標として茨城県内市町村単位の自動車交通量を,医療資源として耳鼻咽喉科医療機関と耳鼻咽喉科医師の地域分布を取り上げた。
    結果 5 月診療分のアレルギー性鼻炎患者の60%~80%がスギ花粉症と推定された。茨城県内 7 地点のスギ花粉飛散量は,毎年同じ傾向で増減したが,スギ林占有率とは年によって対応したりしなかったりした。市町村別のアレルギー性鼻炎受療率は農家人口率ともスギ林占有率とも負に相関した(それぞれ r=−0.383, r=−0.402)。茨城県の市町村単位で算出した自動車交通量は,年平均 NO2 濃度とも(r=0.634, P<0.01),アレルギー性鼻炎受療率とも有意に相関した。県北山間地域では,アレルギー性鼻炎受療率が低く,耳鼻咽喉科の医療施設も少なかった。
    結論 国保 5 月診療分のアレルギー性鼻炎受療率にはスギ花粉症が60%以上占めており,このことが受療率の経年変動がスギ花粉飛散量と相関する原因であると確認された。
     アレルギー性鼻炎受療率を高める地域的要因として,大気汚染や都市化,さらに医療資源の増加が示された。
  • 児玉 宜子, 玉腰 暁子, 西塚 隆伸, 平野 直子, 川村 孝, 大野 良之
    2002 年 49 巻 7 号 p. 643-647
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 社会生活を営んでいる幅広い年齢層の一般成人において,加速度計による 1 日のエネルギー消費量測定値の妥当性を検討する。
    方法 27歳~61歳の N 市職員60人(男31人,女29人)を対象に,任意に設定した平日と休日の各 1 日に加速度計の装着,および 5 分ごとの活動日誌の記載を依頼した。日誌に記録されたそれぞれの活動の強度と持続時間から算出された 1 日のエネルギー消費量により,加速度計から得られた 1 日のエネルギー消費量を評価した。
    結果 のべ115日中,109日で加速度計による消費量の方が日誌法による消費量にくらべて少なく,その差は平均403.9 kcal であった。加速度計と日誌法から求めた 1 日のエネルギー消費量の間には強い相関(Pearson r=0.846)が認められた。歩く活動が少ない場合は多い場合に比較し,より強い正の相関が観察された。加速度計を装着できない入浴中のエネルギー消費量を日誌法による測定値から引いて検討を行ったところ,両者の差は小さくなったが,相関係数には大きな変化を認めなかった。
    結論 加速度計を用いた身体活動量の測定は,日誌法によるそれと高い相関を示すことが一般成人においても確認された。加速度計は日誌法と比較すると 1 日のエネルギー消費量を少なく評価する傾向があるが,対象者の負担も少なく,かつ多数の人に同時に実施可能であり,疫学研究や健康増進事業に有用と考えられた。
  • 柳堀 朗子, 白井 みどり
    2002 年 49 巻 7 号 p. 648-659
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 日常生活動作と生活習慣や加齢との関連を,生活体力測定項目を普通の速さで行った場合(日常レベル)と最大の速さで行った場合(最大能力)の測定結果を中心に検討し,日常レベルの測定意義を考察した。
    方法 対象は A 町主催の高齢者健康づくり教室参加者で生活体力測定を 4 種目以上実施できた女性69人(平均年齢±標準偏差は74.3±7.0, 60~90歳)であった。
     対象者の生活習慣,健康状態,生活満足度等は保健師による聞き取り調査で把握し,日常生活動作は生活体力と身体能力(握力,長座体前屈,開眼片足立ち)で測定した。生活体力は種田らの高齢者の生活体力測定による 4 能力(手腕作業,障害物歩行,立ち上がり歩行,身辺作業)とし,測定方法には一部改変を加えた。日常レベルは生活体力の各項目を普通に行った時の所要時間,最大能力は最大速度で行った場合の所要時間として測定した。
    成績 生活体力のいずれの項目でも最大能力は日常レベルより有意に速い値であり日常レベルと最大能力の測定は実施できた。二者の相関は有意に高かった。日常生活動作は手腕動作と身辺作業の最大能力を除いて年齢と有意な関連がみられた。年齢を共変量とした共分散分析の結果,日常レベルにおいて生活習慣と関連があった項目は「家の中の生活で動いている」と手腕作業,身辺作業,「買い物に行く方法が歩きや自転車」と障害物歩行,身辺作業,最大能力では「家の中の生活で動いている」と手腕作業,「買い物に行く方法が歩きや自転車」と障害物歩行であり,いずれも活動的な者の所要時間が短かった。
    結論 本研究の日常生活動作測定項目は,高齢者の生活習慣と関連を持っていた。日常レベルと最大能力は相関が高く,生活習慣との関連も類似していたことより,日常レベルの測定は最大能力の場合と同様の意味を持ち,さらに測定の安全面では最大能力測定に勝る方法であると考えられた。しかし,二つの測定値と生活習慣との関連における差異については更なる検討が必要であると考えられた。高齢者が日常生活動作を行う能力を保持することは QOL の維持に必要であり,その能力の評価指標として日常レベルの測定を含む日常生活動作の測定は有意義であることが示唆された。
  • 山本 則子, 石垣 和子, 国吉 緑, 河原(前川) 宣子, 長谷川 喜代美, 林 邦彦, 杉下 知子
    2002 年 49 巻 7 号 p. 660-671
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 「介護に関する肯定的認識」が,介護者の心身の生活の質(QOL)や生きがい感および介護継続意思に与える影響を,続柄毎に検討することを目的とした。
    方法 東京・神奈川・静岡・三重・沖縄の全21機関において訪問看護を利用している322人の高齢者の家族介護者に質問紙調査を実施した。介護負担感が続柄により異なるという過去の報告に鑑み,分析は続柄別に行った。分析には QOL,生きがい感,介護継続意思を従属変数に,属性および介護に関する肯定的認識・否定的認識を独立変数とした重回帰分析およびロジスティック回帰分析を用いた。
    結果 1) 身体的 QOL に「肯定的認識」は関連しない。
     2) 心理的 QOL と「肯定的認識」の関連は続柄により異なる。介護者が夫および息子の場合は「肯定的認識」のみが,妻の場合は「肯定的認識」,「否定的認識」の両者が心理的 QOL に関連する。娘の場合は「否定的認識」のみが心理的 QOL に関連する。嫁の場合はどちらも心理的 QOL に関連しない。
     3) いずれの続柄でも生きがい感には「肯定的認識」が強く関連する。夫および息子では「否定的認識」は生きがい感に関連しない。
     4) 介護継続意思には,夫および息子では「肯定的認識」,「否定的認識」の双方が関連するが,妻・嫁では「肯定的認識」のみが関連する。娘では「否定的認識」が介護継続意思に関連する。しかし,続柄別の違いはわずかと思われる。
    結論 介護者の心理的 QOL や生きがい感を高める支援を考えるため,介護の継続を予測するためには,介護の肯定的認識を把握することが重要と考えられる。介護の肯定的認識の影響は続柄別に異なるため,支援に際しては続柄別に検討を行うことが必要である。
  • 伊津野 孝, 杉田 稔, 大田原 由美, 吉田 勝美, 武藤 孝司, 田村 誠, 宮川 公男, 稲葉 裕, 黒沢 美智子, 杉森 裕樹, 須 ...
    2002 年 49 巻 7 号 p. 672-682
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 特定疾患対策対象疾患(難病)の疾病対策上の優先順位を評価する。
    方法 全国の大学医学部の衛生・公衆衛生学関係者に対して,難病対策の優先順位をつけるための重み付けの調査を行うとともに,難病の臨床班の班長に対して難病の実状を把握するための調査を行い,両者の回答より難病対策の優先順位を付ける。
    成績 難病対策の「疾患の稀少性」,「原因・病態の解明度」,「治療法の未確立」,「生活面への影響」の 4 要素の重みづけは,100点満点とした場合,それぞれの平均値は14.5, 27.1, 28.5, 29.9点となり,疾患の稀少性が最も低い重みづけとなった。各要素内でのその要素を把握する項目の重要度を評価したところ,「疾患の稀少性」の要素では,「全国の患者数が少ないこと」と「全国の専門医数が少ないこと」,「原因・病態の解明度」の要素では,「発症機序が解明されていないこと」と「診断基準が確立されていないこと」,「治療法の未確立」の要素では,「有効と考えられる治療法が無いこと」と「5 年生存率が低いこと」,「生活面への影響」の要素では,「日常生活で介助の必要な患者の割合が高いこと」と「就労・就学(社会参加)に支障をきたす患者の割合が高いこと」が重要となった。
    結論 臨床班の班長に対する難病の実状調査にこの結果を合わせることにより,118疾患の難病対策上の優先順位を評価したところ,現在医療費補助がある治療対象疾患が上位を占めることはなく,難病対策を見直す必要性があることが示唆された。
公衆衛生活動報告
  • 武田 謙治, 水嶋 春朔, 杤久保 修, 土井 陸雄
    2002 年 49 巻 7 号 p. 683-693
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy, HOT)受療患者の居住環境要因が,日常生活動作(Activity of Daily Living, ADL),生活活動に与える影響を明らかにし,HOT 患者における医療と福祉に関する生活環境整備と調整のあり方を検討することを目的とする。
    方法 横浜市西部にある国立病院(450床)呼吸器内科から HOT を受けている53~85歳の患者27人(男17人,女10人)を対象とし,身体状態,呼吸困難の程度,ADL,居住環境などに関して調査票を用いて面接調査と分析を行った。
    結果 1. 呼吸困難の程度は,Hugh-Jones 分類でIII度とIV度の者が78%を占め,階段昇降と入浴,および歩行で息切れを感じ,外出の少ない生活をしていた。通院手段では,タクシーの利用が多く,電車やバスの利用は少なかった。
     2. 二階建て家屋に居住していて二階を使用できない患者は80%であった。エレベーターのない 3 階以上の建物に居住する患者は,階段昇降で多くの介助を要し,外出が困難になっていた。また,傾斜地に立地する住宅では,バス停までの経路が長くなっていたが,外出との関係はみられなかった。
     3. HOT 患者は,住宅改善事業などの公的な支援はあまり利用しておらず,居住環境と ADL の関連についての知識が不足していた。
    結論 以上の結果と面接時に聞かれた内容から,HOT 患者に対し,地域における医療・保健・福祉の連携による居住環境の改善と併せて,患者・家族への環境改善に関する情報提供と教育の必要性が示唆された。
  • 小田 正秀, 大角 直行, 中林 邦子, 宮城 昌治, 森本 進, 坂木 慎司, 有馬 隆, 今田 愛子, 遠藤 邦彦, 土江 健也, 森本 ...
    2002 年 49 巻 7 号 p. 694-705
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 高校生の喫煙の実態を把握するとともに,歯科医師による喫煙防止教育の効果を検討することを目的とした。
    方法 広島市内の某男子校の高校生1,003名を対象とした。歯科医師による喫煙防止教育講演の前後に無記名による自記式アンケート調査を行った。また,歯科医師による歯科健康診査を別途行った。
    成績 喫煙経験者率,喫煙者率ともに,高学年ほど高い値を示した。
     クラブ活動をしていない群では学年が上がると喫煙者率が増加した。
     喫煙が及ぼす健康影響についての知識では,肺がんが最も多く,歯周病がそれに次いで多かった。
     歯科医師による喫煙防止教育講演前後で行ったアンケート調査成績から,「家族がたばこを吸っているのを見てやめた方がいい」と答えた生徒は講演前の55.9%から講演後の62.2%と6.3ポイントの増加がみられた。
     教育講演で印象に残った内容では,がんの写真,歯への影響の話,バージャー病があげられた。
    結論 高校生に喫煙防止教育を行う場合には,がんの写真,バージャー病の写真と歯への影響の話が印象的であると考えられ,歯科医師による教育の必要性が認められた。
資料
  • 須那 滋, 戴 紅, 藤田 陽子, 浅川 冨美雪, 北窓 隆子, 平尾 智広, 福永 一郎, 實成 文彦
    2002 年 49 巻 7 号 p. 706-712
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 近年,浮遊粒子状物質(SPM)のうち,粒径2.5 μm 以下に分布する微粒子画分(PM2.5)の濃度と循環器疾患死亡率あるいは喘息・気管支炎罹患率との間の関連性を指摘する疫学研究が報告され,わが国においても PM2.5の健康影響に注目が集まってきた。しかし微粒子汚染の実態はあまり明らかにされていない。著者らは高松市郊外の丘陵部に位置する香川医科大学周辺の屋外大気の微粒子汚染状況を知ることを目的として,SPM の粒径別測定を試みた。
    方法 1999年 2 月から2000年 1 月の間に,アンダーセンサンプラーによる質量濃度法とパーティクルカウンターによる相対濃度法を用い,SPM の粒径別濃度測定を行った。
    結果 測定期間を通じてトータルの SPM 濃度(PM11)は20~30 μg/m3 であり,PM11に占める2.1 μm 以下の微粒子画分(PM2.1)の比率は25~60%であった。PM11, PM2.1いずれも,田園地帯からの風向きが主である 8 月が最も低値で,一方,市街地からの風向きが主である 1 月,2 月の冬季と黄砂飛来時の 4 月に高かった。パーティクルカウンターによる測定結果では,4 月の SPM 濃度は黄砂を含むもや状のエアロゾル飛来時に高く,前線通過時の降雨の後には各粒径の粒子数は急激に減少し,その程度は微粒子ほど大きい傾向にあった。8 月の測定期間中は田園地帯の大気が測定地点に流れ込む機会が多かったが,1 μm 以下の微粒子濃度は 4 月に比べ明らかに低かった。
    結論 高松市郊外に位置する香川医科大学周辺大気の微粒子濃度は天候や後背地からの気流に強く影響されることが示唆された。
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