日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
54 巻, 4 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 吉岡 京子, 村嶋 幸代
    2007 年 54 巻 4 号 p. 217-225
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 保健師は,多くの住民の問題を解決するために新規事業を開発しており,この方策は事業化と呼ばれている。本研究では,日本の保健師の事業化プロセスの経験の有無を把握し,その関連要因を検討する。
    方法 2005年に合併しない1,871市区町村から374を無作為抽出し,協力の得られた305市町村に勤務する2,306人の保健師を対象とした。全国保健師長会の協力を得て,無記名自記式質問紙調査を2005年に実施した。調査項目は,自治体・所属組織の要因,保健師の個人要因,事業化プロセスの経験の有無である。事業化プロセスの経験に関連する要因をロジスティック回帰分析にて検討した。
    結果 分析対象1,270人のうち,事業化の必要性を認識したことがない者は481人(37.9%),事業化の必要性を認識したがその提案をしなかった者は324人(25.5%),新規事業の提案をしたが提供には至らなかった者は66人(5.2%),新規事業が住民に提供された者は399人(31.4%)であった。ロジスティック回帰分析の結果,過去に自身で事業化した経験があること,保健・医療・福祉に関する専門誌を読むこと,が新規事業を提供した経験を持つことに有意に関連していた。
    結論 保健師は,自治体や職場の違いに拘らず,事業化を展開できる可能性と事業化の実践経験を積む重要性が示唆された。
  • 大平 哲也, 中村 知佳子, 今野 弘規, 岡田 武夫, 北村 明彦, 木山 昌彦, 中川 裕子, 佐藤 眞一, 中村 正和, 内藤 義彦, ...
    2007 年 54 巻 4 号 p. 226-235
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は自覚的ストレス,うつ症状等の心理的健康と食事,運動,睡眠,飲酒,喫煙等の生活習慣との関連を検討することを目的とした。
    方法 2001~02年に大阪府立健康科学センターの健康度測定コースを受診した男女7,947人(平均年齢52.4歳)を対象に,食事,運動,睡眠,飲酒,喫煙等の生活習慣を調査し,自覚的ストレスおよびうつ症状との関連について男女別に検討した。
    結果 うつ症状を訴える者の頻度は自覚的ストレスを強く感じる者ほど高かった。多重ロジスティック分析の結果,男女ともに自覚的ストレス,うつ症状との関連がみられたものは,「身体活動量がかなり少ない」,「運動習慣がない」,「睡眠時間が少ない」,「朝食を抜くことがよくある」,「夕食後 1~2 時間以内に床につく」ことであった。また,男性では「間食または夜食をほぼ毎日とる」,「お腹いっぱい食べる」ことが,自覚的ストレスの多変量調整オッズ比の上昇と,「運動習慣がある」,「野菜類を毎食食べる」ことがうつ症状オッズ比の低下と関連した。女性では,「漬け物やおかずにしょうゆやソースをかけることが多い」ことが自覚的ストレスのオッズ比の上昇と,「大豆製品を毎日食べる」ことがオッズ比の低下と関連し,「煮物の味付けが濃い」ことがうつ症状のオッズ比の上昇と関連した。
    結論 身体活動量が少ない,睡眠時間が少ない,朝食を抜く等の生活習慣は,男女ともに自覚的ストレス,うつ症状と関連することが示唆された。
  • 田中 英夫, 大島 明
    2007 年 54 巻 4 号 p. 236-245
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 1955年春から夏にかけて西日本を中心に発生した「森永ひ素ミルク中毒」被害者の,20歳代後半から約20年間の予後および死因別死亡リスクを明らかにする。
    方法 (財)ひかり協会に対して救済事業を希望する生存被害者のうち,事件当時 2 歳以下であった5,064人(男3,133人,女1,931人)を調査対象とし,1982年 4 月 1 日から2004年末日まで観察した(前向きコホート研究)。死亡事実は,協会の救済活動を通じて行われる被害者との定期連絡により把握し,死因は,遺族から提出された死亡診断書の写しによった。大阪府一般住民の死因別死亡率から算出される期待死亡数(O)と実測死亡数(E)との比(O/E)を求め,調査対象の死因別死亡リスクを評価した。
    成績 観察開始時平均年齢は27.4歳で,平均22.3年観察し,211人の死亡を把握した。全死因による全観察期間の死亡リスクは,一般住民に比べ男1.2倍(95%信頼区間(CI):1.03-1.43),女1.5倍(95%CI:1.18-1.95)といずれも有意に高かった。全死因の O/E 値は,経過年数の増大とともに次第に低下し,10年以上経過すると一般住民と有意差がなくなった。
     観察開始当初に非就労状態であった男性被害者352人の O/E 値は,全死因3.3,神経系および感覚器系36.7,循環器系3.7,呼吸器系5.7,損傷および中毒3.4と有意に高く,全死亡リスクは10年を経過しても有意に高かった。一方,就労状態にあった2,732人の全期間の死亡リスクは,一般住民との間に差を認めなかった。女性の就労者では循環器系の O/E 値が3.6,女性の非就労者では神経系および感覚器系の疾患の O/E 値が8.5と,各々有意に高かった。観察開始当初に喫煙していた男性では肺がんの O/E 値が2.6と有意に高かった(95%CI:1.10-4.68)。
    結論 森永ひ素ミルク中毒被害者の20歳代後半から約20年間の死亡リスクを調べたところ,全体としては30歳代後半以後になると,一般住民とほぼ同じ程度にまで低下していた。観察開始当初に非就労状態にあった男性被害者の死因別のリスクから推定して,この集団には,砒素中毒の後遺症の程度の高い者が,より多く含まれていたことが示唆された。
資料
  • 大西 聖子, 谷内 佳代, 田中 英夫
    2007 年 54 巻 4 号 p. 246-253
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 喫煙歴のある入院患者に対して,郵送による退院後の喫煙状況調査を行った。すぐに返信する者と督促によって返信する者とで,退院後の断面禁煙率(以下,禁煙率という)の違いや喫煙行動関連要因の違いを調べた。これらの結果から,患者への郵送による喫煙状況調査の問題点を検討する。
    方法 がん(成人病)専門診療施設に入院した喫煙患者(入院当日の喫煙状況が喫煙中,あるいは禁煙後31日以内であった者)556人に,入院から12か月後の時点の喫煙状況を郵送で尋ねた(初回調査)。返信のない者には最多で 2 回の督促状を,調査用紙とともに郵送した(2 回目調査,3 回目調査)。計 3 回の喫煙状況調査の返信行動別に各調査回の禁煙率を求め,比較した。また,返信行動の違いと入院時点の喫煙行動に関連する属性との関係を多重ロジスティック回帰分析で調べた。
    結果 全対象者に占める回答者の割合は,初回調査から順に53%,20%,4%であった。各調査回において返信があった者での禁煙率は,初回調査63%(184/294),2 回目調査29%(32/112),3 回目調査33%(7/21)と,2 回目,3 回目調査は,初回調査に比べて有意に禁煙者の占める割合が低かった(P<0.01)。
     対象者の属性を初回調査の返信者と 2 回または 3 回目調査の返信者とで比較すると,後者は前者に比べて女性の割合が高く(オッズ比2.1,95%信頼区間(CI):1.20-3.81),また入院当日に喫煙中であった者の割合が高かった(同2.1,95%CI:1.28-3.46)。つぎに,初回調査の返信者と最終的な未返信者との属性を比較すると,後者は前者に比べて女性(同2.4,95%CI:1.38-4.29),年齢が59歳以下の者(同1.9,95%CI:1.15-3.28),入院当日に喫煙していた者(同2.9,95%CI:1.70-4.96)の割合が高かった。
    結論 退院後の郵送による喫煙状況調査において,督促によって返信した者では禁煙者の割合が低く,また,督促によって返信した者や未返信者では,初回調査で返信した者に比べて禁煙しにくい属性を有する者の割合が有意に高かった。以上の成績から,退院後の郵送による喫煙状況調査においては複数回の督促等によって未返信者の割合を最小限にすることが正確な喫煙状況の把握のために必要であると考えられる。
  • Hiroaki MIYATA, Kaoruko AITA, Hiromi SHIRAISHI, Ichiro KAI
    2007 年 54 巻 4 号 p. 254-261
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
     To examine how the severity of dementia affects attitudes to treatment preferences in a lay group of community residents and a group of medical care professionals who provide direct care to dementia affected patients.
     The participants were 259 community residents aged between 40 and 65, and 217 care professionals working at nursing homes or group homes. Respondents were randomly assigned to one of two scenarios involving moderate or severe dementia and each was asked questions about their preferences and attitudes to the employment of eight types of active treatments (ATs) to deal with a newly acquired illness as well as eight types of life-sustaining treatment (LST).
     Among the community residents, there were no significant differences in preferences toward any treatment items between the moderate dementia and severe dementia scenarios. Similarly, care professionals showed no significant differences in attitudes toward 15 of the 16 treatment items. The community residents had more negative attitudes than care professionals in attitudes to all types of LST, including four variations of AT that have a good chance of success.
     After dementia deprives an individual of decision-making capacity, progress of the disease has little effect on both community residents and care professionals' preferences. When discussing about end-of-life decision-making, care professionals need to be careful about the gaps in perception of good chance treatments with patients.
feedback
Top