日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
54 巻, 10 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 斉藤 功, 小西 正光, 渡部 和子, 近藤 弘一, 藤本 弘一郎, 岡田 克俊
    2007 年 54 巻 10 号 p. 677-683
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 前向きコホート研究により地域集団におけるメタボリックシンドロームと脳卒中罹患との関連について検討すること。
    方法 1996~98年の愛媛県旧 O 市の基本健康診査受診者4,672人(40歳以上)の内,脳卒中の既往者を除く4,627人を対象とし,2002年12月31日までの脳卒中罹患の有無を調べた。わが国のメタボリックシンドロームの診断基準に基づき,ベースライン時のウエスト周囲径高値の有無と血圧高値,脂質代謝異常,耐糖能異常のリスクの保有個数(0 個,1 個,2 個以上)の組み合わせから 6 群にリスクの階層化を行い,Cox 比例ハザードモデルより脳卒中罹患の性年齢調整済み相対危険度と人口寄与割合を算出した。
    結果 平均5.7年の追跡期間中,88人(男性50人,女性38人)の脳卒中罹患者を把握した。脳卒中を病型別にみると脳出血11.4%,くも膜下出血5.7%,脳梗塞83.0%であった。メタボリックシンドロームの割合は,脳卒中罹患ありの群6.8%,なしの群6.4%であり,両群の違いは認めなかった。ウエスト周囲径正常かつリスク 0 個の群の相対危険度を 1 とした場合,メタボリックシンドローム群単独での相対危険度の有意な上昇は認めなかった。人口寄与割合は,ウエスト周囲径正常かつリスク 1 個の群で最も高かった(36.3%)。ウエスト周囲径正常かつリスク 1 個以上の群と,メタボリックシンドロームとその予備軍を合わせた群に再分類して検討したところ,前者の性年齢調整済み相対危険度は2.53(95%信頼区間:1.14-5.58),後者は2.66(95%信頼区間:1.14-6.21)であった。
    結論 メタボリックシンドロームの原因とされる内臓肥満の有無にかかわらず,リスクの集積は脳卒中罹患のリスクを上昇させた。人口寄与割合は,むしろ内臓肥満のない群の方が大きく,脳卒中予防に向けたメタボリックシンドローム対策の効果は,当地域においては必ずしも大きくはないことが示唆された。
  • 土井 由利子, 横山 徹爾, 酒井 美良
    2007 年 54 巻 10 号 p. 684-694
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 国は,1972年に,原因不明で治療方法が未確立であり,経過が慢性で後遺症を残すおそれが少なくなく,身体的のみならず精神的,経済的にも負担の大きい疾病を難病と指定し対策を進めてきた。本研究の目的は日本における難病による死亡の時系列推移(1972-2004年)について検討することである。
    方法 難病に指定されている特定疾患治療研究対象疾患45疾患のうち,年間死亡数が100を超す再生不良性貧血,パーキンソン病,全身性エリテマトーデス,潰瘍性大腸炎,特発性血小板減少性紫斑病,結節性動脈周囲炎,アミロイドーシスを対象疾患とし,人口動態調査死亡票をもとに,粗死亡率と年齢調整死亡率(直接法)を算出し,ジョインポイント回帰モデルを用い時系列推移について分析した。
    結果 最新(2004年)の各疾患の粗死亡率(人口100万対)は,男女それぞれ,パーキンソン病で25.55,25.93,再生不良性貧血で5.41,6.92,全身性エリテマトーデスで0.87,3.50,アミロイドーシスで2.93,2.36,結節性動脈周囲炎で1.40,1.54,特発性血小板減少性紫斑病で1.34,1.61,潰瘍性大腸炎で1.02,0.74,であった。年齢調整死亡率の年変化率を全期間でみると,潰瘍性大腸炎(男−5.2%,女−7.5%),再生不良性貧血(男−3.6%,女−3.7%),特発性血小板減少性紫斑病(男−2.1%,女−3.0%)と全身性エリテマトーデス(男−0.9%,女−2.6%)で減少,アミロイドーシス(男+3.3%,女+3.5%),結節性動脈周囲炎(男+3.2%,女+4.0%),パーキンソン病(男+0.7%)で増加していた。最新の時系列相に注目すると,アミロイドーシス(男)では有意に増加していたが,結節性動脈周囲炎(女)とパーキンソン病(女)では有意に減少していた。一方,潰瘍性大腸炎(男)は減少傾向が止まった状態が続いている。
    結論 対象とした難病の多くは,この約30年間で,年齢調整死亡率が有意に減少した。難病に効果的な一次予防の手立てがないことから,死亡率の改善は,診断治療の進歩による可能性が大きいと考えられる。しかしながら,根治療法の開発や病因の解明など未解決の部分も多く,患者支援とともに,さらなる研究が必要である。
  • 石島 英樹, 永井 正規, 柴崎 智美, 太田 晶子, 泉田 美知子
    2007 年 54 巻 10 号 p. 695-703
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 対象集団の年齢調整死亡率の基準集団のそれに対する較差の 2 時点間における変化への死因と年齢の寄与の程度を死因別年齢別に明らかにする新たな指標として,較差変化寄与割合を提案する。さらにこの指標を用いて1985年から2000年の15年間における沖縄県男性との全国男性の平均寿命の較差の縮小に寄与した死因と年齢の寄与の程度を推測し,沖縄県民に対する適切な疾病予防対策に役立てる。
    方法 1985年から2000年までの15年間の沖縄県男性の全国男性に対する年齢調整死亡率の較差の差と,較差変化寄与割合を算出した。
    結果 較差変化寄与割合が大きな死因は,脳梗塞(24.26%),心不全(18.45%),その他の脳血管疾患(15.11%),胃の悪性新生物(11.89%),虚血性心疾患(11.06%),肝疾患(10.93%),自殺(5.71%),糖尿病(5.36%)であった。脳梗塞,心不全,その他の脳血管疾患,胃の悪性新生物,虚血性心疾患,糖尿病は65歳以上の高年齢層で,肝疾患と自殺は中年齢層で較差変化寄与割合が大きかった。
    結論 本研究では,沖縄県男性と全国男性の年齢調整死亡率の較差の縮小に寄与した死因と年齢の寄与について,その寄与の程度を死因別年齢別に明らかにすることができた。
     今回の研究で取り上げられた死因とその年齢は,いずれも疾病予防対策上重要であると考えられる。平均寿命の較差の変化に寄与した死因と年齢の寄与の程度を推測する方法として,較差変化寄与割合は有用な指標であると考えられる。
資料
  • 吉田 由美, 高木 廣文, 稲葉 裕
    2007 年 54 巻 10 号 p. 704-710
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 著者らは児童と母親を対象に,日常の予防的健康行動と健康と病気の原因に対する考え方の 1 つである Health Locus of Control(以下 HLC とする)の関連とこれらの母子間の関連を明らかにするために,縦断調査を実施した。今回は,喫煙防止教育に資することを目指し,中学生の喫煙と HLC との関連について明らかにする。
    方法 1991年に小学校 3 年生を対象に第 1 回調査,6 年生時点で第 2 回調査,中学 3 年生時点で 3 回目の調査を実施した。今回は中 3 時点の調査と小 6 時点の HLC を用いる。調査内容は喫煙(喫煙経験,喫煙願望),HLC(Parcel & Meyer の児童用 HLC 尺度の翻訳版)などである。中 3 時点の回答者は男子136人,女子129人,合計265人であった。
    結果 1. 喫煙経験と HLC との間には関連は認められなかった。
     2. 男子の場合,喫煙願望「保留」の者は「肯定」の者より,中 3 時点および小 6 時点の Powerful Others HLC 傾向が強かった。また,「肯定」の者は「否定」の者より小 6 時点の Powerful Others HLC 傾向が弱かった。
     3. 女子の場合,喫煙願望「保留」の者は「否定」の者より,中 3 時点の Powerful Others HLC 傾向が強かった。
    結論 喫煙経験と HLC との間には関連は認められなかった。喫煙願望と Powerful Others HLC には関連が認められた。喫煙行動への態度を保留する者は Powerful Others HLC が強い傾向があり,他者からの影響を受けやすい。したがって,喫煙の誘いを受け入れやすい一方,周囲からの良い影響も受けやすく,健康教育の効果も期待できると考えられる。
  • 丹 佳子
    2007 年 54 巻 10 号 p. 711-722
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 子どもの急病時の保護者の不安軽減のための支援内容を検討することを目的に「子どもの急病時の対応や判断に関して思うこと・感じること」という質問の自由記述から,不安の内容を明らかにするとともに,安心や対処行動,社会への要望についても明らかにした。
    方法 保育園児の保護者1,373人に,子どもの病気の緊急性や受診の判断について無記名自記式質問紙調査を行った。その中で全回答者対象に質問した「子どもの急病時の対応や判断について,日頃感じていること」の自由記述について,Berelson, B. の内容分析を用いて分析を行った。
    結果 1,373件配布し666件の有効回答を得,このうち自由記述への回答431件を対象とした。これらの回答は724記録単位,431文脈単位に分割できた。724記録単位を分類した結果,15サブカテゴリ「病院職員/診療内容」,「診療時間」,「病院種類」,「小児科医」,「かかりつけ医」,「受診基準・判断」,「とにかく受診」,「冷静」,「漠然とした不安・心配」,「薬・ケア」,「家族」,「相談」,「情報」,「社会・制度」,「病児保育・保育園」が形成され,さらに 3 カテゴリ〔医療機関〕,〔保護者〕,〔社会的資源〕が形成された。また,15サブカテゴリの記述は 6 種類の表現‘安心’,‘不安’,‘対処行動’,‘今後の行動’,‘社会への要望’,‘意見・考え’に分類された。
     サブカテゴリごとに表現分類の記録単位数をみると,‘不安’表現が多かったのは「病院職員/診療内容」の『病院職員(医師も含む)の対応・判断が悪い』,「受診基準・判断」の『受診のタイミング・要否がわからない』であった。‘安心’表現としては「診療時間」の『時間外にも診療・対応してもらえる』が多かった。‘対処行動’表現としては,「受診基準・判断」の『子どもを観察する』,「とにかく受診」の『早めに受診する』,「病院種類」の『状況に応じて受診病院を選択している』などが多く記述されていた。また,‘社会への要望’表現としては,「診療時間」の『診療時間延長に関すること』,「相談」の『相談機関の充実』などが多かった。
    結論 これらの結果から,保護者への不安軽減のための支援として,保護者自身が判断できるようになるための支援,電話相談利用の推進,効果的な広報,が必要であることが明らかになった。また,医療関係者の保護者への対応の改善も,不安軽減のためには重要であることが明らかになった。
feedback
Top