日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
55 巻, 3 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 宮林 幸江, 安田 仁
    2008 年 55 巻 3 号 p. 139-146
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 事故や自殺死に関する死の突然性が死別反応に影響するとされるが,突然の死に病死をも含めた比較検討はみあたらない。とくに国内に関しては,死別に関する実証的知見が不足し,死別状況による影響のみならず,群分けによる比較検討も充分になされていない。よって本研究では遺族の健康・抑うつ・悲嘆反応への死因の影響を査定していくこととする。
    方法 近親者との死別を体験した親・子・配偶者・従兄弟の428人が返答し,その中から死因が記されかつメモリアルリアクション(命日反応など)を考慮した178人に対し質問紙調査を実施した。そして回答を,自殺,事故死,急性死,病死(闘病期間 1 年未満)の 4 群に分類した。各群の身体的・精神的健康については GHQ・SRQ-D により,日本人の悲嘆の情緒を主とする反応は Miyabayashi Grief Measurement (MGM)により測定した。
    結果 4 群の得点順位はほぼ自殺>事故死>急性死>病死群の順となった。自殺・事故死・急性死の GHQ, SRQ-D 得点が臨床弁別閾内,または弁別域を超えた。GHQ の下位尺度である身体症状と不安不眠尺度に群間差は認められないが,不安不眠は死因に拘らず遺族全体に高得点であった。MGM では,病死と比較した自殺・事故死との間で全 4 下位尺度に群間差が認められ,自殺遺族の死別反応は,最大と判明した。その一方で下位尺度の中の適応・対処の努力(高得点ほど,実行不可の逆転の項目)では最も非力であった。
    結論 死因が死別反応に影響することが確認された。とくにその影響力は健康面より悲嘆の情緒反応において顕著と判明した。
公衆衛生活動報告
  • 田中 久子, 石川 みどり, 足立 己幸
    2008 年 55 巻 3 号 p. 147-155
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 ネットワーク形成における課題共有のプロセスを検討し,そこで組織コミットメントがどのように形成されるかを確認する。
    方法 1. 食育ネットワーク形成のプロセス:保健所管内行政栄養担当者の話し合い,J 大学教員との検討後,食の特徴をふまえた課題共有ができるよう“A:主に食情報の提供を行うグループ”,“B:主に食物の提供を行うグループ”,“C:AB 両方の活動を行うグループ”の参加を促し,ABC 同士が接点をもてる場を設定した。具体的には地域への公開活動を 2 回,有志による活動が 8 回行われた。第 1 回目の地域への公開活動で,食育で育てたい力について確認し,有志による活動で,課題の整理・分類を基にした組織間連携の可能性を検討し,その成果をフィードバックするかたちで第 2 回目の公開活動でワークショップを行った。
     2. 問題共有のプロセスの分析:2003年から2006年までの一連の食育ネットワーク形成にかかわった組織,活動プロセス,内容,参加者の作業,発言を著者らが記録した。記録内容を課題別に分類し,類似するものをまとめ特徴的な内容にタイトルをつけて系時的に位置づけ,プロセスを確認した。さらに,結果を基にして,食育ネットワーク形成の全プロセスに携わった参加者自身による振り返りで態度の変化を考察した。
    結果 1. 地域への公開活動には34団体63人が参加した。地域の食の課題には,多様なライフスタイルの中で食生活が揺らいでいる,食知識・体験の不足により,つくる・食べる・伝承する行動に問題がある,情報が氾濫しているがその調整がないことが示された。また,食の課題に対して参加組織各々が異なる活動をしていること,さらに,活動の不十分さや不得意さを認識でき,連携の可能性が確認された。
     2. 問題共有のプロセスは 3 段階であった。地域の食の課題の確認,食の課題をめぐるグループ活動の個性の明確化,各グループ同士の連携の可能性である。ネットワーク形成の全プロセスに参加した 3 人の態度を分析した結果,他の組織活動への関心,他の組織との共感があげられた。
    考察 課題共有をすすめた活動には,初期段階から食の特徴をふまえた課題の共有ができるように支援したこと,課題の特定,課題の分析,活動の選択という流れを一度行った後に,成果の確認およびフィードバックする形で地域への公開活動での検討を重ねることが,参加者同士の信頼を生み,かつ,参加者個人の態度変容が促されるのではないかと考えられた。
  • 白井 千香, 渋谷 雄平, 河上 靖登, 井上 明
    2008 年 55 巻 3 号 p. 156-162
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 HIV 感染症診療に関する地域連携を目指し,神戸市近隣で拠点病院と一般医療機関におけるネットワーク連絡会を立ち上げ課題の共有を図った。また,HIV/AIDS 診療の実態把握のためアンケート調査を実施し,今後の HIV/AIDS 対策における診療体制の整備と行政の役割や連携方法を検討した。
    方法 1. 事例検討・学習会(対象:医療従事者,自治体職員等)2 年間で 6 回開催 2. 先進事例の視察等(東京,広島) 3. 医療機関アンケート(対象:兵庫県内353病院)調査票(自記式アンケート)を郵送し,院内感染対策委員へ回答を求めた。調査項目は,HIV 感染症の診療経験の有無,感染対策マニュアル,診療方針や条件,HIV 抗体検査等についてである。
    結果 1. 事例検討・学習会:HIV/AIDS について情報交換や地域の現状を共有する機会となった。診療の場では本人の治療内容以外に,家族やパートナーに関する事,治療費や仕事の相談を経験していた。2. 先進事例:拠点病院を中心に診療ネットワークの構築や NGO との連携で患者支援を行っていた。3. 医療機関アンケート:回答数206病院(回収率約 6 割)のうち,HIV 感染症の診療経験は42病院(20%)で,主な診療科は内科,呼吸器科,免疫血液内科であった。HIV 感染症に対する診療方針は「包括的に継続」5%,「HIV 関連は他院で,その他は継続」10%,「全て拠点病院へ紹介」72%であった。感染対策マニュアルに HIV/AIDS の項目があるのは60%であった。HIV/AIDS 診療の条件は,拠点病院との連携,職員研修,感染対策マニュアルの整備の順に多く,トップの方針,カウンセラー配置,プライバシー配慮等が続いた。保健所の HIV 抗体検査を76%が知っていたが,その57%は検査日時を知らなかった。派遣カウンセラー制度は「利用せず」,「知らない」を合わせ98%で利用実績は少ない。自由記載では継続した職員研修の必要性が挙げられた。
    結論 一般病院の多くは,専門医の不在,感染対策や研修,施設の未整備等の理由から拠点病院での診療を望んでいたが,拠点病院でもそれらの条件は必ずしも十分ではなかった。HIV/AIDS 診療の連携を進めるには,地域における課題の共有と包括的な医療体制の構築が必要で,そのために行政として可能な支援を模索していくべきである。
資料
  • 冨田 直明
    2008 年 55 巻 3 号 p. 163-169
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 愛媛県東部地域の A 市の家庭で発生した腸管出血性大腸菌 O26感染症(以下 EHEC O26症)の事例を分析し,保健所における今後の EHEC 感染症の対策を検討した。
    方法 2005年 8 月20日に A 市内の小児科医院より,A 市内の小学 2 年生女児から EHEC O26 Vero 毒素 VT1(以下 O26VT1)の発生の届出が A 保健所に提出された。直ちに A 保健所職員が母親に対して喫食調査を行った。更に感染源の究明を目的に,患者および無症状病原体保有者の検便の分離株に対してパルスフィールド・ゲル電気泳動法(以下 PFGE)による遺伝子解析を行った。
    成績 喫食調査から 8 月15日に a,b,c の 3 家族14人が焼肉による会食を行ったこと,焼肉用の牛肉は愛媛県中部地域の B 市に隣接した C 町から購入したことが判明した。
     会食後の発症経過は,a 家族では17日に 7 歳女児,18日に 3 歳男児に数回の下痢と粘血便が出現した。b 家族では 7 歳男児が17日からの家族旅行中に軟便が出現したために帰宅後に検便を実施し24日に 7 歳男児,27日に30歳代母親に無症状で O26VT1 が検出された。c 家族では27日に保育園へ通園中の 4 歳女児から無症状で O26VT1 が検出された。また 4 人の分離菌株遺伝子を制限酵素(XbaI)による切断後の PFGE による遺伝子解析を行った結果,4 人の分離株遺伝子パターンはすべて一致した。
     そして今回の事例とは別に,同年 8 月10日に B 市内の飲食店で焼肉を喫食して,腹痛と数回の下痢が出現し O26VT1 が検出された母娘の分離株遺伝子パターンとも一致した。
    結論 O26VT1 の強い感染力のために,感染源からの直接感染に止まらず,感染者の家族に二次感染が引き起され,さらには無症状病原体保有者の存在により感染者の認知が困難になり,対策が後追いになった事例であった。そして保育園や幼稚園などで EHEC O26症が発生した場合には,家族や職員などへの二次感染を念頭に置き,初期段階から広範囲な検便を中心にした積極的な疫学調査が必要と考えられた。
     また今回の事例では,遺伝子解析と喫食調査から感染源が,B 市内で発生した事例と同じ流通経路の食材であった可能性が推測された。そして広範囲な散発的集団感染に対しては,その認知や感染源の究明のために,PFGE による病原体の遺伝子解析と疫学的調査結果を組み合わせた方法が有効と考えられた。
  • 新村 洋未, 若林 チヒロ, 國澤 尚子, 萱場 一則, 三浦 宜彦, 尾島 俊之, 柳川 洋
    2008 年 55 巻 3 号 p. 170-176
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 喫煙対策は健康維持増進を図る上で重要な項目での一つである。この研究の目的は健康日本21発表後10年間で目標達成を目指し地方計画を策定している全国の市町村の喫煙対策の目標設定状況と事業の実施状況を明らかにし,今後の市町村の喫煙対策事業実施の基礎資料を提供することである。
    方法 2003年の全国調査において地方計画策定済みまたは策定予定と回答した1,446市町村のうち,2005年 6 月20日までに合併終了または合併予定の市町村を除いた953箇所に対し,郵送による質問紙調査を実施した。
    結果 回答が得られた793市町村(回答率83.2%)のうち,地方計画を策定済みの638市町村を分析対象とした。
     実施事業の内容では,市町村施設の分煙化がもっとも実施率が高く(74.8%),ついで禁煙支援プログラム(35.0%),市町村施設の全面禁煙(32.4%)であった。路上喫煙禁止またはタバコのポイ捨て禁止条例の制定(7.5%),禁煙・分煙を行っている飲食店名の公表,市町村施設の禁煙タイムは 5%以下であった。
     また未成年者の喫煙対策は,学校における教育が70%の市町村で実施されているものの,たばこ販売時の年齢確認,自動販売機の削減・撤廃は 5%以下,たばこ広告の制限は実施されている市町村はなかった。
     人口規模の小さい市町村ほど目標設定や禁煙支援プログラムなどの事業や学校内全面禁煙の実施が低かった。
    結論 「健康日本21」発表以後,市町村における喫煙対策事業は,庁舎内全面禁煙の増加や禁煙支援プログラム等,取り組みが進んでいるが,まだ事業拡大の余地はある。また未成年の喫煙対策は十分でないことが明らかとなった。これらの多くの喫煙対策事業は,人口規模の小さい市町村ほど実施率が低いことから,重点的に支援する体制の必要が示唆された。
feedback
Top