日本公衆衛生雑誌
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53 巻, 3 号
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特別論文
原著
  • 嶋 貴子, 一色 ミユキ, 近藤 真規子, 塚田 三夫, 潮見 重毅, 今井 光信
    2006 年 53 巻 3 号 p. 167-177
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 HIV 検査をより受けやすくするための試みの一つとして,検査を受けたその日に HIV スクリーニング検査結果を通知する「HIV 即日検査」を保健所の HIV 検査に導入し,その効果と実施に伴う問題点等を明らかにするため研究を行った。
    方法 栃木県県南健康福祉センターにおいて2003年 1 月より,通常の HIV 検査と平行して試験的に即日検査を導入し,即日検査導入前・後の受検者数や受検者層等の比較,また対照として選択した他保健所の HIV 検査受検者数の動向と比較し,即日検査の効果と影響について検討した。即日検査実施の情報についてはホームページ「HIV 検査・相談マップ」に掲載し,その効果についても検討した。
    結果 栃木県県南健康福祉センターにおける HIV 検査数は,即日検査導入前の2002年は130件であったのに対し,即日検査導入後の2003年は453件と3.5倍に増加した。また,そのうちの94%が即日検査を希望した。即日検査404件中 5 件がスクリーニング検査陽性となり,確認検査の結果,1 例が HIV 陽性,4 例が偽陽性(偽陽性率 1%)と判定された。
     HIV 検査と同時に実施している性感染症検査の受検率は,即日検査の導入後には梅毒抗体検査(即日結果通知可)が77%から63%に,性器クラミジア抗体検査(即日結果通知不可)が76%から33%に減少したが,HIV 受検者が大幅に増加したため,受検者実数としては増加した。受検者へのアンケート調査結果から,受検者の61%がホームページ「HIV 検査・相談マップ」をみて受検していることが分かった。
     同時期における即日検査を導入していない栃木県内の他保健所の HIV 検査数の増加率は0.9~1.0倍,全国保健所 HIV 検査件数の増加率は1.2倍であった。
    結論 即日検査は受検者にとって需要の高い検査であり,保健所 HIV 検査への即日検査導入は HIV 受検者数の増加に繋がる可能性の高いことが分かった。また,ホームページに「HIV 検査・相談マップ」よる継続的な情報提供が受検者増に有効であることが分かった。
     しかしながら,HIV 迅速検査キットの偽陽性率が約 1%と高いため,検査前・後の説明やスクリーニング検査陽性者へのサポート体制が重要となること,また,即日検査と性感染症検査とを同時に実施する場合には,性感染症検査の受検率の低下を抑えるための対策が必要となる等の課題も明らかとなった。
  • 長弘 千恵
    2006 年 53 巻 3 号 p. 178-186
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 わが国では入浴時の死亡事故が多く,その85%以上が高齢者である。入浴時の室温が入浴者の循環動態に与える影響に関する研究の多くは比較的低い室温に注目しており,また高齢者を対象とした研究は少ない。本研究では,高齢者において比較的高い温度帯での浴室温が入浴時の循環動態に及ぼす影響を明らかにするために,20℃および27℃の 2 つの室温を選び,これらの室温が湯温41℃における入浴時の循環動態および入浴時の気分等に与える影響を検討した。
    対象と方法 重症な呼吸・循環器疾患を合併していない自立高齢者14人(男性 6 人,女性 8 人,平均年齢70歳)を対象に,20℃と27℃の 2 つの室温のもとで41℃の中温浴を合計 2 回してもらった。どちらの室温条件で入浴してもらうかの順序は無作為に割付けた。入浴中および入浴後安静臥床時の血圧,脈拍,pressure-rate product(PRP,収縮期血圧値と心拍数の積),酸素飽和度,鼓膜温,気分(FS)および温度感覚(RTS)を計測し,これらの経時的変化を 2 つの室温の間で比較した。
    結果 1) 室温27℃では20℃に比べて,鼓膜温の上昇がより顕著で,入浴後の血圧低下が大きかった(P<0.05)。
     2) 室温27℃と20℃との間では入浴中および入浴後の気分の変動には有意な差がなかった(P>0.05)。
     3) 室温27℃では室温20℃に比べて,出浴後に酸素飽和度が低い傾向があった(P<0.05)。
    考察 健常高齢者においては,室温20℃, 27℃の入浴はともに安全な入浴と考えられた。室温27℃ の入浴の方がより好ましい血圧降下作用を得ることができると考えられた。
  • 鈴木 仁一, 中出 和子, 中村 好美, 金高 久美子, 中井 信也, 原田 久
    2006 年 53 巻 3 号 p. 187-195
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 保健所の禁煙相談に参加する禁煙希望者の相談後 1 年目の属性別の禁煙継続率を調査し,禁煙継続を予測する因子(予測因子)を求める。
    方法 平成14年 9 月から翌年 9 月まで,神奈川県鎌倉保健所で実施した禁煙相談に参加した禁煙を希望する687人(男性518人,女性169人,平均年齢49.5歳,最低年齢20歳,最高年齢81歳,SD14.6歳)を対象に前向き調査を行った。禁煙相談では,ニコチンパッチを無料で提供し,継続処方のための医療機関を紹介した。参加時点で,年齢,性別,禁煙相談の実施場所,1 日あたりの喫煙本数および起床時から喫煙するまでの時間を記録した。1 年後,無料ニコチンパッチの使用の有無および継続したニコチンパッチ又はニコチンガムの使用有無を確認し,禁煙の継続の有無を尋ねた。対象者の属性別に禁煙継続率を求め,χ2 検定を行った。さらに禁煙継続の有無を従属変数に入れて,χ2 検定で有意な結果であった属性を,独立変数として選択し,多重ロジスティック回帰分析を行った。
    成績 当初禁煙相談に参加したのは687人で,情報が得られ分析の対象となったのは528人で,禁煙状況の判明率は76.9%であり,1 年後の禁煙継続率は,39.2%であった。
     1 年後の属性別の禁煙継続率について,性別,1 日あたりの喫煙本数および起床時から喫煙するまでの時間の属性では,χ2 検定で,それぞれ有意な結果はみられなかった。1 年後の禁煙継続率について50歳を超える群(47.0%),実施場所が保健所群(50.3%),無料ニコチンパッチを使用した群(50.7%)および継続 NRT(ニコチン置換療法)群(57.7%)は,χ2 検定および多重ロジスティック回帰分析で,対照群に比べていずれも有意に高かった。禁煙継続の調整オッズ比は,それぞれ1.68,1.80,2.01および1.79であった。
    結論 無料ニコチンパッチを配布する保健所の禁煙相談後 1 年目の禁煙継続率は,39.2%であった。高い禁煙継続率と関連する因子は,50歳を超える人,実施場所が保健所,無料のニコチンパッチを使用することおよび禁煙相談後継続してニコチンパッチ又はニコチンガムを使用することが示唆された。
  • 富永 真己, 朝倉 隆司
    2006 年 53 巻 3 号 p. 196-207
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 国内の労働職場環境の変化によるストレスを先取りする典型的な産業・職場である情報関連・通信産業のコンピュータ技術職を対象に,労働職場環境のマクロとミクロのストレッサーと,精神的健康度および離職意向との関連性を,組織の収益性と個人要因である成長欲求度を含め明らかにし,組織の生産性と労働者のウェルビーングの両方を改善する方法の示唆を得ることを目的とした。
    方法 国内の 2 つの情報関連産業の組合連合体を通じ,調査協力の承諾が得られた53社に対し,割当法を用い各社30人,計1,590人の組合員を対象に web 上の質問票調査を無記名形式で実施した。有効回答率は66%(53社,1,049人),うち約 8 割を占める技術職種を分析対象とした。分析には,基本属性,就業特性,労働時間特性,労働職場特性,組織の収益性,個人要因として Hackman と Oldham の成長欲求度の各項目と,労働職場環境特性の尺度を先行研究の概念モデルを参考にマクロとミクロのストレッサーに分類し用いた。精神的健康度と離職意向の尺度を従属変数として用い,階層的重回帰分析による関連性の検証を試みた。
    成績 仕事の量・質的負荷は,精神的健康度および離職意向において重要な要因であった。また,マクロレベルのストレッサーが精神的健康度及び離職意向の増大に強く影響していた。さらに,労働職場環境特性以外に精神的健康度は成長欲求度が,離職意向は組織の収益性と精神的健康度が,重要な要因であった。
    結論 労働職場環境特性と精神的健康度及び離職意向との関連性が明らかとなり,それらの対策が個人と組織に有益であることが示唆された。
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