日本公衆衛生雑誌
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58 巻, 9 号
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原著
  • 杉澤 秀博, 杉原 陽子
    2011 年 58 巻 9 号 p. 743-753
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 介護予防プログラムを有効に機能させるには,特定高齢者を把握することが重要となる。健康診査は,特定高齢者を把握する重要な機会の一つである。本研究の目的は,特定高齢者の候補者を対象に,社会的ネットワークの種類別に健康診査への受診に対する直接および間接効果を分析すること,およびその効果が一般高齢者と比較して異なるか否かについて検証することである。
    方法 東京都下の市に在住の65歳以上の高齢者から,無作為に抽出した標本を対象に郵送調査を行った。本研究で用いた調査項目に有効回答を与えた標本の割合は調査対象者の55.8%を占めていた。調査回収者の中から,厚生労働省の基準に基づき特定高齢者の候補者734人を選定した。加えて,特定高齢者の候補者と要介護認定者を除いた高齢者2,057人を一般高齢者として選定した。社会的ネットワークは,「世帯員数」,「別居親族との交流頻度」,「友人•近隣との交流頻度」,「地域組織への参加頻度」,「通院の有無」という指標で測定した。間接効果の媒介要因として,介護予防に関する認知度を位置づけた。健診受診の有無に関する情報は自治体から入手した。統計解析法にはパス解析を用いた。効果の大きさの評価は,統計的な検定とともに限界効果の面からも行った。
    結果 特定高齢者の候補者の場合,別居親族との交流頻度,友人•近隣との交流頻度,地域組織への参加頻度については,間接効果は有意であった。直接効果に関しては,社会的ネットワーク指標の中で有意なものはなかった。一般高齢者の場合,友人•近隣との交流頻度,地域組織への参加頻度,通院の有無に関しては,直接効果が有意であった。しかし,間接効果については,有意なネットワーク指標はなかった。限界効果をみると,特定高齢者の候補者の場合,社会的ネットワーク指標の中では地域組織への参加頻度がもっとも効果が大きく,平均の参加頻度が「月に 1 回未満の参加」から「月に 1 回以上」へと変化した場合,直接効果と間接効果を合わせて受診率が 5%向上すると推計された。
    結論 特定高齢者の候補者については,一般高齢者と異なり,社会的ネットワークは,介護予防に関する認知度を高めることで健診受診の向上に貢献することが示唆された。
  • 朝倉 隆司
    2011 年 58 巻 9 号 p. 754-767
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 中学生の認知に基づき身近な地域環境の質と個人レベルの認知的ならびに構造的 social capital(以下 SC と略す)を測定し,地域環境の質と個人レベルの認知的 SC との関連,そして地域環境の質と個人レベルの SC が抑うつ症状とどのような関連にあるかを明らかにする。さらに,抑うつ症状に対する地域環境の質と個人レベルの認知的 SC の交互作用の効果を検討する。
    方法 まず,中学生の身近な地域環境への認知を明らかにするため質的調査を行った。続いて,中学 2 年生を対象に自記式質問紙調査を行った。分析に用いた変数は,Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES–D)10項目版,地域環境の質,個人レベルの SC(認知,構造)と人口学的属性である。関連は,モデルに用いた全変数に不明のない1,786人を対象に一般化推定方程式を用いた重回帰モデルにより検討した。
    結果 身近な地域環境の質的特性を測定する 7 尺度,個人レベルの認知的 SC ならびに構造的 SC の指標を作成した。重回帰モデルにより,属性を制御した上で,「利便性と施設•サービスの充実」,「近隣の人間関係の結束」,「憩いやスポーツの場」,「治安の悪さ,事故の危険性」,「自発的な地域活動」,「街の美観と静謐さ」が認知的 SC と有意な関連にあること,「利便性と施設•サービスの充実」,「治安の悪さ,事故の危険性」,「密集•猥雑•非衛生」,認知的 SC が抑うつ症状と有意な関連にあることを明らかにした。また,「密集•猥雑•非衛生」と認知的 SC の交互作用が抑うつ症状と有意な関係にあることを示した。
    結論 サービスの利便性,衛生,安全や社会秩序など身近な地域環境の質を社会施策や自主的な社会活動により改善することで,思春期の精神健康の推進に寄与できる可能性がある。また,地域の良好な社会関係を経験することで醸成される認知的 SC も,精神健康に重要な役割を果たしていると考えられる。
公衆衛生活動報告
  • 冨田 直明
    2011 年 58 巻 9 号 p. 768-777
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 愛媛県宇和島保健所管内(以下当管内)には,深刻な医師不足により中核病院への患者の集中による医師の疲弊,退院後に患者を受入れ可能な病院等の確保の困難さなどの課題がある。この課題解決のためには慢性期患者の在院日数短縮による医師の負担軽減や,退院後に安心して在宅医療に移行できる体制が必要であり,その対策として中立的な立場である保健所が独自の地域連携クリティカルパス(以下連携パス)を作成し評価することを目的とする。
    方法 平成19年度は,当管内の病院•医師会•市町保健師等を対象者に,日本公衆衛生協会の地域保健総合推進事業を用いた講演や意見交換会を開催し,当管内での連携パスの必要性を啓発した。平成20年度は県庁の独自予算事業である地域医療保健福祉連携事業を用いて宇和島地域医療•保健•福祉連携推進会議を開催し,現況と今後の取り組むべき具体的方策を検討した。平成21年度は県地方機関である南予地方局の独自予算事業である南予地域医療確保対策事業の中で,「地域連携実践者育成研修会」や「連携パス実践のためのシンポジウム」を開催した。
     病院と地域との連携強化を目的に医療連携(地元医師会長,主要病院病院長,保健所長),看護連携(病院看護師長および市町保健師),地域連携(各病院の地域連携室や地域包括支援センターの担当者)の職種別推進班会議を編成した。
     保健所の企画で急性期病院と回復期病院の(両院の病院長を含む医師•看護師長•理学療法士)との間で連携パス実践の協議を定期的に開催した。
     そして評価方法として①研修会や各会議における具体的な連携の確認,②脳卒中患者ニーズ調査の実施と分析,③患者情報提供書の共通様式の有用性,④連携パスの施行状況などを検討した。
    結果 当管内での連携パス導入への必要性を共有する協議,先進地域の実践者からの学習,シンポジウムでの患者意見を踏まえ「連携パスをまず 1 事例から実践しよう!」という気運が全職種を通して醸成された。
     また職種別連携推進会議を重ねることで,医師連携推進班では医師会長や主要病院長の間で連携パス推進の方向性が得られた。地域連携推進班では「顔の見えるネットワーク」を基本理念に患者情報の共有が容易になり,さらに当管内統一の「転院情報提供書」が作成により効果的な退院支援が可能になった。看護連携推進班では病院看護師と保健師の協働で「脳卒中患者ニーズ調査」を実施し,早期の在宅移行を支援することが退院後の日常生活動作(ADL)の向上に繋がることが確認できた。
     脳卒中連携パス試行の状況は,平成23年 3 月31日現在,脳卒中患者14人の連携パスが地域連携室を経由して届けられ急性期病院から回復期病院に入院した。その内11人が退院し,在宅からの通院が 9 人,介護老人保健施設と維持期病院に転院が各 1 人の状況であった。そして11人の ADL は両病院の入院時と退院時の 4 時点毎に段階的に回復し,急性期から回復期への途切れることのないリハビリテーションの必要性が示唆された。
    結論 今回,公的で中立な立場である保健所が調整役となり,医療•看護•介護サービスの各施設間の連携意識の高揚を図るとともに連携パスの試行までに到達した。
     そして病院看護師と市町保健師間,医療•看護•介護サービスの各職種間での「顔の見える関係」の構築により患者情報が共有され,地域医療連携が容易になることで急性期•回復期病院から維持期病院さらには,安心して在宅医療への移行が可能になると示唆された。この保健所の取り組み(宇和島方式)は,当管内と同様に医師や受入可能な病床が不足した地域でも有用と推測された。今後は維持期から在宅への連携体制強化を目的に,開業医さらに老人福祉施設等との連携を積極的に推進する。
  • 岡本 玲子, 谷垣 靜子, 岩本 里織, 草野 恵美子, 小出 恵子, 鳩野 洋子, 岡田 麻里, 塩見 美抄, 小寺 さやか, 俵 志江, ...
    2011 年 58 巻 9 号 p. 778-792
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 近年,健康課題の多様化•深刻化に伴い,保健師に求められる役割が拡大•高度化している。本研究の目的は,大学院博士前期課程の科目で実施する,保健師等のコンピテンシーを高めるための学習成果創出型プログラムを開発し効果を検証することである。
    方法 プログラムは,2 回の試行と修正を経て開発された。プログラムのコンセプトは「私の学び,明日への貢献」であり,4 か月間にグループ•セッションが 5 回,その間の個別面接 4 回で構成されている。期間中参加者は,現場の課題と,それを解決する自分の学習課題を明確にして,自分で決定した到達目標の達成に向けて取り組む。研究者は学習支援者として,参加者の学習成果が最大になるように支援する。
     対象は,2008年10月から2010年 3 月までの 3 期にプログラムを受講した保健師 8 人であり,うち 4 人が大学院生,4 人が科目履修生であった。プログラムのアウトカムは,プログラム実施前後のコンピテンシーの測定により評価し,プロセス評価は,参加者に 1)現状と課題への気づき,2)改善計画の実行,3)改善した成果の確認という 3 つの必須通過点があったかどうかによって評価した。
    結果 プログラムを実施した結果,以下の結果に示す一定の効果が検証された。前後のアウトカム評価では,参加者の専門性発展力や公衆衛生の基本活動遂行能力,事業•社会資源の創出コンピテンシー,住民の力量を高める能力,活動の必要性と成果を見せる能力など多様な能力が有意に高まっていた。さらに,プログラム実施後の参加者の満足度と,費用に見合う効果を得られたと思う程度は高かった。また,参加者の学習プロセスにおいては,方法に示した必須通過点が確認された。
    結論 本プログラムは今後,大学院教育や大学と連携した自治体や企業,看護協会保健師職能による現任教育への適用可能性がある。今後のプログラム充実に向けては,多様な状況に応じた学習支援方法の確立,教材の開発,質的評価指標の開発,学習支援者育成方法•体制の確立といった課題がある。
研究ノート
  • 池田 順子, 福田 小百合, 村上 俊男, 河本 直樹
    2011 年 58 巻 9 号 p. 793-804
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 青年期女子の健康評価の指標として疲労自覚症状を取り上げ,15年間に渡りその推移を把握し,かつ,疲労自覚症状に関与する要因を食生活,生活および身体状況から検討し,健康教育のための指標を得ることを目的とした。
    方法 1994年~2008年の15年間,毎年10月に栄養系短期大学に在籍の 1 年生女子,毎年約100人,延べ総数1,547人(19.2±0.3歳)を対象として,身体•健康(疲労自覚症状30項目を含む),食生活および生活に関する86項目を調査,身体•活動に関する 5 項目を測定した。まず,疲労自覚数を中央値で 2 群に分け,疲労自覚の多い群の割合の年次推移を単回帰分析により検討,次いで,疲労自覚 2 群と各項目との関連を15年間および 5 年ごとの 3 期(94–98年,99–03年,04–08年)に分けて,平均値の比較,クロス集計による検討,さらに,疲労自覚に関与する要因を多重ロジスティック回帰分析により検討した。
    結果 ①疲労自覚症状の多い割合は15年間で有意に増大する傾向を認めた。②調査,測定により得られた個々の項目と疲労自覚症状との関連を検討した結果,食べ方,塩分の取り方,生活の満足度,睡眠時間,ダイエット,住居,体型願望等の多数の項目で有意な関連が認められた。③疲労自覚症状にどの項目が強く関与しているかを検討するため,多重ロジスティック回帰分析を適用した。その結果,4 つ(15年および 3 つの期)すべての期で食生態スコアが高くなる(食べ方が好ましくなる)ほど,あるいは,生活に満足する群では満足しない群に比べ,疲労自覚症状の少ない割合が高いという関連が認められた。これら 2 項目以外では関与する要因は時期により少し異なるが,睡眠時間は 2 期目以外の 3 つの期で,ダイエット,塩分スコアは 2 つの期で,コーヒ•紅茶,ジュース飲料,油っぽいものの好み,夜食,体型願望,体型自己判定,健康の心がけは 1 つの期で取り上げられた。④食べ方を評価する食生態スコアは12項目から算出されるが,その中でも食べる分量,偏食,食べる速さ,簡便食品,規則的な食事時間,簡単な昼食の 6 項目が疲労と強く関わっていることがわかった。
    結論 健康増進のためには食べ方に心を配る事,生活を満足と感じることや体格に対する正しい認識を持つこと等が必要であるという青年期女子の健康増進のための教育の視点が見いだせた。
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