日本公衆衛生雑誌
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59 巻, 8 号
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原著
  • 鈴木 孝太, 佐藤 美理, 安藤 大輔, 近藤 尚己, 山縣 然太朗
    2012 年 59 巻 8 号 p. 525-531
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 国内外の多くの研究によって,母親の妊娠中の喫煙が小児の肥満につながっていることが示されている。しかし,多くの研究は,肥満の評価を小児の 1 時点で行っており,継時的にその変化をみた研究は少ない。本研究では,妊娠中の喫煙が 3 歳から小学校 4 年生までの間に肥満となることと関連しているかどうかを,生存曲線を用いた解析によって検討することを目的とした。
    方法 山梨県甲州市で行われている甲州市母子保健長期縦断調査(甲州プロジェクト)のデータを用いて,1991年 4 月 1 日から1999年 3 月31日の間に,山梨県甲州市(旧塩山市)において出生し,母親の妊娠初期から追跡可能だった児およびその母親を研究対象者とした。妊娠届出時に母親が回答した自記式の質問票から妊娠中の喫煙状況を調査し,また,幼児健診と小学校における健診データから,3 歳から小学校 4 年生まで,1 年ごとの身体データを抽出した。小児の国際的な基準を用いた,「過体重および肥満」(成人の Body Mass Index (BMI) 25に相当)と,「肥満」(成人の BMI30に相当)のそれぞれのカテゴリに,3 歳から小学校 4 年生までの間に分類されるかどうかを,母親の妊娠中の喫煙状況ごとに Kaplan-Meier 曲線を描き,また Cox 比例ハザードモデルによるハザード比を算出することで検討した。
    結果 妊娠届出時から追跡可能だった1,628人のうち,妊娠届出時の喫煙状況,3 歳児健診以降,1 年ごとに測定されている体重データのうち最低 1 つが存在している1,428人(追跡率87.7%)のデータを用いて Kaplan-Meier 曲線を描いたところ,母親の妊娠中の喫煙が 3 歳から小学校 4 年生(9–10歳)の間に「肥満」のカテゴリに分類されることと有意に関連していた(P<0.001)。また,Cox 比例ハザードモデルを用いて,すべての変数に欠損値がない1,204人(追跡率74.0%)を対象に解析を行ったところ,「妊娠中の喫煙」について,3 歳から小学校 4 年生(9–10歳)の間に「肥満」となることと有意な関連を認めた(ハザード比2.0,95%信頼区間1.04–4.0)。
    結論 今回の研究結果は,妊婦に対する禁煙指導において,禁煙の重要性を説くための根拠として示すことが可能であり,妊婦の喫煙率の低下,さらには小児の肥満予防へとつなげていくことが,公衆衛生活動,とくに母子保健事業の中で期待される。
  • 橋立 博幸, 原田 和宏, 浅川 康吉, 山上 徹也, 二瓶 健司, 金谷 さとみ, 吉井 智晴
    2012 年 59 巻 8 号 p. 532-543
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 日常生活動作(ADL)障害を有し通所施設を利用する地域在住高齢者において,認知症高齢者および軽度認知障害(MCI)高齢者の通所施設および自宅における認知症の行動•心理症状(BPSD)の差異について検討するとともに,BPSD と介護負担感との関連について検証することを目的とした。
    方法 対象は2009年12月から2010年 2 月の間に通所施設を利用した在宅高齢者917人であった。分析は,医師による認知症診断の有無,clinical dementia rating scale, mini-mental state examination (MMSE) の結果から,認知症群,MCI 群,健常群のいずれかの群に該当した594人を選定して行った。主な調査項目として,BPSD を neuropsychiatric inventory (NPI), dementia behavior disturbance scale (DBD) を用いて通所施設および自宅の状況について評価した。また,自宅での基本的 ADL (Barthel index: BI) および介護負担感(Zarit 介護負担尺度短縮版:J-ZBI_8)を評価した。認知症群,MCI 群,健常群の 3 群間で各調査項目を比較した。
    結果 通所施設および自宅での DBD, MMSE, BI, J-ZBI_8 は健常群,MCI 群,認知症群の順に成績が有意に低かった。各群において NPI および DBD は通所施設に比べて自宅での成績が有意に低く,認知症群は MCI 群および健常群に比べて NPI の乖離(通所施設–自宅)の値が有意に大きかった。さらに J-ZBI_8 を目的変数とした重回帰分析の結果,認知症群では自宅の NPI および DBD, MMSE, MCI 群では自宅の DBD,健常群では自宅の NPI および BI が,それぞれ有意な関連項目として抽出され,通所施設での NPI および DBD は有意な説明変数として抽出されなかった。
    結論 ADL 障害を有し通所施設を利用する地域在住高齢者では,認知症の重症度に伴って認知機能および自宅での ADL が低く,家族の介護負担感が高いことが示唆された。BPSD は通所施設に比べて自宅で顕在化しやすく,認知症高齢者ではその乖離が大きいという特性が認められた。家族の介護負担感は自宅における BPSD が関与するため,自宅での BPSD の評価が重要である。
研究ノート
  • 藤本 眞一, 加藤 巳佐子, 石川 貴美子, 原岡 智子
    2012 年 59 巻 8 号 p. 544-556
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 保健所は,公衆衛生活動の中心的機関として地域住民の生活と健康に極めて重要な役割をもっている。平成 5(1993)年度に広島県において,全国で初めて保健所と福祉事務所が統合され「総合福祉保健センター」が設置されて以降,「平成の大合併」などにより都道府県立統合組織が構築されてきた。そこで,その組織と権限の実態を明らかにした上で,今後のあり方を考察することを目的とした。
    方法 インターネットにより都道府県ポータル•サイト等から平成23(2011)年度当初の保健所や福祉事務所の組織実態を都道府県保健所単位で抽出•分類し主な保健•衛生に関する権限について調査した。さらに町村部において,保健所と福祉事務所から提供されるサービスが,いずれの機関から提供されているかを調査した。
    結果 全国373都道府県立保健所が存在し,単独組織はその僅か 1/4 であった。統合形態としては,福祉事務所と保健所が一旦結び付いた上で総合事務所に統合される形態が約 4 割を占め,中には 3 つの保健所がひとつの総合事務所に統合されている例もあった。統合組織を構築しても,権限をその長に委任し直したところは約 1/4 であった。法令上福祉事務所ではないのに「保健福祉事務所」等の名称である統合組織は,保健所の統合組織の 1/3 を占めていた。福祉事務所に関しては中国地方を中心に町村自らの設置が進んでおり,道府県において福祉事務所と統合する理由がなくなってきている。また福祉事務所の社会福祉法上•名目上の位置付けと,実質上の福祉事務部門との位置付けの差異が目だった。
    結論 保健所を含めた組織統合理由は行政改革として組織数を減少させるためと推測された。道府県が,福祉事務所ではないのに,福祉事務所を想像させる紛らわしい名称の統合組織を作ったり,本来の福祉事務所でない場所にある統合組織そのものを法令上,福祉事務所と位置付けることは,住民に無用の混乱を生じさせる恐れのある対応であると考えられた。組織統合しても権限が保健所長に放置されたままであることは,保健•福祉サービスの一体的提供を理念としていない証拠であり,権限委任の見直しができないような統合組織の構築は無意味である。今後は,健康危機に関係する生活衛生関係業務などにも着目して統合を実施すべきである。
  • 増田 理恵, 田高 悦子, 渡部 節子, 大重 賢治
    2012 年 59 巻 8 号 p. 557-565
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 肥満は心血管系疾患等のリスク要因となるが,地域で生活する成人知的障害者には肥満が多いことが指摘されてきた。本研究の目的は,地域で生活する成人知的障害者の肥満の実態および肥満をもたらす要因を明らかにすることにより,肥満予防に向けた実践への示唆を得ることである。
    方法 A 市における 5 つの通所施設•相談施設に通う男女39人を対象に,BMI,食事,活動についての面接調査を行った。対象者の基本属性について,項目別の単純集計を行った。BMI については平成19年版「国民健康•栄養調査」における20~59歳の一般成人の平均値と t 検定を用いて比較した。エネルギー摂取については,対象者の摂取エネルギー,摂取エネルギーと推定必要エネルギーの差,および食品群別摂取量を算出した。またエネルギー消費については,消費エネルギー,身体活動レベル,エクササイズ量を算出し,身体活動レベルについてはカイ 2 乗検定により一般成人と比較した。食習慣については 7 つの質問項目の和(食習慣得点)を算出した。さらに対象者の BMI について,対象者の属性,エネルギー摂取に関連する項目,エネルギー消費に関連する項目,食習慣得点,および食品群別摂取量との相関分析を行った。
    結果 対象者の BMI の平均値は一般成人と比較すると男女とも有意に高かった(P<0.001)。摂取エネルギーと推定必要エネルギーの差の平均値は男性で396±503 kcal,女性は569±560 kcal であった。BMI との有意な相関(P<0.05)がみられたのは摂取エネルギー,摂取エネルギーと推定必要エネルギーの差,消費エネルギー,穀類摂取量,菓子類摂取量,食事制限の有無であった。対象者の身体活動レベルは,一般成人に比べて低い者の割合が有意に高かった(P<0.001)。
    結論 対象者の BMI の増大をもたらしている要因は,主には過剰なエネルギー摂取であり,その背景には間食で菓子類を多く摂取するなど不適切な食習慣がある。また,一般成人に比して著しく低い身体活動レベルが対象者の生活上の特徴であることが明らかとなった。成人知的障害者の肥満対策として,過剰なエネルギー摂取,不適切な食習慣,低い身体活動レベルのすべてに対し,包括的に介入する必要がある。
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