目的 愛媛県宇和島保健所管内(以下当管内)には,深刻な医師不足により中核病院への患者の集中による医師の疲弊,退院後に患者を受入れ可能な病院等の確保の困難さなどの課題がある。この課題解決のためには慢性期患者の在院日数短縮による医師の負担軽減や,退院後に安心して在宅医療に移行できる体制が必要であり,その対策として中立的な立場である保健所が独自の地域連携クリティカルパス(以下連携パス)を作成し評価することを目的とする。
方法 平成19年度は,当管内の病院•医師会•市町保健師等を対象者に,日本公衆衛生協会の地域保健総合推進事業を用いた講演や意見交換会を開催し,当管内での連携パスの必要性を啓発した。平成20年度は県庁の独自予算事業である地域医療保健福祉連携事業を用いて宇和島地域医療•保健•福祉連携推進会議を開催し,現況と今後の取り組むべき具体的方策を検討した。平成21年度は県地方機関である南予地方局の独自予算事業である南予地域医療確保対策事業の中で,「地域連携実践者育成研修会」や「連携パス実践のためのシンポジウム」を開催した。
病院と地域との連携強化を目的に医療連携(地元医師会長,主要病院病院長,保健所長),看護連携(病院看護師長および市町保健師),地域連携(各病院の地域連携室や地域包括支援センターの担当者)の職種別推進班会議を編成した。
保健所の企画で急性期病院と回復期病院の(両院の病院長を含む医師•看護師長•理学療法士)との間で連携パス実践の協議を定期的に開催した。
そして評価方法として①研修会や各会議における具体的な連携の確認,②脳卒中患者ニーズ調査の実施と分析,③患者情報提供書の共通様式の有用性,④連携パスの施行状況などを検討した。
結果 当管内での連携パス導入への必要性を共有する協議,先進地域の実践者からの学習,シンポジウムでの患者意見を踏まえ「連携パスをまず 1 事例から実践しよう!」という気運が全職種を通して醸成された。
また職種別連携推進会議を重ねることで,医師連携推進班では医師会長や主要病院長の間で連携パス推進の方向性が得られた。地域連携推進班では「顔の見えるネットワーク」を基本理念に患者情報の共有が容易になり,さらに当管内統一の「転院情報提供書」が作成により効果的な退院支援が可能になった。看護連携推進班では病院看護師と保健師の協働で「脳卒中患者ニーズ調査」を実施し,早期の在宅移行を支援することが退院後の日常生活動作(ADL)の向上に繋がることが確認できた。
脳卒中連携パス試行の状況は,平成23年 3 月31日現在,脳卒中患者14人の連携パスが地域連携室を経由して届けられ急性期病院から回復期病院に入院した。その内11人が退院し,在宅からの通院が 9 人,介護老人保健施設と維持期病院に転院が各 1 人の状況であった。そして11人の ADL は両病院の入院時と退院時の 4 時点毎に段階的に回復し,急性期から回復期への途切れることのないリハビリテーションの必要性が示唆された。
結論 今回,公的で中立な立場である保健所が調整役となり,医療•看護•介護サービスの各施設間の連携意識の高揚を図るとともに連携パスの試行までに到達した。
そして病院看護師と市町保健師間,医療•看護•介護サービスの各職種間での「顔の見える関係」の構築により患者情報が共有され,地域医療連携が容易になることで急性期•回復期病院から維持期病院さらには,安心して在宅医療への移行が可能になると示唆された。この保健所の取り組み(宇和島方式)は,当管内と同様に医師や受入可能な病床が不足した地域でも有用と推測された。今後は維持期から在宅への連携体制強化を目的に,開業医さらに老人福祉施設等との連携を積極的に推進する。
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