日本公衆衛生雑誌
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50 巻, 5 号
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総説
  • 國方 弘子, 三野 善央
    2003 年 50 巻 5 号 p. 377-388
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
     近年,患者立脚型アウトカムの指標のひとつとして QOL が重視されている。本稿の目的は,QOL に関する研究を歴史的に概観することにより QOL の概念を明確にすること,ならびに統合失調症患者の QOL についての研究の到達点を明らかにし今後の課題を考えることとした。
     保健医療におけるアウトカムを重視する流れの中で,QOL が注目されるようになり,1990年から QOL の研究が活発になった。QOL の定義は必ずしも一致しているわけではないが,QOL は患者自身による回答に基づくものであること,QOL は主観的である,QOL の指標は多因子的である,数値は時間と共に変化することの 4 つが QOL の重要な特性とされていた。
     次に,統合失調症患者の QOL 理論モデルとして,Bigelow, Lehman, Skantze and Malm のモデルを紹介し,あわせて 7 つの QOL 測定尺度を紹介した。統合失調症患者の QOL の研究について,Medline と医学中央雑誌を利用し,過去10年間に報告された文献から広く文献を検索するために「QOL,精神科(psychiatric)」をキーワードとして検索を行い,そのうち地域で住む統合失調症患者を対象にした論文のみに絞り込み検討した。その結果,患者の QOL 得点は健常者やうつ病患者と比較して低いことが明らかにされた。QOL の関連要因には,個人の特徴,生活様式,陰性症状,精神症状,能力(家族関係適応,友人関係適応,他者との相互作用),ソーシャルサポート,自己評価,自己決定などがあった。QOL には心理的領域が大きく影響することから,今後,それらと QOL の関連を縦断研究により明らかにし,心理社会的介入方法の構築が課題であると考える。
原著
  • 高橋 裕明, 大熊 和行, 寺本 佳宏, 福田 美和, 矢野 拓弥, 杉山 明, 中山 治, 神谷 齊
    2003 年 50 巻 5 号 p. 389-399
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 1999/2000年に三重県内の乳幼児を対象に行った調査結果を解析し,乳幼児に対するインフルエンザ HA ワクチンの有効性と安全性について評価を行うことを目的とした。
    方法 三重県内 5 か所の小児科を受診した 6 歳未満の乳幼児を対象とし,保護者に調査の主旨を説明し承諾を得たうえでワクチン接種群,非接種群を設定し,基本属性,基礎疾患の有無,調査開始後 1 週間毎のかぜ症状の有無等を調査した。また,接種群については,ワクチン接種後48時間以内の副反応調査を行うとともに,採血に同意が得られた対象者について,ワクチン接種前,1 回接種後,2 回接種後の計 3 回抗体価を測定した。これらの調査結果をもとに,ワクチン効果について発熱を指標とした解析を実施した。
    結果 38℃以上の発熱について,ワクチン接種群の非接種群に対する相対危険は有意に小さくなるとともに,解析対象を全期間とした場合0.79であったものが流行期間に制限すると0.62と低下した。また,多重ロジスティックモデルによる解析の結果でもオッズ比0.42と有意に接種群の発熱リスクが低くなった。接種群では,ワクチンに含まれる抗原により,接種による抗体価の変動に差がみられた。また,38℃以上の発熱について,A/シドニーへの40倍以上抗体価獲得群の非獲得群に対する相対危険は有意に小さくなった。
    結論 ワクチン接種群では,インフルエンザによる38℃以上の発熱に関する相対危険は0.62より小さくなり,ワクチン有効率は少なくとも38%より大きくなることが示唆された。また,40倍以上の抗体価獲得群と非獲得群で相対危険に有意差が認められたことから,ノンレスポンダー等の免疫応答が弱い群に対する接種方法等の検討が必要と考えられた。
  • 渡辺 ゆかり, 藤田 利治
    2003 年 50 巻 5 号 p. 400-413
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 福岡県における精神障害者の通院および入院の受療圏の実態を二次医療圏との関連から明らかにするとともに,居住している二次医療圏以外の医療施設への受療の関連要因を検討する。
    方法 通院については,政令指定都市の福岡市,北九州市を除く県域に在住する者で,通院医療費公費負担制度(精神保健福祉法32条)の2001年 6 月30日時点の利用者16,129人を対象者とした。入院については,1999年患者調査を用いて,精神障害で病院入院中の者7,513人を対象者とした。福岡県の13の二次医療圏ごとに,通院および病院入院についての圏内および圏外の受療状況を整理した。また,多重ロジスティックモデルを用いて,対象者が居住する二次医療圏とは異なる医療圏への受療について,二次医療圏,性別,年齢,診断名および医療保険の種類などの要因との関連を検討した。
    成績 通院医療費公費負担制度による通院については,人口規模の小さな二次医療圏ほど住所地以外の二次医療圏を受療する傾向がみられた。住所地以外の二次医療圏を受療する者の特徴として,年齢が若い,病院よりも診療所を受療,医療保険は「共済組合保険」ないし「組合管掌健康保険・政府管掌健康保険」が示された。一方,病院入院については,精神病床数の少ない二次医療圏では住所地以外の二次医療圏を受療する傾向が明らかに認められるとともに,人口規模の小さな二次医療圏において住所地以外の二次医療圏を受療する傾向がややみられた。年齢が若い,男,診断名は「アルコール使用による精神および行動の障害」,「その他の精神および行動の障害」,「神経性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害」,「気分〔感情〕障害」で,住所地以外の二次医療圏への受療が多く認められた。
    結論 精神障害に対する社会偏見および精神医療資源の地域格差の下で,精神障害者の受療実態として,居住する二次医療圏を超えた比較的広いまとまりのある受療圏が観察された。
短報
  • 荒川 千夏子, 吉永 淳, 水本 賀文, 安部 正雄
    2003 年 50 巻 5 号 p. 414-419
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 内分泌攪乱化学物質の曝露によるヒト生殖能力への影響評価指標として妊孕力に注目し,その測定法として受胎待ち時間(Time to pregnancy:カップルが避妊を止めてから妊娠するまでの期間)調査法を用いることとした。受胎待ち時間の延長は生殖過程が傷害されている可能性を意味している。この調査は未だ日本人を対象として行われたことがない。そこで,本研究では,日本語版の受胎待ち時間調査用質問票を作成し,日本人を対象とした調査においても適用可能であるかを予備的に調査することを目的とした。
    方法 受胎待ち時間や妊娠出産歴,性習慣,対象者(妊婦)およびその性的パートナーの嗜好や食生活などに関する自記式質問票を作成した。2000年10月から2001年 3 月の期間に東京都内の某総合病院産婦人科を受診して,臨床的に妊娠が認められた初診時の患者を調査対象とし,質問票を配布した。受胎待ち時間を長短で 2 群(I群:受胎待ち時間≦6 か月,II群:>6 か月)に分類し,カイ二乗検定,Mann-Whitney の U 検定,二項ロジスティック解析を用いて,解析を行った。
    成績 質問票は92人に配布,回収された。受胎待ち時間の回答が得られたのはそのうちの69人(75.0%)であった。回答された受胎待ち時間の分布は,既往の文献で報告されている分布と類似していた。データ解析の結果,対象者の喫煙率が,I群は19.2%,II群は62.5%とII群が有意に高くなった(P=0.00)。パートナーのうち喫煙者の喫煙本数はI群が15.6本/日,II群が24.6本/日とII群が有意に高くなった(P=0.00)。二項ロジスティック分析の結果,対象者の喫煙に加えて,過去の妊娠回数,魚(対象者)および牛乳(パートナー)摂取頻度が有意な変数として選択された。
    結論 質問票の回答率や回答された受胎待ち時間の分布などから,受胎待ち時間調査が日本人を対象とした妊孕力の評価方法として適用可能であると考えられた。さらに,受胎待ち時間に影響を与える因子について予備的に検討した結果,妊娠回数,喫煙,魚・牛乳摂取頻度など食生活が影響因子として示唆された。
資料
  • 池田 順子, 河本 直樹, 米山 京子, 完岡 市光
    2003 年 50 巻 5 号 p. 420-434
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 中学生の健康,生活と食生活の各種項目の10年間の状況とその推移について把握する事を目的とする。
    対象と方法 平成 3 年から12年にかけ,京都府内の某中学校の 2 年生全員を対象者として,身体計測,血液検査,調査(食生活,生活,健康)を実施した。調査項目は性別に各年度の回答割合を算出し,2 期(前半期:1991~1995年,後半期:1996~2000年)に分けた 2 期間での割合の比較(χ2-検定法)と10年間における各年度の割合の推移を検討(単回帰分析法),また,身体および血液性状,食生活や疲労状況を評価する各種スコアは 2 期間の平均値の比較(t-検定)および10年間の推移を検討(単回帰分析法)した。
    結果および考察 ①解析対象者数は2,171人(在籍者数の91.0%)であった。②肥満度は男女共に後半期で高い傾向が認められたが,肥満傾向児の割合は男女共に全国平均よりやや低かった。③10年間の血清総コレステロールの推移は女子で増加を,HDL-コレステロールは男女共に増加を,動脈硬化指数は男女共に低下傾向を示した。④疲労自覚症状スコアは年度間の変動が大きく男女共に増減はみられなかった。⑤睡眠時間は女子でのみ短縮される傾向が認められた。⑥生活状況では運動クラブの活動状況や帰宅後の生活時間の使い方に変化がみられた。⑦20項目の食品の取り方では男女の果実,女子の肉,男子のインスタント麺で減少傾向を,男女の乳製品で増加傾向を示した。12項目の食べ方では男女の「夕食が 6~7 時台」,男子の「弁当毎日持参」と女子の「薄味好み」と「土日の昼食を簡単に」の割合が後半で高かった。⑧4 種類の食生活を評価するスコアではカルシウムスコアのみが男女共に後半期で高いという傾向が認められたが,平均値としては好ましい値ではなかった。⑨食品摂取パターンを探り,得られた上位 3 尺度の年次推移を検討したがいずれにも有意な増減は認められなかった。
     以上,中学 2 年生の食生活,生活や健康状況の10年間の推移を検討した結果,血液性状や生活面での時間の使い方に変化がみられ,食生活においても食品の取り方や食べ方に少数の項目ではあるが変化がみられ,同時に問題点の多い現状であることが把握できた。
  • 荒井 比紗子, 安梅 勅江, 片倉 直子, 佐藤 泉
    2003 年 50 巻 5 号 p. 435-445
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,生活習慣と自覚症状との関連を把握し,生活の質の向上,健康に与える影響を把握する基礎資料を得ることを目的とした。
    方法 1991年から現在まで継続している大規模コホート調査の一部を再分析した。対象は,T 村に在住の20歳から59歳の全住民で95年に調査協力を得られた者で98年までの追跡調査が可能であった者1,834人である。χ2 検定,多重ロジステイック回帰分析を用いて,生活習慣と 3 年後の自覚症状との関連を分析した。
    成績 年齢,性,本研究で自覚症状に影響を与えた因子を投入した多重ロジスティック回帰分析によるオッズ比は,朝食をほとんど食べない者は息切れ3.37,間食をいつもする者は歯の痛み2.06,喫煙者は頭痛0.39,はきけ18.89,尿が出にくい・もれる0.03,睡眠をあまり取っていない者は目の疲れ1.76と下痢4.07, BMI 値18.5未満,25以上の者はめまい・立ちくらみ1.82で有意な関係が見られた(以上すべて P<0.05)。
    結論 本研究の結果から,望ましい生活習慣により自覚症状を少なくする傾向があること,1 つの生活習慣の改善により複数の自覚症状の予防が可能であること,健康を維持していくには多様な生活習慣の定着を促すことが必要であることが明らかになった。
     生活習慣と住民が直接感じる自覚症状との関連や望ましい生活習慣を複数確立することの意義を住民が認識し,疾患の予防,生活の質の向上につなげることが重要だろう。
  • 金 憲経, 胡 秀英, 吉田 英世, 湯川 晴美, 鈴木 隆雄
    2003 年 50 巻 5 号 p. 446-455
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 日本の介護保険制度で要支援と認定された後期高齢者の運動習慣,主観的体力,生活機能,転倒,転倒恐怖感,転倒恐怖感による外出控えなどの特徴を明らかにすることである。
    方法 対象者は75歳以上の要支援者126人(男性29人,女性97人),健常者262人(男性114人,女性148人)である。対象者の運動習慣,主観的体力,基本的生活機能,高次生活機能,過去 1 年間の転倒経験有無,転倒恐怖感,転倒恐怖感による外出控えを調査し,各項目ごと男女別に χ2 検定を行い,要支援者の特徴を検討した。
    結果 要支援者において運動習慣を有しない者の割合が高かった。主観的体力の特徴は「持久力」,「力」,「柔軟性」を必要とする項目で「できない」と答えた者の割合が高かった。基本的生活機能は,「歩行」,「入浴」の非自立度が高かった。高次生活機能は,要支援者の非自立度が高く,とくに社会的役割を評価する項目でその傾向は強かった。要支援者で転倒恐怖感を有する者は,男性93.1%(27/29),女性93.8%(91/97)であった。転ぶことが恐くて外出を控える者は,要支援者の男性66.7%(18/27),女性60.4%(55/91)であった。過去 1 年間の転倒経験を有する者の割合は,要支援者と健常者間で男(要支援者:31.0%,健常者:26.3%)・女(要支援者:40.2%,健常者:32.7%)ともに有意な差はみられなかった。
    結論 要支援者には歩行,入浴を中心とする基本的生活機能と社会的役割を高める支援が必要であることが推察された。また,転倒恐怖感を有する者の割合が高く,転倒恐怖感のために外出を控える者が 6 割以上であったことから,転倒恐怖感の解消を目指す介入プログラムの提供が必要であることが示唆された。
  • 森田 一三, 中垣 晴男, 熊谷 法子, 奥村 明彦, 桐山 光生, 佐々木 晶浩, 根崎 端午, 阿部 義和, 才藤 栄一
    2003 年 50 巻 5 号 p. 456-463
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 高齢者の身体的,精神的な状態は日々変化している。同様に摂食・嚥下機能も身体的,精神的な影響をうけて変化するものと考えられる。そこで,日常の生活状況が嚥下機能とどのようにかかわっているかを明らかにするために本研究を行った。
    方法 日帰り介護施設(デイサービスセンター)6 施設の利用者,男性105人,女性219人を対象として聞き取り調査および反復唾液嚥下テストを行った。内容は,手段的日常生活動作能力(IADL)および移動能力,食事や嚥下に関する状況および身体状況に関する質問を行い,さらに反復唾液嚥下テストを用いて嚥下機能の判定を行った。
    結果 IADL と反復唾液嚥下テストの関係では,女性において買い物,家事,食事の準備,お金の管理が自立している者は嚥下状態も有意に良好であった。移動能力と反復唾液嚥下テストの関係では,男女において移動能力が高いほど嚥下状態も良好であった。生活食事の状況と反復唾液嚥下テストの関係では,男女において,食事が自立している者,普通食を食べることができる者,よく笑う者は有意に嚥下状態が良好であった。
    結論 高齢者において,嚥下状態が良好であることと,日常生活や,移動が自由にでき,食堂において自分で普通食を食べ,笑うことが出来る状態との間には関連があることが示唆された。
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