日本公衆衛生雑誌
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52 巻, 6 号
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原著
  • 新開 省二, 藤田 幸司, 藤原 佳典, 熊谷 修, 天野 秀紀, 吉田 裕人, 竇 貴旺, 渡辺 修一郎
    2005 年 52 巻 6 号 p. 443-455
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    背景 地域高齢者における“タイプ別”閉じこもりの実態についてはほとんどわかっていない。
    目的 地域高齢者における“タイプ別”閉じこもりの出現頻度とその特徴を明らかにする。
    方法 地域特性の異なる二地域[新潟県与板町および埼玉県鳩山町鳩山ニュータウン(以下鳩山 NT と略す)]に住む65歳以上の地域高齢者全員(それぞれ1,673人,1,213人)を対象に横断調査を実施した。ふだんの外出頻度が「週 1 回程度以下」にあるものを「閉じこもり」と定義し,そのうち総合的移動能力尺度でレベル 3~5 にあるものを“タイプ 1”,同レベル 1 または 2 にあるものを“タイプ 2”,と二つに分類した。地域,性,年齢階級別にタイプ別閉じこもりの出現頻度を比較するとともに,総合的移動能力が同レベルにあり,ふだんの外出頻度が「2, 3 日に 1 回程度以上」に該当する「非閉じこもり」との間で,身体的,心理・精神的,社会的特徴を比較した。
    成績 調査時点で死亡,入院・入所中,長期不在のものを除くと,与板町では97.2%(1,544/1,588),鳩山 NT では88.3%(1,002/1,135)という高い応答率が得られた。両地域とも地域高齢者のうち「閉じこもり」は約10%にみられ,そのタイプ別内訳は,与板町ではタイプ 1 が4.1%(男4.0%,女4.2%),タイプ 2 が5.4%(男5.2%,女5.6%),鳩山 NT ではそれぞれ3.3%(男1.5%,女4.9%)と6.8%(男5.7%,女7.8%)であった。潜在的交絡要因である性,年齢,総合的移動能力(レベル 1, 2 あるいはレベル 3-5)を調整すると,タイプ 2 の出現率に地域差がみられた[鳩山 NT/与板町のオッズ比=1.44(1.02-2.03)]。一方,タイプ 1 の出現率における地域差や両タイプの出現率における性差は認められなかった。両地域,男女において,年齢階級が上がるにしたがって両タイプの出現率は上昇し,タイプ 2 は80歳以降で,タイプ 1 は85歳以降で10%を越えていた。タイプ 2 はレベル 1 または 2 にある「非閉じこもり」に比べると,潜在的交絡要因を調整しても,歩行障害や失禁の保有率が高く,健康度自己評価や抑うつ度などの心理的側面,さらには高次生活機能や人・社会との交流といった社会的側面での水準が低かった。一方,タイプ 1 は,レベル 3~5 にある「非閉じこもり」に比べると,基本的 ADL 障害や「知的能動性」の低下を示す割合が低いにもかかわらず,家の中での役割がなく,転倒不安による外出制限があり,散歩・体操の習慣をもたないと答えた割合が高かった。
    結論 タイプ別閉じこもりの出現率には,地域差,年齢差を認めた。タイプ 2 には“要介護状態”のハイリスク者が多く含まれており,タイプ 1 を含めタイプ 2 も介護予防のターゲットとして位置づけるべきである。
  • 吉井 清子, 近藤 克則, 久世 淳子, 樋口 京子
    2005 年 52 巻 6 号 p. 456-467
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 地域在住高齢者の社会関係の特徴(ソーシャルネットワーク,ソーシャルサポートの受領および提供)とその後2年間の要介護状態発生の関連性を明らかにする。
    方法 2000年 2 月に愛知県 A 町の65歳以上高齢者全員を対象に質問紙調査を実施し(回収数3,596人,回収率72.0%),その後 2 年間の死亡や要介護状態発生を追跡した。2000年 4 月時点で要介護状態にはなかった2,725人を分析対象とし,コックス比例回帰分析により,社会関係変数と要介護状態発生の関連を分析した。
    成績 1. 2 年間に観察された死亡は94人(3.4%),要介護状態発生は122人(4.5%)であった。男性では,サポート受領量が多かった人ほど要介護状態発生リスクが高かった(ハザード比(以下 HR)1.12, 95%信頼区間(以下95%CI)1.04-1.21)。女性では,別居家族との接触頻度が少なかった人ほど,要介護状態発生リスクが高かった(HR2.14, 95%CI1.27-3.62)。また,サポート提供をしていなかったことが,女性の要介護状態発生リスクの高さと強く関連していた(HR2.75, 95%CI1.61-4.71)。
     2. サポート授受のバランスとの関連では,男性において,サポートの提供をしておらず且つサポートを多く受領している場合に,要介護状態発生リスクが有意に高かった(HR2.90, 95%CI1.17-7.18)。
     3. 1 人暮らし女性では,他の世帯類型女性で認められたソーシャルネットワークの豊富さやサポート提供と要介護状態発生リスクの低さの関連性が認められなかった。
    結論 高齢者のソーシャルネットワークやソーシャルサポートと要介護状態発生の関連には,性別や世帯類型により違いのあることが確認された。また,高齢者自身がサポートを提供することも,要介護状態発生リスクを低める上で重要である可能性が示唆された。
短報
  • 武隈 清, 石川 裕哲, 早瀬 須美子, 久野 薫, 津下 一代, 富永 祐民
    2005 年 52 巻 6 号 p. 468-476
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 後期高齢者に対して自転車エルゴメータによる運動負荷試験を実施した場合の心血管系異常所見の出現状況,および,運動負荷試験にて評価した運動耐容能と他の体力指標や日常生活機能との関連を横断的に検討する。
    方法 転倒予防のための運動訓練実施を予定している高齢者83人(男24人,平均年齢80歳)を対象に,日常生活機能についての質問票による調査,体力検査(最大一歩幅,10メートル全力歩行速度,片足立ち時間,握力),および自転車エルゴメータによる運動負荷試験を実施した。運動負荷試験は多段階負荷増加法にて行い,最初の 3 分間を15ワットでこぎ,以後 3 分間毎に15ワットずつ上昇するプロトコールとした。エルゴメータ実施時間を運動耐容能の指標とした。そして,男女別にエルゴメータ実施時間の 3 分位による群別を行い,それと他の体力指標,および日常生活機能との関連を検討した。
    成績 対象者の65人(78.3%)で運動負荷試験が実施可能であった。運動負荷試験終了の理由として,下肢疲労が最多(29人,44.6%)で,次いで血圧上昇(17人,26.2%)であった。なお,全員が負荷心電図の判定は陰性であった。エルゴメータ実施時間による 3 分位群間における体力指標の比較では,男では歩行速度,歩行時のピッチで 3 群間に有意差を認め,第 3(最高)分位群が最も高値であった。一方,女では,片足立ち時間が第 3 分位群で最も高値であり,有意差を認めた。日常生活機能の比較では,女では,乗り物の座席からの立ち上がり,水たまりの飛び越し,エスカレータへの移乗が可能と回答した者の頻度で 3 群間に有意差を認め,第 3 分位群が最も高率であった。一方,男では有意差を認めた項目はなかった。過去 1 年間の転倒の既往を有する者は,男女とも第 3 分位群にはみられなかった。
    結論 下肢運動が主体の運動耐容能の高さは,良好な下肢機能や日常生活機能と関連していた。
資料
  • 坂口 早苗, 坂口 武洋
    2005 年 52 巻 6 号 p. 477-485
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,大学生を対象に,喫煙行動,未成年者を取り巻く喫煙に関する社会環境,喫煙健康被害についての知識などに関する調査を実施し,大学生の喫煙行動に関連する要因を喫煙行動別および性別に探ることを目的とした。
    調査方法 2002年の 4 月および 9 月に,関東地方にある 5 大学の公衆衛生学関係の講義に出席した学生を対象に行った。調査対象数は1,052人で,男性341人(32.4%),女性708人(67.3%),未記入 3 人(0.3%)であった。有効回答率は98.6%であり,1,037人の結果について報告した。
    結果 20歳未満の男性の喫煙率は24.7%,女性では11.9%であり,20歳以上の男性の喫煙率は40.7%,女性では19.4%であった。
     日本は未成年者を取り巻く喫煙に関する社会環境が悪いと考えている男性学生は90.0%,女性学生は96.6%であり,女性の方が高かった。中でも,未成年の喫煙に「タバコ自動販売機の設置」が原因であると指摘した学生は約90%であった。
     未成年者の喫煙は成年より健康障害が大きいと考えている者は,男性より女性の方が多く,喫煙者よりも非喫煙者の方が多かった。
     健康日本21のタバコについての目標値のひとつである「未成年者の喫煙率を2010年までに 0%とする」に関する知識を有する者の割合は,3.5%と非常に少なかった。
     テレビの喫煙シーンが未成年の喫煙に影響を与えると考える学生は,喫煙者より非喫煙者の方が多かった。テレビの喫煙シーンへの関心については,喫煙者では「それ程多くない」,非喫煙者では「今後減らすべき」を選択する学生が多かった。
    結論 タバコの有害性については,中学や高校で学習しており,一般的知識は有しているが,「未成年者喫煙禁止法」の意味する未成年の喫煙が成人より健康への被害を大きくすることや,健康被害の詳細な内容についてまで熟知している学生は多いとはいえなかった。とくに,喫煙者は非喫煙者より,未成年者への喫煙の健康被害を過小評価していた。
     また,喫煙者は,テレビの喫煙シーンが未成年の喫煙に影響を与えることは少なく,喫煙シーンもそれ程多くないと考えている者が多い傾向が認められた。
  • 神藤 久壽美, 元重 あき子, 串山 京子, 田中 英夫, 北内 京子, 津熊 秀明
    2005 年 52 巻 6 号 p. 486-494
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 住民検診で発見された C 型肝炎ウイルス(HCV)抗体陽性者の,HCVに関する認識や,その後の受診行動,行政に対する要望を調査すること。
    方法:大阪府 A 町の検診で発見された HCV 抗体陽性者 5 人ずつの 2 グループを対象に,フォーカスグループインタビューによる定性調査を行った。次に,1991年 4 月~98年 3 月に同町の検診で発見された HCV 抗体陽性者263人を対象に,記名自記式質問票を用いた郵送法による定量調査を行い,68%(180人)の有効回答を得た。
    成績 フォーカスグループインタビューから,感染に対する誤った認識を持っている者が少なくないこと,精検時に医師から定期受診の必要性が説明されないと,その後の受診行動が続かないことが確認できた。また,行政に対しては,個別相談会を開くことや,肝臓の専門病院を紹介して欲しいという要望が強いことがわかった。質問票の回答者の精検受診率は66%に止まり,未受診者の未受診理由は,「自覚症状がないから」が最も多かった。インターフェロン療法を受けていたのは回答者の11%であった。行政に対する要望は,「医師による個別相談会の開催」が回答者の18%と最も高かった。
    結論 大阪府 A 町の検診で発見された HCV 抗体陽性者をめぐる問題点(誤った感染知識,低い肝炎の知識による低い精検受診率,医療機関での説明不足,精度の低かった検診技法,行政に対する役割)を整理することができた。この調査で判明した実態に基き,A 町では行政,地元医師会,肝臓専門医が連携した C 型肝炎対策のための諸事業が行われることになった。
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