日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
49 巻, 8 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
論壇
総説
  • 湯浅 資之, 吉田 友哉, 菅波 茂, 中原 俊隆
    2002 年 49 巻 8 号 p. 720-728
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
     健康介入の進歩における到達点とも言えるプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)とヘルス・プロモーション(HP)は社会的政治的介入の健康政策として提唱された。両者には多くの共通概念がある一方で相違点も存在する。人口構造と疾病構造のニーズの違いが,PHC の「ヘルス・ケア」と HP の「健康度(ヘルス)を高めること(プロモーション)」の相違点を与える。また社会政治構造の視点から概念形成の歴史を遡ることにより,PHC が「保健医療の知識・技術・制度を社会化もしくは民衆化」するのに対し,HP は「個人およびそれを取り囲む社会を保健化もしくは健康指向化」することの相違が在ることが分かる。昨今の開発途上国では「社会を健康指向化」する HP 的アプローチが需要されてきており,一方先進国でも「保健医療を受益者本位」とする PHC 理念が希求されている。PHC と HP の相違は双方の固有価値を一層高め,途上国と先進国には両者の理念がそれぞれに必要である。
原著
  • 古屋 博行, 長岡 正, 水嶋 春朔, 伊藤 俊, 柴田 則子, 岡本 直幸, 岡崎 勲
    2002 年 49 巻 8 号 p. 729-738
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 冠動脈疾患や 2 型糖尿病の発症予防には,その背景因子である「死の四重奏」(上半身肥満,高血圧,高トリグリセライド血症,耐糖能低下)やインスリン抵抗性の関与が推測されているマルチプルリスクファクター症候群の予防を目的とした危険因子の改善が重要である。都市部の地域において HbA1c 値と動脈硬化危険因子との関連性について報告がみられないことから神奈川県 2 市で検討を行い,さらに地域における集団の違いがこれらの関連に与える影響を分析した。
    方法 平成10年度に基本健康診査で全受診者に HbA1c 値を測定していた神奈川県中央部の隣接する 2 市の40歳から79歳までの男女を対象とした。HbA1c 値の関連因子として年齢,Body Mass Index(BMI),収縮期血圧値(SBP 値),拡張期血圧値(DBP 値),血清総コレステロール値(TC 値),HDL コレステロール値(HDL-C 値),血清トリグリセライド値(TG 値),GOT 値,GPT 値,尿酸値,γGTP 値を取り上げ,これらの因子と HbA1c 値との間の相関係数を求めた。次に HbA1c 値との間で有意な相関関係が得られた因子と 2 市を区別する変数を独立変数に,HbA1c 値の指導区分で要指導以上かそうでないかを従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。地域の違いが各因子の HbA1c 値への関連に影響を与えるか交互作用項を追加して分析した。
    結果 1. 男性において,両地域に共通して年齢,BMI, TC 値,γGTP 値について HbA1c 値との間で有意な正の関連が,尿酸値に有意な負の関連が認められた。
     2. 女性において交互作用項を含むモデルでロジスティック回帰分析を行った場合,両地域に共通して年齢,BMI, SBP 値,TC 値,TG 値,GPT 値,γGTP 値について HbA1c 値との間に有意な正の関連を,GOT 値について有意な負の関連を認めた。TC 値については交互作用項が有意なことから HbA1c 値との関連の程度が地域集団の違いにより異なると考えられた。
    結論 男性で HbA1c 値に対する正の関連因子として認められた TC 値,女性での BMI, TC 値についてはこれまでの本邦の報告と一致し,女性に認められた TG 値は欧米での報告と一致していた。男性での γGTP 値,女性での GPT 値,γGTP 値については HbA1c 値に対する正の関連因子として今回の検討で初めて認められた。HbA1c 値が従来から言われてきた肥満だけでなく脂質代謝,肝機能検査値,血圧の複数因子との関連が認められたことから,地域住民の HbA1c 値と動脈硬化危険因子との関連を検討することは住民の複数危険因子の評価に有用と考えられた。
  • 瀬畠 克之, 杉澤 廉晴, マイク・D フェターズ, 前沢 政次
    2002 年 49 巻 8 号 p. 739-748
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 医療費の推移に影響を与えているとされる高齢者の受療行動がどのような要素によって構成されているのかを調べることを目的に,高齢者が医療に対してどのようなニーズを持っているのかを質的に調べた。
    方法 さまざまな医療機関への受診が可能な地域に住む65歳以上の高齢者を対象に,入院などの実際の受療経験をもとに,「入院中に受けた受療内容をどう感じたか」,「入院中に印象的だったこと」あるいは「医療全般に対する期待」など,医療に関わる幅広い質的データを個人面接調査によって収集した。
    結果 今回の個人面接調査は24人の高齢者に対して行い,理論的飽和状態に達したと確認された19人分のデータを分析・考察した。ここで情報としての重要性が高いと考えられた要素(カテゴリー)は「心のつながりと安心感」や「大切に扱われる接遇」であり,この他にも「希望の充足」や「距離的利便性」,「信頼感を感じる診療」,「設備の充実」などが挙げられた。また,「優れた技術と技能」,「第三者の意見や評判」,「待ち時間の長さ」,「同じ医師による継続した医療」,「改善の実感」,「高次医療機関への紹介」,「複数の診療科」,「複数の医師による医療判断」なども比較的重要な要素と考えられた。また,今回抽出されたカテゴリーは「情緒的期待」と「医療システムに対する期待」,そして「日常生活の中での利便性」といった属性(プロパティ)にまとめることができた。
    結論 こうした結果は,フォーカスグループでの結果にもみられたように,開業医に対する「医療スタッフとの心のつながりを感じる」ことや,大病院に対する「医療レベルが高く,重症疾患にも対応できるような気がする」ことなどと同様に医療機能に対する漠然とした期待を反映していると思われる。また,「日常生活における利便性」は今回の面接では単独のプロパティとして挙げられており,高齢者は医療に対する安心感や信頼感と共に日常生活に支障をきたさないような配慮や利便性を医療に求めていることを示唆していた。今後,量的調査を含めたさまざまな調査を行い複合的に検討することが重要である。
  • 鈴木 亜矢子, 宮内 愛, 服部 イク, 江上 いすず, 若井 建志, 玉腰 暁子, 安藤 昌彦, 中山 登志子, 大野 良之, 川村 孝
    2002 年 49 巻 8 号 p. 749-758
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 食事の写真から栄養素等の摂取量を推定する食事調査法(写真法)の観察者間の一致性,および妥当性を日常の食事について検討し,写真法の実用性を評価した。
    方法 栄養学専攻学生の家族25人(男13人,女12人,平均年齢±標準偏差:47.3±5.6歳)において,写真法および基準となる秤量法による食事調査を 1 人あたり 4 日間実施した。写真法ではレンズ・フラッシュ付きフィルムで撮影された同一の写真から,2 人の観察者が独立に食材料の種類と重量を推定した。それをもとに食品成分表を用いてエネルギーおよび各栄養素の推定摂取量を算出した。観察者間の一致性は推定栄養素等摂取量の 2 人の観察者間の比と相関,および変動係数で,妥当性は 2 人の観察者の推定摂取量を平均した値と秤量法による摂取量の比と相関,変動係数によって検証した。分析は 1 日単位(25人×4 日=のべ100日分)と個人単位(25人分)で行った。写真法による食事調査に要する費用についても試算した。
    成績 観察者間の一致性について,写真法による 1 日あたり栄養素等推定摂取量(平均値)の 2 人の観察者間の比は0.89(マグネシウム)~1.14(レチノール),中央値は1.03であった。両者間の相関係数は 1 日単位で0.65(飽和脂肪酸)~0.92(ビタミン C),中央値は0.79,個人単位では0.65(飽和脂肪酸)~0.96(ビタミン C),中央値は0.78であった。変動係数の範囲は 1 日単位で7.9%(エネルギー)~23.8%(カロテン)(中央値13.3%),個人単位で5.2%(エネルギー,マグネシウム)~17.8%(カロテン)(中央値8.8%)であった。妥当性については,1 日あたり平均摂取量の両方法間の比(写真法/秤量法)が0.96(カリウム,飽和脂肪酸)~1.11(レチノール,食塩),中央値は1.00であった。両方法間の相関係数は,1 日単位で0.40(食塩)~0.82(ビタミン C,レチノール),中央値は0.67,個人単位では0.47(食塩)~0.90(ビタミン C),中央値は0.74であった。また変動係数は,1 日単位で10.5%(エネルギー)~39.6%(カロテン),中央値は16.9%,個人単位で6.1%(蛋白質)~20.6%(カロテン),中央値は11.2%であった。費用は25枚撮りレンズ付きフィルムを用いた場合,1 食あたり105円となった。
    結論 栄養素等の種類によって観察者間の一致性,妥当性は一様ではないが,全体としては良好であった。外食などへの対応に課題が残るものの,写真法は食事記録法として十分に実用的と考えられた。
公衆衛生活動報告
  • 撫井 賀代, 山田 尚, 下内 昭, 中澤 秀夫
    2002 年 49 巻 8 号 p. 759-765
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 ピラジナミドを加えた 4 剤による 6 か月治療が標準的な化学療法の一つに加えられ,これからの患者管理は治療期間中の脱落中断を防止し,治療終了に導くための服薬支援を中心としたものが必要となっている。この患者管理を定期的に評価し,結核対策を見直していくことを目的に「コホート分析による評価検討会(コホート検討会)」が実施されたので,その実施状況と成果を報告し,本検討会の意義について考察する。
    方法 大阪市浪速保健所において,平成10年より「コホート検討会」を四半期ごと(3 か月に 1 回)に開催し,喀痰塗抹陽性新登録肺結核患者を対象に,治療成績・治療状況(治療経過・菌検査結果の把握状況)・初回面接の実施状況について,継続的に検討を行った。検討会のメンバーは結核対策を担当する保健所の職員だけでなく,外部助言者の参加を得て実施した。
    成績 1. 菌検査結果の把握状況は,平成 9 年から11年までの 3 年間で培養検査は69%から97%へ,感受性検査は36%から90%へと改善を認めた。
     2. 初回本人面接を未実施のものが同じく 3 年間で36%から17%へと減少し,治療期間中の本人連絡の回数が増加した。
     3. 治療成績では,脱落中断率が18%から 7%へと著明に低下し,治療成功率も69%から76%へとやや改善を認めた。また,脱落中断者の状況は当初,本人面接未実施のため,転居などの情報を把握できずに中断に至ったケースや中断を早期に把握できなかったケースなどが認められたが,平成11年には,本国への帰国により治療状況が不明になったケースと治療中断を繰り返す処遇困難事例のみとなった。
    結論 コホート検討会の開催により,菌検査結果の把握・初回本人面接の実施状況が改善され,脱落中断率が低下した。コホート検討会を行うことのメリットとして,①個々のケースの見直しが保健師個人ではなく,保健所として実施できるようになった。②個人の評価のみでなく,集団としての評価が可能となり,結核対策の見直しに繋がった。③定期的かつ継続的に評価が実施できるようになった。さらに,本来の患者管理の評価という目的以外に,④職員の勉強の場ともなり,それぞれが何をすべきなのかということが認識され,適切な役割分担と協力体制がつくられるようになった。ことがあげられる。また,客観的な評価と緊張した検討会の実施には,外部者が参加して実施することが不可欠だと考えられた。
資料
  • 柳澤 理子, 馬場 雄司, 伊藤 千代子, 小林 文子, 草川 好子, 河合 富美子, 山幡 信子, 大平 光子
    2002 年 49 巻 8 号 p. 766-773
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 本研究の目的は,家族および家族外からのソーシャル・サポートと,高齢者の心理的 QOL との関連を明らかにすることである。
    方法 対象は三重県内 3 市町(工業都市,漁村,山村)に在住する65歳以上の在宅高齢者216人で,老人会集会および老人会会員を対象とした保健婦による健康相談の場で,自記式質問紙を用いた集合調査を実施した。心理的 QOL を,「①現在,孤独感や不安感が低く情緒的に安定しており,②エリクソンによる老年期の心理社会的発達課題である「統合 対 絶望」に際して,自己の人生をかけがえのない,満足できるものとして受けとめており,かつ死に対しても受容している状態」と定義し,前者を測定するために PGC モラール・スケールを,後者を測定するためにエリクソン心理社会的発達段階目録検査(EPSI)を使用した。PGC モラール・スケールは対象者において因子構造を確認したところ,「心理的安定」,「加齢に対する態度」の 2 因子が抽出されたため,以後の分析はこの 2 因子で実施した。EPSI は「人生の受容」の 1 因子性であることが確認された。ソーシャル・サポート尺度は,家族および家族外をサポート源とし,手段的サポートおよび情緒的サポートから構成される指標を,独自に作成した。統御変数として,年齢,性別,家族構成,ADL,教育歴等を尋ねた。
     サポートと心理的 QOL との関連を分析するため,仮説モデルを設定しパス解析を行った。家族および家族外からのサポート提供が,主観的幸福感の下位概念である「心理的安定」および「加齢に対する態度」に影響を及ぼすと仮定した。両サポートはまた,直接に,あるいは「心理的安定」および「加齢に対する態度」を介して,「人生の受容」に影響を及ぼすと仮定した。
    成績 家族からのサポートは心理的安定に有意に影響し,加齢に対する態度には有意な傾向を示した。また家族からのサポートは,これらを介して人生の受容に影響を及ぼしていた。一方家族外サポートからは,心理的安定,加齢に対する態度,人生の受容のいずれに対しても有意なパスは得られなかった。
    結論 対象高齢者にとって家族からのサポートは心理的安定や加齢に対する肯定的態度を促進する役割を果たし,それによって人生の受容というより長期的な心的作業にも,肯定的に作用するものと考えられる。一方家族外のサポートは,心理的 QOL に有意な効果がみられなかったが,本調査では対象が限定されていたため,今後はより広範囲な高齢者を対象とするとともに,サポート提供および地域差との関連も研究していく必要がある。
  • 渕上 博司, 永井 正規, 仁科 基子, 柴崎 智美, 川村 孝, 大野 良之
    2002 年 49 巻 8 号 p. 774-789
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 特定疾患(難病)の医療費公費負担制度を利用している受給者の実態を明らかにすることを目的として,4 回目の医療受給者全国調査を1998年に実施した。
    方法 1997年度(1997年 4 月 1 日~1998年 3 月31日)に特定疾患治療研究医療事業により医療費公費負担を受けた受給者の全数を対象として,給付開始年度,受給者番号(疾患のコードを含む),性別,生年月日,居住市区町村,加入医療保険の種類などについての調査を行った。この資料を用いて,受給者の性・年齢分布,地域分布,受療状況などの基本的な特徴を疾患ごとに検討し,過去の全国調査結果と比較した。
    成績 1. 1997年度の受給者数は399,719人で年々増加している。性別では,男158,766人,女240,953人,性比(男/女)0.66であり,男の割合が過去の調査と比較すると高くなっている。年齢は男女とも45歳から74歳の受給者が多く,高齢者の占める割合が高くなっている。入通院別では14.7%が入院治療を受けており,入院の割合が高くなっている。診療科別では内科が43.6%で最も多いが,専門科での受診に分散してきている。医療保険の種類別では老人保健法による受給者の増加が認められた。都道府県別では東京都が最も多く,山梨県が最も少なかった。
     2. 受給者数の最も多い疾患は,これまでの全身性エリテマトーデスに替わって潰瘍性大腸炎52,261人(13.1%)であり,最も少ない疾患は原発性肺高血圧症96人であった。受給者数はスモンを除くすべての疾患で増加しており,多くの疾患で高齢者が増加していることが明らかになった。
     3. 今回初めて対象となったクロイツフェルト・ヤコブ病は入院治療患者の占める割合が他の疾患に比べて特に高く,76.4%であった。
    結論 1997年度医療受給者全国調査の結果から現在の受給者の特徴および受給者の持つ特徴の変化を明らかにすることができた。受給者の情報は難病患者の性・年齢分布,地域分布,受療状況などの疫学的特徴を把握する重要な情報源であるため,今後も継続的に受給者情報を解析する必要がある。
  • 大畠 律子, 中島 洋, 岩本 真弓, 小寺 良成
    2002 年 49 巻 8 号 p. 790-794
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 結核として届け出のあった患者からの分離菌が,BCG 株と判明した事例の体験をもとに,迅速で有効な結核対策のための,発生動向調査や菌検査の精度管理のあり方ならびに医療機関と保健所など関係機関の連携について検討することを目的とした。
    方法 医療機関で分離・培養された抗酸菌について,制限断片長多型(restriction fragment length polymorphism,以下 RFLP)解析を行うことにより分子生物学的な面から病原体情報を取りまとめ,その結果を医療機関および所管保健所へ還元した。
    結果 肺結核と診断された患者の喀痰材料から分離された菌株について,IS6110およびPGRS (polymorphic GC-rich repetitive sequence)をプローブとした RFLP 解析を行ったところ,BCG 様パターンを示す株が検出された。患者情報の追加調査により,患者は膀胱癌治療のため BCG 免疫療法を受けていたことが判明し,それに由来するものと推測された。この結果を受け,医療機関ではこの症例の再検討を行い,所管保健所においては,2 回目以降の接触者検診計画が中止された。
    結論 今回の事例から,十分な発生動向調査と精度管理に基づく適切な菌検査の重要性が認識された。特に高齢者の結核では,合併症など特殊な事情があるため,医療機関と保健所の十分な連携と情報交換も重要と考えられた。また,分子生物学的手法としての RFLP 解析は,感染源究明に非常に有効であり,今後の結核対策に大いに役立つことが示唆された。
  • 本田 亜起子, 斉藤 恵美子, 金川 克子, 村嶋 幸代
    2002 年 49 巻 8 号 p. 795-801
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 在宅の一人暮らし高齢者の実態を把握し,自立度による身体的特性,精神・心理的特性,社会的特性を明らかにすることを目的とした。
    方法 I 県 T 町に居住する65歳以上の在宅の一人暮らし高齢者101人(男20人,女81人)を対象に訪問面接調査を行った。本研究では,厚生省による障害老人の日常生活自立度判定基準のランク A~C に該当する高齢者を「要介助群」とし,ランク J 以上の高齢者について,老研式活動能力指標得点により「要介助予備群」と「自立群」に分類し,各群の特性を比較検討した。
    成績 T 町に居住する65歳以上の高齢者2,186人(2000年 4 月 1 日現在)のうち,住民基本台帳上の単独世帯の高齢者は245人(11.2%),調査時点の在宅の一人暮らし高齢者は117人(5.4%)であった。調査を実施できた101人のうち,自立群は71.2%,要介助予備群は23.8%,要介助群は4.9%であった。要介助予備群は,自立群と比較して,基本的 ADL に有意差は認められなかったが,視力の低下や,もの忘れのある高齢者,抑うつ傾向にある高齢者が有意に多く,生きがいをもつ高齢者が有意に少なかった。また,要介助予備群は,要介助群と比較して基本的 ADL は有意に高かったが,抑うつ傾向にあること,生きがいの有無については有意な差が認められなかった。
    結論 調査対象とした在宅の一人暮らし高齢者の多くは自立していたが,約 5%の高齢者は何らかの介助が必要であった。また,約24%の高齢者は身体的には自立していても,精神的健康状態が低下している者が多かった。これらの結果から,一人暮らし高齢者に対しては,自立している高齢者についても,今後介助を要する状態に陥るリスクが高いと考えられる高齢者を早期に把握し,状況の変化に応じた必要なサービスの提供や,身体的・精神的・社会的な機能の維持・向上に向けた予防的な支援を行う必要があることが示唆された。
会員の声
feedback
Top