日本公衆衛生雑誌
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52 巻, 3 号
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原著
  • 谷掛 千里
    2005 年 52 巻 3 号 p. 215-225
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 生まれてから在宅生活を続けていた障害児者に対し,近年,施設生活を希望する介護者が多くなってきている。この背景を明らかにすることは,地域で生活している障害児者の今後の社会的支援施策を考える上で重要なことと考えられる。そこで,本研究は,在宅障害児者の介護者の施設入所希望に関連する要因を明らかにすることを目的として行った。
    方法 在宅障害児者410人の保護者(肢体不自由児者の父母の会の会員)に対して,障害児者および介護者の年齢,障害程度,介護者の具合,日常介護が一人でできるか(以下,日常介護),障害児者が今後生活してほしいと介護者が考える生活場所(以下,介護者の生活希望場所)等について,調査票を用い,手渡し配布し,訪問回収を行った。介護者の施設入所希望と回答者の属性に対し多重ロジスティック回帰分析を行った。
    成績 回答を得た297人に対し単変量分析で,介護者の施設入所希望と有意な関連があったものは,療育手帳の等級が重度である,英国人口統計情報局社会調査部による尺度(以下,OPCS)のうち会話(以下,会話)ができない,重症心身障害児分類が重症心身障害である,介護者の具合が悪い,日常介護ができないであった。多重ロジスティック回帰分析を行った結果,介護者の年齢階級が上がるにつれてオッズ比が有意に高く,20~30歳代を 1 としたオッズ比は,40歳代で18.3,50歳代で37.2であった。介護者の施設入所希望と介護者の年齢との間に強い関連が認められた。療育手帳は A 以外の者に対し A の者のオッズ比が5.0と有意に高かった。介護はできる者に対して,できない者のオッズ比が3.8と有意に高かった。日常生活で困っていることとして,介護者の年齢が50歳以上の者では「在宅介護が限界」,「介護者の高齢化」と回答した者の割合が高かった。不足している公共の福祉サービスとしては,緊急一時預かり,ショートステイ,デイサービス,入浴サービスをあげた者の割合が高かった。
    結論 在宅障害児者の介護者の施設入所希望に関連する要因として,介護者の高齢化,日常の介護ができない,知的障害が重度であることが明らかとなった。特に,介護者の高齢化が大きな要因であった。
  • 郷木 義子, 畝 博
    2005 年 52 巻 3 号 p. 226-234
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 1 年以上の長期要介護および全死因死亡のリスク要因について基本健康診査受診者を 9~13年間追跡し検討した。
    方法 1989-1993年に実施された基本健康診査を一度でも受診し,受診時年齢が40歳以上であった2,292人(男759人,女1,533人)を対象とした。
     要介護状況および死亡状況について基本健康診査受診時から,それぞれ2002年 9 月末日,および2002年 3 月末日まで追跡調査し,血圧,Body Mass Index,総コレステロール値,肝機能,貧血,尿糖,喫煙,飲酒,および味付けとの関係について検討した。
     統計解析は,Cox の Proportional Hazards Model を用いて,1 年以上の長期要介護および全死因死亡に対するリスク要因の分析を行った。
    成績 全死因死亡率は男女の間に2.5倍の差があったが,長期要介護者の割合には差がなかった。長期要介護の原因としては男女ともに脳血管疾患がもっとも多かったが,女では男より,痴呆や骨折による長期要介護者の割合が高かった。
     全死因死亡に対する有意なリスク要因としては,男では年齢(ハザード比=2.95),Body Mass Index が20未満(ハザード比=1.64),総コレステロール値が200 mg/dl 未満(ハザード比=2.01),肝機能異常(ハザード比=2.78),尿糖(ハザード比=2.05),喫煙(ハザード比=1.40),女では年齢(ハザード比=2.76),Body Mass Index が20未満(ハザード比=1.84),総コレステロール値が200 mg/dl 未満(ハザード比=2.19),肝機能異常(ハザード比=3.77),貧血(ハザード比=3.29),喫煙(ハザード比=1.98)であった。
     1 年以上の長期要介護に対する有意なリスク要因としては,男では年齢(ハザード比=4.88),高血圧症(ハザード比=5.37),尿糖(ハザード比=2.96),女では年齢(ハザード比=8.87),貧血(ハザード比=2.99),尿糖(ハザード比=6.25)であった。
    結論 本研究により,長期要介護を防止するためには,高血圧対策と糖尿病対策が重要であることが示唆された。
  • 春木 敏, 川畑 徹朗
    2005 年 52 巻 3 号 p. 235-245
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,小学生の朝食摂取行動に関わる要因を明らかにすることを目的として行われた。
    方法 調査対象は,大阪府下の 2 小学校の 5 年生196人であった。主な調査項目は,ここ 1 週間の朝食摂取日数の他,朝の食欲,睡眠行動,食に関する知識,朝食摂取に対する態度,セルフエスティーム,社会的スキル,家族の食行動であった。セルフエスティームの測定には,Rosenberg の全般的セルフエスティーム尺度と Pope の家族に関するセルフエスティーム尺度を用いた。社会的スキルの測定には,向社会的スキル,引っ込み思案行動,攻撃的行動の下位尺度から構成される嶋田らの尺度を用いた。
    成績 主な結果は以下の通りであった。
    1) この 1 週間に毎日朝食を食べた者の割合は男子78.3%,女子70.2%であり,性差はなかった。
    2) この 1 週間に毎日朝食を食べた者(毎日摂取群)は,食べなかった日がある者(欠食群)に比べて,朝の食欲があり,就寝時刻が早かった。
    3) 毎日摂取群は欠食群に比べて,家族に関するセルフエスティームおよび向社会的スキルの得点が高く,攻撃的行動の得点が低かった。
    4) 食に関する知識については,砂糖の健康影響を除いて毎日摂取群と欠食群の間に差はなく,毎日摂取群は欠食群に比べて,朝食を毎日食べることはとても大切であると考える者の割合が多かった。
    5) 毎日摂取群は欠食群に比べて,家族が毎日朝食を作る,この 1 週間毎日家族と朝食を一緒に食べた,食事やおやつについて家族と話し合うと回答した者の割合が多かった。
    結論 以上の結果より,小学生の朝食摂取習慣を形成するためには,栄養学的知識を与えるだけでは不十分であり,朝食の意義に対する積極的態度,睡眠行動を含む生活リズムおよびセルフエスティームや社会的スキルの形成が欠かせない。このことは,学校における食生活教育に加えて,家族への働きかけが重要な役割を担うことを確認するものである。
  • 後藤 康彰, 金子 勇, 坂野 達郎, 内藤 佳津雄, 河村 優子, 坂本 惠子, 田中 陽子, 黒部 陸夫, 矢崎 俊樹, 中村 好一
    2005 年 52 巻 3 号 p. 246-256
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 高齢者が日常生活において,どのようなことにどの程度関心を持って活動を行っているか(「日常生活活動における関心の志向性」と定義)について評価構造を検討し,尺度の構成を試みる。
    方法 「日常生活活動における関心の志向性」(以下,関心の志向性と略)に関する項目を収集するため,高齢者保健福祉関連従事者や高齢者を対象としたフォーカスグループインタビューを実施した。平成12年度社会福祉・医療事業団長寿社会福祉基金助成事業による「高齢者の『自立意識』向上支援に関する研究」研究チームで,筆記記録から50項目を整理し,①回答者の負担にならないよう意味の似通った項目は 1 つに絞る,②回答者によって,解釈が大きく異なる項目は除外する,③ダブル・バーレルとなる項目は除外する,を方針として検討し,18項目を選定した。これらの項目につき,「非常に重要」,「重要」,「あまり重要でない」,「全く重要でない」の 4 件法で回答を求める設問を含む調査票を設計した。調査は20市区町村の65歳以上の高齢者より無作為抽出した6,094人を対象に,2000年9月~11月に留置法で実施した。各項目ごとの回答分布を観察し,次いで年齢群(65~74歳,75歳以上)・性別に主成分分析を用いて因子構造を調べ,尺度構成を試みた。各尺度のスコアを算出し,年齢群・性別,プロフィール別に比較した。
    成績 回答者5,565人の内,18項目全てに回答した4,527人を解析対象とした。「家族と一緒に楽しめる」,「身体を動かす」,「家族の役に立つ」,「友人と一緒に楽しめる」,「自然と親しむ」では「非常に重要」,「重要である」とする回答比率が90%以上であった。年齢群・性別に共通する 4 つの因子を抽出し,それぞれ「人間交流志向」,「自己実現志向」,「社会的認知志向」,「安楽悠々志向」と命名して,16項目で関心の志向性尺度を構成した。各尺度のスコアは年齢群・性別にかかわらず,「人間交流志向」が最も高く,「社会的認知志向」が最も低かった。「自己実現志向」と「安楽悠々志向」スコアは高齢者によって順位が逆転した。
    結論 高齢者の「関心の志向性」尺度の作成を試みた。この尺度は高齢者個々の関心の志向性を把握することに役立つとともに,高齢者が参加しやすい生きがい活動や社会活動プログラムづくりを考える上での参考に寄与することが期待された。
資料
  • 大熊 和行, 福田 美和, 松村 義晴, 中山 治
    2005 年 52 巻 3 号 p. 257-263
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 2000~2002年度に三重県内15地区医師会員の希望者を登録対象として構築した感染症情報メーリングリスト(ML)の運用管理に対するニーズ調査(アンケート)を行い,その有用性,改善すべき事項の検討を行った。
    方法 アンケートは,ML 毎に登録会員(合計479人)をランダムに 2 群に分け,1 群は郵送法により,他の 1 群は e-メール法により行った。また,三重県感染症情報センター(三重県科学技術振興センター保健環境研究部内)が投稿する情報は,項目と要旨に止め,詳細は同センターホームページにリンクしていることから,アンケートにはホームページに関する質問項目も設定した。
    結果 アンケートの回収率は,郵送法では63%,e-メール法では依頼 1 回目21%,依頼 2 回目 6%,合わせて27%であった。「ML のチェック頻度は毎日 1 回以上」と回答した人は,郵送法で41%,e-メール法で65%,「ML による提供情報が役立っている」と回答した人は,郵送法で76%,e-メール法で89%であった。また,「ML による情報提供・交換が活発に行われない理由」として,郵送法では「登録メンバーが分からないため提供・交換しにくい」が27%,「使い方が分からない」が22%とかなり多かったが,e-メール法ではこのような回答はなかった。
    結論 アンケートの結果,早急に検討しなければならない事項として,「登録会員が分からないため提供・交換しにくい」と「隣接する ML との提供・交換ができない」との 2 点が明らかとなった。また,「使い方が分からない」,「メールと誤解していた」登録会員の割合が高く,これが e-メール法で回収率が低かったことや,郵送法でメーリングリストのチェック頻度,ホームページの閲覧頻度が低かったこと等へかなり影響したものと考えられ,「ML の機能と使い方」について再度登録会員に周知することの重要性が示唆された。「ML の機能と使い方」について効果的な周知を行った場合,郵送法によるアンケートの結果は,e-メール法による結果に近づくことが予想される。
  • 東野 定律
    2005 年 52 巻 3 号 p. 264-272
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 本研究では,全国の基幹的社会福祉協議会(地域福祉権利擁護事業を地域で具体的に実施していく機関)を対象とし,当該社協が介護保険担当課と連携した結果,地域福祉権利擁護事業の契約に至った事例を収集し,これらの事例のプロフィール,初回相談機関,相談経路,契約に至る経緯について分析することから,これらの収集された事例の特性について明らかにし,地域の関連機関の連携に関する課題をまとめ,それらの問題点を考察することを目的とした。
    方法 全国の基幹的社会福祉協議会460機関に調査票を郵送し,これまで当該社協が介護保険担当課と連携し,地域福祉権利擁護事業の利用をした事例について,基幹的社協の専門員等が自由に記述することを依頼した。調査内容は,第 1 に,事例の年齢,性別,要介護度等の属性。第 2 に,連携の実態を把握するために,事例の初回相談までの経緯や市区町村介護保険担当課との連絡をとった最も大きな理由,市区町村介護保険担当課との役割分担の状況,市区町村介護保険担当課との連携上で発生した問題あるいは,これからの課題である。
    結果 全国の地域福祉権利擁護事業の実施主体である全国の基幹的社協460機関のうち,118機関から事例を収集することができた。この結果,地域福祉権利擁護事業の利用者の特性は,後期高齢者の割合が高いこと,また,世帯構成については,独居が全体の半数以上を占めていることがわかった。また,これらの利用者は,情報を入手することが困難であることが示された。
     さらに事例の問題の解決にあたって,連携した機関の種類と数を調べた結果,介護保険担当課を代表とする公的機関との連携することが多いこと,連携先は,多岐にわたり,その連携の方法も多様であることがわかった。
     事業を利用する背景には,家族との関係の悪化や他の家族員の抱える問題(精神障害,アルコール中毒,難病等)がある場合も少なくないことがわかった。このため,この事業を推進していくためには,社会福祉領域の専門家や機関との連携だけでなく保健師や保健機関等との連携が必要となると考えられた。
    結論 今後,地域福祉権利擁護事業を推進していくためには,利用者を総合的に支援できる情報提供システムを核としたネットワーク作りと協力体制が早急に必要であると考えられる。また,事業の推進には,保健師や保健機関といった保健領域の専門職や専門機関等と社会福祉機関との連携が必要である。
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