日本公衆衛生雑誌
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54 巻, 9 号
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原著
  • 大森 純子
    2007 年 54 巻 9 号 p. 605-614
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 高齢者の社会関係と健康認識との関係について探究するため,前期高齢女性の家族以外の身近な他者との交流関係と健康関連 QOL との関連について検討する。
    方法 大都市近郊のベッドタウン A 市(人口:18万人,高齢化率:14.9%)を調査地とし,無作為抽出された65歳から74歳までの女性1,000人に郵送による自己記入式質問紙調査を行った。有効回答の得られた602人のうち,日常生活が自立し,近隣他者と交流をもつ525人を分析の対象とした。調査には,DMCI 項目(Cronbach's α=0.85)と SF-36v2 日本語版(Cronbach's α=0.93)を用い,共分散構造分析にて解析した。「気遣い合い的日常交流」の 4 構成概念,および SF-36v2 を構成する身体的側面の健康認識と精神的側面の健康認識の関連を検討した。
    結果 最終的な採択モデル(GFI=0.930, RMSEA=0.045)における「気遣い合い的日常交流」の構成概念間の関係として,「日常的相互関心」と「共感的相互理解」をもつことによって「適度な距離感」が得られ,「適度な距離感」を保持することで「日常的相互関心」と「共感的相互理解」が継続でき,それらの相互行為を通じて「自己存在の確認」ができると考えられた。「気遣い合い的日常交流」の相互行為のうち,「共感的相互理解」から身体的および精神的側面の健康認識に向かう極弱い正の関連が確認された。しかし,交流の目的である「自己存在の確認」から身体および精神的側面の健康認識に向かう有意な関連は認められなかった。また,身体および精神的側面の健康認識の間には,非常に強い相関が示された。
    結論 前期高齢女性の近隣他者との交流関係と健康関連 QOL との間には,社会関係が身体や精神的な健康状態の認識を高める明らかな直接的関係は認められなかった。加齢による不可逆的変化を自覚している前期高齢女性にとって,近隣他者との交流関係は,身体や精神的な健康認識を改善するというよりも,むしろその認識の程度に関わらず,現状を共有し,積極的に今を生きることを助けている可能性が考えられた。高齢者の QOL の観点から,日常の社会的な側面に注目した主体的健康増進支援の有効性についてさらなる検討の必要性が示唆された。
  • 藤原 佳典, 渡辺 直紀, 西 真理子, 李 相侖, 大場 宏美, 吉田 裕人, 佐久間 尚子, 深谷 太郎, 小宇佐 陽子, 井上 かず子 ...
    2007 年 54 巻 9 号 p. 615-625
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 2004年 6 月より高齢者による学校ボランティア活動(絵本の読み聞かせ)を通じた児童との世代間交流型介入研究 “REPRINTS”(Research of Productivity by Intergenerational Sympathy)を開始した。対象児童の高齢者イメージの関連要因,および “REPRINTS” ボランティア(以下,ボランティアとよぶ)の 1 年間の活動により,対象児童の高齢者イメージがどのように変化したかを検証する。
    方法 川崎市立 A 小学校(住宅地,児童数470人)を対象にボランティア 4~6 人が週 2 日訪問し,絵本の読み聞かせを継続した。ボランティア試験導入開始 1 か月後に初回調査,その後,6 か月ごとに第二回,第三回調査(集合・自記式アンケート)を行った。調査項目は,基本属性,SD (Semantic Differential)法による高齢者の情緒的イメージ尺度10項目短縮版(「評価性」因子 6 項目と「活動性・力量性」因子 4 項目),祖父母との同居経験,祖父母等の高齢者との交流経験(以降,高齢者との交流経験総得点とよぶ),ボランティアから読み聞かせをしてもらった経験(以降,読み聞かせ経験とよぶ),社会的望ましさ尺度短縮版。
    結果 多重ロジスティック回帰モデルにより初回調査で「評価性」因子得点が高い(高齢者に対し肯定的なイメージをもつ)ことの関連要因は低学年,高齢者との交流経験総得点高値が,「活動性・力量性」因子得点が高いことの関連要因は低学年,男子,社会的望ましさ尺度短縮版高値が抽出された。
     次に,初回,第二回(6 か月後),第三回調査(12か月後)のうち,二回以上の調査で,「読み聞かせ,あり」と回答した児童を読み聞かせ経験の高頻度群(170人),一回以下の児童を低頻度群(175人)とし,これら二群の「評価性」因子と「活動性・力量性」因子の得点変化を一般化線形モデル(学年,性,高齢者との交流経験総得点,社会的望ましさ尺度短縮版を調整)により評価したところ,「評価性」因子の群間と調査回数に交互作用がみられた(P=0.012)。
    結論 高齢者イメージは児童の成長とともに低下する可能性あるが,“REPRINTS” ボランティアとの交流頻度が高い児童では,1 年後も肯定的なイメージを維持しうることが示唆された。
資料
  • 川合 厚子, 阿部 ひろみ
    2007 年 54 巻 9 号 p. 626-632
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    背景 これまで精神科における喫煙の問題は日本においてだけではなく世界的に“neglected problem(無視されてきた問題)”であった。精神障害者は喫煙率が高く,多喫傾向にあり,禁煙しにくいといわれている。また,精神科医療職も喫煙率が高いことが指摘されている。
    目的 精神障害者の喫煙状態を把握し,禁煙支援の需要があるかを知る。また,精神科医療従事者の喫煙状態を把握し,喫煙に対する意識を知ると共に喫煙問題への意識を高め,職場環境の改善へつなげる。
    方法 2001年12月~2002年 5 月に単科精神科病院である医療法人社団公徳会佐藤病院に通院又は入院していた統合失調症・気分障害・アルコール依存症のいずれかを持つ患者296人と同院職員222人に,それぞれ喫煙実態調査を行った。
    結果 対象患者における喫煙率は,統合失調症では男77.4%,女39.3%,双極性気分障害では男87.5%,女100%,うつ病では男は69.6%,女5.4%,アルコール依存症では男86.7%,女100%であった。喫煙者のうち78.1%がニコチン依存症であった。また,喫煙者の75.7%は禁煙に興味を持ち,49.0%は禁煙を希望しており,精神科においても禁煙支援の需要の高いことがわかった。職員においては,喫煙率は45.5%(男76.6%,女29.0%)と高く,とくに若い年代で喫煙率が高かった。喫煙開始年齢は18歳と20歳にピークがあった。1 日20本以下の喫煙者が80%を占め,40本以上の喫煙者はいなかった。喫煙者の91.1%は自分の吸うタバコがまわりに迷惑をかけていると認識していた。しかし職場内全面禁煙となった際,対処が難しいと答えたものは66.3%,近々やめたいという禁煙希望者は24%にすぎなかった。一方,非喫煙者のうち職場のタバコで悩まされている者は29.8%,タバコの煙を嫌だと思う者は76.0%であった。喫煙しないで欲しい場合喫煙者にそれを言える者は,相手によると答えた15.7%を含め,22.7%であった。喫煙対策を是とするものは職員全体の80.0%であった。医療従事者として,喫煙問題に対する意識が不十分であることが窺われた。
    結論 精神障害者の喫煙率とニコチン依存症の割合は高かったが,禁煙希望者も半数近くあり,禁煙支援の需要の高いことがわかった。精神科医療従事者は喫煙率が高く,喫煙問題に対する認識が低かった。
  • 村山 洋史, 田口 敦子, 村嶋 幸代, 柳 修平
    2007 年 54 巻 9 号 p. 633-643
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的:保健分野の住民組織活動の一つとして,行政養成型ボランティアである健康推進員(以下,推進員)活動が存在する。本研究では,推進員の持つ活動意識を経験年数別に比較することを目的とした。
    方法:対象は,S 県 A 市および B 市で活動する健康推進員600人であり,2004年11月に郵送法による無記名自記式質問紙調査を実施した。調査項目は,基本属性,推進員活動状況,推進員活動への自己評価,自尊感情,地域に対する意識であった。
    結果:有効回答数は514票(有効回答率85.7%)であった。4~8 年群,9 年以上群の推進員は,1~3 年群の推進員に比べ,やりがいや自己成長感が高かった。同時に,経験年数の長い推進員ほど,活動に困難を感じている割合が高かった。一方,活動に負担を感じている割合は,4~8 年群の推進員で最も高く,9 年以上群の推進員が最も低かった。また,経験年数の長い推進員ほど,組織内でのまとめ役を担っているという意識や役割に対する責任感が高いという結果であった。
    結論:推進員活動の活動体制を考える際には,本研究で明らかになった経験年数別での推進員の活動意識の違いを考慮することが重要であると考えられた。
  • 甲斐 裕子, 山口 幸生
    2007 年 54 巻 9 号 p. 644-652
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 コンピュータやインターネット等の情報通信技術(IT)の発達に伴い,健康教育に IT を活用することが実現可能になりつつある。IT を用いた健康教育(IT 健康教育)の推進には,現場の実態やニーズを踏まえた研究開発が重要である。本研究では,全国の市町村における IT 健康教育の実施状況を明らかにし,それらを取り巻く環境,保健師の IT 健康教育に対する意識,および事業導入する際の妨げ要因を調査した。
    方法 調査は市町村の老人保健事業における健康教育担当の保健師を対象として,2005年 2 月に実施した。人口 5 万人以上の全ての市区町村,および人口 5 万人未満の市町村については658市町村を無作為抽出し,計1,267通の調査票を郵送した。本調査における IT 健康教育の定義は「パソコン・携帯電話・電子メール・インターネット等の情報通信の方法を健康教育の主要なツールとして活用し,主に対象者とは対面せずに生活習慣改善や疾病予防を支援する取り組みであり,電話相談は含まない」とした。
    結果 調査票の回収率は70.1%であった。パソコンやインターネットは95%以上の市町村で整備されていた。IT 健康教育の実施率は,人口 5 万人以上の市町村で3.9%,5 万人未満の市町村で1.1%であった。IT 健康教育の情報の認知度は,5 万人以上で74.2%,5 万人未満で63.7%であった。保健師は IT 健康教育の事業導入に対して,5 万人以上で42.5%,5 万人未満で25.0%が必要と考えていたが,両者とも「どちらともいえない」の割合が最も高かった(5 万人以上44.0%,5 万人未満54.3%)。事業導入した場合に予測されるメリットは,働きかける住民層の広がり・データ管理の効率化・プログラムの個別化であった。IT 健康教育導入を妨げる要因は,予算・マンパワー・利用できるプログラムの不在であった。
    結論 調査時点で,IT 健康教育を実施している市町村は少数であったが,情報の認知度は高く,働きかける住民層の広がりやプログラムの個別化,データ管理の側面には大きな期待が寄せられていた。しかし,実際に利用できる方法やプログラムについての情報が乏しいためか,事業導入する必要性や可能性については,明確に判断しきれない状況にあることが示唆された。今後は,現場の要請に応えるプログラム開発と情報発信とともに,健康づくり現場への具体的ツールの提供が必要である。
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