日本公衆衛生雑誌
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55 巻, 10 号
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原著
  • 羽山 順子, 足達 淑子, 西野 紀子, 押領司 文健
    2008 年 55 巻 10 号 p. 693-700
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    背景と目的 乳幼児の夜泣き,就眠困難(以下児の睡眠問題)が母親の睡眠や健康に,また児の睡眠に関連する養育行動(以下養育行動)が児の睡眠問題に影響することが,先行研究より報告されている。しかし,児の睡眠問題と母親の睡眠の関連は明らかでない。さらに,養育行動,児の睡眠問題,母親の睡眠および健康に影響することを包括的に実証した研究はない。本研究の目的は,①児の睡眠問題が母親の睡眠と健康と関連するかどうか,②養育行動,児の睡眠問題,母親の睡眠,母親の健康という 4 要因間の関係に関する包括的な検討,である。
    方法 4 か月児健診を受診した児の母親194人を分析対象者とした。調査内容は母子の睡眠習慣と睡眠の問題,母親の健康問題,養育行動であった。養育行動は先行研究を参考に望ましい養育行動と望ましくない養育行動とに分類し,15項目を提示した。母親の睡眠と健康問題,養育行動について統計的な観察を行った後,児の睡眠に問題がみられる問題群(n=40)と,問題がみられない比較群(n=142)とで,母親の睡眠問題と健康問題,児の睡眠に関連する養育行動を比較した。また先行研究を参考に,児の睡眠に関連した養育行動,児の睡眠問題,母親の睡眠問題および健康問題の 4 要因の関係をモデル化し,パス解析を行った。
    結果 60%以上の母親は自身の睡眠に問題を感じており,約30%に睡眠障害が疑われた。また,健康問題は80%以上の母親にみられ,「肩こり」が最も多くみられた。児の睡眠に関連する養育行動では,望ましい養育行動である「寝る前に十分授乳・オムツ確認」が80%,望ましくない養育行動である「児の夜間覚醒時にはすぐに授乳やオムツを確認する」が71%と多かった。問題群は,比較群と比べて母親の睡眠問題数と健康問題数,望ましくない養育行動数が多かった。パス解析の結果,望ましくない養育行動が児の睡眠問題に影響しており,児の睡眠問題は,母親の睡眠問題を介して母親の健康問題に影響を与えていた。
    結論 30%の母親に睡眠障害を疑う症状がみられた。また,半数以上の母親が望ましくない養育行動を行っていた。望ましくない養育行動は児の睡眠問題に影響を及ぼし,児の睡眠問題は母親の睡眠問題に直接影響を与え,健康問題には間接的に影響していた。
  • 林 知里, 早川 和生, 前田 知穂, 西原 玲子, 尾ノ井 美由紀
    2008 年 55 巻 10 号 p. 701-715
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 双生児は単胎児に比べてことばの発達が遅れることが報告されており,その原因として「双子だけで通じる独自のことば(以下 twin language とする)」が注目されている。本研究では,twin language と学童期における社会性の発達の関係を明らかにすることを目的とした。
    方法 1999年にツインマザースクラブの会員の親2,733人に自記式質問紙を郵送,回答のあった1,428人(52%)への 5 年後の追跡調査として,2004年に追跡可能であった958人に自記式質問紙を郵送,516人から回答を得た(53.9%)。このうち,学童期(6 歳~12歳)の261組(522人)を分析対象とした。双生児の社会性については,「TS 式幼児・児童性格診断検査」を用いて評価した。
    結果 双生児ペアのうち第 1 子と第 2 子では異なる結果となった。第 1 子では,「社会性」,「学校適応」,「家庭適応」の 3 領域の合計得点で判定される「社会的不安定」において有意な関係は認められなかった。一方,第 2 子については,出生時体重が2500 g 未満の児は2500 g 以上の児と比べて1.846倍(95%CI: 1.039-3.278, P<0.05),妊娠中に妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)と診断された母親から生まれた児はそうでない児と比べて1.903倍(95%CI: 1.044-3.467, P<0.05),twin language を話していた児は話さなかった児と比べて2.022倍(95%CI: 1.167-3.503, P<0.05)多かった。
    結論 今回の調査により,乳幼児期の twin language が学童期の社会性の発達に関与することが明らかとなったため,乳幼児健診時における医師,保健師,心理職からのフォローアップ,保育園や幼稚園に通わせるなどで他の大人や子どもとの関係性を築く機会を多く作ること,双生児に対して個別的に関わる時間を多くもつように親に指導するなど,言語発達を促すための積極的な介入が必要であると考えられる。また,双生児の親の会などを組織的に活用し,双生児の親の子育てをサポートしていく必要がある。
資料
  • 埴淵 知哉, 村田 陽平, 市田 行信, 平井 寛, 近藤 克則
    2008 年 55 巻 10 号 p. 716-723
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 市町村保健師による地区のソーシャルキャピタル(SC)の評価,および SC と健康との関連を明らかにする。
    方法 A 県 B 地域の市町村保健師に対するアンケート調査(n=70)を実施し,各地区の①健康行動,②居住環境,③社会関係,④活動反応,⑤健康水準について,5 段階での評価を質問した。同地域の高齢者調査(n=17,269)における SC 指標との関係や地区評価の項目間の関連を,相関分析および重回帰分析にて検討した。
    結果 二つの調査データの相関分析の結果,保健師調査の③社会関係と高齢者調査の「地域への愛着」(r=.425, P<0.01),「友人との面会」(r=.404, P<0.01),保健師調査の④活動反応と高齢者調査の「受領サポート」(r=.233, P<0.05)などの間に相関関係が確認され,保健師の地区評価がいくつかの性質の SC を捉えていることが示唆された。地区評価の⑤健康水準を被説明変数とした重回帰分析の結果,③社会関係や④活動反応といった SC が,地域の健康水準と関連して評価されていることが示された。また,ベテラン保健師(n=24,従事年数11年以上)は③社会関係を,若手保健師(n=46,従事年数10年以内)は④活動反応をそれぞれよく捉え,また健康水準とも関連して評価していた。
    結論 保健師の地区評価がいくつかの性質の SC を捉え,SC が健康とも関連して評価されていた。保健師の地区評価や地域診断の重要性が SC 論の視点から示唆された。
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