日本公衆衛生雑誌
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57 巻, 9 号
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原著
  • 三橋 祐子, 錦戸 典子
    2010 年 57 巻 9 号 p. 771-784
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 自治体に働く保健師を対象に職域保健との連携の実施状況等について調査を行い,全国的な実施状況と関連要因について保健所設置市と市町の比較により明らかにすることを目的とした。
    方法 東京都を除く全国の自治体(保健所設置市のすべて,市町は無作為抽出)に勤務し成人保健を担当している保健師各 1 人,計350人を対象に郵送による自記式質問紙調査を行った。有効回答数は216人(61.7%)であった。保健所設置市および市町ごとに基本情報,背景要因,障壁要因,連携の実施状況等を算出し,Mann-Whitney の U 検定および χ2 検定により比較した。保健師•自治体の基本情報および各背景要因,障壁要因と連携実施の有無との関連について,保健所設置市と市町ごとに Spearman の順位相関係数を算出した。市町における連携の実施に関連する背景要因および障壁要因については連携実施の有無を従属変数,背景要因,障壁要因をそれぞれ独立変数とする多重ロジスティック回帰分析を用いて分析した。
    結果 職域との連携の必要性を感じている者は96.8%と高かったが,「現在,連携している」は保健所設置市34.9%,市町22.9%であった。連携内容において職域関係者と健康課題や保健事業について協議する連携は保健所設置市24.5%,市町25.8%と低かったが,地域保健側から職域へ保健サービスを提供する連携は保健所設置市56.3%,市町52.2%と半数を超えていた。背景要因の該当状況において,職域との連携に関する教育を受講した者は保健所設置市22.2%,市町17.1%,連携に熱心なモデル保健師が身近に存在した者は保健所設置市9.7%,市町13.9%と少なかったのに対し,上司•同僚間で職域との連携の必要性について協議したことがある者は保健所設置市83.9%,市町74.0%と多かった。また,市町において連携実施に有意に関連している背景要因は「地域•職域連携推進事業ガイドラインを読んだことがある」,「地方計画へ連携に関する内容を盛り込んでいる」等,障壁要因は「自治体側のマンパワーが足りない」,「自治体内の在勤者まで支援対象とみなすことは出来ない」であった。
    結論 本研究において初めて地域•職域連携に関する全国的な実施状況や関連要因が明らかになった。保健所設置市,市町それぞれの連携状況とその関連要因に基づいた連携推進策を講じる必要性が示唆された。
  • 斉藤 雅茂, 藤原 佳典, 小林 江里香, 深谷 太郎, 西 真理子, 新開 省二
    2010 年 57 巻 9 号 p. 785-795
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 本研究では,首都圏ベッドタウンで行った調査に基づいて,独居高齢者と同居者のいる高齢者のなかで,孤立した高齢者の発現率とその特徴,および,孤立に関する設問に無回答であった孤立状況不明者の特徴を明らかにすることを目的にした。
    方法 使用したデータは,埼玉県和光市において,独居の在宅高齢者978人,同居者のいる在宅高齢者1,529人から得られた。社会的孤立の操作的定義には,同居家族以外との接触頻度を用い,別居家族・親戚,および,友人・近所の人との対面接触と非対面接触のいずれもが月に 2, 3 回以下を「孤立」,それ以上を「非孤立」,それらの設問に無回答を「孤立状況不明」に分類した。世帯構成別に孤立・非孤立を従属変数,性別,年齢,婚姻経験,近居子の有無,移動能力,経済状態を独立変数に投入したロジスティック回帰分析,および,それらの諸変数について孤立状況不明と孤立・非孤立間での比率の差の多重比較を行った。
    結果 分析の結果,1)上記の定義で捉えた場合,孤立者は,独居者では24.1%(独居型孤立),同居者のいる高齢者では28.7%(同居型孤立)であること,2)独居・同居に関わらず,男性,子どもがいない人および近居子がいない人,より所得が低い人の方が孤立に該当しやすいこと,他方で,3)離別者と未婚者の方が独居型孤立に該当しやすく,より高齢の人,日常の移動能力に障害がある人の方が同居型孤立に該当しやすいという相違があること,4)独居・同居にかかわらず,孤立状況不明者はこれらの諸変数において孤立高齢者と類似していることが確認された。
    結論 高齢者の社会的孤立は独居者だけの問題ではなく,独居型孤立と同居型孤立の特徴の相違点に対応したアプローチを検討する必要があること,また,孤立高齢者をスクリーニングする際には,孤立関連の設問への無回答者を孤立に近い状態と捉えるべきことが示唆された。
  • 犬飼 早苗, 二宮 一枝
    2010 年 57 巻 9 号 p. 796-806
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 防護動機理論に基づき,マンモグラフィを併用した乳がん検診の受診行動に関わる認知的要因を明らかにする。
    方法 A 県 B 町および C 町在住の40~69歳の女性2,345人を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した。調査票に倫理的配慮を明記し,個別の郵送をもって承諾とした。分析は,受診行動(定期受診,不定期・未受診)を従属変数,防護動機理論に基づく認知的要因(乳がんが早期発見されない事態が生起した場合に被る身体的・精神的・社会的な危害の程度に対する認知である「深刻さ」,乳がんが早期発見されない事態が生起する可能性への認知である「生起確率」,乳がんが早期発見されない事態や随伴する深刻な事態に対し受診行動がもたらす効果性への認知である「反応効果性」,自己が受診行動を遂行できることの確信に対する認知である「自己効力」,受診行動に伴う負担への認知である「反応コスト」)を独立変数,および単変量解析の結果,受診行動と認知的要因の双方と有意な関連がみられた個人特性を統制変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。
    結果 調査票を回収できた788人(回収率33.6%)のうち,欠損値がなく,乳がんの既往がない497人を分析対象とした。定期受診でかつ最近 2 年以内に受診したと答えた218人を定期受診群,それ以外の279人を不定期・未受診群とした。受診行動と認知的要因の双方と有意な関連がみられた個人特性は,視触診方式の乳がん検診受診歴,受診勧奨,身近な受診者であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,定期受診群は不定期・未受診群と比較して,自己効力が有意に高く,反応コストが有意に低かった。防護動機理論では,自己効力は対処行動に対して促進的な効果をもち,反応コストは抑制的な効果をもつと仮定されており,本研究結果はこれを支持した。マンモグラフィを併用した乳がん検診の受診行動を促進するためには,自己効力と反応コストの 2 つの認知的要因に注目し,医師および保健師から受診勧奨を受けること,視触診方式の乳がん検診を受診することが有効である可能性が示唆された。
    結論 マンモグラフィを併用した乳がん検診行動は,自己効力と反応コストの 2 つの認知的要因に注目すると,医師および保健師から受診勧奨を受けること,視触診方式の乳がん検診を受診することで,促進される可能性が示された。
  • 中村 好一, 伊東 剛, 千原 泉, 定金 敦子, 小谷 和彦, 青山 泰子, 上原 里程
    2010 年 57 巻 9 号 p. 807-815
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 警察のデータを用いて栃木県の自殺の実態を明らかにし,自殺対策を進める上での要点を示すと共に,警察データの利点と問題点を検討する。
    方法 栃木県警察本部から提供を受けた2007年,2008年 2 年間の自殺データ(小票)を集計解析した。
    結果 栃木県における観察した 2 年間の自殺は1,166件(男865件,女301件)であった。人口あたりの自殺件数は全国と比較して高い傾向にあった。男では50歳代が最も多かったのに対して,女では30歳代から70歳代までほぼ同じ人数であった。20歳代,30歳代で人口あたりの件数が全国よりも高い傾向が観察された。平日の早朝や午前10時台に多い傾向が観察された。自殺場所は自宅が最も多く,手段は縊死が最も多かった(いずれも全体の約 6 割)。自殺の原因・動機(1 件の自殺について 3 つまで選択)では健康問題が最も多く(61.3%),次いで経済・生活問題(22.7%),家庭問題(17.3%)であった。健康問題では身体疾患と精神疾患がほぼ半数ずつを占めていた。経済・生活問題は20~60歳代の男で圧倒的に多く,中でも多重債務が多かった。約 3 分の 1 の者が遺書などを残していた。15.9%は自殺未遂の経験があった。以上のような結果をもとに検討した結果,栃木県の自殺対策を推進する上で,(1)学校保健や職域保健のさらなる充実,とくに20歳代および30歳代男への対応,(2)自殺のリスクが高い者に対して,家族への指導などにより常に他者の目が届くようにしておくことの重要性,(3)自殺未遂経験者へのハイリスク者としての対応,(4)相談窓口(とくに多重債務)の充実と住民への周知,(5)身体疾患をもつ患者の心のケアの充実,(6)精神疾患をもつ患者の治療を含めた管理の充実,の 6 点が重要であることを示した。さらに,警察データにおける原因・動機は,現場を捜査した警察官が判断しているために,心理学的剖検と比較すると情報の偏りが大きく妥当性は落ちるが,全数を把握しているために選択の偏りはなく,この点は心理学的剖検に勝るものであることを議論した。
    結論 警察のデータを用いて栃木県の自殺の実態を明らかにし,栃木県での自殺対策を進める上での要点を提示した。利点と問題点を理解した上で利用すれば,警察のデータも自殺予防対策に有用な情報を提供することを示した。
資料
  • 権 海善, 奥野 純子, 深作 貴子, 戸村 成男, 柳 久子
    2010 年 57 巻 9 号 p. 816-824
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 中華人民共和国(以下中国)では,急速な高齢化,一人っ子政策,社会保障制度の未整備等のため,介護者は大きな負担を抱えていると思われる。56の民族がいる中国では,介護負担感に関する研究がいくつか報告されているが,各々の民族が持っている独自の伝統・習慣・文化や高齢者の介護の方法が異なっているにも関わらず,民族の違いによる介護負担感に関する研究は報告されていない。中国の朝鮮族および漢族における在宅要介護高齢者の介護者の介護負担感を比較し,介護負担感に影響する要因を明らかにすることを目的とした。
    方法 中国延吉市に在住の在宅要介護高齢者と主介護者76組(朝鮮族52組,漢族24組)を対象に,質問紙を用い,訪問調査と留め置き方式を併用した。要介護高齢者に対しては,属性,経済状況,日常生活動作(ADL),認知機能(Mini-Mental State Examination: MMSE),認知症の周辺症状,生活満足度等を調査し,主介護者に対しては,属性,一日の介護時間,健康状態,ソーシャルサポートの状況,介護の適任者,在宅介護の継続意思,Zarit 介護負担尺度(Zarit caregiver Burden Interview: ZBI)等を調査した。
    結果 漢族は朝鮮族と比較し,ZBI 総得点の中央値である33点以上の「高負担感」群の割合(70.8%)および personal strain 得点(24.5±6.9)が朝鮮族より有意に高かった。介護の適任者として,漢族では「子供」,朝鮮族では「配偶者」と回答した介護者の割合が高く,主介護者が子供の場合,漢族は朝鮮族より介護負担感が高く,主介護者の属性により介護負担感に違いが見られた。介護負担感に影響する要因を各群で検討した場合,朝鮮族では,要介護高齢者の認知症の周辺症状,ADL,障害老人の日常生活自立度,主介護者の性別と健康状態,続柄,一日の介護時間,副介護者数,冠婚葬祭時・病気時の介護代替者および近所の援助の状況であった。漢族では,高齢者専用の部屋の有無,家庭の経済状況,高齢者の生活満足度であった。朝鮮族と漢族共に,約80%の介護者は在宅で介護を継続する意思が有り,約60%の要介護高齢者は施設入所に対して仕方がないか良くないと回答した。
    結論 両民族ともに,介護者の約80%は在宅で介護を継続する意思があるが,介護負担感の影響要因は異なることから,今後,民族の特性に応じた高齢者や介護者の支援対策が望まれる。
  • 酒井 潔, 上島 通浩, 柴田 英治, 大野 浩之, 那須 民江
    2010 年 57 巻 9 号 p. 825-834
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 建築物衛生法の環境衛生管理基準に「ホルムアルデヒド(HCHO)の量」が追加された2002年以降に竣工した特定建築物における揮発性有機化合物(VOC),特に未規制 VOC である 2-エチル-1-ヘキサノール(2E1H)による室内空気汚染の実態を明らかにする。
    方法 調査対象建物は2003年から2007年までの 5 年間に名古屋市の半数の区内で届出のあった全特定建築物98ビルであった。竣工後 1 年以内に届出のあった61ビル中57ビル(93%)の175室で空気環境調査を行った。VOC 濃度は24時間パッシブサンプリング・高速液体クロマトグラフ法(13物質)またはガスクロマトグラフ-質量分析法(32物質)で測定した。
    結果 HCHO 濃度は全室内で管理基準(100 μg/m3)を下回っていた。室内濃度指針値が設定されているトルエン,キシレン,エチルベンゼン,スチレン,p-ジクロロベンゼンならびにアセトアルデヒドの各濃度も大半の室内で指針値未満であり,指針値を超過していた場合の原因も室内に持ち込まれた物品であると推定された。2E1Hは99%の室内で検出され,57ビル中 4 ビルではその一部の室内で 2E1H 単独の濃度によって総揮発性有機化合物(TVOC)の暫定目標値(400 μg/m3)を超えていた。同時期に竣工後 1 年以内に届出のあったと推定される全国の特定建築物約4400ビル中310ビル(7%)で,2E1H 濃度が TVOC 暫定目標値を超える部屋を有する可能性があった。
    結論 2003年以降に竣工した特定建築物での VOC による室内空気汚染レベルは低いと考えられたが,一部の特定建築物では TVOC 暫定目標値を超える 2E1H 濃度が観察された。2E1H はシックビルディング症候群の原因となることが疑われる物質であり,建物の躯体や建材などの組合せによって竣工後に二次的に発生する可能性があるので,室内空気汚染物質のひとつとして今後注目すべきである。
  • 中田 由夫, 岡田 昌史
    2010 年 57 巻 9 号 p. 835-842
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 肥満の解消が様々な健康利益をもたらすことは良く知られているが,公衆衛生学的には,より質の高いエビデンス作りが求められている。そこで,本研究では,減量プログラムの構成要素である資料提供と集団型減量支援の有無に着目し,体重減少に対する有効性を検証する。
    方法 本研究は,6 か月間の減量介入期間と 2 年間の追跡期間からなるランダム化比較試験である。6 か月間の短期的有効性評価は,対照群(動機付け支援),弱介入群(動機付け支援+資料提供),強介入群(動機付け支援+資料提供+集団型減量支援)の 3 群比較とし,2 年間の追跡期間を含む30か月間の長期的有効性評価は,弱介入群と強介入群の 2 群比較とする。目標とする参加者数は各群60人,計180人とする。選択規準は,1)40歳以上65歳未満の男女,2)BMI 25 kg/m2 以上40 kg/m2 未満,3)メタボリックシンドロームの構成因子(腹部肥満,高血圧,脂質異常,高血糖)の少なくとも 1 つを持つこと,の 1)~3)すべてを満たすこととする。また,糖尿病治療中,心疾患既往あり,脳血管障害既往あり,妊娠中または妊娠の予定あり,最近 6 か月間の減量プログラム参加歴あり,同居家族が研究に参加していること,のいずれかを満たす者は除外する。有効性評価のための主要評価項目は体重とし,副次評価項目はメタボリックシンドローム構成因子(腹囲,収縮期血圧,拡張期血圧,中性脂肪,HDL コレステロール,空腹時血糖)とする。なお,本研究計画については,UMIN-CTR に臨床試験登録をおこなった(UMIN000001259)。
    結果 2009年 3 月に参加者募集を終了し,適格規準を満たす188人(男性43人,女性145人)を対象に,2009年 4 月から 6 か月間の減量介入を開始した。2009年10月に測定をおこない,6 か月間の短期的有効性を評価する。その後,2 年間の追跡期間を経て,2011年10月に30か月間の長期的有効性を評価する。
    結論 本研究により,減量プログラムにおける資料提供と集団型減量支援の 6 か月間の短期的有効性,および,集団型減量支援の30か月間の長期的有効性を定量的に示すことができる。
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