日本公衆衛生雑誌
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51 巻, 2 号
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総説
  • 岸 玲子, 堀川 尚子
    2004 年 51 巻 2 号 p. 79-93
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
     高齢者の社会的サポートネットワークと身体的健康の関連については,これまで多種多様な測定指標を用いた縦断研究が展開され,サポートネットワーク状況によってその後の高齢者の身体機能や生命予後が異なることが指摘されてきた。本稿では1980年以降に発表された国内外の文献を①社会的サポート効果,②社会的ネットワーク効果の観点から比較検討し,これまでの研究成果と今後の検討課題についてまとめた。得られた主な知見として,情緒的サポートの受領,ネットワークサイズの大きさ,社会活動への参加が高齢者の早期死亡や身体機能低下のリスクを低減することが挙げられる。これらの変数の効果には男女差が指摘されており,多くの場合女性よりも男性において効果が顕著であった。
     従来の研究の主題であったサポートネットワークの受領効果・ポジティブ効果に加え,近年は提供効果やネガティブ効果についても検討が進められてきた。提供効果として,ボランティア団体参加や他者へのサポート提供が身体機能の低下や早期死亡を抑制すること,ネガティブ効果として,不適切な手段的サポートは却って高齢者の心身の自立を損なうことが指摘されている。
     今後の課題として,サポートネットワークのポジティブ・ネガティブ効果,受領・提供効果の両面に目配りし,男女比較や地域比較によって,高齢者の生活に即したサポートネットワークの整備方法を明らかにすることが必要である。同時に,観察研究による知見を実際の地域における介護予防実践に応用し,医療や健康教育の実施と平行して高齢者の社会的接触を増やすような介入研究に展開していくことが求められる。
原著
  • 横山 美江, 中原 好子, 松原 砂登美, 杉本 昌子, 小山 初美, 光辻 烈馬
    2004 年 51 巻 2 号 p. 94-102
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 本研究では,多胎児家庭の育児問題ならびに公的サービスに関するニーズの特徴を単胎児家庭との比較から調査・分析し,保健福祉施設における多胎児支援のあり方を検討する基礎的資料とすることを目的とした。
    方法 調査対象は,いずれも西宮市において出生した 6 歳以下の双子・三つ子をもつ母親で,かつ研究の主旨説明に賛同の得られた母親205人(双子の母親200人,三つ子の母親 5 人)である。また,児の年齢構成をマッチさせ,かつ母親の年齢についてもマッチさせた 2 人以上の単胎児をもつ母親911人を比較対照群として得た。調査内容は,妊娠を知ったときの母親の喜びと不安の程度,母親の妊娠中の不安内容,育児協力者の状況,母親の睡眠状態,育児不安の程度,育児をする上で問題と感じる内容,ならびに必要と感じる公的サービスの種類などである。
    結果 1. 多胎児の母親では,妊娠を知ったときにほとんど嬉しくなかった,あるいは全く嬉しくなかったと回答した者は,単胎児の母親に比べ有意に多かった。また,妊娠を知ったときに非常に不安,あるいは不安と答えた多胎児の母親は,単胎児の母親よりも有意に多かった。さらに,出産後の育児不安についても多胎児の母親は,強い不安を抱く者が単胎児の母親よりも有意に多かった。
     2. 妊娠や育児に関する情報の取得状況については,単胎児の母親では14.1%が取得できなかったと回答していたのに対し,多胎児の母親では55.2%が取得できなかったと答え,多胎児の母親では妊娠や育児に関する適切な情報が取得できなかった者が単胎児の母親に比べ有意に多かった。
     3. 育児上の問題に関して,経済的な負担,子どもが病気をしたときの通院,健診や予防接種時の人手不足,子どもを連れての外出,母親の外出,育児協力者の不足,時間・気持ちにゆとりがないこと,および授乳の仕方の困難さに対して,多胎児の母親は単胎児の母親に比べ育児する上で問題を感じていた者の比率が有意に高かった。
     4. 公的サービスに関して,多胎児の母親は,育児手当の給付を望む者が最も多く,続いて健診や予防接種時などのヘルパー・ベビーシッターの派遣,多胎児をもつ母親同士の交流会の開催,家事・育児に対するヘルパー・ベビーシッターの派遣に関するサービスをそれぞれ半数以上の多胎児の母親が望んでいた。
    結論 多胎児の母親は,単胎児の母親に比べ妊娠中から不安が強く,出産後も強い育児不安を感じている者が多いにもかかわらず,多胎妊娠や育児に関する適切な情報を得られない者が多いことが判明した。多胎児家庭における育児問題としては,人手不足の問題,経済的な負担,同時に複数の乳児を育てるために必要となる授乳方法の技術面での問題などがあることが明らかとなった。
  • 井上 武夫, 林 典子, 津田 克也
    2004 年 51 巻 2 号 p. 103-108
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 平成 7 年に始まった愛知県瀬戸市の乳幼児期 BCG 接種技術改善努力が,小学 1 年のツ反陽性率に及ぼす影響を針痕数との関連で明らかにする。
    方法 平成12年,13年,14年の小学 1 年生3,409人のツ反発赤径と針痕数を計測した。BCG 未接種児童は除外した。
    結果 一人あたり平均針痕数は,平成12年1.8個,13年3.1個,14年6.3個であった。針痕を 1 個でも認めた児童は,平成12年25.1%, 13年38.1%, 14年70.5%であった。平成13年は12年に比べ,平成14年は13年に比べてそれぞれ有意に高率であった(P<0.001)。
     ツ反陽性率は,平成12年32.5%, 13年36.5%, 14年63.7%であった。平成12年と13年とは有意差がなく,平成14年は12年および13年に比べ有意に高率であった(P<0.001)。
     針痕なしの児童の陽性率は,平成12年29.4%, 13年33.1%, 14年56.1%,針痕ありの児童の陽性率はそれぞれ41.8%, 42.0%, 66.9%であり,針痕ありの児童の陽性率は針痕なしの児童より有意に高かった(P<0.005~P<0.001)。平成14年の針痕なしの陽性率は,12年および13年の針痕ありの陽性率より有意に高かった(P<0.001)。
     針痕数 1~9 個と10個以上の陽性率は,平成12年40.2%と46.3%, 13年34.0%と55.7%, 14年63.9%と70.7%であった。平成14年の針痕 0 個の陽性率は12年の10個以上の陽性率より高値であった。
     ツ反発赤径 5 mm 以上10 mm 未満(旧疑陽性)の児童は,平成12年32.8%, 13年30.2%, 14年20.0%であった。平成14年は12年および13年に比べて有意に低率であった(P<0.001)。
     ツ反発赤径 5 mm 未満(旧陰性)の児童は,平成12年34.6%, 13年33.3%, 14年16.3%であった。平成14年は12年および13年に比べて有意に低率であった(P<0.001)。
    結論 乳幼児期の BCG 接種技術改善により小学 1 年のツ反陽性率を大きく高め,ツ反発赤径 5 mm 未満の旧陰性群を大きく減少させることができる。針痕数よりも針痕の残る児童の割合の方が全体の陽性率との関連が強い。平成14年は針痕なしの児童も高い陽性率を示したことから,管針を強く押すだけでなく,生菌を多く接種するための改善がなされたと推測できた。
資料
  • 杉浦 裕子, 武村 真治, 大井田 隆, 岩永 俊博
    2004 年 51 巻 2 号 p. 109-116
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 都道府県保健所と市町村の健康危機管理機能への対応状況とその関連要因を明らかにし,地域全体の健康危機管理体制のあり方,特に保健所の市町村への支援のあり方を検討する。
    方法 指定都市,中核市,政令市,特別区を除く,全国の都道府県460保健所と3,173市町村を対象に,郵送により調査票を配布し,健康危機管理機能への対応状況と実地訓練の主催の有無,人口,管内での過去の健康危機発生の有無,健康危機発生の可能性のある施設・自然環境の有無についてアンケート調査を実施した。
    結果 調査票の回収率は,保健所が72.8%,市町村が61.7%であった。被害状況に応じた24時間勤務体制は 6 割の保健所で整っていた。しかし,避難した住民への対人保健活動体制,避難所における衛生活動体制,住民への情報提供体制が整っているのは,保健所・市町村ともに 5 割以下であった。また実地訓練を主催した割合は,保健所・市町村ともに 2 割以下であった。市町村では,人口と対人保健活動体制・衛生活動体制との間で,保健所では,人口と対人保健活動体制の間でわずかではあるが正の相関がみられた。過去に健康危機の発生を経験した市町村や健康危機発生の可能性のある施設・自然環境をもつ市町村の方が,危機管理機能への対応が進められている傾向を示した。しかし,保健所では過去の健康危機発生や施設・自然環境の有無による対応状況の差はみられなかった。
    結論 本研究では全国の保健所・市町村の健康危機管理機能への対応状況についてその傾向を把握することができた。今後,健康危機管理機能を推進するために継続的な調査の実施が必要である。
     保健所・市町村の健康危機管理機能への対応状況は十分であるとは言えず,保健所は市町村の対応推進のために支援を行う必要がある。特に過去に健康危機発生のない市町村や危機発生の可能性のある施設や自然災害経験の少ない市町村のような,安全であると認識していると考えられている市町村を重点的に支援することが,地域全体の健康危機管理機能の向上に結びつくと考えられる。
  • 島田 直樹, 近藤 健文
    2004 年 51 巻 2 号 p. 117-132
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 医師・歯科医師・薬剤師調査(三師調査)には届出漏れが存在することが知られているが,その実態は明らかではない。そこで本研究では,三師調査の個票データを使用して,医師,歯科医師および薬剤師の届出率を推計した。
    方法 届出率を推計する場合,厚生労働省への登録年ごとに(ある調査年に三師調査へ届出を行った者の数)/(その登録年における医籍,歯科医籍または薬剤師名簿への登録者数)を計算して届出率とする方法が考えられるが,この方法では生存率が補正されない。そこで本研究では,1955年以降の登録者を対象として,1982年から2000年までの三師調査について生存率を補正しない届出率を推計するとともに,2000年の三師調査について,登録時平均年齢と過去の国勢調査結果を用いて登録年ごとの生存率を推定して,その生存率で補正した届出率を推計し,生存率を補正しない届出率との比較検討を行った。
    成績 2000年の三師調査において,生存率を補正しない届出率は医師87.08%,歯科医師84.98%,薬剤師71.58%であり,薬剤師の届出率は医師,歯科医師に比較して低かった。また,生存率を補正した届出率は医師90.30%,歯科医師87.15%,薬剤師72.98%であり,いずれも生存率を補正しない届出率より高くなったが,薬剤師は医師,歯科医師に比較して変化が少なかった。登録年ごとにみた生存率を補正しない届出率と補正した届出率の比較では,登録年が古くなるにつれて両者の違いが大きくなる傾向があったが,薬剤師は医師,歯科医師に比較して違いが小さかった。生存率を補正した届出率において2000年から登録年をさかのぼる際の推移をみると,医師,歯科医師では,一時的な低下以外は1965年前後まで90%以上の届出率を維持していたが,薬剤師では登録年をさかのぼるにつれて届出率が低下する傾向にあった。
     このような医師,歯科医師と薬剤師との違いの理由として,薬剤師では医師,歯科医師に比較して,1) 女性が多い,2) 生存率が高い,3) 登録時平均年齢が若い,ことが考えられたが,それ以外に,医師,歯科医師と薬剤師の間で卒業後の就業状況ならびに三師調査に対する認識が異なっている可能性も考えられた。
    結論 本研究により,医師,歯科医師および薬剤師の届出率の特徴が把握された。
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