日本公衆衛生雑誌
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55 巻, 11 号
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公衆衛生活動報告
  • 白澤 貴子, 仲村 智子, 中村 由紀子, 星野 祐美, 小風 暁, 渡邊 裕司, 上間 和子
    2008 年 55 巻 11 号 p. 753-760
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 地域住民と行政が協働して,地域で活躍できる高齢者への体操ボランティアリーダーの養成と活動支援システムの構築に着手した。その取り組みの経緯と内容を紹介するとともに,その過程で明らかとなった課題を整理した。
    方法 ①東京都世田谷区において,保健センター,区民が設立した NPO 法人,保健所および大学が協働して,体操ボランティアリーダーを養成し,「せたがや元気体操リーダー」と名づけた。②養成講座のプログラムは,講義と実技実習をあわせて,1 日 3 時間,計 6 日間と 3 日間の現場実習とした。講座は,平成17年~19年に計 3 回開催した。③あわせて,講座終了後,リーダーが有償ボランティアとして地域で活躍できる活動支援の仕組みをつくった。④派遣業務は NPO が行い,グループからの派遣依頼,派遣調整,活動報告(事後評価)までの事務フローチャートおよび帳票類を作成した。⑤また,指導中の事故対応のため,緊急事故対策マニュアルを整備するとともに,全員がボランティア保険に加入した。⑥リーダー派遣を開始した後 2 年間に生じた課題や問題点について筆者らが整理した。⑦リーダー派遣を利用した83グループに対して,リーダーの指導内容や派遣に関するアンケート調査を実施した(回収率100%)。
    結果 ① 3 年間で合計64人(男性10人,女性54人,平均年齢57.5±9.4歳)のリーダーが認定された。②派遣回数は,平成18年上期290回,下期417回,平成19年上期510回と増加傾向にある。③リーダー派遣を開始した後に生じた課題や問題点は,リーダー側からは,事前に高齢者グループの指導に対する要望が把握できなかった,派遣後のグループからの満足度を評価できていなかった,などであった。一方,グループ側からは,区から派遣される運動指導員とのレベルの差が大きい,体力のある若い層にも満足できるような運動支援をして欲しい,などであった。④派遣先グループのリーダーに対する総合評価では,「良い」が 8 割を占めた。指導内容については,説明力や実技など技術面では「大変良い」が 4 割程度であったが,対応の仕方や態度・印象は 7 割が高い評価をした。
    結論 地域住民と行政との協働によるリーダーの養成と活動支援システムの構築は,区民のエンパワメントや住民参画,地域協働といったヘルスプロモーションモデルであると同時に,公共サービスの新たな展開として活用できる可能性がある。
資料
  • 大坪 徹也, 今中 雄一
    2008 年 55 巻 11 号 p. 761-767
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 一般会計負担金を除外した医業収支比率の変化と関連する要因の把握。
    方法 主に急性期医療を提供する自治体病院を選定し(n=436),病床数による規模別(100床未満,100-299床,300床以上)に重回帰分析を行った。従属変数は一般会計負担金除外医業収支比率の変化とし,独立変数は患者数の変化,患者単価の変化,費用の変化,期首資産状況とした。また,人口増加率などの外部環境要因を調整変数とした。病院財務データを2003および2004年度の地方公営企業年鑑から参照した。また,地域関連データは,住民基本台帳人口要覧,国勢調査報告,市町村税課税状況等調から市町村別に参照した。
    結果 病床規模により収支の変化との関連要因が異なることが確認された。収支の変化に対して外来患者数の変化と入院患者単価の変化はいずれの病床規模群においても共通に有意な項目であり,病床規模が小さいほど関連が強くなる傾向が示された。費用の変化に関する項目のうち,収支の変化と有意な関連を示した項目は病床規模群により異なり,職員給与費の変化と収支の変化との関連は必ずしも有意ではなかった。また,300床以上群では研究研修費の変化が収支の変化と有意な正の関連を示した。
    結論 収支の改善に向けての病床規模別検討課題は,以下のように考えられる。
     100床未満群では,外来患者数と外来患者単価の増加が強く収支の改善と関連し,とくに,総じて減少傾向にある外来患者数の確保が重要な検討課題となろう。したがって,外来機能の縮小や分離については,持続可能な経営に向けて慎重な議論を要すると思われる。
     100-299床群では,入院外来患者数の確保および入院患者単価の増加が収支の改善と強く正に関連し,財務改善のためにはこれらを中心とした収益強化が検討対象となろう。すなわち,限られた経営資源の中で如何に外来機能と入院機能を維持し調整するかが問われる。
     300床以上群では,減価償却費の増加と収支の改善に強い負の関連がみられ,設備投資の大きさやその時期の適切性の判断が収支に大きく関連することが確認された。また,研究研修活動への投資の増加と収支の改善において正の関連がみられたが,因果の方向性については更なる研究が望まれる。
  • 井上 さやか, 田渕 英一, 今村 知代, 野口 誠, 古田 勲
    2008 年 55 巻 11 号 p. 768-776
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 高校生を対象に歯科検診および質問紙による調査を実施し,歯列・咬合異常が現代の高校生の心身の健康意識に及ぼす影響について調べた。
    方法 健康意識に関する質問紙による調査および歯科検診を実施し,検診結果の記入後に質問紙を回収した。歯科検診により歯列・咬合異常の程度を“異常なし”,“要観察”,“要精検”の 3 群に分類した後,歯列・咬合異常の程度と心身の健康意識との関連性について有意検定を行った。
    結果 歯列・咬合異常の程度が顕著になる群ほど,1)歯列・咬合異常をより強く自覚し,咬合不全をより意識した(P<0.001)。2)健康意識に対してはネガティブな自己評価をした(P<0.001)。
    結論 歯列・咬合異常がネガティブな自己評価と結びつき,精神的ストレスを引き起こす要因の一つとなっている可能性が示唆された。歯列・咬合異常をもつ若年者を早期に発見し,正常な歯列や咬合を指導・育成することは,咀嚼を正しく行うことだけでなく,健全な精神的発育を促すためにも重要であると考えられた。
  • 池田 順子, 福田 小百合, 村上 俊男, 河本 直樹
    2008 年 55 巻 11 号 p. 777-785
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 青年期女子の問題点として「痩せ志向」を取り上げ,1992年からの14年間における痩せ志向の推移を明らかにし,食生活および健康との関連を検討する事を目的とした。
    対象と方法 栄養系短期大学 1 回生女子を対象として1992年~2005年の14年間,毎年10月に約100人,延べ総数1,458人(19.2±0.3歳)を対象として食生活と健康に関する62項目を調査,身体状況に関する 4 項目を測定し,各種項目の14年間の推移に増減が認められるかを対象者全員の各種測定値,およびカテゴリーで分類される項目は各年の割合を従属変数,年度(14年)を独立変数とする単回帰分析法を適用し,算出された標準回帰係数(β)の有意性を検定した。さらに食生活や健康の評価指標を算出し痩せ志向との関連を検討した。
    結果 14年間で体重(β=−0.072, P<0.01)および BMI(β=−0.082, P<0.01)は共に有意に低下する傾向を認めた。他方,体重の希望増減量は平均3.9 kg減で14年間で増減はみられず,希望体重(β=−0.100, P<0.001)および希望 BMI(β=−0.125, P<0.001)は共に有意に低下する傾向を認めた。実測値から算出した痩せ(BMI<18.5)の割合(β=0.656, P<0.02),および,希望する体重から算出する痩せの割合(β=0.801, P<0.01)は共に14年間で有意に上昇する傾向を認めた。体型の判定は太めに判定が65.2%,正しく判定が33.6%でこれらの割合の推移は共に14年間に増減はみられなかった。「痩せたい」割合は81.2%と高くこの割合も増減なく推移した。増大する痩せの割合および増減なく推移する痩せ志向の問題点を探るため,ダイエットとの関連や疲労自覚スコア,2 つの食生活を評価するスコアを比較したところ,普通体重の維持志向群では食生活は好ましく疲労自覚症状も少ないが,痩せ体型志向がダイエットの実行につながり,ダイエットの実行が食生活に問題をもたらし,疲労自覚症状の増大につながるという関連が示唆された。
    結論 14年間で痩せの割合が増大し痩せ志向が増減無く高い割合で推移していることが見いだせた。そして,それらが食生活や健康に問題をもたらしているという結果は,青年期女子を対象とする健康増進の取り組みにおいて,体型認識に対する考え方や食に関する健康教育の必要性が改めて示されたと思われる。
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