目的 医療安全対策を推進する上で,その基礎情報となる全国的な有害事象の発生頻度の把握が必要と考えられている。諸外国では,有害事象の頻度や種類を判定するため,看護師による第一次レビューと医師による第二次レビューの二段階による遡及的診療録レビューが相次いで実施されているが,この際には,レビュー者の判定の信頼性を確保することが重要な課題と認識されている。
そこで本研究では,看護師による第一次レビューにおいて「有害事象の可能性あり」とスクリーニングされた診療録100冊を対象とし,3 人の医師レビュー者がマニュアルに基づき独立して有害事象に関する判定を行い,その結果を比較することによって,医師判定の信頼性の検証を行うことを目的とした。
方法 某病院において,平成14年度に退院した精神科以外の入院患者の全診療録から無作為抽出した250冊のうち,看護師による第一次レビューで基準該当(+)あるいは要検討として判定された159冊の診療録から100冊を無作為抽出し,3 人の医師レビュー者が独立して有害事象の判定を行った。その後に,評価マニュアル作成者である WG の医師を加えた 4 人で,各レビュー者の判定結果について討議を行い,レビュー者全員の合意が得られた判定を最終判定とした。
医師レビュー者の判定結果の信頼性を検証するために,各医師 2 人間の判定結果の一致率および,各医師の判定結果と最終判定結果の適中率を求めるとともに,κ 統計量を算出した。
結果 4 人の医師が討議を行う前に,各医師が独立して100症例のうち有害事象(+)と判定した症例数は,18症例~27症例であった。各医師間の一致率は83.0~90.0%(κ=0.52~0.70)であった。
4 人の医師の討議によって16例が有害事象(+)と最終判定され,7 例は判定保留となった。有害事象の有無に関する各医師の適中率は,医師86.0~96.8%(κ=0.56~0.88)であった。
医療との因果関係に関する判定ならびに予防可能性に関する判定については,各医師の適中率は必ずしも良好ではなかった。
結論 有害事象の有無については個々の医師の判定の信頼性は良好な水準であることが確認された。一方,医療との因果関係・予防可能性に関する判定については必ずしも良好ではなく,様々な専門領域の医師が討議の上で判定することが望ましいと考えられた。
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