日本公衆衛生雑誌
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50 巻, 8 号
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原著
  • 斉藤 功, 米増 國雄
    2003 年 50 巻 8 号 p. 677-685
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 地域において,糖尿病スクリーニングとして実施されてきた75 g ぶどう糖負荷試験(OGTT)の受診者を対象に追跡調査を行い,耐糖能異常者の死亡率について検討すること。
    方法 大分県 A 保健所管内の 7 町村(人口 5 万 4 千人,1993年)において,1987~1995年度における基本健康診査により,一次検査として尿糖,自覚症状,随時血糖検査,既往歴,家族歴をもとに選択されて OGTT を受診した1,645人の内,2001年12月31日までの生死,転出の確認ができた1,639人を本研究対象者とした。米国糖尿病学会基準に従い,初回 OGTT の成績により糖尿病群(471人),Impaired glucose tolerance (IGT)群(408人),そして正常群(760人)に分類した。当域における1987年から2001年までの全住民(40~89歳)の死亡率を基準集団とし,間接法により年齢調整死亡率,ならびに標準化死亡比(SMR)を算出した。次に,本コホート集団において,Cox 比例ハザードモデルを用い,正常群に比した IGT 群と糖尿病群の死亡に対する年齢調整済み相対危険度,さらに Body Mass Index,血清総コレステロール,高血圧,喫煙,飲酒,糖尿病既往歴,糖尿病家族歴の要因で調整した相対危険度を算出した。
    成績 平均9.4年間の追跡の結果,正常群70人,IGT 群46人,糖尿病群71人の死亡を確認した。全住民を基準集団とした場合に,IGT 群,糖尿病群の SMR は男女とも有意に高くはなかった。死亡に対する年齢調整済み相対危険度は,正常群を 1 とした場合に男性の IGT 群1.10(95%信頼区間:0.72-1.67),糖尿病群1.54(1.05-2.24)であった。女性ではそれぞれ,0.91(0.40-2.06),0.88(0.43-1.82)であり,死亡のリスクは増加しなかった。さらに,男性では OGTT 受診時の交絡要因を調整した上でも正常群に比した糖尿病群の死亡に対する相対危険度は1.74(1.11-2.75)と有意に増加した。
    結論 本研究において OGTT によりスクリーニングされた IGT 群,ならびに糖尿病群の死亡率は,一般住民と比較して有意に高くはなかった。本コホート集団の検討から,男性の糖尿病群は正常群に比して有意に死亡のリスクを増加させた。一方,女性での耐糖能異常と死亡との関連は認めなかった。
  • 逢坂 隆子, 坂井 芳夫, 黒田 研二, 的場 梁次
    2003 年 50 巻 8 号 p. 686-696
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 近年都市部で急増しているホームレス者の,死亡前後の生活・社会経済的状況ならびに死因・解剖結果を明らかにする。
    方法 2000年に大阪市内で発生したホームレス者の死亡について,大阪府監察医事務所・大阪大学法医学講座の資料をもとに分析した。野宿現場を確認できているか,発見時の状況から野宿生活者と推測される者および野宿予備集団として簡易宿泊所投宿中の者の死亡をホームレス者の死亡として分析対象にすると共に,併せて野宿生活者と簡易宿泊所投宿者の死亡間の比較を行った。
    成績 大阪市において,2000年の 1 年間に294例(うち女 5 例)のホームレス者(簡易宿泊所投宿中の者81例を含む)の死亡があったことが確認された。死亡時の平均年齢は56.2歳と若かった。死亡時所持金が確認された人のうちでは,所持金1,000円未満が約半数を占めていた。死亡の種類は,病死172例(59%),自殺47例(16%),餓死・凍死を含む不慮の外因死43例(15%),他殺 6 例(2%)であった。病死の死因は心疾患,肝炎・肝硬変,肺炎,肺結核,脳血管疾患,栄養失調症,悪性新生物,胃・十二指腸潰瘍の順であった。栄養失調症 9 例・餓死 8 例・凍死19例は全て40歳代以上で,60歳代が最多であった。これらの死亡者についての死亡時所持金は,他死因による死亡時の所持金より有意に少なかった。栄養失調症・餓死は各月に散らばるが,凍死は 2 月を中心に寒冷期に集中していた。全国男を基準とした野宿生活者男の標準化死亡比(全国男=1)は,総死因3.6,心疾患3.3,肺炎4.5,結核44.8,肝炎・肝硬変4.1,胃・十二指腸潰瘍8.6,自殺6.0,他殺78.9などいずれも全国男よりも有意に高かった。
    結論 ホームレス者の死亡平均年齢は56.2歳という若さである。肺炎,餓死,凍死をはじめ,総じて予防可能な死因による死亡が極めて多く,必要な医療および生命を維持するための最低限の食や住が保障されていない中での死亡であることを示唆している。
  • 尾﨑 章子, 荻原 隆二, 内山 真, 太田 壽城, 前田 清, 柴田 博, 小板谷 典子, 山見 信夫, 眞野 喜洋, 大井田 隆, 曽根 ...
    2003 年 50 巻 8 号 p. 697-712
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 100歳以上の長寿者(百寿者)の QOL を調べ,男女差,地域差を明らかにするとともに,100歳を超えてもなお高い QOL を実現している百寿者に関して生活習慣,生活環境との関連について検討を行った。
    方法 1999年度の「全国高齢者名簿」に登録された100歳以上の高齢者11,346人を母集団とした。男性は全数,女性は 1/2 の比率で無作為抽出を行った。死亡,住所不明,不参加の者を除く1,907人(男性566人,女性1,341人)に対し,個別に訪問し,質問紙を用いて聞き取り調査を行った(2000年 4~6 月)。本研究では百歳老人の QOL について a. 日常生活動作の自立,b. 認知機能の保持,c. 心の健康の維持の観点から検討した。独立変数は,食生活,栄養,運動,睡眠,喫煙習慣,飲酒習慣,身体機能,家族とした。分析は SPSS11.0J を使用し,男女別に多重ロジスティック回帰分析を行った。
    結果 1. 男性の百寿者は女性の百寿者と比較して数は少ないものの,QOL の高い百寿者の割合は日常生活動作,認知機能,心の健康のすべてにおいて男性が女性に比べ多かった。
     2. 百寿者数は西日本に多いものの,QOL の高い百寿者の割合に関して地域による有意な差は男女とも認められなかった。
     3. ①日常生活動作の自立の関連要因:男性では,運動習慣あり,視力の保持,自然な目覚め,常食が食べられる,同居の家族がいるの 5 要因が,女性では,運動習慣あり,常食が食べられる,視力の保持,自然な目覚め,食欲あり,同居の家族がいる,転倒経験なしの 7 要因が日常生活動作の自立と有意な関係にあった。②認知機能の保持の関連要因:男性では,自然な目覚め,視力の保持,運動習慣あり,よく眠れている,常食が食べられるの 5 要因が,女性では,聴力の保持,自然な目覚め,視力の保持,食欲あり,同居の家族がいる,運動習慣ありの 6 要因が認知機能の保持と有意な関係にあった。③心の健康の維持の関連要因:男性では,視力の保持,運動習慣あり,よく眠れている,常食が食べられるの 4 要因が,女性では,視力の保持,食欲あり,運動習慣あり,1 日 3 回食事を食べる,同居の家族がいる,常食が食べられる,自然な目覚めの 7 要因が心の健康の維持と有意な関係にあった。
    結論 百寿者の日常生活動作の自立,認知機能の保持,心の健康の維持に共通して関連が認められた要因は,男性では運動習慣,身体機能としての視力,食事のかたさであり,女性では,運動習慣,身体機能としての視力,自然な目覚め,食欲,同居家族であった。これらの検討から,QOL の高い百寿者の特徴は,男性では,①運動習慣がある②身体機能としての視力が保持されている③普通のかたさの食事が食べられる,女性では①運動習慣がある②身体機能としての視力が保持されている③自分から定時に目覚める④食事を自らすすんで食べる(食欲がある),⑤同居の家族がいること,が明らかになった。これらの要因の維持が超高齢者の高い QOL の実現に関与している可能性が示唆された。
資料
  • 永田 智子, 村嶋 幸代, 春名 めぐみ, 北川 定謙, 倉持 一江, 古谷 章恵, 堀井 とよみ, 湯澤 まさみ, 田上 豊
    2003 年 50 巻 8 号 p. 713-723
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 介護保険制度開始後の自治体における保健師の配置と介護保険への関与状況,および,自治体の介護保険への取り組みについて全国調査を行い,相互の関連を把握する。これにより,保健師の配置が介護保険の運用に及ぼす影響を検討する。
    方法 平成13年 3 月に,全国1,344自治体(政令指定都市・特別区・市は全数,町・村は 4 分の 1 抽出)に郵送法による質問紙調査を実施した。
    結果および考察 有効回収数は569(回収率42.3%)であった。自治体における保健師の配置は,「老人保健」が36.4%で最も多く,次いで「母子保健」29.8%で,「介護保険」は10.2%であった。
     介護保険業務のうち,非認定者のフォロー,要介護者家族への介護指導,相談・苦情処理には80%以上の自治体で保健師が関与していた。認定調査に関する業務やケアプランの質の保証に関する業務,すなわち介護認定調査員や介護支援専門員への研修・指導・助言,介護認定審査会の準備・調整,介護サービス提供者への指導などには,市部では 6 割~8 割の自治体で保健師が関与していたが,郡部では 3 割~6 割の自治体しか関与していなかった。さらに,介護保険部門に保健師が配置されている自治体の方が,個別的な対応を除く殆どの業務で,保健師の関与割合が高かった。
     保健師の所属部門別に関わっている業務を見ると,「介護保険部門」の保健師は,認定調査やケアプラン・サービスの質に関する業務への関わりが多く,「福祉部門」や「保健福祉部門」の保健師は,患者・家族への個別的な対応が中心となる業務で多く関わっていた。
     介護保険サービス事業者への研修会・個別指導・事例検討は50%近くの自治体で実施されていたが,研修会や個別指導は郡部で実施率が低かった。
     介護保険導入後の問題点として,「部署の細分化による連携や意志疎通の困難さ」「認定調査や介護支援専門員業務の時間的負担」「非認定ケースの情報把握や介護保険サービスを受けているケースへの働きかけが行いにくい」などがあげられた。
    結論 介護保険への保健師の関与状況が示され,保健師の配置と介護保険業務,特に質保証に関する業務の実施と関連していることが示唆された。保健師の配置部門は介護保険や福祉に広がっており,介護保険サービスの質向上などが期待される一方,部門間の連携強化に向けた取り組みが必要である。郡部ではサービス事業者への指導等の実施率が低く,保健所などの都道府県組織による支援の必要性が示唆された。
  • 飯島 久美子, 四條 美由紀, 広瀬 東男
    2003 年 50 巻 8 号 p. 724-731
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 通常の学級ならびに特殊学級に在籍する障害児の心身の健康状態を明らかにし,養護教諭の役割について検討することを目的とする。
    方法 Y 県内の公立小学校の校長,および特殊学級のある小学校では特殊学級の担任を対象として,平成10年 6 月~8 月末に郵送による自記式アンケート調査を行った。アンケートの項目は,1)校長:特殊学級設置の有無,特殊学級や養護学校対象と考えられる児童の有無等,2)特殊学級担任:障害児教育経験の有無,子どもたちの障害状況,養護教諭との関わりなどである。
    結果 回答の得られた135校のうち,特殊学級のない学校(87校)で,特殊学級,あるいは養護学校の対象となる児童がいるのは27校で41人,特殊学級のない学校のみでの頻度は約0.3%となった。特殊学級在籍の児童は177人であり,主障害の種類は,知的障害が最も多く142人(79.8%)であった。重複障害のある児童は77人(43.3%),障害に対して医療を必要とする児童が61人(34.3%)となっていた。特殊学級担任と養護教諭との関わりでは,日頃から「よく取れている」,「普通」をあわせると約 9 割で,その内容は「障害やその対処法を知る」,「障害児への生活指導」などであった。
    結論 通常の学級にも種々の障害児が在籍している。特殊学級の担任であっても,こうした児童に対する教育だけではなく,一般児童との交流,合併症への対処等悩みは多い。担任一人,あるいは学校の中だけで解決できる問題ではなく,医療機関,教育機関等とのネットワークをつくり,組織的な対応が必要である。また,養護教諭は障害児の健康面での専門家とみられており,学校でのアドバイザー並びに医療機関との橋渡しとしての役割が期待されるのではないだろうか。
  • 村上 義孝, 橋本 修二, 谷口 清州, 小坂 健, 渕上 博司, 永井 正規
    2003 年 50 巻 8 号 p. 732-738
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 感染症法施行後の感染症発生動向調査の定点配置状況について,地域,人口規模,医療施設規模,診療科ごとに検討した。検討した定点種はインフルエンザ定点,小児科定点,眼科定点,性感染症定点とした。
    方法 定点情報は感染症発生動向調査を,医療施設に関する情報は1999年医療施設調査を,保健所別人口は2000年国勢調査を用いた。定点種別に,1999年度当初から2001年度末 2 年間の定点数の推移を観察し,定点数と基準定点数については全国,保健所管轄人口別に検討した。また都道府県別に定点数と基準定点数を検討した。医療施設規模と診療科については全国の医療施設数と比較した。
    成績 定点数は1999年度当初は定点数が少ないものの急激に増加し,その後緩やかな増加傾向にあった。全国的にみるとほぼ基準定点数と同数であり,保健所管轄人口別にみても約 7-9 割の保健所で基準定点数を満たしているものの,人口規模の大きい保健所やいくつかの都道府県で基準定点数を下回るものがみられた。医療施設規模別では,やや大病院に多く,診療科別ではインフルエンザ定点,小児科定点で小児科に多く,性感染症定点では産婦人科系,泌尿器科系の両方がある病院の割合が高い傾向がみられた。
    結論 定点数については全国,保健所管轄人口別ではおおむね基準を満たすものの,人口規模の大きい保健所やいくつかの都道府県などで基準に達していなかった。医療施設規模や診療科の面では大病院,特定診療科に多い傾向などみられた。
公衆衛生活動報告
  • 藤原 佳典, 天野 秀紀, 森 節子, 渡辺 修一郎, 熊谷 修, 吉田 祐子, 金 貞任, 高林 幸司, 吉田 裕人, 石原 美由紀, 江 ...
    2003 年 50 巻 8 号 p. 739-748
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 地域在宅高齢者における認知機能低下者をスクリーニングし,専門医療機関への受診と地域ケアに結びつけるシステムを構築しつつある我々の取り組みを紹介し,その過程で明らかとなった課題をまとめることである。
    方法 新潟県与板町在住の65歳以上全高齢者1,673人を対象に,2000年11月に簡易認知機能検査 Mini Mental State Examination (MMSE)を含む面接調査を実施した(第一次調査)。1,527人(91.3%)が応答し,MMSE 得点の年齢別の平均点−1 SD 以下を認知機能低下群(371人)とした。1 年後に入院・入所中,死亡等を除く332人に対し二次調査の案内を発送し,希望者158人(42.5%)に対し,2001年11月に訪問面接を実施した(第二次調査)。本人には再度 MMSE 等を実施すると共に,家族からの聞き取りをもとに Clinical Dementia Rating (CDR)を用いて痴呆の重症度を評価した。その結果,MMSE 得点が二次調査でも年齢階級別平均−1 SD 以下であった者,又は CDR≧0.5を満たす者に対して,専門医への受診を勧奨した(三次調査)。
    結果 二次調査非希望者は受検者に比べ一次調査での MMSE 得点は有意に高く,年齢は有意に低かった。非希望の理由は「物忘れに対する不安がない」が最多であった。三次調査の該当者(96人)のうち,非希望者(47人)は希望者に比べて二次調査の成績に有意差はみられなかったが,高年齢かつ MMSE が低得点の者や,低年齢で MMSE が高得点の者が多い傾向がみられた。三次調査を受検した45人の診断はアルツハイマー型老年期痴呆22人,脳血管性痴呆13人,パーキンソン病等 5 人,異常なし 5 人であった。なお,これらの取り組みの過程においては,住民に対して痴呆に関する健康講座を開き(計26回),その普及啓発につとめるとともに,地元かかりつけ医や関連機関との連携,さらには痴呆予防教室,ミニ・デイケア(町内 8 ケ所)といった地域ケアシステムの整備を進めてきた。
    結論 地域における老年期痴呆の早期発見・早期対応システムを構築する上で,低年齢で認知機能が軽度低下している者への普及啓発が特に重要である。また,事前の普及啓発や地域高齢者に対する認知機能検査のあり方,さらには経過観察群に対する地域ケアシステムの整備といった課題が再確認された。
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