日本公衆衛生雑誌
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50 巻, 6 号
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論壇
総説
  • 吉益 光一, 清原 千香子
    2003 年 50 巻 6 号 p. 485-494
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
     精神科デイケアに関して既に70年近い歴史を有し,豊富な研究結果が蓄積されている欧米に比べ,日本の研究はまだ少ない。しかし1980年代より日本においても統合失調症(精神分裂病)患者を対象とした,デイケアの有効性に関するいくつかの研究が報告されている。欧米では種々の精神疾患に対してデイケアが試みられており,総合的な精神機能の回復のみならず,感情障害や反社会的行為,薬物依存等に対する効果も報告されているが,日本では統合失調症における陰性症状(感情鈍麻や引きこもり)の改善が中心である。外来治療との比較においては,日本欧米ともに精神症状の改善に対するデイケアの優越性が示されているし,入院治療との比較でも欧米でほぼ同等の効果が報告されており入院の代替的機能を担うと考えられている。再入院率を効果の指標とした研究では,日本の研究を中心に有効性が指摘されているが,長期間の再入院防止効果の持続には否定的な報告も多い。これらは従来のデイケアの限界性を示しているともいえるが,陰性症状に有効とされる,新しい抗精神病薬が最近相次いで開発されており,これらの薬物との組み合わせによってデイケアの治療効果が今後増大する可能性があり,今後の研究成果が期待される。
原著
  • 道信 良子
    2003 年 50 巻 6 号 p. 495-507
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 本稿では,タイ北部の工業団地で働く若年男性工場労働者の性関係とコンドーム使用の状況を質的に調査・分析し,彼らの HIV 感染リスクの状況を明らかにすることを試みた。
    方法 1997年 6 月から2000年 3 月までに合計13か月,工業団地近辺でフィールドワークを断続的に行った。男性工場労働者27人を対象に,エイズの知識と認識,HIV 感染予防行動,性関係など,HIV 感染リスクに関する質的データを,半構造式の個人インタビューによって収集した。
    結果 調査参加者は,工業団地での定職の獲得と社会的地位の向上などの生活の変容により,勤勉で品行のよい工場労働者という肯定的な自己イメージを形成していた。また,恋人や妻を得ることで性生活も安定し買春を行っている人はいなかった。調査参加者のエイズに関する知識は正確であった。彼らは,リスク・グループに対し「貧困」,「教育のない」,「性的放縦」という否定的なイメージをもっているのに対し,自分自身には「経済的に安定した」,「教育のある」,「自制」という肯定的なイメージをもち,自己の HIV 感染リスクを否定した。夫婦・恋人関係にある女性に対しても感染リスクはないと考えており,感染予防は取られていなかった。避妊はピルで行われることが多く,夫婦・恋人間ではコンドームは不自然かつ不必要であると考えられていた。
    結論 本調査では,調査参加者が性的放縦性を是とする伝統的な男性規範とは対照的な規範を生成し,それが彼らのリスク行動を抑制していると推測された。新しい規範の生成を促したのは,一つには農村農家の息子から工業団地の工場労働者への生活の変容であり,今一つには,エイズのリスク・グループと自己とを差異化しようとする意識であると考えられた。今後も彼らの生活の安定と肯定的な自己イメージが維持され,恋人・妻との互いに独占的な性関係が続けば感染リスクは制御されると推測される。しかし,その一方で,調査参加者の中には不特定多数の関係にある人もいることから,夫婦・恋人関係における感染リスクが過小評価され効果的な予防策が取られていないことは,彼らの間にリスクが潜在していることを示唆する。今後,感染リスクはすべての性関係にあるという前提で工場労働者に対する効果的な感染予防対策を講じることが必要である。
  • 森田 一三, 中垣 晴男, 小窪 和博, 柘植 紳平, 水野 明広, 阿部 義和, 横山 靖夫
    2003 年 50 巻 6 号 p. 508-514
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 同一地区における無作為抽出による住民と,歯科医院を受診した患者に,同じ内容の調査を行い,対象者のサンプリングの違いによる回答の差を明らかにすることを目的に本研究を行った。
    方法 無作為抽出法では岐阜県 M 市における住民情報データベースに基づき年齢階層化無作為抽出により抽出率6.46%で抽出し,郵送法により回答を得た人900人を分析対象者とした(以下住民群)。患者調査法では同市内の12の歯科医院へ受診した患者で回答を得た240人を分析対象とした(以下患者群)。
     調査項目は,口腔内の状況,口腔の健康維持に関する状況,生活習慣,食事・栄養摂取についてであった。
    結果 住民群における郵送法の回収率は,男性41.0%,女性49.0%であった。
     住民群と患者群の比較では「歯ぐきが腫れることがありますか」,「専門家による歯みがきの指導を受けたことがありますか」は男女ともに住民群のほうが患者群に比べ“はい”と回答する者の割合が有意に(P<0.05)少なかった。
    結論 患者群は住民群に比べ歯科医院への受診,受療が行われている割合が高かった。一方,患者群は住民群に比べ,口腔の健康を保つ行動をとる者の割合が少なく,口腔内に問題を持つ者の割合が多かった。地域の口腔保健の目標作成にあたり,歯科医院における患者を対象とした調査は地域住民の口腔保健のベースライン値として用いるには適切とはいえないと結論される。
  • 李 黎, 小林 廉毅, 徐 愛強, 千葉 靖男, 宋 立志, 肖 作奎, 張 麗
    2003 年 50 巻 6 号 p. 515-525
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 医療従事者における安全な注射に関する知識,態度および行動を調査し,注射に関する安全でない行為に関連する要因を検討する。
    方法 中国・山東省における県,郷,村,3 つの行政レベルの医療施設で働く医療従事者を対象として,質問紙調査を行った。調査項目は回答者の属性,注射に関する一般項目,安全な注射に関する知識・態度,安全でない行為の 4 つに大きく分類した。安全でない行為の関連要因を検討するため,「安全でない注射の実施」と「ディスポ注射器の正しくない処分」を従属変数として,それぞれ stepwise 法によるロジスティック回帰分析を行った。
    結果 調査票を497人に配布し,468人から有効回答を得た。村,郷,県の順に平均年齢が高く,学歴において専門学校未満の者の割合が高かった。ディスポ注射器のみを使用する者は82.4%であり,県,郷,村の順に低くなった。安全な注射に関する知識の平均得点は14.9(満点18点)で,県,郷,村の順に低くなった。「安全でない注射の実施」の割合は6.2%,「ディスポ注射器の正しくない処分」の割合は7.6%であり,村レベルでは高い傾向がみられた。ロジスティック回帰分析の結果,「安全でない注射の実施」と関連していたのは「対象者の職称が中級未満」,「知識の得点が15点未満」,「AIDS を怖い病気と思わない」および「同じ注射器を二人以上の患者に使うことが許されると思う」ことであり,「ディスポ注射器の正しくない処分」と関連していたのは「職場が村レベル」,「知識の得点が15点未満」,「同じ注射器を二人以上の患者に使うことが許されると思う」および「ディスポ注射器を正しく処分する努力ができない」ことであった。
    結論 山東省では村レベルの医療従事者における安全な注射の知識と望ましい態度が不足しており,今後医療従事者を対象した教育介入が必要と考えられた。
  • 鈴木 健修, 大井田 隆, 曽根 智史, 武村 真治, 横山 英世, 三宅 健夫, 原野 悟, 野崎 直彦, 元島 清香, 須賀 雅彦, 井 ...
    2003 年 50 巻 6 号 p. 526-539
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 全国の一般住民の妊婦を対象にしたアンケート調査を実施し,①わが国の妊婦における睡眠上の問題についての実態を明らかにすることおよび②睡眠上の問題と妊娠月数,妊娠回数,睡眠時間等との関連性について解析し,妊婦がより快適な睡眠を得るための方法を検討した。
    方法 調査対象は,社団法人 日本産婦人科医会の調査定点から無作為抽出した500箇所の産科医療機関のうち,最終的に調査協力の得られた全国260箇所を受診した女性で「妊娠の確定した再診の妊婦」とした。無記名自記式の質問票を用いて,診療待ち時間に各自に回答してもらい,密封封筒により回収した。調査内容は,属性(年齢,最終学歴),妊娠状況,就業状況,妊娠前の喫煙・飲酒状況,現在の喫煙・飲酒状況,喫煙・飲酒の胎児への影響の認知等,睡眠については,①自分の睡眠に対する自己評価②入眠障害の有無③中途覚醒の有無④早朝覚醒の有無⑤睡眠時間⑥昼間の眠気の有無の各項目とした。
    結果 妊娠月数と睡眠問題との関連性については,入眠障害,早朝覚醒等の睡眠項目 4 項目との関連性が有意に認められた。妊娠回数と睡眠問題との関連性については,睡眠に対する自己評価,早朝覚醒等 5 項目との関連性が有意であり,また,妊婦の「自分の睡眠に対する悪い評価」の正の関連要因として,妊娠回数,仕事あり,現在飲酒あり,現在喫煙あり,負の関連要因として 7 時間以上の睡眠,昼寝あり,との関連性が有意であるとの結果が得られた。さらに,妊娠回数が多いほど睡眠時間が短い傾向が示唆された。次に,各睡眠項目について妊婦と一般住民の比較を行った結果,一般住民と比較して妊婦のほうが,睡眠上の問題を抱える割合が高い傾向にあることが示唆された。
    結論 今回の研究から,妊婦の睡眠問題に関連性の強い因子として,妊娠回数,妊娠期とともに,睡眠時間が指摘され得ることが示唆され,母体の健全性の維持と胎児の健全な成長発育を期するためにも妊婦は,快適な睡眠を保持することが重要であり,そのためには,十分な睡眠時間を確保することが重要であることが考えられた。また一般住民と比較して妊婦のほうが睡眠上の問題を抱える割合が高いことが示唆され,妊娠による内分泌学的変化や身体的変化が影響している可能性が考えられた。
資料
  • 松本 一年, 松原 史朗, 玉腰 暁子, 川村 孝
    2003 年 50 巻 6 号 p. 540-546
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 突然死の予防対策上の基礎資料を作成することを目的として,死亡小票を用いた記述疫学的研究を行った。
    方法 名古屋市を含む愛知県全域における1994年の死亡小票の全数調査を実施し,原死因の発症から24時間以内の内因性の死と定義した突然死を抽出した。その突然死の発生頻度を算出するとともに,原死因や時間的特性について分類・集計し,記述した。
    成績 突然死は7,813例(男4,276例,女3,537例)認められ,その発生率は人口10万人当たり年間114人(男124人,女104人)であった。突然死のうち前期高齢者(65~74歳)が20.1%,後期高齢者(75歳以上)が54.6%を占めていた。また,同年の愛知県の全死亡(41,111例)に対する突然死の割合は19.0%(男19.1%,女18.9%)であった。突然死の原因疾患は,「急性心筋梗塞」が13%,心不全など「その他の心血管疾患」が58%,「脳血管疾患」が12%であった。突然死は12月から 3 月と 8 月に多発し,曜日による差はごくわずかで,1 日の中では 6~14時に高頻度であった。この季節変動や日内変動は主に「その他の心血管疾患」によってもたらされていた。
    結論 突然死の発生率は,年齢に著しく依存し高齢者になるほど多く,その発生は季節や時刻の影響がみられた。突然死の大部分が循環器疾患と考えられるので,突然死の発生を予防するためには,循環器疾患の各病型に対する予防対策を推進することが重要であると考えられた。
  • 原田 博子, 小林 敏生, 若本 ゆかり, 瀧田 覚, 杉山 真一, 國次 一郎, 奥田 昌之, 芳原 達也
    2003 年 50 巻 6 号 p. 547-552
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 冬季におけるインフルエンザワクチン(以後ワクチンと略す)接種者と非接種者の発熱状況を把握し,2 つのグループを比較することによってワクチン接種の効果を相対危険で評価する。さらに予防接種を実施したグループに対し,接種後の副反応が次年度の保健行動にどの様に影響するか検討する。
    対象と方法 調査病院において院内感染を予防するためにワクチン接種することが望ましいことを説明し,同意を得てワクチン接種を実施した病院職員185人と同市内の市役所職員のうちワクチン非接種の者450人に対して,アンケート調査を実施した。調査期間中に感冒様症状があった者を38.5度以上の発熱(インフルエンザ様症状)と38.5度未満の発熱(普通感冒症状)に分けてワクチン接種の効果を検討した。さらに病院職員にはワクチン接種後の副反応の有無および副反応の有無が今後のワクチン接種希望の有無にどの様に影響するか調査した。
    結果と考察 38.5度以上の発熱は,ワクチン接種者では13.2%,非接種者では33.2%であり,ワクチン接種者で有意に低かった(P<0.01)。これに対して,38.5度未満の発熱の発症回数は,ワクチン接種者と非接種者の間には有意差を認めなかった。ワクチン接種後の副反応については,調査回答者159人のうち10%(16人)に副反応を認めた。今後のワクチン接種希望の有無について副反応の有無に分けて集計した結果,副反応があった者については,「ワクチン接種希望あり」が25.0%,「ワクチン接種希望無し」が50.0%であったのに対して,副反応が無かった者については,「ワクチン接種希望あり」は86.0%,「ワクチン接種希望無し」は,9.1%であった。ワクチン接種後に副反応を認めた者は,今後のワクチン接種希望の割合が有意に低かった(P<0.01)。
    結論 ワクチン接種を受けた病院職員と受けていない市役所職員に対して,発熱出現の比較により予防接種の効果を検討した結果,ワクチン接種による38.5度以上の発熱の相対危険は,0.4であった。また,接種者は来年度も予防接種を希望する者が多かったが,副反応があった場合には予防接種を希望する者は少なく,さらに副反応が無くても予防接種を希望しない者を認めた。
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